1950年代岩波文庫における英数字の扱い

一昨日に続き、昭和前半の岩波文庫の英数字表記を調べてみます。題材は、「歴史における個人の役割」(プレハーノフ著、木原正雄訳、昭和33年10月発行)です。

この本はロシアのマルクス主義者であるプレハーノフの哲学書を翻訳したものなので、ロシア語(キリル文字)、英語・フランス語・ドイツ語(ラテンアルファベット、補助記号)が入り乱れています。翻訳文中の人物名、原書名などに原文がラテンアルファベット(ASCII以外の補助記号を含む)やキリル文字の表記が注記されていることが多く、これらはすべて横倒しです。

ラテンアルファベット、キリル文字は大文字は幅が広く、小文字は幅が狭いのですが、総じて半角幅ではありません。ラテンアルファベットはプロポーショナルです。

ラテンアルファベットが正立するのは1文字で記号的に使用している箇所です。さらにその記号を使って数式表記する場合は、数式を横倒しとしています。正立する文字は横倒しの文字よりも少し大きい文字です。

本文中にアラビア数字が出現するのは、原著のページ番号参照(書名と一緒に横倒し)と、解説の中の箇条書きのみです。

1.ラテンアルファベットとキリル文字

(1)横倒し
横倒しの箇所の例を挙げる。キリル文字についてはうまく判読できていないところもある。大抵の箇所は、日本語訳の後ろに()内に原文を示すかたちで書かれている。一種の注である。原文は、英語、ドイツ語、フランス語が入り乱れている。本書では氏名の初出箇所にはキリル文字またはラテン文字の注がついておりそれらは横倒しである。以下、数が多いので例のみあげている項目がある。

ラテン文字を横倒しにしているとき、活字は半角幅ではない。プロポーショナルな幅をもつ。平均的にみてラテンアルファベット一文字の幅は和字の2/3幅程度で半角幅よりも広い。
キリル文字は大文字は幅が広く、小文字の幅は狭い。固定ピッチのように見える。半角幅よりも広い。

a) 訳文の原文例
わたくしがあらゆる動物の中でもっとも不活発なものだ(am not the most torpid and lifeless of all animals)
キリスト経的必然論者(christian necessarians)
とるにたりないもの(quantité négligeable)
歴史生活全体(das Ganze des geschichtlichen Lebens)
いまは亡き夫(feu monsieur mon mari)

b) 氏名例 
プレハーノフ(Г.В.Плеханов)
カブリツ(Каблиц,Осип Иванович)
スペンサー(Spencer, Herbert)
プリーストリー(Priestley, Joseph)
プライス(Price, Richard)
ランソン(Lanson, Gustaue)
カルバン(Calvin, Jean)
クセルクセス(Xerxes 原名 Khshayarsha)

c) 書名、雑誌名、論文の題名など例
『歴史における個人の役割』(К вопросу о роли личности в истории)
G. V. Plekhanov, The Role of the Individual in History, translated from Russian by J. Finebery, Foreign Languages Publishing House, Moscow, 1944
『キリスト教原理』〔Institutio〕[*1]
《Die Freiheit ist dies, Nichts zu wollen als sich》. Werk, B. 12, S. 98. (Philosophie der Religion).
『歴史評論』(《Revue Histrique》)
《Histoire de France》, 4-ème édition, t.XV, p.520-521 (『フランス史』第四版、十五巻、五二〇―五二一ページ)

[*2]

d) 社名

e) 引用段落

f) 引用文

(2)正立
条件Sが存在するばあい、現象Aがかならずおこる
一定時間Tにあらわれるだろう
諸条件の総量Sには、たとえば、aにひとしい…
諸条件の総量はすでにSではなくて、S-aになるだろう (1文字は正立、S-aの部分は横倒し)
もしaがbに等しい(a=b)とすれば (1文字は正立、a=bの部分は横倒し)

Aという才能ある人は一つの問題Xを… (p.70)

2.アラビア数字
(1)横倒し
ラテン文字などで表記した書籍のページ参照にアラビア数字が使われている。

(2)正立
解説中に箇条書き(1)~(3)(括弧を含む3文字で縦中横)が出てくるのみである。

本文中ではほとんど漢数字である。年月日、年齢など頻出するがすべて漢数字。目次のページ番号も漢数字。後注の合印や後注番号も漢数字である。
また、各ページの上に表示されるノンブルはアラビア数字。

3.書誌情報

書名:歴史における個人の役割
著者:プレハーノフ
訳者:木原 正雄
発行時期:昭和33年10月
体裁:文庫本、112頁
発行所:岩波書店

[*1]〔〕は『哲学著作選集』編者注
[*2] 《》の用途が理解できない。(フランス語やドイツ語の書名、論文やチラシなどの題名のようだが、《》で囲まれていない箇所もある)

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