プリント・オン・デマンド(POD)の衝撃ーーインプレスR&D 「Next Publishingメソッド」セミナーの感想


1月22日のJEPA EPUBセミナー「インプレスR&D 『Next Publishingメソッド』紹介」はショックでした。

○セミナー資料は注を参照

『Next Publishingメソッド』の、プリント・オン・デマンド(POD)による冊子版とEPUBによる電子書籍を同時に作って販売するというハイブリッド出版のコンセプトは、2010年スタート時のCAS-UB開発の狙いそのもの[1]。インプレスR&Dの井芹社長のコンセプトとCAS-UBのコンセプトは、制作システムの開発コンセプトという観点ではまったく同じと言って良いほどです。

後述のようにCAS-UBはWebサービスとして、むしろ、インプレスR&D の「Next Publishing Tool」よりもだいぶ先行していると言っても過言ではありません。そういう意味で、本セミナーもテクニカルな、システムという観点では新味を感じることはありませんでした。しかし、ビジネスとしての展開という点では、インプレスR&Dが既に一定のビジネスモデルの段階に達しているのに、CAS-UBはまだ新しいビジネスモデルを提案できていません。

インプレスR&Dの井芹社長のまとめによりますと、ハイブリッド出版では、「Amazonの販売のケースで、電子は紙の25%(Kindle登場前は5%)」だそうです。つまり、Kindle Storeが開店した今の時点でも、紙の方が3倍売れているということになります。従って、EPUB版だけではなく同時に紙版を出すのは必須です。

トラディショナルな出版では、最初に印刷で大部数を刷ってしまうために様々な理由でハイリスクとなります。そこにPODを採用する妙味があります。

CAS-UBの開発スタート時のコンセプトは、大よそ、そうなるだろうと予想した上で、これを簡単に実現する出版制作の仕組みを提供する、ということです。

これを実際に、出版のビジネスとして実行して、数値で実証的に示し、ビジネスモデルとして提示したということが『Next Publishingメソッド』の衝撃です。

『Next Publishingメソッド』が、Word文書をEPUB化するのに使っている「Next Publishing Tool」のデモンストレーションを拝見したのは今回が初めてです。そして、このデモを拝見して、「Next Publishing Tool」の弱点がどこかも直ぐに分かりました。おそらくEPUBを作るシステムとしては、CAS-UBの方が優れていると思います。

また、プリント・オン・デマンド用のPDFを作る仕組みも、手前味噌ですがCAS-UBの方が優れていると思います[2]。

CAS-UBで、実際にPODによる冊子本とEPUB/Kindleの電子書籍を制作・販売したひとつの例を次に紹介しています。

「転職の法律があなたを守る」プリント版ができあがりました

この「転職の法律があなたを守る」の冊子版のできばえは、出版社の方も「うそだろ」といった、というほどです。EPUB版は楽天Kobo ストアで販売しています。また、Kindle版はアマゾンのKindleストアから販売しています。

「転職の法律があなたを守る」EPUB版(楽天Koboストア)
「転職の法律があなたを守る」Kindle版(Kindle Store)

このように書籍を作るシステムとしては、『Next Publishingメソッド』とCAS-UBはおなじことができます。また、CAS-UBはWebサービスとして開発していますので、その分、自社の社内ツールと思われる「Next Publishing Tool」よりも汎用的です。

しかし、残念ながら、現在のところ、CAS-UBは、お客さんの視点からはEPUBを作るサービスとしてしか見られていないように思います。

アンテナハウスでは、CAS-UBのトレーニング・セミナーを開催しています[3]が、このセミナーに見えるお客さんはほとんどがWordからEPUBを制作する、ということに惹かれているようです。

このように残念ながら、CAS-UBはPODのツールとしてはほとんど注目されていません。

この理由はPODが単に本を作るための方法論として捉えられてしまっているためだろうと思います。本を作るための方法論として考えれば、PODを行なうにしても、InDesignで版下を作れば十分です。PODだけの目的でCAS-UBを使う理由はそれほどありません。

しかし、PODとEPUBをデジタルファーストの手段として、もっと広義には新しい出版ビジネスのモデル構築手段として捉えなければならない、ということだろうと思います。

つまり、CAS-UBを新しいビジネスモデルとして提示する、ということをしなければいけないのです。これができていない、ということを痛烈に反省しました。

[0] セミナー資料:EPUB 第20回 インプレスR&D 「Next Publishingメソッド」紹介
[1] ハイブリッド出版という言葉は、2010年末のプレゼンで既に使いました。また、2011年2月のWebでも使っています。その後、あまりにもダサいと考えて削除してしまいましたが。当時のニュース・リリース:ニュース・リリース
[2] 本当はその理由を具体的に説明しないと公平ではないと思いますが、このブログではシステムの優劣を論じるのが目的ではないので、とりあえず省略します。
[3] CAS-UBのトレーニング・セミナー

プリント・オン・デマンド(POD)の衝撃ーーインプレスR&D 「Next Publishingメソッド」セミナーの感想” への5件のコメント

  1. Next Publishingメソッド では校正のワークフローはどのように語られていたのでしょうか、興味があります。著者・編集者にとっては切実な課題かと思います。

    • セミナーでは校正についての説明はありませんでした。文字の校正は内容をPDFに出して著者に戻すことでできると思います。

      つぎのような疑問が残ります。

      1.レイアウトはシンプルなので訂正しないのでしょうか

      2.修正をどのように反映するのでしょうか? 元のWord原稿を直すのでしょうかね。

  2. 読者に届ける手段は多様化かうれしいですが。読みたいコンテンツが重要です。アマゾンのロングテールが一つの提案であったように既存の仕組みを超えたコンテンツと読者との出会いが必要かと。既存の出版の形は公共図書館の仕組みが壊れるのが痛手になるのでは。

  3. ごく小ロットの印刷本をつくり配布する。そして長いスパンでは電子書籍としてストアで売り続ける。。こういうサービスを望む著者向けにぴったりな仕組みだと思います。はじめから電子データとして校了(デジタルファースト)します。
    いままでの出版モデル(自費出版も含め)に係わる方の意見もお聞きしたいですね。

    • 今、巷のBOD・PODによる出版本作成ではまだロットという概念が残ってしまっているんですね。でも本質的には、BODは1冊ずつ本を作るものなのでロットという概念はいらないはずなんです。ロットという単位が残ってしまうのは、営業モデルとしてその方が楽だからということでしょう。でもAmazonのPOD出版は1冊から本を作って売ることができるので本質的なBODの実践になります。その点がAmazonの革命と言えるのではないでしょうか。

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