『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (2)紙の本と電子の本をワンソースで作りたい

『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる?の続きです。前回は紙の本と電子の本を同時に作りだすのが目的とお話しました。

紙の本と電子の本を、コンピュータで作るならば、コンテンツを1回作成したら両方の形式を自動的に作りたいと考えるのは自然です。つまりワンソースマルチユースの実現が課題となります。

ワンソースマルチユースについて考えてみます。主に、CAS-UBや電子出版の関連プロジェクトに5年ほど取り組んだ経験から、最近は、次のように考えています。

紙の本と電子の本には本質的な相違がある (そんなのはあたりまえだろ! って?)

紙の本と電子の本を完全にワンソースで作るのは不可能です。可能なことを示すには、実際にやってみる必要がありますが、不可能なことを示すのはできない例を示せばよいので簡単です。

できない例を幾つか示してみます。簡単で判りやすい例から行きます。

1.まず、表紙についてはどうでしょうか。

紙の本は、本文を綴じたうえに包みのカバーをかけます。カバーは表表紙、裏表紙、背表紙から構成します。しかし、電子の本には背表紙はありえません。なにしろ厚さがないのですから。紙の本の表紙は、飾りだけではなく、本文の紙を保護したり、手にもって開いたり読んだりするために有用です。その点、紙の本には裏表紙は欠かせませんが、また、電子の本に裏表紙を付けることは意味がないでしょう。

表表紙も違います。紙の本では表1、表2(通常は白)があります。電子の本では、表1だけは紙の本と類似にする意味があります。表2はあまり意味がありません。

2.紙の本は、表紙以外にも伝統的な構成、つまり、本扉、前付、本文、後付という大構成、さらに細分化すると、前付は前書、目次、献辞、権利(英語の本)といった構成があります。

この構成について、電子の本を紙の本と同じ構成にするかどうか? このあたりはまだあまり議論がなされていないように思います。もし、構成を変える方が良いということになりますと、ワンソースではできないことになります。

最近、『PDFインフラストラクチャ解説』という本をCAS-UBでプリントオンデマンドとKindleで発売しました[1]。この本のKindle版には図表一覧があります。しかし、POD版は図表一覧は省略しました。販売価格を抑えるためページ数を減らして、コストを抑えたのです。

紙の本はページ数に応じてコストが増えるのですが、電子の本はその心配がありません。このように紙と電子ではコスト構造が違いますので、電子の本で一部を省略したり、入れ替えることは十分合理的です。

3.レイアウト依存の内容があります。ひとつの例は、見開きのページでしょう。

見開きページは、紙という固定サイズをもつ用紙を左右の中央で綴じたメディアで意味があります[2]。電子の画面に見開きという概念は存在しないのではないでしょうか。見開きは単に大きな画面ではないでしょう。

本文がすべて見開き単位でレイアウトされているのであれば、紙の見開きページを電子の1画面に対応つけることになるでしょう。こうしたときは関係はシンプルです。

リフロー形式の本で、大きな画像ページが見開きになっているときは、紙のページと電子の画面では、テキストと画像の位置対応関係が難しくなります。テキストの流れの中の画像の位置と、紙にレイアウトして見開画像のページを挟んだときとでは、テキストの流れと画像の位置の相対関係が変わります。

こうしたとき、ワンソースで紙と電子で最適な本を自動的に作りだすのは、それなりのアルゴリズムが必要です。

4.3項と前後しますが、ページという概念の紙と電子(画面)での違いは、本質的です。

次回は、この点をもう少し、考えてみたいと思います。(「『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (6) 紙のページと電子の画面の違い」をご参照ください。)

[2]上下で綴じた場合も見開きというのかどうかは、まだ調べていません。