『活字が消えた日』

『活字が消えた日』(中西 秀彦著、晶文社、1994年)
四六判、251頁、2,600円+消費税

20150319

京都の老舗印刷会社中西印刷が活版を完全にやめて電算写植に移行するまでの約6年間をドキュメンタリー風につづった書である。以前から書名は何度も見かけて知っていたがまだ読んでいなかった。たまたま先日神田の古本屋で見つけて早速購入して一読。若旦那こと中西さんの筆力に感銘を受けた。

1980年代から1990年代にかけて15年足らずの間に活版から電算写植へと制作技術が短期間で変遷したときの日々の出来事がまるで目の前の出来事のようにいきいきと描きだされている。

活字を拾い(「文撰」)・活字を凧糸で組み上げてページの形に整える「植字」を行うベテランの職人技に関心しながらも、若旦那はコンピュータを使った合理的な電算写植へと突き進む。

コンピュータによる組版にかけた若い息子と彼の父親である社長の、会社・印刷の未来をめぐる対話も興味深い。家業としての印刷会社ならでは風景である。

活版の設備投資はすべて償却済みなので償却負担がない。それに対して、新しいコンピュータ組版の設備は膨大な新規設備投資必要なため、生産性が上がっても、償却負担が大きくて儲からないという話もある(p.226)。

技術の強みと弱みを見据え、将来性を見て投資の判断を行っていかなければならない印刷会社の経営の難しさも良く分かる。