改めて電子書籍とはなにかを考えてみる


Facebookに仲俣さんが投稿した記事[1]、に触発されて、電子書籍とは何かを改めて考えてみました。電子書籍とは何かを考える方法として、現在起きている現象から考える帰納的なアプローチと、電子書籍の由来から論理的に考える演繹的なアプローチがあると思います。現在起きていることを説明するアプローチはどちらかというとジャーナリストが得意な分野でしょうから、ここではやや演繹的なアプローチを取ってみます。

紙と電子
電子書籍を考えるときの軸としては、まずは紙の書籍との対比があります。

電子書籍=デジタルで配布・頒布される書籍であり、アナログで配布・頒布される紙の書籍と対比されるものとなります。紙の書籍は長い歴史をもちますが、デジタル書籍はコンピュータと通信技術の発展によって実現されたものです。デジタル書籍は、まだ数十年の歴史しかなく、これからの10年間でどうなるかさえも予想できません。

紙の書籍はものとしての実体があり、書店の棚に並んでいる書籍を手に取ってみることもできます。これに対して電子書籍はデジタルデータであり、触ってみることはできません。

紙の書籍はものとして所有することができます。本を所有し、棚に並べることは一種の知的シンボルでもあります。一方で電子書籍には実体がないということで、ものとして所有する感覚は味わえません。

逆に紙の本は重くてかさばり、本を置く場所をとるという弱点がありますが、電子書籍は何冊あっても重さはなく、置き場所に困ることはありません。

紙の本の内容は検索して探すことができませんが、電子書籍であれば内容を検索するのはお手の物です。

Webページと電子書籍
第二の軸はデジタルデータ同士、つまり電子書籍とWebページとの対比です。

電子書籍について前項で紙と比較したときの特徴の多くはWebページでも共通です。それでは、Webページと電子書籍の違いはどんなことでしょうか。

その前に、紙の書籍を少し考察して書籍とは何かを考えてみます。紙とWebページは歴史も発生も異なり水と油の関係ですので、その相違は自明のような気がしないでもないですが。

Webページは分散して配置された情報をリンクによってたどることができるように設定したものです。それぞれのWebページはインターネットの世界においてURLというアドレスが与えられてます。ここで注意すべき点はURLとはアドレスであり、情報の中身ではないことです。

インターネット上のURLというアドレスで特定できるWebページの内容は揮発性です。すなわち、昨日みたURLのWebページを今日再び見たら情報の内容が書き変わっている可能性があります。

書籍は長い間、印刷という方法によって複製され、製本されて形を与えられてきました。印刷では版を作ります。その版を作るまでの執筆と編集の工程によって内容は磨き上げられます。また、長いこと使われている印刷というアナログの複製工程ではある程度の数まとめて複製しないと安くなりませんでした。(但し、最近のデジタルプリンタによる印刷では1部からでも大量複製と同じコストで複製できますので、事情が変わりつつあります。)

このように考えてみますと、揮発性のWebページと版を確定する紙の書籍という対比が生まれます。デジタル書籍=電子書籍は、紙の書籍の概念から発展してきたものであり、リリースの前に内容を確定するもの、揮発性ではないと考えます。それに対してWebページは揮発性であり、随時更新されうるものと差別化できるのではないでしょうか。

青空文庫やWeb小説は、電子書籍なのかそれともWebページなのか、という問いがあります。これらは曖昧な境界の領域に当たると思いますが、揮発性なのか、内容が確定しているのかという観点でみますと、青空文庫やWeb小説は電子書籍に近いといえるのではないでしょうか。

著者の世界観
紙の本はほとんどの場合、一人または少数の著者が内容に責任を持って書いています。著者の考え方や思想・世界観の反映をしたものといえます。これに対して、Webページは、内容が揮発性なこと、あるいはWebサイトは大勢で作ることが多い、また相互にリンクをたどっていくなどの点で、特定の主体者の世界観を提示するのは難しいでしょう。

紙の書籍、電子書籍といった書籍は特定の主体の世界観を色濃く反映しているものです。それに対して、Webページで世界観を表現するのはなかなか難しいと思います。

著者の世界観が反映されるものなのかどうか、という点でみても、青空文庫やWeb小説は電子書籍に近いと思います。

パッケージ
紙の書籍は製本しカバーを付けるという形式でパッケージ化されています。EPUBのような電子書籍には製本や物理的なカバーはありませんが、EPUBは読み順が指定されまとめて1ファイルにまとめるという形でパッケージ化されています。

パッケージ化することでスマホや閲読端末に複製ダウンロードし、オフラインで読むことができます。オフラインで読むということは、URLと切り離されるということになります。その場合、これを特定する手段としてはISBNなどの管理番号や書誌ということになります。

ではパッケージ化されていることが電子書籍の必須要件なのでしょうか? パッケージされていないものを電子書籍と言えるかは、人によって意見が分かれると思います。

私の個人的な意見としては、パッケージは必須要件ではない、とする方に傾いています。

有償・無償
電子書籍の特徴として有償を指摘する意見があります。紙の本のように形があるものは自然に有償になりがちですが、有償・無償はビジネスモデル次第と思います。紙の書籍は作成・運搬・配布にお金が掛かりますが、紙の書籍を無償でばらまくことも十分あり得ます。そういえば、私のところにも、販促用のPR本も来ますね。

パッケージ化は有償で対価と交換しやすいのは確かです。私のいるソフトウェアの世界では、パッケージがどんどん縮小してWebサービスとなり、その対価の支払方式は、永久ライセンスから年間利用料方式(Subscriprion)に遷移しています。

本の読み放題は一種のSubscription制と言えます。電子書籍の世界でも読み放題が普及の兆しを示しています。読み放題になりますと、1タイトル毎の有償・無償という概念は希薄になるでしょう。

STM出版の分野ではSubscriptionだと提供者が寡占化してしまい、料金が高くなりすぎる、ということで、ゴールドOA(著者が出版料金を負担するオープンアクセス)方式が提唱され普及し始めています。

電子書籍という概念はまだできたばかりですし、これからどのように変わるかも分からず、もちろん人によりどう捕らえるかも千差万別でしょう。これからももっといろいろな形態や考え方がでてくるのでしょう。

[1] https://www.facebook.com/NakamataAkio/posts/10211194302834251

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA値として計算に合う値を入力してください。 *