『JLA図書館実践シリーズ 37・38 図書館利用に障害のある人々へのサービス アクセシブルなEPUB 版』を発売しました。この機会にオンラインストアを少し改善しました。

このほど、アンテナハウスのオンラインストアより、『JLA図書館実践シリーズ 37・38 図書館利用に障害のある人々へのサービス アクセシブルなEPUB版』(日本図書館協会障害者サービス委員会 編)を発売致しました。

本書は、図書館の「障害者サービス」の基本テキストです。障害者サービスを「図書館利用に障害のある人々へのサービス」という幅広い概念でとらえ、図書館を利用する際の障害を取り除き、すべての人々が図書館サービスを受けられる環境づくりのために必要な考え方、ツール、資料、サービスの実践、さらには関係する制度・法規にも言及しています。

印刷版の販売は、日本図書館協会販売部他、全国の書店、オンライン書店にて販売中ですが、EPUB版は印刷版の上下巻を一冊にしたものでお買い得です。

本書の発売に伴い、アンテナハウスのオンラインストアを少し変更しました。大きな変更点は、会員登録の必須項目を従来の9項目から、4項目に減らしたことです。デジタル版のダウンロ-ド販売では不要な、住所などの入力を省略可能としました。

新オンラインストアの会員登録画面

旧オンラインストアの会員登録画面

また、文字の色についてメリハリを付けるように変更しました。
新オンラインストアのメニュー

旧オンラインストアのメニュー

EPUB3電子出版におけるインターオペラビリティを考える

先日、CAS-UBのあるユーザーである出版社(版元)から、「これまで長いこと、CAS-UBで制作したEPUB3をBookLive!に配信してきたのですが、今度、これができなくなったのでCAS-UBで対応して欲しい。」という連絡をいただきました。

事情を確認しましたところ、「BookLive!に出すには、横書きではpackage.opfのspineにpage-progression-direction=”ltr”の設定が必要であり、設定しないとBookLive!側では入稿エラーになってしまう。今までは、取次がその版元のEPUB3データを修正してからBookLive!に配信していたが、大変なので版元の方で設定して欲しい」ということになったとのことです。

この根拠は、電書協ガイドver1.1.3のP.8に以下のような記載がある[1]こと、

パッケージ文書(Package Document / OPF ファイル)
ページ進行方向の遵守:コンテンツ文書やスタイルシートに記された「-epub-writing-mode」の指定にかかわらず、書籍データの「ページ進行方向」は、パッケージ文書の spine 要素に記された「page-progression-direction」の方向に従う。

さらに、取次から次のような連絡があったとのことです。

「電書協ガイドver1.1.3のP.29にある[sample code]にも「page-progression-direction」の記述があり、同梱されているサンプルファイル内のopfファイルにも「page-progression-direction」の記述がございますので、電書協ガイドver1.1.3に「page-progression-directionは必須」とは明記されておりませんが、電書協ガイドVer1.1.3では「page-progression-direction」の記述を入れることを推奨していると思われます。

「page-progression-direction」を記述していないと、ビューア側で独自に綴じ方向を判断することになりますので、「右綴じ」になるか「左綴じ」になるかはビューア側に任せる、ということになってしまいます。

そうなると、ビューアによっては御社の意図とは反対の綴じ方向になってしまうこともありますので、「綴じ方向が逆になっている」というユーザークレームに発展する恐れもございます。

なお、上記の文章は、電書協ガイドver1.1.3の引用だけでは趣旨が理解しにくいため、一部誤りを訂正のうえ無断転載させていただきました。取次さんも大変ですね。

ちなみにEPUB3.0.1の仕様では、この部分は次のようになっています[2]

page-progression-direction [optional]
The global direction in which the content flows.

Allowed values are ltr (left-to-right), rtl (right-to-left) and default.

When the default value is specified, the Author is expressing no preference and the Reading System may chose the rendering direction. This value must be assumed when the attribute is not specified.

これを見ますと、EPUB3仕様ではpage-progression-directionはオプション(省略可)となっており、しかも、省略されたらデフォルトと解釈しなければならないということです。従って、BookLive!がこうしたEPUB3を入稿エラーにするのは、EPUB3仕様違反となります。

また、電書協ガイドでも、page-progression-directionの該当箇所は、リーディングシステムに期待する動作の項ですから、EPUB3制作者への要求とはされていません。こうしたことから、BookLive!や取次の理解が間違っていると考えます。『「綴じ方向が逆になっている」というユーザークレームに発展する恐れ』って一体誰の発想なんでしょう? ブラックなジョークとしか思えませんが、もしかすると、BookLive!ってアラビア語とかヘブライ語のEPUB3も大量に配信されている世界? それともBookLive!はデフォルトを右開きにするかもしれない異次元空間?

さて、CAS-UBとしてはどうしたら良いでしょうか? 

考えてみますと、この件は「インターオペラビリティ」問題そのものです。

その典型的な例は、WebページとWebブラウザの関係、あるいは、PDF制作者とPDFリーダーの関係に見られます。Webの場合はWebページの文法が少々間違っていてもWebブラウザがなんとか表示できるようにする、という方法で普及してきた、といえます。PDFの場合も同じように少々間違ったPDFであってもAdobeリーダーができるだけ正しく表示しています。それはそれで困ることもありますが。

こうした例を見ますと、少々間違っていても読み手が対応するというのが、概ね利便性が高くなりますし、一般に広く成功を収める秘けつかもしれません。しかし、これは言うのは易しいのですが、リーダーを作る側に相当な体力が要求されます。ビジネスの成功は技術ではなく体力と気力によってもたらされるのが真実かもしれません。BookLive!のような正しいものを拒絶するというのは商売がへたなのでしょう。

(今回の場合、CAS-UBが作るEPUB3は仕様上は正しいですので、上の論点とは若干ズレがあります。念のため。)あまり仕様論・原則論にこだわらない解決策を考えようかと思案しております。

2018/6/22追記
2018年6月21日の定期保守更新にて、下記の仕様変更を行いました。
EPUB生成で、横書の出版物の.opf ファイルの に page-progression-direction=”ltr” を常に入れるように仕様を変更します。EPUBの仕様では、横書のとき page-progression-direction=”ltr” は省略可能ですが、省略を許していない販社があることへの対応です。

この問題は、CAS-UBで当面アラビア語やヘブライ語のような右から左に書く言語のEPUBを作れなくなるという制限が生まれることです。しかし、実際に問題になることはないでしょう。
定期保守更新の全体

[1] 『電書協 EPUB 3 制作ガイド ver.1.1.3』(2014/11/01(2015/01/01 更新、日本電子書籍出版社協会)「リーディングシステムに期待する動作」の一部の記述内容
[2] “EPUB Publications 3.0.1 Recommended Specification 26 June 2014”(International Digital Publishing Forum)3.4.12 The spine Element

PDF文書の永続性、Web文書の揮発性

PDF文書とWeb文書にはいくつかの点で本質的な違いがあります。一番大きな違いは前者の永続性に対して、後者の揮発性ではないかと思います。

PDF文書の永続性とは
PDF文書のモデルは、紙にインクで印刷したのと同じ状態を再現することです。紙に書かれた情報は1つの物体としての形を備えています。そして、それは、消去されるまで永続的に、人間の目に見える状態は同じものとして保存されます。

Web文書の揮発性とは
それに対してWeb文書は、分散した情報を瞬時に探して端末に表示するモデルです。情報が分散配置されていることに特徴があります。リンクによって探し出される毎に、端末を経由して人間の目に触れるわけですが、その都度、人間の目に見える状態が変わります。Web文書は、次に可視化されるとき、今表示されている状態と同じである保証がありません。

現在、出版などでは紙からデジタル媒体への転換が進んでいます。しかし、デジタル媒体としてみたときには、PDF文書とWeb文書には上のような本質的な相違があります。こうしてデジタル媒体としては、WebとPDFが今後かなり長い間両立するだろうと予想します。

2018/06/21
PDF資料室に論点を整理した次の記事を掲載しました:
「PDFとWebにはどんな違いがありますか? インターネットやWebがますます普及するとしてPDFは使い続けられますか?」

ECMJ流! Eコマースを勝ち抜く原理原則シリーズから見る、書籍出版とWebマーケティングの難しさの類似性

CAS電子出版では、現在、「ECMJ流! Eコマースを勝ち抜く原理原則シリーズ」[1]を次々とリリースしています。

この編集方針は、既に別途紹介しています。一番詳しいのはこちらです:CAS-UBによる本の制作工程の実例: 「ECMJ流! Eコマースを勝ち抜く原理原則 シリーズ」編集・制作作業(上)

今日は、本シリーズに書かれている石田社長の話を読んだり、自分自身の経験をもとにして、特に本の出版についてWebマーケティングの視点から考えてみたいと思います。

出版は歴史が長く、さまざまな形態の出版が行われてきました。

紙に印刷した本の出版流通の方式は大雑把には次のように分けられるでしょう。
①取次を通して書店の店頭に並ぶ(間接販売)、②読者への直販・直接配達方式、③職場・学校など職域での販売

日本の書籍の販売が、現在どのような割合になっているかは調べていませんが、日頃のニュースから感じているところは、取次を通して書店の店頭に並ぶという流通方式は苦しくなっているようです。②の読者への直販方式で、オンラインストア方式、もちろんアマゾンが中心でしょう、のシェアが増えているためと思います。職場や学校などの職域販売はどうなっているのでしょうか? これは分かりません。

新しい出版としては、④Kindle/EPUBなどによる電子出版、それから⑤流通によるプリントオンデマンド出版の三つの形式の出版方式があります。流通によるプリントオンデマンド出版は電子出版よりも新しいコンセプトです。詳しくはこちらをご覧ください:流通によるプリントオンデマンドでの出版が現実のものとなった今、その活用の課題を考える。(2017年1月時点)。そこで書きましたように④と⑤はほとんど兄弟と言えます。

アマゾンは、現在、⑤流通によるプリントオンデマンド出版に力を入れているようです。印刷した本の扱いと比べると、書籍を在庫する倉庫や在庫管理が不要になり、またピッキングもほとんど不要になるなど、③の方式はアマゾンにとっては非常に大きなメリットがあります。また、コストについて考えますと、プリントと製本の設備の稼働率を高め、大量に生産し、減価償却を速められるかが勝負でしょう。減価償却を速めることで技術革新によるコストダウンより速く享受できるようになりますので、一旦、アマゾンでの仕組みが回り始めると競争相手がコスト面で立ち向かうのが難しくなるでしょう。

話が横道にそれましたが、現在は、①の取次経由の書店での販売に対して、(②+④+⑤)という形態の、Webを使った新しい流通が伸びているという転換期と言えます。

この両者を対比すると、「ECMJ流! Eコマースを勝ち抜く原理原則 シリーズ」の中で繰り返し語られている、リアル店舗とEコマースの相違と似ています。次のような点です。

・リアル店舗には商圏がある。しかし、Eコマースには商圏がなく、日本全国の同業者が競争相手になってしまう。強者の世界となりがち。
・リアル店舗は、通りがかりの人が見つけてくれる(リアルビジネスは立地が重要)。しかし、Eコマースは(見えないので)店を開いても通りがかりの人に気が付いてもらえない。
・ネットショップを開店しても、アクセスがない、思ったほど売れない。

Eコマースの難しさは、結局「とおりがかりで見かけて」発見してもらえないということにあるようです。一方、検索で見つけてもらうには検索エンジンの検索結果で上位に位置されないとアクセスしてもらえない、ということに集約されます。結局、どうやって発見してもらうか? ということがEコマース成功への第一関門です。売上管理、流通、在庫管理とかはすべて売れてからの話ですから。

ひとつひとつの本とEコマースのお店を同列には比較しにくいとは思いますが、電子書籍やプリントオンデマンドなどの新しい出版方式の難しさって、Eコマースの難しさと似ているように思います。

[1] ECMJ流!Eコマースを勝ち抜く原理原則シリーズ

索引について―階層化索引を簡単に作る方法を考えました。

前回[1]は、主に索引の目的について考えてみました。

今回はちょっと実践的に、ECMJ流!のシリーズの制作の際に階層化索引を簡単に作る方法を考案しましたので、それについてご紹介します。

階層化索引というのは例えば次のような形式です。この例では親階層が「Eコマース」、「Eコマース革命」です。その子供の索引として「大企業のEコマース」、「中小企業のEコマース」などがあります。Eコマースが共通ですので、表示を簡素化するためダッシュで代替しています。

○PDFのとき巻末に索引を自動生成し、ページ番号から本文の索引語位置への内部リンクを設定
20170131

○PDFのとき巻末に索引を自動生成し、索引語または(複数箇所あるとき)索引語のカウンターから本文の索引語位置への内部リンクを設定
20170131c

CAS-UBの編集画面には簡単な索引を作る対話式のダイヤログがあり、これを使えば1階層の索引を簡単につくることができます[2]

残念ながら、現在のところ、編集画面のダイヤログでは階層化索引を作ることができません。そこで、CAS-UBの編集画面で手入力でCAS記法のマークアップすることになります。

CAS記法のマークアップの説明はこちら:CAS記法リファレンス

親子の索引は本文に次のようにマークアップします。
[[[:mindex [[[:prim:key=xxx 親の索引語]]][[[:second:key=yyy 子供の索引語]]]]]]
xxxに親の索引語の読み、yyyに子供の索引語の読み

しかし、どうもまだるっこしいので、テキストファイルとして索引を用意する方法を考えてみました。

上の図の例の索引を作るには、次のようなテキストファイルを用意します。

[[[:nodisp:mindex [[[:prim Eコマース]]][[[:second:key=だいきぎょうの―― 大企業の――]]]]]]
[[[:nodisp:mindex [[[:prim Eコマース]]][[[:second:key=ちゅうしょうきぎょうの―― 中小企業の――]]]]]]
[[[:nodisp:mindex [[[:prim Eコマース]]][[[:second パソコンでの――]]]]]]
[[[:nodisp:mindex [[[:prim Eコマース]]][[[:second モバイルでの――]]]]]]

[[[:nodisp:index:key=Eコマースかくめい Eコマース革命]]]
[[[:nodisp:mindex [[[:prim:key=Eコマースかくめい Eコマース革命]]][[[:second:key=――いこうの2ねんかん ――以降の2年間]]]]]]

(:nodispは索引語をPDFとEPUBの本文に表示しないという指定です)

それで索引語検索して、ヒットしたところに、索引のマークアップを貼り付けていきます。こんな感じです。

(1)「大企業のEコマース」を検索します。
20170131a

(2)ヒットした中で索引を付ける箇所を選択します。この場合は(9,76)の位置に付けますので、(9,76)をクリックします。

(3)すると編集画面で(9,76)の位置にジャンプします。テキストファイルから

[[[:nodisp:mindex [[[:prim Eコマース]]][[[:second:key=だいきぎょうの―― 大企業の――]]]]]]

をコピーして、索引語の前に貼り付けます。

(4)貼り付けた結果は次の図のようになります。

20170131b

(5)PDFとEPUBを作成すると索引のページが自動的に作られ、索引の各項目から本文へのリンクが設定されます。本文の索引語が非表示でもリンク先としては有効ですので、索引のマークアップは索引からジャンプしたい箇所に設定して置くのが良いです。

[1] 索引論再訪ー索引の目的とは。索引をどうやってつくるか?
[2] 1階層の索引の作り方は、動画とブログで紹介しています。動画とブログは下記の過去記事をご覧ください。

CAS-SUPPORTブログの索引関連その他の過去記事
[1] CAS-UBの編集デモ動画 新ファイル : 索引を追加する
[2] EPUB・PDFで索引や親子索引を作るためのCAS記法の例
[3] CAS-UBではEPUBに索引を自動的に出力できます。
[4] 索引の作り方を考える。一歩進んで、本文に出てこない索引語や、索引語の階層化の試み。

CAS-SUPPORT ブログより6年間を振り返る(1)

CAS-SUPPORTのブログは2011年1月より初めて12月末でちょうど6年となります。あっという間に6年経ってしまったのに驚きます。年末でもあり、この機会にいままでのブログの見出しをWebで一覧としました。

CAS-SUPPORTのブログ 目次

なお、このWebももちろんCAS-UBで制作しています。制作の工程から動画として作成し、動画一覧に追加しました。

CAS-UB紹介動画一覧より、「Webページ生成」をご覧ください。

もともと、このCAS-SUPPORTブログは、CAS-UBのサービスを利用されている人や、サービスに関心を持っていただいた方向けの情報を中心として企画したものです。そのためCAS-UBの新しい機能の紹介や関連イベントの情報が多くなっています。

CAS-UBの目的は、ワンソースマルチユース技術を本作りに応用して、いままでよりも簡単・便利に、良い本を作れるようにしようということです。そこで、こうした目的に合致する範囲で、本の制作に関わるデジタル技術の話題も随時取り上げています。こちらの方は、全般的&公平ということではないですが、世の中の出来事や変化を反映しています。

ということで、CAS-SUPPORTブログの6年間の変化を振り返ってみたいと思います。まず、最初の3年間です。

1.2011年はEPUB3の将来性が話題の中心

2010年が電子書籍元年ということで、特にEPUB3の標準化がホットなテーマとなりました。ブログを始めた2011年の頭ではEPUB3の仕様制定作業の途中でした。

そのため、2011年時点では、EPUB3が普及するのかどうかは見通しが付いておらず、またEPUB3をどのように制作するかについての手探りの状態でした。この頃のブログ記事では、EPUB3についての紹介や作り方、Adobe Digital Editionの表示機能などの記事も多く、またセミナーでもEPUB3の将来性についてテーマにしています。この頃がEPUB3の制作や表示という基本機能について、一番ホットな時期だったように思います。

しかし、2011年はEPUBを作っても販売する方法が少なかったのです。一方で、EPUBだけでなく、CAS-UBでPDFを作りプリントオンデマンドで本にすることも行っています[1]、[2]

2.2012年はKindleが日本で営業開始、EPUB3が主流になる

2012年になってEPUB3の話題はやや少なくなり、前半は停滞期でした。2012年の話題はなんと言っても日本でのKindleストアの営業開始でしょう。Kindleストア、KDPのサービス開始により漸く、EPUB3で本を作れば誰でも広く本を売れるようになりました。書籍出版社の間でも準備が進んでいたようで、2012年9月には電書協EPUB3制作ガイド V1.0が発表になりました。

CAS-SUPPORTのブログでも短い記事ですが10月25日よりKindleの営業開始を伝えています[3]。CAS-UBもKindleのmobi形式をサポートしました。ブログでもEPUB3とmobiの相違点などを何度か取り上げています。

やや専門的ですが2012年には縦組のとき英数字の向きの既定値をどうするかについての熱い議論がありました。

2012年から『PDFインフラストラクチャ解説』のEPUB版を制作して配布をはじめました[4]

3.2013年はEPUBを業務マニュアルに使う研究会に取り組む、またPDFも本格的に試作

2012年にKindleや楽天Koboが営業を開始して、EPUB3による電子書籍はポピュラーになりました。

2013年にはEPUBマニュアル研究会に参加して、業務マニュアルのEPUB化に取り組みました。CAS-UBは、当初からPDFの自動的制作、EPUB&PDFによるワンソースマルチユースを目標にしていました。これらの話題をあわせてJEPAで報告会を開催致しました[5]

【続く】

[1] CAS-UBで制作した書籍のPDF版を発売しました。
[2] CAS-UB で制作したPDFからプリントオンデマンドで本ができました。
[3] Amazon Kindle登場、iBooksが縦書きサポート
[4] 「PDFインフラストラクチャー解説」EPUB本の0.1版を公開
[5] 3月1日JEPAにて、「EPUBのビジネス分野での活用を広げる」セミナー開催JEPA 第22回 EPUBセミナーでの「新しい発想の書籍制作ツールCAS-UBのご紹介」スライドなど

改めて電子書籍とはなにかを考えてみる

Facebookに仲俣さんが投稿した記事[1]、に触発されて、電子書籍とは何かを改めて考えてみました。電子書籍とは何かを考える方法として、現在起きている現象から考える帰納的なアプローチと、電子書籍の由来から論理的に考える演繹的なアプローチがあると思います。現在起きていることを説明するアプローチはどちらかというとジャーナリストが得意な分野でしょうから、ここではやや演繹的なアプローチを取ってみます。

紙と電子
電子書籍を考えるときの軸としては、まずは紙の書籍との対比があります。

電子書籍=デジタルで配布・頒布される書籍であり、アナログで配布・頒布される紙の書籍と対比されるものとなります。紙の書籍は長い歴史をもちますが、デジタル書籍はコンピュータと通信技術の発展によって実現されたものです。デジタル書籍は、まだ数十年の歴史しかなく、これからの10年間でどうなるかさえも予想できません。

紙の書籍はものとしての実体があり、書店の棚に並んでいる書籍を手に取ってみることもできます。これに対して電子書籍はデジタルデータであり、触ってみることはできません。

紙の書籍はものとして所有することができます。本を所有し、棚に並べることは一種の知的シンボルでもあります。一方で電子書籍には実体がないということで、ものとして所有する感覚は味わえません。

逆に紙の本は重くてかさばり、本を置く場所をとるという弱点がありますが、電子書籍は何冊あっても重さはなく、置き場所に困ることはありません。

紙の本の内容は検索して探すことができませんが、電子書籍であれば内容を検索するのはお手の物です。

Webページと電子書籍
第二の軸はデジタルデータ同士、つまり電子書籍とWebページとの対比です。

電子書籍について前項で紙と比較したときの特徴の多くはWebページでも共通です。それでは、Webページと電子書籍の違いはどんなことでしょうか。

その前に、紙の書籍を少し考察して書籍とは何かを考えてみます。紙とWebページは歴史も発生も異なり水と油の関係ですので、その相違は自明のような気がしないでもないですが。

Webページは分散して配置された情報をリンクによってたどることができるように設定したものです。それぞれのWebページはインターネットの世界においてURLというアドレスが与えられてます。ここで注意すべき点はURLとはアドレスであり、情報の中身ではないことです。

インターネット上のURLというアドレスで特定できるWebページの内容は揮発性です。すなわち、昨日みたURLのWebページを今日再び見たら情報の内容が書き変わっている可能性があります。

書籍は長い間、印刷という方法によって複製され、製本されて形を与えられてきました。印刷では版を作ります。その版を作るまでの執筆と編集の工程によって内容は磨き上げられます。また、長いこと使われている印刷というアナログの複製工程ではある程度の数まとめて複製しないと安くなりませんでした。(但し、最近のデジタルプリンタによる印刷では1部からでも大量複製と同じコストで複製できますので、事情が変わりつつあります。)

このように考えてみますと、揮発性のWebページと版を確定する紙の書籍という対比が生まれます。デジタル書籍=電子書籍は、紙の書籍の概念から発展してきたものであり、リリースの前に内容を確定するもの、揮発性ではないと考えます。それに対してWebページは揮発性であり、随時更新されうるものと差別化できるのではないでしょうか。

青空文庫やWeb小説は、電子書籍なのかそれともWebページなのか、という問いがあります。これらは曖昧な境界の領域に当たると思いますが、揮発性なのか、内容が確定しているのかという観点でみますと、青空文庫やWeb小説は電子書籍に近いといえるのではないでしょうか。

著者の世界観
紙の本はほとんどの場合、一人または少数の著者が内容に責任を持って書いています。著者の考え方や思想・世界観の反映をしたものといえます。これに対して、Webページは、内容が揮発性なこと、あるいはWebサイトは大勢で作ることが多い、また相互にリンクをたどっていくなどの点で、特定の主体者の世界観を提示するのは難しいでしょう。

紙の書籍、電子書籍といった書籍は特定の主体の世界観を色濃く反映しているものです。それに対して、Webページで世界観を表現するのはなかなか難しいと思います。

著者の世界観が反映されるものなのかどうか、という点でみても、青空文庫やWeb小説は電子書籍に近いと思います。

パッケージ
紙の書籍は製本しカバーを付けるという形式でパッケージ化されています。EPUBのような電子書籍には製本や物理的なカバーはありませんが、EPUBは読み順が指定されまとめて1ファイルにまとめるという形でパッケージ化されています。

パッケージ化することでスマホや閲読端末に複製ダウンロードし、オフラインで読むことができます。オフラインで読むということは、URLと切り離されるということになります。その場合、これを特定する手段としてはISBNなどの管理番号や書誌ということになります。

ではパッケージ化されていることが電子書籍の必須要件なのでしょうか? パッケージされていないものを電子書籍と言えるかは、人によって意見が分かれると思います。

私の個人的な意見としては、パッケージは必須要件ではない、とする方に傾いています。

有償・無償
電子書籍の特徴として有償を指摘する意見があります。紙の本のように形があるものは自然に有償になりがちですが、有償・無償はビジネスモデル次第と思います。紙の書籍は作成・運搬・配布にお金が掛かりますが、紙の書籍を無償でばらまくことも十分あり得ます。そういえば、私のところにも、販促用のPR本も来ますね。

パッケージ化は有償で対価と交換しやすいのは確かです。私のいるソフトウェアの世界では、パッケージがどんどん縮小してWebサービスとなり、その対価の支払方式は、永久ライセンスから年間利用料方式(Subscriprion)に遷移しています。

本の読み放題は一種のSubscription制と言えます。電子書籍の世界でも読み放題が普及の兆しを示しています。読み放題になりますと、1タイトル毎の有償・無償という概念は希薄になるでしょう。

STM出版の分野ではSubscriptionだと提供者が寡占化してしまい、料金が高くなりすぎる、ということで、ゴールドOA(著者が出版料金を負担するオープンアクセス)方式が提唱され普及し始めています。

電子書籍という概念はまだできたばかりですし、これからどのように変わるかも分からず、もちろん人によりどう捕らえるかも千差万別でしょう。これからももっといろいろな形態や考え方がでてくるのでしょう。

[1] https://www.facebook.com/NakamataAkio/posts/10211194302834251

Amazonでは本のページの数え方が三つある。Kindle Unlimitedは第三のKENPで著者への支払いが行われ、KENP相場が基準になる。

前回「Kindle Unlimited問題とKENPの関係について(続き)」[1]で、KENP(Kindle Edition Normalized Pages)単価の下落のことを書きました。

ではそもそもKENP数はどのように決定されているのでしょうか? KENP数の前に、前々回「ページってどういう意味? 続編 Kindleの紙の本の長さと、KENPについて」[2]でも触れましたが、Kindleの本の紹介には、「紙の本のページ数」という項目があります。

結局、Amazonでは本のページ数カウント方法には三つの基準があることになります。次に『PDFインフラストラクチャ解説』と、もう一つの本の二つの例を挙げます。
スライド1
この二つの例でみますと、POD本の判型&ページ数とKindle版に表示される「紙の本のページ数」の関係は次の表のようになります。おおよそ900文字弱/ページになっています。まだサンプルが少なすぎますが、文字数だけで見ますと、おおよそ四六判に換算したページ数に近いようです。(『PDFインフラストラクチャ解説』は図版と表が大量にありますので、文字数だけでは評価できないはずですが。)

タイトル a. 1ページの文字数 b. POD総ページ数 c=a×b d. Kindle版の紙の本のページ数 e=c/d
例1 1,365 268 365,820 417 877
例2 1,188 202 239,976 269 892

Kindle版の紙の本のページ数は、購入する人にとっての目安です。

一方、KENPは、著者への支払いの基準となります。このKENPがどのように計算されるかについては明確になっていません。ちなみに、上の例2の本を、実際にKindleセレクトで発売し、Unlimitedで100%読了してみたところ417KENPとなりました。この本の紙の本のページ数に対して1.55倍です。

仮に、1KENPあたり50銭としますと、本書1冊を丸ごと読み終えたときに著者に支払われるロイヤリティは約200円となります。これが高いか安いか? という議論は別として、Kindle Unlimitedに出した本へのロイヤリティは、本の定価とは無関係に、Amazonが定める相場によって支払われる、ということにまず注意する必要があるでしょう。

[1]「Kindle Unlimited問題とKENPの関係について(続き)」
[2] ページってどういう意味? 続編 Kindleの紙の本の長さと、KENPについて

★ページに関連するブログ記事の一覧
[1] ページってどういう意味? 紙のページ、Webページ (memo)
[2] ページってどういう意味? 続編 Kindleの紙の本の長さと、KENPについて(上の[2]と重複しています。)
[3] Kindle Unlimited問題とKENPの関係について(続き)(上の[1]と重複しています。)
[4] Amazonでは本のページの数え方が三つある。Kindle Unlimitedは第三のKENPで著者への支払いが行われ、KENP相場が基準になる。
[5] ページっていったい、どういう意味なんだろう? ――Webページ
[6] ページって何? 「ページ」と本のかたちとの関係、「ページ」と「頁」の関係、ブラウザと電子書籍の未来

ページってどういう意味? 続編 Kindleの紙の本の長さと、KENPについて

アマゾンKDPに詳しい人はご存じかと思いますが、Kindleストアにはページという言葉が二つ登場します。

一つは、KDPの本の紹介で表示される「紙の本の長さ」という項目の値です。図の赤枠で囲った部分です。説明文には「推定の長さは、Kindle で表示されるページ数を使用し、印刷本に極力近い表現になる設定で計算されます。」と表示されます。

20161020

「印刷本に極力近い表現」ってどういう意味なんでしょうか? 図の『PDFインフラストラクチャ解説』Kindle版の場合、417ページと表示されます。ちなみに、『PDFインフラストラクチャ解説』には、POD本が別にあります。POD本はページ数を極力抑えるためにB5判型にしていることもあり、本文268ページなんですが。

もう一つのページ概念は、KENP(Kindle Edition Normalized Pages)というものです。KENPは、Kindle Unlimited[1]とKindleオーナー ライブラリー[2]の利用料支払いの基準になるページ数です。Kindle Unlimitedは「初めて読まれたページ数に応じて KDP セレクト グローバル基金の分配金を受け取る」とあり、オーナーズライブラリーも「初めて読まれたページ数に応じて」ロイヤリティを受け取るとされています。

つまり、ページ数はロイヤリティの支払い基準なので重要な概念なのです。

KENPは、現在、v2.0だそうです。「KENPC v2.0 では、フォント、行の高さ、およびスペースなど本の長さを標準化する計算方法に多くの改良が加えられています。」[3]という説明があります。

それでは、実際のKENPの単価はどうなっているのでしょうか? これに関してはあまりデータがないんですが;

『PDFインフラストラクチャ解説』は発売した1月から7月までKindle Selectに登録しており、この間で、稼いだKENPが延べ8,279ページでした。KENPによるロイヤリティ収入は、6,875円です。計算すると1 KENPが83銭となっています。

ちなみに、鈴木みそさんのブログ[4]には11冊のコミックのKENP数とロイヤリティ収入が公開されていますが、11冊すべて1KENPが50.7銭となっています。コミックは、たぶん、紙と同じページでしょうから、紙版と同等ページが、1ページ読まれたら約50銭の収入が得られる、ということになるのでしょう。

さて、この83銭と50銭をどう考えたら良いんでしょうか?

[1] Kindle Unlimited
[2] Kindleオーナー ライブラリー
[3] Kindle Unlimited およびKindleオーナー ライブラリーのロイヤリティ
[4] 鈴木みそは「アマゾン読み放題」で儲かったのか!? 金額発表!

10月24日(月)バージョンアップ内容についてご案内するセミナーを予定しています。お申し込みはこちらからどうぞ:
http://www.cas-ub.com/user/seminar.html

★ページに関連するブログ記事の一覧
[1] ページってどういう意味? 紙のページ、Webページ (memo)
[2] ページってどういう意味? 続編 Kindleの紙の本の長さと、KENPについて
[3] Kindle Unlimited問題とKENPの関係について(続き)
[4] Amazonでは本のページの数え方が三つある。Kindle Unlimitedは第三のKENPで著者への支払いが行われ、KENP相場が基準になる。
[5] ページっていったい、どういう意味なんだろう? ――Webページ
[6] ページって何? 「ページ」と本のかたちとの関係、「ページ」と「頁」の関係、ブラウザと電子書籍の未来

紙のページと電子デバイスの画面の相違がもたらす、現在のEPUB制作とリーダー開発の難点。

EPUB3には紙のページと同じようなページに関することを指定する仕様は少ない。

紙のページでは次のことができる。

・ページの大きさ(絶対寸法)がある。
・版面の大きさと、版面の位置を指定できる。
・版面の中で左右中央、上下中央、右上、左上という絶対方向を指定しての配置ができる。
・柱やノンブルを配置できる。
・文字の大きさ(絶対寸法)、1ページの行数、1ページの文字数を指定できる。
・左右ページがある。
・横組では左開き(左から右へ)進行、縦組では右開き(右から左へ進行)。
・横組・縦組の混在。
・改ページと改丁を指定できる。
・見開きがある。
・ページシーケンスの偶数開始の指定ができる。

もっと細かいこともあるけれどもそれらはとりあえず省略するとして。

紙のページならできることの中で、EPUB3の仕様で規定されているのは、改ページと進行方向(右開きか左開きかということ)ぐらいである。

上に挙げた紙のページ指定の中には、紙の物的特性と製本という処理に由来するものが多い。そうした特性の多くは、紙を媒体として使うことからくる制約である。そうした制約は、電子デバイスの画面では必要ないか、またはあまり意味のないことが多い。

だから、EPUB3の仕様にページに関する規定がすくないのは自然であるとも言える。

紙には裏表があり、本は背中で製本されているので、本を読む行為はページ捲りの動作と密接に結びついている。しかし、電子デバイスではページ捲りよりもスクロールの方が使い易い。

現在、多くのEPUBリーダーは画面をページのように見立てて、ページめくりっぽいインターフェイスを用意している。これは紙で作った本のイメージを継承するためのギミックである。こうして、EPUB3の仕様に規定されていないページの概念を持ち込んでしまったところに、EPUB制作上の問題、EPUBリーダー開発の難しさが生まれてしまったように思う。