戦前の岩波文庫における英数字の扱い


神田の古本屋にいって、戦前の本を探してみました。さすがに戦前の古本は店頭にもあまりありませんが、岩波文庫の「ミレー」(文庫本165頁)を見つけました。印刷・発行は昭和14年10月です。

本文はもちろん縦組みですが、表紙は横組みで書名や著者名などは、文字を右から左へ進めています。

以下、ラテンアルファベットと数字の使い方の紹介です。

ラテンアルファベットが、人名の欧文表記、書名表記、詩の文章などを示すために使われている場合は、横倒しである。これらの箇所は本文テキスト中で文脈上特別な意味付けができるものが多い。

正立の箇所は、人を指す1文字の代名詞、1文字のイニシャルに使っているときだけである。

数字については年の表記は本文ではほとんど漢字になっているが、アラビア数字が書籍の書名とともにその発行年などの表記に使われているときは横倒しになっている。わずかに数箇所書籍と関係なくアラビア数字の年表示がでている。その年表記の漢数字との使い分け基準はあまりはっきりわからない。

1.ラテンアルファベット
ラテンアルファベットは、本文中氏名、単語などで出現する。その箇所を分類すると訳文の原文、氏名、書名、雑誌名、会社名、引用である。これらは横倒しの欧文プロポーショナルフォントで組まれている。

(1)横倒し

a) 訳文の原文
「いまわの際」(in extremis)
「美術新報」(“Gazette Des Beaux Arts”)
「食事」(La Becqée)
「第五講演(Leeture)」
「美は題材とは関係ない」(“La belezza è lontana dalla materia”)
「沈黙は耳を澄ます。」“Silence listens”
「沈黙は満足していた。」“Silence was pleased.”
「些事を斥けよ。」(“Relinqne curiosa”)
「神ハ高慢ナル…」(Deus resistit …) (預言者の言葉)

b) 氏名
Alfred Sensier (1815-1877)
Miss Clementina Black

c) 書名、雑誌名
A. Sensier 「ジャン・フランソワ・ミレーの生涯と作品」(“La Vie et l’Œuvre de J.-F. Millet,” 1881)
“The Popular Library of Art”
“Talks on Art” (1875)
“Atlantic Monthly”
(“Gazette Des Beaux Arts” 1877-85)
参考書目の書名に多数(著者名、書名、発行年月、発行所などの形式)

あとがき中の原典参照部分:
“Millet”, by Romain Rolland, Duckworth & Co.
The Popular Library of Art
Alfred Sensier; La Vie et l’Œuvre de J.-F. Millet. A Quantin, Paris. 1881
Etienne Moreau-Nélation : Millet, raconté par lui-même. 3 vols. Henri Laurens, Paris, 1921
“CUR ARS PICTURAE APUS ITALOS XVI SAECULI DECIDDERIT”, 1895
“La Décadence de la Peinture italienne.”, 1896
“Revue de Paris”
“VIE DES HOMMES ILLUSTRES”

d) 社名
Duckworth & Co.

e) 引用段落
Et jam summa procul villarum culmina fumant
Majoresque cadunt altes de montibus umbrae

“Insere, Daphni, pyros; carpent tux poma nepotes” (ヴィルギリウス)

f) 引用文
“Et si mon …” (イタリック体、聖書の言葉、ルカ傳)

(2) 正立
ラテンアルファベットの正立は氏名のイニシャルまたはL氏のように人を指すために使用している。

W・モリス・ハント
P・J・プルードン
M・ド・シャントルー
M・L・ルトロンヌ
L氏(13箇所)

2.アラビア数字
数字はほとんど漢数字である。年月日などは漢数字表記が原則である。

(1)横倒し
アラビア数字は書籍の発行年、参考書目録の(海外)書籍発行年、人名につづく生年-没年に使われている。このときはラテンルファベットの書籍名ととも横倒し表記になっている。

書籍発行年数以外に本文にはアラビア数字の横倒しが2箇所ある:①「その当時(1853-54) 」、②「美術史教授時代(1902 」である。但し、このような年の表記は多くの箇所では漢数字になっている。アラビア数字にしている基準が明確ではない。

横倒しアラビア数字は半角幅のようだ。

(2)正立
正立のアラビア数字は、本文ノンブル(正立)のみである。目次の章見出しの頁位置示す頁番号は漢数字である。

3.書誌情報
書名:ミレー
著者:ロマン・ロラン著
訳者:蛯原 徳夫
発行時期:昭和14年10月
体裁:文庫本、164頁
発行所:岩波書店

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