縦組み時の文字方向について:UTR#50のSVOデフォルト、MVOデフォルト、現代方式、伝統方式、新聞方式の相違を分析する


AH Formatter V6.0 の縦組み時の文字方法設定にSVOモードを使えるように実装しています。開発者の話では、大分出来上がっているようですので、さっそくこれを使って縦組み時の文字方向の設定について比較検討してみたいと思います。

既に、このブログでは何回も取り上げているとおり、UTR#50(ドラフト)では縦組み時のデフォルト文字方向について、SVO方式とMVO方式が提案されています。

SVO方式、MVO方式ともに、コンテンツ(テキスト)に特別なマークアップを指定しないときのデフォルト文字方向です。実際には、日本語文書の中に欧文の単語などが混じるときは和文混植という組版を行なうことになります。つまり、商業的印刷物を作るときは、SVO・MVOをデフォルトのまま用いるのではなくて、日本語部分と欧文部分について何らかの指定をして使うことになります。

日本語の縦組み文章に英数字が混じるとき、その和欧混植の方法として、現代組版、新聞方式、伝統組版の3通りがあります。

下に例を示しました。ご覧いただくとお分かりの通り、デフォルト状態ではSVOにするかMVOにするかで違いが出ます。新聞組版はSVOに対して縦中横を追加する方式です。

現代組版方式で和欧混植指定をした結果(PDF)はSVOでもMVOとは同等になります。つまり、SVO方式でもMVO方式でも最後の見かけはまったく同じになります。

但し、指定方法(マークアップとCSSの作り方)は、どちらをデフォルトにするかで変わってきます。XHTMLをご覧いただくと分かると思いますが、デフォルトをSVOにするほうが、マークアップはコンテキストに沿うようになります。具体的には、英語単語の箇所に lang=”en” というマークアップをし、スタイルシートでlang=”en”の範囲を横倒しするという指定になります。組版処理を行なう際は、和文と欧文では空きのとり方、改行位置の決定方法が異なりますが、マークアップを手がかりにして処理の切り替えができます。

一方、MVOをデフォルトにすると文字を正立させる目的のマークアップが随所に必要となります。文字の向きを変えることを目的とするマークアップは意味的なものではなく、見かけを整えるためのものです。このマークアップでは、和文組版と欧文組版の処理切り替えの役には立ちません。

伝統的な組版をするには、アラビア数字を漢字に変換するなど別処置が必要となります。

※SVOをデフォルトにするか、MVOをデフォルトにするかの議論に伝統組版を持ち出すのは筋違いですが、参考のため示したものです。

次に順番に紹介します。

1.原稿

原稿は横書きで簡単な文章を含むXHTMLとします。英数字はUnicodeのベーシック・ラテン文字を使っています。


原稿PDF
原稿HTML

2.SVO方式デフォルト

原稿を縦組みとします。そのとき文字の方向をSVOデフォルト設定としたところです。英数字は正立します。記号類の扱いはさらに検討が必要です。


SVOデフォルトPDF
SVOデフォルトHTML
[*1]

3.MVO方式デフォルト

原稿を縦組みとします。そのとき文字の方向をMVO方式のデフォルト設定としたところです。


MVOデフォルトPDF
MVOデフォルトHTML

4.SVO方式を元にマークアップして和文混植を指定する現代組版

原稿を縦組みとします。そのとき文字の方向をSVO方式のデフォルト設定を指定しておき、それに加えて欧文の部分を横倒しする指定と縦中横指定をしたところです。


SVOベースにマークアップで和文混植を指定PDF
SVOベースにマークアップで和文混植を指定HTML

5.MVO方式を元にマークアップして和文混植を指定する現代組版

原稿を縦組みとします。そのとき文字の方向をMVO方式のデフォルト設定を指定しておき、それに加えて和字として扱いたい(正立させたい)英数字を正立指定と縦中横指定をしたところです。


MVOベースにマークアップで和文混植を指定PDF
MVOベースにマークアップで和文混植を指定HTML

4と5は表示上は同じです。しかし、マークアップが異なります。

6.新聞方式

次に新聞方式の設定をします。新聞方式は、SVOデフォルト設定に対してさらにアラビア数字の2桁の箇所のみ縦中横設定をした状態です。SVOでは英数字を正立させてしまうので2桁であっても縦中横にはならないのですが、新聞方式は縦中横を頻繁に使います。


新聞方式PDF
新聞方式HTML

7.伝統方式

最後に比較のため、伝統方式で設定します。伝統方式はマークアップだけではなくて、アラビア数字を漢数字に変換しています。(おまけに、1文字のラテンアルファベットを全角幅にしました。)


伝統方式PDF
伝統方式HTML

■注意
「日本語組版の要求条件」[*1]では正立する英数字は全角形を使うことになっています。これを前提にすると、上のSVOあるいはMVOを元にマークアップして和文混植を指定する現代組版の例では、正立させる文字については全角系のグリフイメージを表示するべきです。このあたりの処理は開発の課題です。現状、上の例ではプロポーショナルなグリフイメージを使っています。

[*1] UTF#50のドラフトSVO仕様:http://unicode.org/reports/tr50/tr50-5.Orientation.htmlでは、
U+003A(コロン)はSVO=Uになっている。しかし、JIS X4051ではコロンの縦書き字形は横倒しである。

■ご案内
CASオンラインショップでCAS-UBのユーザー登録することで、誰でも30日間だけ無償でご利用いただくことができます。
CAS-UB評価ライセンス

縦組み時の文字方向について:UTR#50のSVOデフォルト、MVOデフォルト、現代方式、伝統方式、新聞方式の相違を分析する” への1件のコメント

  1. ピンバック: 「新版論文の教室」には書籍の縦組みレイアウトパターンと文字の方向パターンの典型例がある | 電子書籍、電子出版のCAS-UBブログ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA値として計算に合う値を入力してください。 *