2011年11月18日の第83回デジタルドキュメント研究発表会を聴講に行きました。なかなか面白い発表が多かったのですが、とりわけ最後のパネルディスカッションは熱が入りました。
パネルディスカッションで小林敏先生から「書籍の要求仕様と、Webの要求仕様と、EPUBの要求仕様、どこが違うのか。はっきりしていない。経験から必要な要求を作る必要がある。書籍では行間が重要・・・」という発言がありました。
これは、今、CAS-UBの開発でも一番切実に感じている問題でもあります。もちろん、まだ要求仕様というようなレベルでは到底なく、日々模索している状態です。
無論、現在のPDFとEPUBとWebには違いがあるわけです。でそれぞれのページを別々に作っている間はその作り方も表示も違うため、おそらくエディトリアル・デザイナーや、Webデザイナーが、それぞれの担当分野でベストな表示をそれぞれに追及しているのだろうと思います。そうしますと、書籍の要求仕様と、Webの要求仕様と、EPUBの要求仕様の違い、ということを切実に感じる局面は少ないのではないかと思います。
ところが、CAS-UBでは、PDF(印刷書籍)、EPUB、Webのプレビュー・スナップショットを、ワンソースからボタンひとつで作り出すため、3つの媒体でプレゼンテーションの相違が明確になります。そして、その相違の媒体別チューニングが簡単にはできないので、3つの媒体向けの要求仕様のちがいを意識することになってしまうのです。
1.ページネーション
この3つの媒体ではページネーションに対する要求の違いがもっと大きいと思います。大雑把に言うと、次のような違いです。
1) PDFは完全ページネーション
ページ区切りの制限が厳しい。
・見出しと本文の泣き別れ防止必須。
・図のための改ページでできる空きの最小化などが要求される。基本版面を固定すれば制作時に最適化できる。
・書籍では右ページ、左ページの概念がある
・その他、改ページ位置の制限がある。
従来、書籍、冊子、ちらしなどの制作では、テキストがページからはみ出した場合はテキストを削除する、テキストがたりないときはテキストを追加するなどの編集操作を行なっています。つまりページ区切りに内容を合わせることが一般的に行なわれます。これは自動処理泣かせなんですが。
・書籍用のPDFと電子書籍用のPDFでは作り方を変える方が良い。
・書籍用は見開きがある。しかし、電子書籍では見開きでないほうが良い。
2) EPUBは適当ページネーション
・EPUBをどのようにページネートするかは、リーダー任せになっており、EPUB仕様で決まっているわけではない。ページ概念を持ち込むかどうかも未確定。
・書籍のように見開き表示の概念があるのかどうか?
・読む側の立場からは見出しと本文の泣き別れは防止したい。しかし、空きができてもそれほど気にならない。ページ区切りはリーダー依存となるし、閲読時に決定するので、制作時に最適化できない。
・CSSで指定しておくなどの方法をとる。
3) Webはページネーションなし
Webブラウザでコンテンツを読むときは、普通はページネートするという概念は適用されません。
コンテンツを巻物を読むように表示します。横書きのときは、縦長の巻物を上から、スクロールまたは「ページアップ」「ページダウン」で表示していきます。
この際、例えばスクロール時に見出しや図が画面の端になって欠けるのも問題にされません。
但し、CSSでは改ページを指定することができますので、このあたりはやや曖昧です。
印刷時には用紙の上に可視化されるので、当然、ページネートされることになります。
2.行間
小林先生から行間が重要という話がありましたが、段落内の行間と段落間の空きについていうと書籍では、通常、段落間の空きと段落内の行間は同じ量になると思います。しかし、Webでは読みにくいので、段落と段落の間を空けることになります。
電子書籍はどうかと言いますと、段落間を空けるべきか否か。現在の状態では段落間を空ける方が見やすいと思います。
段落間を空けると今度は表示面(画面の上の文字列の配置)がぱらぱらになるので図形の配置も結構ルーズになります。
3.先頭行インデント
段落間の空きと先頭行インデントはおそらく関係があります。紙の書籍では段落の区切りをつけるために通常は先頭行インデントをつけます。
しかし、Webでは段落間で空きをつけます。電子メールなどでは先頭行にインデントはつけないですし、おそらくWebページでも段落の先頭にインデントをつける必要はないと思います。
EPUBはどうしたら良いでしょうか?先頭行インデントが書籍において読みやすさを強化するために考案されたものであるならば、EPUBは段落間を空けて読みやすくし、先頭行インデントは使わないということが考えられます。
というようなことで、まだ、同じものを異なる媒体に出すときの違いをどのように整理したら良いのか、いまひとつわからなくて、もやもやとしているといったところです。
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