著作者の権利とクラウド書籍販売・保管サービスの関係


11月22日開催のJEPA & eBP共催 出版契約「書協新ひな型」に関する意見交換会に参加しました。
 
意見交換会の内容は、社団法人日本書籍出版協会から2010年に公開された電子出版対応の書籍出版契約書ヒナ型(3種類)についての説明です。雛形作成ワーキング・グループで中心的な活動をされた村瀬拓男弁護士からの、特に2005年版からの改訂点と、類型1、類型3の相違についての解説が中心でした。

◎電子出版対応の書籍出版契約書ヒナ型(3種類)
電子出版対応の書籍出版契約書ヒナ型

類型1:著作権法の出版権に関する規定を利用する「出版権設定」型。
類型2:紙の出版権を設定済みの場合に、電子書籍を追加する契約型。
類型3:著作物の利用に関する契約型。

以下の文章は当日の講演などからの私の理解によるものですので、独断と偏見を含んでいる可能性がありますが・・・

類型1では、著作権法に定められている出版権設定に関する条項を契約根拠として利用しますので、出版社には出版権に関して享受できる権利と義務が生じます。出版権の設定は、紙による出版しか認められないので、電子出版を行なう場合は、別途契約条項を追加する必要があります。

それに対して、類型3は著作者から、出版社に著作物の利用権の行使を認めてもらうものになります。従って、紙による出版と電子による出版の両方を統合的に行なうには、類型3の方が概念的な整理が簡単になると考えられます。

ちなみに、こうした考えでCAS電子出版「魔性のプレゼンテーション」出版に際しては、類型3をベースに契約書を作成しました。昨日の村瀬先生の話では、村瀬先生も個人としては類型3の方が良いとお考えとのことでしたので、若干意を強くしたのですが。

そのようなことで、前半の講演も勉強になりましたが、興味深かったのは、後半のパネルディスカッション特にフロアからの質疑応答でした。

出版契約は著者と出版社の間の契約です。書籍を読むの(著作物の最終利用者)は読者になりますが、読者までのルートに販売業者、電子の時代では配信業者が介在します。

電子書籍は有体物ではないので、電子書籍の販売は、物品の所有権転売行為ではなく、著作物の利用を許諾する契約行為になると思います。つまり、著者が出版社に利用を許諾し、出版社が販売業者に利用を許諾し、販売業者が読者に利用を許諾するという繋がりになります。

ところが大元の著者と出版社の契約期間は3年、5年、長くても10年~15年となります。あまり長期にわたる契約は公序良俗に反することになりますので、出版に関わる契約は数年として数年単位で見直し(自動継続もありえますが)することになります。

でもし、著者または出版社の意向で、出版契約を終了したときの扱いですが、出版社と著者が雛形どおりの契約を結んでいるとすると紙については在庫を販売することはできますが、パッケージ型電子書籍は別として、ダウンロードやストリーミング型の電子書籍の販売では在庫はありませんので、契約終了した時点で頒布を終了することになります。

このとき、販売業者も同時に頒布をやめなければなりません。こうなると、電子書籍だから絶版がないとは一概にはいえなくなるわけです。

それはともかくも、出版に関する契約が終了したとき、読者の利用権はどうなるか?というのが一つの疑問です。

これは、村瀬先生によりますと、出版物の利用で著作者の権利が侵害される蓋然性が高いのは複製の時点であるが、販売業者から読者が複製・取得するのは購入時点であり、購買後の複製・利用は私的利用のための複製にあたるので、仮に大元の契約が終了していても、著作権侵害にならないということのようです。従って、単純なダウンロード販売は、ダウンロード時点に大元の契約が有効期間内であれば問題がなく、その後の読者の私的利用のための複製は問題ないことになります。

もうひとつの疑問は次のようなものです。最近の電子書籍の販売は単純なダウンロードではありません。アマゾンやアップルでは読者の端末はクラウドの販売業者のデータベースと繋がっています。電子書籍データの実体がどこにあるか良くわからないのですが、読書端末として購買時点の端末とは異なる別の端末を登録して、そちらで読書を行なうことができます。また、購入した書籍を保管するトランクルームのようなサービスもあります。このようなサービスでは、購買した後にも販売業者との間で複製行為が行なわれることになります。この複製行為は、著作者の権利侵害にならないのか、さらには、大元の出版契約が終了し、出版社と販売業者との契約が終了した後に、著作物の複製が行なわれたとき、その複製はどのように正当化されるか、と言う疑問が起きます。

第2の疑問について、村瀬先生に(講演終了後)質問したところ、この問題は文化庁で研究することになっている、とのことでした。

第2の疑問で挙げた複製が私的複製の範囲を拡大して許諾されるのかどうか?興味深いところです。

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