PDFはなくなり、EPUBが代わって普及する、というシナリオ


最近、会う人毎に、「いずれは紙はなくなるだろう。紙がなくなれば、紙をデジタル化したものであるPDFも一緒になくなるだろう。そのとき、PDFにとって変わるのはEPUBだろう。」と吹聴しています[1]。

紙はいずれなくなるだろう、ということは20世紀の終わり、OA機器が登場したころからペーパーレス・オフィスとして取りざたされてきました。しかし、紙がなくなるというのは、特に日本においては、あまり現実性をもって受け止められてきませんでした。ところが、最近状況は変化しているようです。

(1) 紙の需要は減少している

紙の需要の統計を見てみますと、新聞用紙は2006年の376万トンをピークに減少しています。印刷・情報用紙も1,204万トンをピークに減少に転じています[2]。10年以上に渉って紙がなくなるといわれながら、予想を裏切って紙の需要が増えていたのですが、しかし漸く2006年を転換点にして実際に減少傾向に転じています。2008年のリーマンショック以降はさらに大幅減になっています。

2006年の転換はWebの影響でしょう。ではこれからはどうなるでしょうか?

タブレットが普及し始めたのは2010年ですが、最近のタブレット人気を見ますと、今度はタブレットも紙の減少に拍車をかけるのではないでしょうか。2012年以降の統計に注目したいところです。

(2) 紙がなくなると、ボーンデジタル文書をPDFにする必然性はなくなる

PDFは紙に印刷する情報を、紙を想定するレイアウトを維持したままでデジタルデータにしたものです。つまりPDFは紙を模倣するデータ形式です。紙とPDFは技術的には一連托生と言えます。紙が要らない時代には電子的に閲覧するデータをPDFにしなければならない理由はまったく存在しません。

オフィスで一般的なA4用紙サイズにテキストをレイアウトしたPDFは、9.7インチ・ディスプレイのiPadでも、画面上の文字が小さくて読むのにかなり苦労します。これから一人で複数台のタブレットを使う時代がやってくるのでしょうが、そのときは、おそらく6インチ、7インチのタブレットも使い分けることになるはずです。6インチ、7インチのタブレットではA4用紙サイズのPDFでは文字が小さすぎてとても読むことができません。

デジタル機器の画面で閲読することを考えると、PDFはあまり適切ではないと言えます。

(3) PDFに変わるデジタルデータ形式はWebそれともEPUB?

いままでのところ、紙が減少している原因はWebです。つまり、紙=PDFはWebに敗れつつあると言っても過言ではないのです。では、今後ともすべてがWebに移るでしょうか?

ここで注目したいのがいま電子書籍の形式として注目を集めているEPUBです。WebとEPUBを比較しますと、Webはパッケージして流通させることができないという欠点をもつのに対して、EPUBはパッケージして流通させることができます。その点で従来の書面や冊子にとって変わることのできる特性を備えています。

このように「紙がなくなるときPDFもなくなり、それに代わるものとしてEPUBが普及する」というシナリオにはかなりの現実性があります。

(4) ではEPUBが紙に変わって普及するための鍵はなんでしょうか?

いくつかあげてみます。

a. 閲読デバイスの解像度の飛躍的アップ

iPadの最初のものを買ったときは、iBooksがそれほど読みやすいとも思わなかったのですが、レティナディスプレイ版に変えてからは非常に読みやすくなりました。やはりディスプレイの解像度が高くなることは非常に重要です。このスピードなのですが、iPadの初版からレティナディスプレィ版まで1年半程度しかかかっていません。解像度がこのスピードで高くなるとすると、もうそう遠くない時期に紙に印刷するのと遜色のない解像度による画面表示ができるようになるでしょう。

b. 通信速度のアップとDropboxのようなファイル共有方式の普及

PCで文書を作成し、それをiPadに送るのが非常に手軽にできるようになりました。PC+iPad+Dropboxと高速なWiFiを組み合わせれば、PDF・EPUBを手軽にiPad(iBooks)にデータを送ることができます。紙に印刷するのと同等の便利さで端末を使って、電子文書を読むことができます。

c. EPUBをレンダリングするリーダ

EPUBを可視化するための必須でかつ重要な要素はEPUBリーダであり、優れたEPUBリーダの登場がキーポイントなのは自明です。
これについては、EPUBのレンダリングエンジンとしてWebKitの開発が進んでいます。当社でもAH Readerを用意しています[3]。

(5) EPUB時代がもうすぐ到来する

自分自身が会社で読む書類について言えば、紙に印刷することは、この半年の間にほとんどなくなりました。まだ他の人からもらう文書はPDFが多いのですが、自分で作る文書はEPUBが多くなっています。電子文書を読むのにiPadを使っているとEPUBで読むほうがはるかに読みやすいのです。もうすぐEPUB時代が到来するのではないか、という実感をもっています。

[1]これはかなり大げさで、書面として存在する文書をデジタル化するときはやはりPDFが便利です。つまり、紙の消滅過程は、まず、ボーンデジタルの文書が紙に出力されなくなり、これはPDFの消滅に繋がるだろうと思います。次に書面を電子化するステップですが、これは紙そのものの電子化なのでPDFが残る可能性があります。
[2]日本製紙連合会・紙板紙の需要推移
[3] AH Reader

PDFはなくなり、EPUBが代わって普及する、というシナリオ” への3件のコメント

  1. 例えば用紙が極端に高騰したりすると、PDFのまま配布するケースが増えていくと考えられます。そのPDFがなくなりEPUBがとって替わるとすればそれはデジタルファーストのコンテンツが最初から印刷を前提にしなくなるとき。
    近い将来にペーパー版は用意しない文書が普及するときでしょうか、、、。目が覚める記事でした。

  2. 元の本にあった記述を省いたり規制でそぐわないのは消してる電子書籍の何がいいんですか?8年後の今もepubとかいう作るには厳正すぎて使えないモノより簡単に作れるpdfの方が遥かに優れてますし紙の本は今も需要大きいんですがこれについてはどう思うんですかね

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