EPUB標準化関連活動のアップトゥデイト 2014/6/15

EPUB標準化関連活動について、前回、1月までの進展を整理しました。[1]今日はその続きです。

1.EPUB 3.0 本体
EPUB 3.0.1 概要
変更点

○進捗
2月28日にドラフト仕様からIDPFのProposed Specification(February 28, 2014)となる。
~4月25日 パブリックレビュー
現在、勧告仕様化のためのIDPFメンバー投票中。投票期間は6月11日~6月25日まで。

2.関連プロファイル仕様
1)EPUB Index(索引)
EPUB Indexes 1.0
2月28日にProposed Specificationに進んだ。

2)ハイブリッドレイアウト (Advanced-Hybrid Layout Working Group)
3月26日にパリでワークショップを開催。
IDPF Workshop on EPUB Comics/Manga – March 26 (Paris)
内部的に改訂されているが、公開されている仕様はドラフトの状態から進展していない。

3)EPUBの辞書と用語集(Dictionaries and Glossaries working group)
EPUB Dictionaries and Glossaries
2月に公開ドラフト第一版が発表された。

4)注釈:Open Annotation (EPUB)
Open Annotation in EPUB
5月28日に公開ドラフト第二版が発表された。

5)EDUPUB
EDUPUBはもっとも活発です。2月から5月までの進捗は次の通りです。
① ワークショップ
a.2月にソルトレークシティで第2回ワークショップを開催
EDUPUB Salt Lake City Workshop Report
ポイントは次の通り。
*第一回のBoston ワークショップからの進展について。最初のパネルでEPUBを教育コンテンツの配布媒体として利用することが実践的かどうかを議論。
*評価、結果、分析に関して。たとえば、IMSのQTI、Caliper分析フレームワークにより、結果を集めたり、リアルタイムのレベル付けすること、などについてプレビュー。
*第一回ワークショップ後にIDPFに二つのサブグループができた。各WGからの報告があった。
**コンテント・グループはEPUBのマークアップ・プロファイルを作成中で、ワークショップ前に最初のEditor’sドラフトを出した。
**二つ目のグループは学習オブジェクトのような、分離したオブジェクトの配布を検討している。ドラフトは近々出す予定(2/27時点)。(5/28公開のEPUB Distributable Objectsが該当するのだろう)。
**shcheme.orgのメタデータを統合するガイドができた。
JEPAによる日本での報告会
b.6月にオスロでの第3回ワークショップを予定
EDUPUB Europe 2014
EDUPUB Europe Program June 19, 2014

②仕様案
EDUPUB関連の公開資料リスト

5月28日に、EDUPUBプロファイルなどのドラフト仕様が公開された。これらの仕様をオスロのワークショップでレビューする予定である。

EPUB 3 EDUPUB Profile
EDUPUB Structural Semantics
・Open Annotation in EPUB (上記)
EPUB Distributable Objects
EPUB Widget Packaging and Integration

[1]EPUB標準化関連活動のアップトゥデイト 2014/1/18

EPUB標準化関連活動のアップトゥデイト 2014/1/18

1.EPUB本体

1)ISO標準化
EPUB(EPUB 3.0.1)はISOの技術標準になることが決まっています。
仕様の番号:ISO/IEC DIS 30135-1~7

※2014年11月5日 EPUB3がISO/IEC TS 30135として刊行されました[3]

2)EPUB 3.0.1 IDPF
ISOの標準とするに際してのマイナーな変更を行い、EPUB3.0.1とすることになっています。作業はほとんど終了し、昨年末に、公開レビューが行なわれました。
第1回公開レビュー 2013年11月7日~2013年12月3日
Call for Review – Public Draft of EPUB 3.0.1

コメントを整理した上で、次のステップとして提案仕様に進むことになっています。

変更点のリストを見ますと、実際はかなり変更になっています。ISO標準化の機会を利用して、仕様のかなり大きな拡張が行なわれました。実態としては3.1と呼ぶべきものでしょう。
変更点
主なものだけ紹介します。

①Publication(OPF)
・collection(OPFの最後に0回以上出現)要素が追加になりました。

複数のコンテンツ文書に分散する索引、特殊な可視化を実現するコンテンツ文書のためのもの。collectionには役割(role)を指定しなければなりません。roleの語彙は随時追加されますが、1/18時点では、index(索引)とmanifest(関連コンテンツ文書)、preview(試読版)が定義されています。

・出版物の可視化に関する項(4.4 Publication Rendering)が新しく設けられました。

そして、rendition:flow, rendition:align-x-center属性が追加されました。rendtion:align-x-centerはファイル毎にテキストを上下中央配置(縦組みでは左右中央配置)指定ができます。主に中扉のテキストを中央に配置するのが大変難しいという現在の制作者の悩みを解決する目的で設けられたものです。

また、EPUB3.0仕様確定後の2012/3に追加で策定された固定レイアウト用メタデータ属性が、この出版物の可視化に関する項に統合されました。

②コンテンツ文書
・trigger要素の追加
・仕様で規定していないカスタム属性を許容しました。これによりリーダーの独自拡張が可能になります。
・CSS3より、CSS Text Decoration Module Level3, Selectors Level3 が加わりました。
・CSS3の Writing Modesの文法と値が変わりました。
・oeb-page-head, oeb-page-footが廃止予定となりました。これは、EPUB2からある、ランニング・ヘッダー、ランニング・フッター(日本語書籍の柱に相当)を指定するためのものでした。しかし、実装しているリーダーがないので廃止となりました[1]

③Open Container Format、Media Overlaysなどその他の仕様にも細かい変更が行なわれています。

(参考)日本語訳に変更点のうちrendition:flowの解説があります。(参考)日本語訳

2.EPUBのプロファイル
(1) 公開レビューに進んでいる活動

1)EPUB Index(索引)EPUB Indexes Working Group
第2回公開レビュー 2013年11月7日~2013年12月3日
EPUB Indexes 1.0

2)ハイブリッドレイアウト (Advanced-Hybrid Layout Working Group)
主に固定レイアウトに関するプロファイル仕様として開始されましたが、それ以外の機能を含みつつあります。
2013年12月16日~2014年1月15日まで公開レビュー

EPUB Previews
EPUB Multiple Renditions
EPUB Region-Based Navigation
Magazine Structural Vocabulary

(2) 以下のグループは活動を行なっています。

1)EPUBの辞書と用語集(Dictionaries and Glossaries working group)
EPUB 3 Dictionaries and Glossaries Charter

今後、仕様のドラフトを完成して公開することになる見込みです。

2)Open Annotation (EPUB)
W3Cなどで進んでいる注釈の標準化(Open Annotations)プロジェクトはEPUBに限らず、様々な媒体への注釈のモデルを標準化するものです。これを受けてIDPFでは、2013年11月にEPUBの注釈について検討するワーキング・グループを立ち上げました。このグループは活動が始まったばかりです。

Open Annotation Community Group
Open Annotations in EPUB – Project Overview

(3) これから活動を開始する段階

EPUBの教科書への利用についての標準化活動が始まろうとしています。

1)EDUPUB
IMS Global, IDPF, W3Cがデジタル教科書と学習参考書に関するEPUB3のプロファイル仕様作成に関するワークショップを開催しています。ワークショップで仕様標準化の課題をいろいろ挙げてから作業をスタートすることになるのでしょう。ワークショップの段階で課題に入らないと作業開始からの追加は難しいようです。

第1回 2013年10月29日~30日 ボストンにて
アジェンダプレゼンテーションもあります
EDUPUB Workshop Report

第2回 2014年2月12日~13日(予定)ソルトレークシティ
EDUPUB2 Workshop on Digital Publishing for Education

[1] 個人的感想:これは仕様の拡張の仕方が悪い(CSSのプロパティを独自拡張)のでやむを得ないとは思います。しかし、現在、EPUB3では柱を指定する方法がないため、ボリュームの大きな書籍ではどこを読んでいるのかまったくわかりません。これは大きな欠点だと考えています。
[2] EPUB標準化関連活動のアップトゥデイト 2014/6/15
[3] EPUB3がISO/IEC TS 30135として刊行

『本を作るための新しい仕組みの登場』(EPUB本)アルファ版

以前にブログなどに書いた記事を少しまとめて、『本を作るための新しい仕組みの登場』というEPUB版(アルファ版)にしました。

考え方をもう少し整理してみたいと思っていますが、関心をお持ちの方にお読みいただいて批判をいただけると幸甚です。

http://www.cas-ub.com/project/publications/book-production.epub

今年もPage2013に、CAS-UBやAH Formatterを中心に出展いたします。

アンテナハウスは、2月6日(水)~2月8日(金)東京・池袋サンシャインシティコンベンションセンター TOKYO(展示ホー ルD:文化会館2F) で開催されるPage 2013に出展します。

■Pageでの弊社の主要出展内容

主に次の製品を展示いたします。説明員がデモの用意をしてお待ちしていますので、ぜひご来場ください。

1) CAS-UB

ワンソースでブックオンデマンド書籍のためのPDF制作、EPUB・Kindle形式の電子書籍の制作を同時に行なうことができます。

2) XMDFtoEPUB変換ツール

XMDFのソースXMLから、EPUBに変換できます。「電書協フォーマット」対応のEPUBを出力することもできます。

3) AH Formatter

(1) 多言語組版

AH FormaterV6.0では南アジア・東南アジアの文字はデバナガリ(Devanagari)文字とタイ(Thai)文字のみのサポートです。V6.1でインド系文字にベンガリ(Bengali)、グジャラーティ(Gujarati)、タミール(Tamil)、テルグ(Telgu)、グルムキ(Gurmukhi)、オリア(Oriya)、カンナダ(Kannada)、マラヤラム(Malayalam)の8文字を追加、東南アジア系文字にクメール(Khmer)文字の組版をサポートします。

(2) 数式組版

数式組版についてもV6.1に向けて機能強化中です。

■出展情報
ブース番号:D-26
入場費用 :1,000円(下記までお問い合わせいただければ無料入場券を送付いたします)
お問い合わせ:03-5829-9021 
e-mail:sis@antenna.co.jp

プリント・オン・デマンド(POD)の衝撃ーーインプレスR&D 「Next Publishingメソッド」セミナーの感想

1月22日のJEPA EPUBセミナー「インプレスR&D 『Next Publishingメソッド』紹介」はショックでした。

○セミナー資料は注を参照

『Next Publishingメソッド』の、プリント・オン・デマンド(POD)による冊子版とEPUBによる電子書籍を同時に作って販売するというハイブリッド出版のコンセプトは、2010年スタート時のCAS-UB開発の狙いそのもの[1]。インプレスR&Dの井芹社長のコンセプトとCAS-UBのコンセプトは、制作システムの開発コンセプトという観点ではまったく同じと言って良いほどです。

後述のようにCAS-UBはWebサービスとして、むしろ、インプレスR&D の「Next Publishing Tool」よりもだいぶ先行していると言っても過言ではありません。そういう意味で、本セミナーもテクニカルな、システムという観点では新味を感じることはありませんでした。しかし、ビジネスとしての展開という点では、インプレスR&Dが既に一定のビジネスモデルの段階に達しているのに、CAS-UBはまだ新しいビジネスモデルを提案できていません。

インプレスR&Dの井芹社長のまとめによりますと、ハイブリッド出版では、「Amazonの販売のケースで、電子は紙の25%(Kindle登場前は5%)」だそうです。つまり、Kindle Storeが開店した今の時点でも、紙の方が3倍売れているということになります。従って、EPUB版だけではなく同時に紙版を出すのは必須です。

トラディショナルな出版では、最初に印刷で大部数を刷ってしまうために様々な理由でハイリスクとなります。そこにPODを採用する妙味があります。

CAS-UBの開発スタート時のコンセプトは、大よそ、そうなるだろうと予想した上で、これを簡単に実現する出版制作の仕組みを提供する、ということです。

これを実際に、出版のビジネスとして実行して、数値で実証的に示し、ビジネスモデルとして提示したということが『Next Publishingメソッド』の衝撃です。

『Next Publishingメソッド』が、Word文書をEPUB化するのに使っている「Next Publishing Tool」のデモンストレーションを拝見したのは今回が初めてです。そして、このデモを拝見して、「Next Publishing Tool」の弱点がどこかも直ぐに分かりました。おそらくEPUBを作るシステムとしては、CAS-UBの方が優れていると思います。

また、プリント・オン・デマンド用のPDFを作る仕組みも、手前味噌ですがCAS-UBの方が優れていると思います[2]。

CAS-UBで、実際にPODによる冊子本とEPUB/Kindleの電子書籍を制作・販売したひとつの例を次に紹介しています。

「転職の法律があなたを守る」プリント版ができあがりました

この「転職の法律があなたを守る」の冊子版のできばえは、出版社の方も「うそだろ」といった、というほどです。EPUB版は楽天Kobo ストアで販売しています。また、Kindle版はアマゾンのKindleストアから販売しています。

「転職の法律があなたを守る」EPUB版(楽天Koboストア)
「転職の法律があなたを守る」Kindle版(Kindle Store)

このように書籍を作るシステムとしては、『Next Publishingメソッド』とCAS-UBはおなじことができます。また、CAS-UBはWebサービスとして開発していますので、その分、自社の社内ツールと思われる「Next Publishing Tool」よりも汎用的です。

しかし、残念ながら、現在のところ、CAS-UBは、お客さんの視点からはEPUBを作るサービスとしてしか見られていないように思います。

アンテナハウスでは、CAS-UBのトレーニング・セミナーを開催しています[3]が、このセミナーに見えるお客さんはほとんどがWordからEPUBを制作する、ということに惹かれているようです。

このように残念ながら、CAS-UBはPODのツールとしてはほとんど注目されていません。

この理由はPODが単に本を作るための方法論として捉えられてしまっているためだろうと思います。本を作るための方法論として考えれば、PODを行なうにしても、InDesignで版下を作れば十分です。PODだけの目的でCAS-UBを使う理由はそれほどありません。

しかし、PODとEPUBをデジタルファーストの手段として、もっと広義には新しい出版ビジネスのモデル構築手段として捉えなければならない、ということだろうと思います。

つまり、CAS-UBを新しいビジネスモデルとして提示する、ということをしなければいけないのです。これができていない、ということを痛烈に反省しました。

[0] セミナー資料:EPUB 第20回 インプレスR&D 「Next Publishingメソッド」紹介
[1] ハイブリッド出版という言葉は、2010年末のプレゼンで既に使いました。また、2011年2月のWebでも使っています。その後、あまりにもダサいと考えて削除してしまいましたが。当時のニュース・リリース:ニュース・リリース
[2] 本当はその理由を具体的に説明しないと公平ではないと思いますが、このブログではシステムの優劣を論じるのが目的ではないので、とりあえず省略します。
[3] CAS-UBのトレーニング・セミナー

PDFはなくなり、EPUBが代わって普及する、というシナリオ

最近、会う人毎に、「いずれは紙はなくなるだろう。紙がなくなれば、紙をデジタル化したものであるPDFも一緒になくなるだろう。そのとき、PDFにとって変わるのはEPUBだろう。」と吹聴しています[1]。

紙はいずれなくなるだろう、ということは20世紀の終わり、OA機器が登場したころからペーパーレス・オフィスとして取りざたされてきました。しかし、紙がなくなるというのは、特に日本においては、あまり現実性をもって受け止められてきませんでした。ところが、最近状況は変化しているようです。

(1) 紙の需要は減少している

紙の需要の統計を見てみますと、新聞用紙は2006年の376万トンをピークに減少しています。印刷・情報用紙も1,204万トンをピークに減少に転じています[2]。10年以上に渉って紙がなくなるといわれながら、予想を裏切って紙の需要が増えていたのですが、しかし漸く2006年を転換点にして実際に減少傾向に転じています。2008年のリーマンショック以降はさらに大幅減になっています。

2006年の転換はWebの影響でしょう。ではこれからはどうなるでしょうか?

タブレットが普及し始めたのは2010年ですが、最近のタブレット人気を見ますと、今度はタブレットも紙の減少に拍車をかけるのではないでしょうか。2012年以降の統計に注目したいところです。

(2) 紙がなくなると、ボーンデジタル文書をPDFにする必然性はなくなる

PDFは紙に印刷する情報を、紙を想定するレイアウトを維持したままでデジタルデータにしたものです。つまりPDFは紙を模倣するデータ形式です。紙とPDFは技術的には一連托生と言えます。紙が要らない時代には電子的に閲覧するデータをPDFにしなければならない理由はまったく存在しません。

オフィスで一般的なA4用紙サイズにテキストをレイアウトしたPDFは、9.7インチ・ディスプレイのiPadでも、画面上の文字が小さくて読むのにかなり苦労します。これから一人で複数台のタブレットを使う時代がやってくるのでしょうが、そのときは、おそらく6インチ、7インチのタブレットも使い分けることになるはずです。6インチ、7インチのタブレットではA4用紙サイズのPDFでは文字が小さすぎてとても読むことができません。

デジタル機器の画面で閲読することを考えると、PDFはあまり適切ではないと言えます。

(3) PDFに変わるデジタルデータ形式はWebそれともEPUB?

いままでのところ、紙が減少している原因はWebです。つまり、紙=PDFはWebに敗れつつあると言っても過言ではないのです。では、今後ともすべてがWebに移るでしょうか?

ここで注目したいのがいま電子書籍の形式として注目を集めているEPUBです。WebとEPUBを比較しますと、Webはパッケージして流通させることができないという欠点をもつのに対して、EPUBはパッケージして流通させることができます。その点で従来の書面や冊子にとって変わることのできる特性を備えています。

このように「紙がなくなるときPDFもなくなり、それに代わるものとしてEPUBが普及する」というシナリオにはかなりの現実性があります。

(4) ではEPUBが紙に変わって普及するための鍵はなんでしょうか?

いくつかあげてみます。

a. 閲読デバイスの解像度の飛躍的アップ

iPadの最初のものを買ったときは、iBooksがそれほど読みやすいとも思わなかったのですが、レティナディスプレイ版に変えてからは非常に読みやすくなりました。やはりディスプレイの解像度が高くなることは非常に重要です。このスピードなのですが、iPadの初版からレティナディスプレィ版まで1年半程度しかかかっていません。解像度がこのスピードで高くなるとすると、もうそう遠くない時期に紙に印刷するのと遜色のない解像度による画面表示ができるようになるでしょう。

b. 通信速度のアップとDropboxのようなファイル共有方式の普及

PCで文書を作成し、それをiPadに送るのが非常に手軽にできるようになりました。PC+iPad+Dropboxと高速なWiFiを組み合わせれば、PDF・EPUBを手軽にiPad(iBooks)にデータを送ることができます。紙に印刷するのと同等の便利さで端末を使って、電子文書を読むことができます。

c. EPUBをレンダリングするリーダ

EPUBを可視化するための必須でかつ重要な要素はEPUBリーダであり、優れたEPUBリーダの登場がキーポイントなのは自明です。
これについては、EPUBのレンダリングエンジンとしてWebKitの開発が進んでいます。当社でもAH Readerを用意しています[3]。

(5) EPUB時代がもうすぐ到来する

自分自身が会社で読む書類について言えば、紙に印刷することは、この半年の間にほとんどなくなりました。まだ他の人からもらう文書はPDFが多いのですが、自分で作る文書はEPUBが多くなっています。電子文書を読むのにiPadを使っているとEPUBで読むほうがはるかに読みやすいのです。もうすぐEPUB時代が到来するのではないか、という実感をもっています。

[1]これはかなり大げさで、書面として存在する文書をデジタル化するときはやはりPDFが便利です。つまり、紙の消滅過程は、まず、ボーンデジタルの文書が紙に出力されなくなり、これはPDFの消滅に繋がるだろうと思います。次に書面を電子化するステップですが、これは紙そのものの電子化なのでPDFが残る可能性があります。
[2]日本製紙連合会・紙板紙の需要推移
[3] AH Reader

自動生成するカバー画像へのテキストの配置とレイアウトカスタマイズの方法(概略)

単発の単行本は、カバー画像をイラストレータなどで制作するのが良いでしょう。一方、メルマガなどでは、カバー画像に毎号変更になるテキストを埋め込む機能があると便利です。そこで、CAS-UBのV2.1ではカバー画像の自動生成機能を追加しました。

カバー画像の全体のデザインはEPUBに設定するテーマ毎に異なります。現在、テーマは横組み7種類、縦組み1種類の合計8種類あります。テキストはCAS-UBで出版物を登録する情報(出版物情報)データベースに登録したテキストを次図のように配置して画像化します。

図 CAS-UBで自動生成したカバー画像の例

・出版物タイトル、サブタイトル、発行年月日、などの登録情報を埋め込みます。
・例えば、出版物の概要には、出版物情報の「プロジェクトの概要」に設定したテキストを取り込みます。

このレイアウトはユーザーがご自分で変更することができます。
・カバー画像の元はタイトルページですので、タイトルページ用のCSS(opening.css)に修正を加えることになります。しかし、opening.cssはシステム側で用意していますので、一般のユーザーには変更することはできません。
・一般ユーザーは、style.cssの中にopening.cssに対する変更事項を記述する方法で、opening.cssのレイアウトをカスタマイズできます。
・画像生成は、AH Formatter[1]を使って行なっています。AH Formatterをプリント・メディアに位置づけて、プリント・メディアだけのレイアウト指定をすることで、EPUBリーダの表示レイアウトには影響を与えることなくカスタマイズ可能です。
・背景画像を自分で用意して、その上にテキストを配置するのもCSSを使えば簡単にできます。
・レイアウト設定は、標準のCSSに加えて、AH Formatterで独自拡張しているCSS機能を使うことができます。また、AH FormatterのデスクトップGUIを使えば、レイアウトをプレビューすることができます。
・カスタマイズ方法は近日中にドキュメント化して公開する予定です。

急いで行ないたい場合は、サポートまでお問合せください。

[1] AH Formatter

アウトライン、アウトライン、アウトラインーWordのアウトライン→CAS-UBのアウトライン→PDFとEPUBのアウトライン

1.Microsoft Wordのアウトライン機能

Wordでは、多くの場合、印刷レイアウトで文書を編集すると思います。印刷レイアウトではアウトラインを操作するメニューは見えません。「見出し1」「見出し2」というような見出しスタイルを設定すると文字の大きさなどの「見出しスタイル」の一部としてアウトラインが設定されます。

①Word文書の「印刷レイアウト」表示

②Word文書の「アウトライン」表示

Wordの表示モードをアウトラインに切り替えると、文書のアウトライン構造が見えます。この画面ではアウトライン・メニューの左右矢印(← →)により段落のアウトラインレベルを直接操作することができます。

2.CAS-UBのアウトライン

CAS-UBではひとつの出版物を複数の記事に分割して構成することができます。Word文書をCAS-UBにインポートするときは、Wordのアウトラインのレベルで文書を分割します。分割点として、レベル1~レベル3を選択できます。

次に分割の概念と例を示します。

2-1 アウトライン・レベル1で分割

上の例にあげたWord文書をレベル1で分割すると次のようになります。

①概念図

②読み込んだ結果(ドラフト→主原稿に移したところ)

最初の記事の編集メニューでは、タイトルが「見出し1-1」となり、見出し1-1の本文と見出し1-2とその本文および見出し1-3とその本文は、本文編集フォームにあります。見出し1-2の行頭は「=」でマークアップされており、見出しであることがわかります。

2-1 アウトラインレベル2で分割

①概念図

②読み込んだ結果(ドラフト→主原稿に移したところ)

レベル1の記事を章とし、レベル2の記事を、その下位に配置するツリー構造になります。

3.PDFとEPUBにおけるアウトライン

次に、このようにしてCAS-UBで編集した出版物をPDFとEPUBにしてみます。なお、PDFとEPUBにするとき、章番号や節番号を自動的に付与することができますが、このためには、記事に「章」「節」という属性を設定する必要があります。

なお、章番号や節番号を付与しない設定にできますので、たとえば、各記事の番号をご自分で手でつけている場合は、章番号・節番号を生成しないように設定してください。

3-1 PDF生成

①レベル1で分割した結果をPDFに出したとき

②レベル2で分割した結果をPDFに出したとき

①と②ではPDFには違いがありません。なぜならば、PDFにするとき、すべての記事を先頭から結合してひとつにまとめるためです。見出しの配置(左寄せ、余白)、フォントのサイズ、明朝・ゴシックなどは設定変更できます。

3-2 EPUB

①レベル1で分割した結果をEPUBに出したとき

EPUBファイル

②レベル2で分割した結果をEPUBに出したとき

EPUBファイル

①と②の相違は、章のタイトルと章の本文、節のタイトルと節の本文、といった組毎にひとつのファイルになっているか、それとも章のタイトル以下が章単位でひとつのファイルになるか、の相違です。つまり、ファイルの分割点の相違のみです。

EPUBで章の扉を単独のファイルにするかどうか、などの扱いは次のように考えます。

(1)章扉を作り、章扉のテキストをセンタリングしたり、画像を配置するなどの扉独自の扱いをする場合はファイルを分割しておくほうが良いと思います。
(2)章の見出しと本文の間には空きを入れるだけで、見出しと同一ページに本文や節を続けていく場合は、ファイルを分割しない方が良いことになります。

CAS-UBで制作したEPUB3をAmazon KDPで販売してみました

CAS-UBは12月20日のアップデートで、Amazon Kindle対応を正式機能とする予定です。そのチェックもかねて、CAS-UBで制作したEPUB版の書籍をKDP(Kindle Direct Publishing)で販売してみました。

ためしということで、今回、個人でKDPアカウントを作ってみました。KDPにアカウントを作ることはいまさら説明することもないくらい簡単です[1]。

素材としては、CAS-UBで今年の初めから書いてきた「縦組みにおける英数字正立論」をEPUB3にしたものを使います。

Kindleでは表紙(カバー)画像とか目次について守ったほうが良いガイドがありますが、今回はこれを無視して、表紙画像なし、目次はEPUB標準のNAV形式とNCX目次の両方を設定しています。

12月10日の朝8時過ぎ(出社する前)にアップしました。そうしましたら、夕方16時過ぎにはもうKindle Storeで発売されました。わずか8時間程度でリリースというすばやさです。

・今回、表紙画像を用意しませんでしたので、表紙画像なしとなっています。表紙画像なしでも販売はできるようです。
・販売元が「Amazon Services International, Inc.」になっています。
・とりあえず、値段は240円(3ドル)としてみました。価格には税込みか税別かは記載されていません。

今回はテストが目的なので、自分で購入してみます。Kindleで本を買うのは簡単です。購入後にアカウントサービスでMy Kindleを見ると購入した書籍が保管されています。

ここから端末(Kindle Paperwhite)に配信してみます。Papewhiteで問題なく最後まで読むことができます。

Kindle本をPCにダウンロードすることもできます。

ダウンロードしたKindle本のファイルは拡張子azw3となっています。このファイルをMobiUnpack 0.47で開こうとしましたが、エラーになります。アップロードする際「DRMなし」で設定したので、DRMが原因ではないと思いますが、MobiUnpack 0.47は、azw3形式には未対応なのでしょうか? ということで残念ながら、EPUBからの変換結果がどうなっているかは確認できません。

iPad版のKindleアプリでもクラウドからダウンロードして読むことができます(次の図)。

自分で本をアップロードして、自分で1冊購入したのですが、販売レポートを見ると、「な!なんと!販売実績2冊」です!!

どなたか、奇特な方にお求めいただいたようです。ありがとうございました!

ということでCAS-UBで制作したEPUB3本をKindleで発売する第一段階のテストは終わりました。

あとは、表紙画像と目次ですね。

・表紙画像は、CAS-UBでは、ユーザーが自分で用意することができますので、その機能を使えば問題ないだろうと思いますが、12月20日版で表紙画像を自動生成する機能があります。それが使えるかどうか? 確認しておきたいと思います。

・今回制作したのはEPUB3形式ですが、NCX形式の目次も設定しています。Papwewhiteでは「移動」メニューに、この目次が表示されますので、最低限の目次は付いています。しかし、本文にHTML形式の目次も用意するのがベターです。この機能も12月20日段階で用意する予定です。

なにはともあれ。CAS-UBで制作したEPUBをKDPで販売するのは思いのほか簡単です。販売数量を増やすのは、また別の問題なのですが。

[1] 本当は契約書をきちんと読まないといけないのです。実はそれが一番時間がかかるでしょう。とりあえず注意すべきことをあげておきます。KDPの著者ロイヤリティは35%と70%があるのですが、日本では35%しかないので選択の余地がありません。また、アマゾンの米国法人との契約になるため、著者のロイヤリティから、30%をアマゾンが源泉してIRS(合衆国の国税徴収機関)に収めます。このため、著者に払われるのは定価の35%×70%になるようです。但し、日米租税条約に基づく書類を提出することで30%のIRSへの源泉税支払いは免除されます。
[2] (12/15)読み返したところ、説明文中でNAVとNCXを取り違えている箇所がありましたので、訂正しました。

Word 文書をCAS-UBでEPUBに~Wordのアウトライン機能を使おう!(EPUB生成)

(昨日の続き)CAS-UBにインポートした原稿を記事編集画面で確認したのち、EPUBに出力してみましょう!

次が、「記事編集」画面のトップ画面です。昨日ご紹介したように、Wordのアウトライン機能を使うと、このように自動的にツリー構造で記事がエントリーされます。

各記事エントリーを見てみましょう。
各記事は、下図のように、Wordのアウトライン設定に従って、見出し「レベル1」(または「レベル2」)は、記事の「タイトル」に反映され、各見出しレベル直下に配置された「本文」は、編集画面に反映されています

誤字脱字や、表現を変えたりするときは、この画面を使って編集を行います。

下図は、「構成編集」の画面です。

ここでは、「出版物の型」を設定します(緑色の円枠)。どんな形で出版物を出したいのか、というところを設定するのですが、「書籍1」が通常の冊子物書籍となります。

書籍の構造について、上下の記事の入れ換えや削除指定等を行うには、「構成編集」画面で行うことができます(今回はやりません)。

最後に、「生成」リンクをクリックします。EPUB出力の最終工程に入りました!

CAS-UBでは、リフロー型のEPUB2、EPUB3、Kindle(暫定対応中)のほか、PDF、Webスナップショット、HTMLヘルプ(Windowsアプリケーション用)を生成できます。今回は、EPUB3を生成します。

生成画面から「EPUB3」生成設定カテゴリから本文内容設定を選択、表示します(下図)。

ここで、CSSのテーマを決めます。CSSのテーマとはEPUB向けの書籍の全体的なレイアウトと考えてください。いくつか種類があるので、好きなテーマを選択し、保存します。

これで、最低限の設定は済みました。画面の右上「EPUB3を生成」リンクをクリックします。確認画面が出ます。しばらく待って、確認のリンクをクリックします。生成完了だと、確認の文字が「ダウンロード」に変わります。生成途中の場合は、上部に「生成中」と出ます。

ダウンロードリンクをクリックし、任意の場所にダウンロードします。
EPUB3のリーダーはいくつかあります。まとめて紹介しているサイトがありますので、ぜひご覧ください。

下の図は、Adobe Digital Editionsで表示したEPUB3です。

Wordに貼り付けられた画像ファイル(png、jpegなどラスター画像。図形描写は不可)や、表をそのままCAS-UBに反映することができます。