紙と電子書籍の同時発売の実現のための制作課題を整理する


「12月18日JEPAセミナー「電子書籍実務者は見た!」。泥臭い話の中から見える今後の方向」の続きです。

このセミナーの趣旨は、「現在の電子書籍(EPUB)の制作と流通向けのリリースは、紙の制作のワークフローの上に、EPUBの制作のワークフローが載っているので、大変効率が悪い。」そのことについて声を上げるとのことです。

もう一つ現実の問題として、現在、「紙とEPUBの同時発売が求められている」が、EPUBが発売されないか、EPUBの方が遅れがち、ということが切実になっているようです。この二つは必ずしも、同じ問題ではありません。ワークフロー以外に権利者や版元の考え方があるのは周知のことです。

ここでは、とりあえず、紙とEPUBの同時発売をどのように実現するか考えます。紙と電子の同時発売を実現するために解決すべき課題には、EPUB制作のワークフローの効率化と共通の項目が沢山ありそうですから。

さて、紙とEPUB同時発売を実現するための制作方法に関するアプローチには二つあります。

第一は、現在のワークフローを前提にしてEPUBの制作期間を短縮するというアプローチです。

梅屋氏(SBクリエイティブ)の報告では、現在のワークフローはDTPで紙の本を作り、それを底本として電子書籍を作るという方法です。現在は1ヶ月程度かかっているとのお話がありました。

この方法だと紙とEPUBを同時発売するには、EPUBの制作期間(開始から完成までの期間)を少なくとも1週間程度につめていく必要があるでしょう。現在のワークフローを前提にして、これを実現するためには、①DTPで紙の本を作るときにスタイル指定、グリフの指定方法、などDTPの機能の使い方に制約をかけて、②DTPから自動的にEPUBに変換できるようにし、極力自動処理でEPUBを作るということが解決策となります。

DTPの機能に制約をかけるには、DTP制作者のためのガイドラインを完備した上で、制作者を訓練する必要があります。

厄介なのは、現時点では紙の方が表現力が高く、EPUBの表現力は相対的に低いということです。表現力の異なる媒体のレイアウトを同時に指定するにはかなりのノウハウが必要です。場合によっては、紙のレイアウトで多少の妥協をすることも必要だからです。

従って、紙を制作する部門を上流におき、下流にEPUBを作る組織を置く組織作りではだめだということです。ひとつの部署が両方の制作に責任をもつ、つまり、紙の本とEPUBの本を同時に編集・制作するための組織・体制作りが必要です。

第一のアプローチは、堅実であり、版元と制作会社の経営陣がそういう方向を示せば、十分実現可能でしょう。

但し、このアプローチは、紙の本の出版点数の方がEPUBの出版点数よりも多い、という暗黙の前提があります。EPUBの方が出版点数が多い場合や、EPUBしか出さない(電子版のみの)場合は、このアプローチは意味を持ちません。

第二は、ワークフローを変えて、ワンソース・マルチユース方式をとるアプローチです。

第一のアプローチは従来の延長線上にあるのに対して、第二のアプローチは、従来のワークフローをガラッと変える革新となります。従って、第一のアプローチよりも課題は多く、しかも難しくなります。大雑把には次のような課題をあげることができます。

  • ソースとなるテキストをどのように完成するか? (原稿の整理、校正、校閲)
  • マルチユースでは、XHTMLがハブ形式になります。そのXHTMLハブ形式の仕様をどうするか? そして、原稿をどのようにマークアップするか? 原稿の完成とマークアップは、時には並行処理も必要なので厄介です。
  • レイアウトをどうやって、誰が指定するか? レイアウトを変更するには?
    • 特に紙の本のレイアウトをどのように指定するか? DTPに依存しないレイアウト方法を考える。
  • その他、コンテンツの管理方法など

上の2番目の課題、XHTMLをマークアップとオーサリングする方法には次のような選択肢がありそうです。

  • XML エディタやWebページのエディタを使って、人手でXHTMLをコピー&ペーストと範囲指定でタグ付けなどでマークアップする。DTPとは異なる技術的なスキルが必要です。こうしたスキルをもつ人材を社内に配置すると、従来よりコストアップになる可能性が大きくなります。
  • XHTMLを専門の会社に発注して作ることも考えられます。そうすると制作指示をしたり、納品物の検収する体制が必要となります。
  • テキストに簡易マークアップを施し、システムを使ってXHTMLを生成する方法もあります。現在、簡易マークアップに注目が集まっているのは、この一環でしょう。
  • 原稿をWordなどで執筆し完成原稿とした上で、変換によってXHTMLを作り出す。

上の3番目の課題、XHTMLから紙の本を組版する方法についてをもう少し詳しくいうと次のようになります。

XHTMLができているとき、紙の本のレイアウト制作については自動組版が第一候補になります。自動組版の選択肢には、XSL-FO、CSS、TeX、InDesignなどDTPを使う方法があります。自動組版はコンピュータで行なうものですので、社内で行なうにはXHTMLのマークアップと同様、スキルを持つ人材の確保の問題が出てきます。

第二のアプローチをとったとき、大雑把に言えば、従来のように人間のスキル中心の手作りを採用するか、コンピュータ中心の制作システムを採用するかという選択肢があります。そして、どちらを選択するべきかはそれぞれの要件を鑑みて決めることになるのでしょう。

同じような章立て構成、同じようなレイアウトの、型にはまった書籍を多数作るのであればシステムによる処理が有利になります。例えば、文字主体の新書はシステムで制作できます。

一方、ひとつひとつ書籍が章立て構成もレイアウトもまったく異なるのであれば手作りの方が有利になるはずです。一品生産ものを自在に作るためのシステム投資はあまり現実的ではありません。

ちなみにCAS-UBは、第二のアプローチで、かつ、人手は減らしてシステムで解決するという考え方をとっています。→機能の紹介

関連記事
デジタル出版物の制作方法 特にコンテンツの入力・編集の方法について

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA値として計算に合う値を入力してください。 *