昨日のブログ[1]で、EPUBPUBの標準活動について紹介しましたが、ボストン・ワークショップの状況についてより詳しく知りたいという要望がありましたので、引き続き調べてみました。
1.ボストン会議の概要
ワークショップに参加したわけではありませんが、公開されている資料を基に簡単にまとめてみました。
(1) テーマ
1) 教育分野における相互運用性
IMS Global Learnig Consortium(IMS)のCEO Rob Abel氏が進行役。e-ラーニングの分野では幾つかの標準とプロトコルがあり、利用者はそれを相互運用しなければならない状態になっています。その状況についての報告とパネルが行なわれました。
2) リッチで対話のできるコンテンツ
IDPFの Executive DirectorであるBill McCoy氏が進行役。Webプラットフォームの適用により、e-bookでリッチなコンテンツの提供が可能となりました。
3) アクセシビリティ
IDPFのCTOであるMarkus Gylling氏が進行役。アクセス可能な教育環境についてをテーマとしています。
4) 制作ワークフロー
Pearsonの Director であるPaul Belfanti氏が進行役。標準ベースのコンテンツ制作・生成・配信の効率や汎用性についてのプレゼンテーションをテーマとしています。
(2) EDUPUB ボストンのレポート
IDPFのWebページには、ボストンで開催された第1回EDUPUBワークショップの総括レポートがあります。そのポイントは次のとおりです。
1)全体の方向性はPearsonのDr. Dan Cooperによるキーノートとクロージング・スピーチで示されました。Cooper氏は構造化編集と組立ツールによる次世代の教育出版、構造とスタイルの分離、中間形式の標準を廃して出力がすぐ出来る標準へ、競争上益がなくまた相互運用性で妥協が必要な配布形式のバリエーションをなくして革新につながるオープンな経済システムへの要求について述べられました。これを速やかに進めるために、PearsonはIDPFにEDUPUBの出力形式に関するプロファイルの草稿を提案するとのことです。
2)W3CのCEOであるJeff Jaffe氏は出版とWebのより完全な統合について紹介しました。
3) EDUPUBのほか、Metrodigi社のWidgetsと、VersaPub社の文書協調についてのEPUBを改良案の提案の告知がありました。
会議の終わりにあたり、共同議長のMarkus Gylling (DAISY/IDPF)とPaul Belfanti (Pearson)より11項目の課題の提示がありました。
2. ワークショップ後の進展
ワークショップの後の動きとして、3つのワーキング・グループが作業を開始しました。
(1) EDUPUB
EPUBを教育用テキストに利用するためのプロファイルを作成するものです。
現在、IDPFのメンバーを中心にワーキンググループができており、週1回のペースで電話会議を行なっています。
これに関しては、PearsonからEDUPUBのベースラインプロファイル仕様のドラフトが提出されました。
EDUPUB Output Profile Baseline Spec
この仕様案はXHTMLのクラス属性を使って意味とレイアウトを規定しようとしています[2]。
(2) QTI、LTI、LRMI
QTI、LTI、LRMIは、それぞれ次の内容ですが、これらEPUBと整合を持たせるものと見られます。
・QTI仕様はIMSが開発した質問、テストデータ、結果レポートの相互運用を可能とするための標準です。
・LTI(学習ツールの相互運用性)は、現在、IMSで仕様の開発が進んでいます。
・LRMI(学習資源のMetadata)とアクセシビリティについて。
EDUPUBとQTIのワーキンググループは、別々に作業を進め、第2回のワークショップの後で整合性の検討を行なうようです。
なお、QTIとEPUBでは、現在、HTMLの要素の使い方に相違があります。例えば、村田真氏の分析によるとEPUBのみで使えてQTI V2.1にはない要素がだいぶあり、またQTIとEPUBではテーブルのモデルが違うなどの内容モデルが違うとのことです。
(参考)
Question and Test Interoperability version 2.1
(3) Widgets
小さな単機能のアプリケーションや部品を共有するプラット・フォームを作ろうということのようです。これについて議論をするためのグループができています。
Metrodigi社が提供したWidgetsを元に、現在、インターネット上のオープン・ソース用レポジトリが用意されています。
[1] EPUB標準化関連活動のアップトゥデイト 2014/1/18
[2] クラス属性とCSSを使ってプロファイル仕様を作ろうという考えのようです。これはEPUBの従来の方針とはかなり違うのではないかと思います。
cas-support 2014年1月24日 8:49 PM より:
1月21日にO’ReillyもEDUPUBにHTML5 Bookをサブミットしました。
EPUBPUBの議論の中で、PearsonとO’Reillyのフォーマットが議論されるのは、なかなか面白い展開になりそうです。
http://www.idpf.org/epub/profiles/edu/
個人的に、若干の疑問をもっていることをあげるとしますと、HTML5 Bookは、オーサリングとパブリッシングのフォーマットと書かれているのですが、オーサリングとパブリッシングを一つのフォーマットで実装すツということは、コンテンツの再利用という観点とは矛盾するということです。
DITAに詳しい人はすぐにわかりますが、DITAではコンテンツの再利用を極限まで高めようとしています。そうすると、パブリッシング形式とオーサリング形式はまったく違う性格のものになるんですね。
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