本のかたちを考える:(縦組・四六判)基本版面の分布実態、読み易い版面は?


書籍の頁には周囲に余白があり、中央部に本文テキストが配置されます。本文テキストを配置する領域を版面と言います。柱・頁番号などは版面の外側に配置します[1]

書籍では何種類かの版面がありますが、本文テキストを配置する基本的な版面を基本版面と呼びます。基本版面で決まるパラメータには次の①~⑧にあげるものがあります。簡単に整理しますと、縦組の場合はそのパラメータの間に次の計算式が成り立ちます(横組については省略)。

①基本版面の高さ=文字の大きさ×字詰め[2]
②基本版面の幅=文字の大きさ×行数[3]+行間×(行数-1)

③行の高さ=文字の大きさ+行間
④行間比率=行間/文字の大きさ

⑤頁の高さ=基本版面の高さ+(上余白+下余白)
⑥頁の幅=基本版面の幅+(右余白+左余白)

⑦1頁の総文字数=字詰め×行数
⑧版面率(または版面面積率)=(基本版面の高さ×基本版面の幅)/(頁の高さ×頁の幅)

これらのパラメータは書籍の編集者が決めます。パラメータをどのように決めるかにはいろいろ考慮すべき要因があり、考え方についてのガイドブックなども多数あります。

基本版面のパラメータの値により、頁のレイアウト、ひいては読み易さも変わるはずですが、一般に市販されている書籍の基本版面の実態や、パラメータと読み易さの関係について統計的・科学的な資料はあまり見かけたことがありません。

そこで、最近刊行された書籍でこれらのパラメータの分布がどのようになっているかを調べてみました。

主に2000年以降に発行された縦組・四六判サイズの単行本についての結果をここに紹介します[4]

頁の大きさが決まっていて、文字の大きさや余白にも自然に最大・最小の値があります。従って各パラメータがとることのできる値の範囲には物理的な制約が生まれます。しかし、実際にその分布や組み合わせのパターンを見ますと、予想外にバラエティが大きいと思います。

アウトライン・フォントを使えば文字の拡大・縮小は自由自在です。またDTPや自動組版でパラメータを簡単に操作できますのでパラメータの組み合わせは非常に多様になります。もはや編集者が簡単な計算と経験・勘だけですべてのパラメータに渡る最適値を決めるのはかなり難しくなっていると思います。今後はオペレーションズ・リサーチのような工学的方法を使って最適解を求めることが必要になるかもしれません。

以下、個別に簡単に紹介します。

(1) 基本版面の幅は90mm~110mm、高さは132mm~152mmに跨って幅広く分布しています。基本版面の幅と高さは多様性があります。ということが判型が同じでも上下・左右の余白の取り方に幅が大きいと言えます。

基本版面の実態s1

(2) 1頁の文字数(頁総文字数)は525文字~882字に分布します。文字の大きさが小さいほど多くなる傾向があります。

スライド2

(3) 版面率は51%~63%にわたります。頁総文字数ほどの差はありません。

スライド3

(4) 字詰めは35文字~46文字です。実詰めと頁総文字数はかなり相関が大きいですが、次の行数ほどではありません。

スライド4

(5) 行数は15行~21行の範囲になります。行数と頁総文字数の関係は字詰めと頁総文字数よりも相関が大きく、頁の総文字数は行数で決まる傾向があります。

スライド5

(6) 字詰めと文字サイズは相関が大きい。基本版面の高さが一定ならば逆比例になるはずですが、完全な逆比例にはなっていません。余白で調整されています。

スライド7

(7) 字詰めが同じでも基本版面の高さにはかなり広がりがあります。これは字詰めが同じでも文字の大きさにバラエティがあるためです。

スライド8

(8) 行数と基本版面の幅は相関が大きいが、逆比例にはなっていない。行間、余白、文字の大きさといった他のパラメータで調整される。

スライド10

(9) 行数が増えれば行間は狭くなる。しかし、反比例ではない。文字の大きさや余白で調整されるからだろう。

スライド12

(10) 行数が多いほど文字サイズは小さくなる傾向があります。

スライド14

[1] 「日本語組版処理の要件」附属書G 用語集
[2] 1行の文字数をここでは字詰めと表現します。この式では文字は正方形であること、および、1段組を前提としています。
[3] 1頁の行数をここでは行数と表現します。頁全体を通じて文字の大きさや行間が固定値であることを前提としています。
[4] 私の本棚にある本ですので、どの程度、一般的かは不明です。また、一部、1990年代終わりに発行された本を含んでいます。これらの本はほとんどDTPでアウトラインフォントを使って作られているものと思います。
[5] 『本づくりの常識・非常識 第二版』(野村保惠、印刷学会出版部、2007年発行)の付録には、縦組み・四六判の字数でみて最大45文字・最少40字、行数でみて最大20行・最少14行の例が載っています。

この記事の続き
(1) 本のかたちを考える:基本版面のパラメータ設定の考え方を整理してみました
(2) 本のかたちを考える:四六判・基本版面の推奨値を検討する(案)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA値として計算に合う値を入力してください。 *