『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (3) 電子テキストは印刷ではなく、音声の暗喩と見る方が良い


さて、前回の続きとして、紙の本と電子の本には本質的な相違があるという点について、別の論点を見てみます。

ミシガン大学のThe Journal of Electronic Publishing誌が創刊20周年の特集を組んでいますが、その中で過去20年の人気記事のリストがありました。“Writing Electronically: The Effects of Computers on Traditional Writing”という、電子テキストと紙のテキストの相違に関する論点を整理した記事が、アクセス数の第3位です。

以下、著者の論点を簡単にまとめます:

印刷による本は個人で所有するという概念を形成しました。人々は個人的に読む本を所有したいと望み、それが出版産業を形成するベースになりました。

コンピュータは印刷に原点をもっていますが、コンピュータを媒介とする情報伝達では、印刷のように文章を連ねるのと違って、読者に内容の操作を許します。書き手と読み手の差異が曖昧です。

大きな差異としてハイパーテキストがあります。従来の紙のテキストは順番に意味がありました。これに対して、コンピュータではハイパーテキストによって順番の意味が薄くなります。また、理路整然とした物語が推奨されなくなり、単なるリンクのルーズな集合となります。

紙では文字がページの上に固定されます。電子テキストは常に流動的です。

紙は一方的であり受け身のコミュニケーションなのに対し、電子テキストは積極性と対話性があります。

電子テキストの時代には、インターネットにアクセスできる人は誰でも出版ができます。何世紀にもわたって、散文、詩、学術情報などは、それぞれに紙の上に表現する標準を作ってきました。しかし、電子ではこれらはすべて見直しになり、伝統的な質から、価値への転換となります。

著者は、結論として次のように述べています:
電子テキストは文字によるコミュニケーションの拡張に位置づけられ、印刷と比較される傾向がある。しかし、対話性において従来とは大きな相違があるので、むしろいままでの印刷の暗喩ではなく、音声コミュニケーションの暗喩と見る方が良いのではないか。

この文章は、2002年に書かれたものですが、その後のfacebookのようなSNSの進展を考え合わせますと深くうなずけるところがあります。電子書籍を紙の書籍の延長上で考える電子と紙のワンソースマルチユースは再考する必要がありそうです。

[1] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる?
[2] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (2)紙の本と電子の本をワンソースで作りたい
[3] Ferris, Sharmila Pixy. Writing Electronically: The Effects of Computers on Traditional Writing この論文の電子テキストとは、ネットワーク化されたコンピュータというメディアで書かれるテキストであり、ウェブ上のテキストに焦点をあてている。

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