先日、姉妹ブログサイトに「本はWeb化するか? PDFとブック型WebページとEPUBを考える」で、本の中には技術や考え方の啓蒙・普及を目指すタイプがあり、こうしたタイプの本はWebページで提供すると大変便利と述べました。CAS-UBの次バージョンでは、本のWebページ版生成機能をより強化したいと考えています。今日は前回のブログの続きとして本のWeb化について考えてみます。
購読モデルのオンライン本
一冊の本の内容を全部そのままWebページとして提供する例を幾つか示します。まだあまり一般的ではないようですが、探せばもっとたくさん見つかるでしょう。
米国のO’Reilly MediaのSafari Books Onlineは2001年創業で、2014年にO’Reilly Mediaの傘下にはいりました。Webページとして提供する本の草分けといえるでしょう[1]。
『Chicago Manual of Style』は100年以上の歴史をもつ、編集者のための制作ガイドです。最新は2010年発行の16版です。15版と16版はオンライン化されています[1]。
それから同じ版元の『Science Style and Format』[3]も全文がオンラインで提供されています。
こうしたオンライン本は無料公開ではなく、購読制のビジネスモデルを取っています。ここで紹介したような本を作るのは非常に大きな時間と労力がかかりますし、内容をアップデートする作業も大変です。購読制にしないと維持できないということはよく理解できます。
無料モデルのオンライン本
一方、Webページ版を無償で公開している本もあります。『Web Style Guide』は、プリント版は第4版ですが、第3版以前は全文がWebページとして無料で公開されています[5]。第4版も作業中ということですので、いずれは全文がWebページとして公開されるのでしょう。
第4版を紙で出版したのは、2016年夏です。まだ作業中って随分のんびりですね。CAS-UBを使えば紙版と当時に(ボタンを押すだけで)Webページ版もできるのですが。それとも全文公開すると紙が売れなくなるので、わざとのんびりしているんでしょうか?
本のWebアプリケーション化
購読制・有償・無償というビジネスモデルとは別の側面として、本のWebアプリケーション化という観点があります。
現在のWebプラットフォームは、JavScriptを使って対話的な操作を付けるのが流行です。「2012年8月時点で、上位100万件のWebサイトのほぼ半数でjQueryが使われているとの推計があります」[6]とのことですから、現時点では恐らく上位Webページの大多数にjQueryが組み込まれていると思われます。これによりメニューのプルダウンやアコーディオン表示などを行います。特にレスポンシブなWebページをモバイルで表示するときはメニューを畳んでおいてタップで開くという対話的表示が有効です。
オンライン版の本については、特に目次のアコーディオン表示が典型的な応用です。大きな本では、章と節の2段階目次でも100項目を超えることもありますから[7]、アコーディオン表示が便利です。但し、階層が深いと操作の繰り返し回数が多くなりますので注意が必要です。
さらに、『Chicago Manual of Style』と『Science Style and Format』のオンライン版(CMSO・SSFO)は、コメントの記入やしおり設定ができるようになっています。
ナビゲーション機能・目次機能も含め、全体としてみますと、CMSO・SSFOは、それ自体が、EPUBリーダーやKindleなどの電子書籍アプリ並の機能をもっています。CMSO・SSFOのWebページはホスト型Webアプリケーションになっているとも言えます。
シンプルなHTML+CSSによるオンライン本
一方で『Web Style Guide』のオンライン版は、HTML+CSSで作られた静的なWebページです。また、本ではないですが、米国で2008年から続いているXMLカンファレンスである「Balisage」の講演録のシリーズは、HTML+CSSのみで記述されたトラディショナルかつ静的なWebページです。こうした静的なWebページは現時点では非常にレガシーな印象を受けます。
未来の本
本のWebページ化は、ここで紹介したようなガイドブックなどの実用的なものが先行しながら、今後着実に進んでいくことでしょう。
では、本をWebページとして作るとき、jQueryを初めとするJavaScriptを多用することについてどういう方針とするべきでしょうか? これは大きな問題です。本をWebアプリケーション的に作ろうとすれば、必然的に制作コストは大きくなります。もっと大きな問題はメンテナンスコストです。何百点、何千点もの本をアプリケーション的にしてしまうと、そのメンテナンスコストが膨大になることは避けられないでしょう。
JavaScriptがWebサイトで多用されるようになってから経過した年月と、その間の変化の激しさを見ますと、本のような多品種ジャンルでアプリケーション化を推進するのは躊躇したくなります。一方で、現在のWebプラットフォームは、HTML+CSS+JavaScriptが基本となり、ますますリッチな表現と便利な機能を備える方向に向かっています。そうしますとレガシーなWebページとして表現された本には魅力がなくなる可能性があります。
このあたりは思案しどころです。
[1] Safari Books Online
[2] Chicago Manual of Style Online
[3] Science Style and Format Online
[5] Web Style Guide
[6]『モダンWeb』(Peter Gasston著・牧野聡訳、オライリー・ジャパン、2014年発行)
[7] 例えば、『PDFインフラストラクチャ解説』は章・節を目次に掲載しており、目次項目は延べ122です。
[8] BalisageのProceedingsページ
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「ワンソースマルチユースで拓く、ブック型Webページの未来」(2回のブログをまとめて整理し直しました)
【お詫びと訂正】
最初に公開した文章に下記の記述がありましたが間違いでした。訂正致します。
「米国の大学で使われる研究レポートの書き方についてのガイドとして有名な『AMA Manual of Style』も全文オンライン化しています[4]。
…
[4] AMA Manual of Style」
正しくは、
「米国の大学で使われる研究レポートの書き方についてのガイドとして有名なのは、『MLA Handbook』(Modern Language Association刊行)です。こちらは、紙版の他にKindle、Apple、等で電子版を販売していますが、Web版はありません。」
申し訳ございません。