「日本語組版処理の要件」第2版が公開されました

日本時間で本日(11月30日)早朝に、W3Cのウエブサイトにて、日本語組版処理の要件」第2版が公開されました。

日本語組版処理の要件(日本語版)(JLReq)

このドラフトは、2009年に公開された初版に対して、「第4章 見出し・注・図版・表・段落の配置処理」を中心に大幅加筆したものです。

「日本語組版処理の要件」はJIS X4051に基づいて、日本語組版についての知識と経験の少ない海外・英語圏の専門家向けに、基本から執筆されたものです。JIS X4051は初心者が読みこなすことは難しい規格書ですが、JLReqは海外の専門家向けという趣旨のため、日本語組版についての基本的事柄も解説・記述されています。従ってJLReqは、日本国内の初心者でも理解できるようになっており、これから取り組む人にも大変参考になる資料です。

この資料ができたことで日本国内での書籍版面の作り方については基本的な指針が与えられたことになります。

アンテナハウスは、このドキュメント作成の作業委員会(W3C Japanese Layout Task Force)に深く関わっています。

現在開発中の、CAS-UBのPDFスタイルシートV2版(アルファ版)では、より一層JLReqへの整合性を高めるようにしています。今後は、日本語のPDF(書籍)作成のスタイルシートは、既定値ではJLreqに準拠し、様々なご要望はオプションで実現できるように機能強化する予定です。

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JBasic08の大域構造化に関して、別のアイデアを提案

昨日、JBasic08についての問題提起の中で、「出版物の内容の区分とHTMLファイル化」のところで取り上げた問題をもう少し掘り下げてみます。

JBasic08では、EPUB3を構成するXHTML文書はすべてルートを同じくする兄弟でなければならないと想定しているようです。この想定は、次の記述と表裏一体をなしています。

「見出しを持たないbody 要素は、暗黙的に出版物の標題が見出しに指定されたものと見做し許容する。body 要素に見出しを明示的に指定する場合には、それは出版物の標題でなければならない。」(p.25)

そしてそこから、昨日取り上げたp.29の説明図にあるような大きな内容を分割するときは、section要素の終了タグと開始タグを補って分割するという考え方になります。

そういう意味では一貫性がありますが、果たしてこれが最適なのでしょうか?以下で、この問題を検討してみましょう。

分かりやすくするためにJBasic08のp.29のXHTMLファイルの分割を絵で表しますと次の図のようになります。

JBasicの分割方法

分割したファイルは、EPUB3にspineにこの順に登録することで閲読順序を指定します。この分割方法の問題は、第二節と第三節sectionの親であるsectionが第一節sectionの親sectionとは別になることです。このため第一節、第二節、第三節が兄弟ではなくなります。分割後の3つのXHTMLを結合しても元のひとつのXHTMLに戻りません。

こうなると、編集作業で、第一節と第二節の入れ替えを行なったり、XSLT(XSL Transformations)などでXMLのツリー構造変換するときに、ややこしくなると思います。

では、どうしたら良いでしょうか。一つの代替案は次の図のように分割することです。

XHTMLの分割・代替案

つまり、節のsectionを単位として切り離して、別のXHTMLファイルにしたうえでspineに登録します。spineに登録された3つのXTMLをもとの大きなXTHMLと同等にするために、レベルという考えを導入して章のsectionをレベル1、節のsectionをレベル2とします。

これによって、分割後のXHTMLを元のXHTMLに戻すことが簡単にできますので、節の順序入れ替えやXSLT処理もより簡単になると思います。

JBasic08を一読。JBasicのテンプレートは不要ではないでしょうか。

11月24日にイーストからJBasic08が公開されました。

http://www.epubcafe.jp/jbasic

JBasic08については、既にFacebookのグループでも活発な議論が行なわれています。

http://www.facebook.com/groups/jbasic/

ざっと一読しました。なかなかの力作です。まず、本資料を作成した著者に敬意を表したいと思います。お疲れさまでした。

さて、JBasic08についての最大の疑問はこの文書は配布形式のEPUB3について記述することを意図しているのか、制作用の形式を意図しているのかということです。

JBasic08のドキュメントに編集用のテンプレートが付いていることから見ますと、制作用の形式として採用されることを意図しているのではないかと思います。テンプレートは明らかに制作のために使うものだからです。

制作形式と配布形式では目的や要件がかなり異なるのですが、JBasic08の記述内容は、後述のように配布形式としての説明の色彩が強いと見られます。

以下に、XMLドキュメントシステムを作っている立場からこのことを少し考えて見ます。

◎制作形式としての要件のポイントは次のことがあるでしょう。

1.ドキュメント制作の生産性を高める。
・入力・編集をすばやく行うことができる。
・同じ内容を2回入力しなくても良い。
・章・節等順序の入れ替え、挿入・追加編集操作がすばやくできる。
・図の追加、挿入などを簡単に行なうことができる。

2.コンテンツホルダーにとっての資産性を高める。
・ドキュメントの再利用が容易。このためには出力の順番・位置などを配布形式とは独立にしておきたい。
・簡単な操作で様々な配布形式に展開することができる。

3.ドキュメント処理を想定した設計
・ドキュメント間の参照、ドキュメント内の参照、自動生成コンテンツなどは制作形式から配布形式への変換時に作ることが望ましい。
・制作形式の設計においては、様々な配布形式への展開を自動的に処理できるように配慮されていなければならない。

◎一方、配布形式としての要件は異なります。大きなポイントは次のことになると思います。

1.リーディング・システムの機能を最大限に活用できる形式が良い。
2.リーディング・システムが違っても一貫したレイアウト・見え方が保証される。このためには自動生成コンテンツをリーディング・システムに委ねるのは最小にしたい。
3.アクセシビリティに配慮されていること。
4.当然ですがEPUB3を出力するに当たってはEPUB3の仕様、EPUB3が参照しているXHTML5に準拠していること。

特に上記1と2は相反する場合が多いでしょう。だからこそ配布形式はターゲット毎に自動生成できるようにしておくことが必要となるのです。

さて、以上のように制作形式の要件と配布形式の要件は両立しない場合があります。例えば、JBasic08で説明している内容から次のことを取り上げて考えてみましょう。

1.出版物の内容の区分とHTMLファイル化

JBasic08では、EPUB3を構成するHTMLファイルはすべて兄弟でなければならない、と考えているようです。

特にp.29の説明図で大きな内容を分割するときは、section要素の終了タグと開始タグを補って、分割する部分を兄弟にしてから、別ファイルに分割するとあります。

しかし、section要素をこのように分割することは、ドキュメントの構造
を変えてしまうことになります。そうすると例えば、ルートの下のsectionを章と見立てて、sectionの数によって章番号をつけるような処理は破綻します。(別の仕組みを考えて解決することは可能)。

また、このような構造変更を行なって保存したものは、もとに戻すには自動的にはできません。手作業でするか、別の仕組みを導入して解決する必要があります。

2.注の種類と配置

pp.45からpp.53にかけて、注に関するマークアップの説明があります。これは大変参考になります。しかし、注をどのように配置するかは配布形式やリーディング・システムに強く依存します。

EPUB3では、割注、行間注、脚注、傍注を紙やPDFで制作した書籍と同じように表示はできません。しかし、やり方によってはポップアップして出したり、ウインドウの下に脚注に近い表示をするなどの方法ができるはずです。つまり、リーディング・システムの進化に応じて表示方法は変わりうると思います。

こういうことを考えると、制作形式では、注の種類は見栄えよりもコンテキスト、すなわち注の目的にそって分類しておき、配布形式にするときにリーディング・システムに適合させたレイアウトを考えて変換するという考え方が将来への展開に繋がるだろうと思います。

しかし、JBasic08は最終的にどういう見栄えにするかという観点で記述されています。

このようにJBasic08の記述内容は配布形式としての意味・色彩が強いと判断します。しかし、テンプレートは明らかに配布形式でありません。

EPUB3を作るとき、配布形式を直接編集する方法は、決してコンテンツ制作の生産性を高めたり、コンテンツ・ホルダーにとっての資産価値を高めることにならないでしょう。

そういう観点からはテンプレートを用意するということは必ずしも良いことではないように思うのですが。EPUB3をどのように生成するのが良いか、その説明とサンプルを提供する、ということに徹する方が良いのではないでしょうか。

CAS-UBの開発中機能について(ご紹介)

CAS-UBは、現在、多数の機能を開発しています。その中の一部の機能は既に、アルファ版としてクラウド上のサービスでご利用いただくことができます。

これらの機能はアルファ版ですので、今後、機能仕様を予告無しに変更する可能性があります。また、仕様が変更された場合にもコンバージョンなどの機能は提供されませんのでご注意ください。

次の項目はアルファ版機能です。

1.数式編集
CAS-UBでは数式を入力することができます。テキストを$$~$$でサンドイッチするとその範囲が数式モードとなります。数式モードではAMS-LaTeXのコマンドで数式を入力します。数式中でCAS記法は使えません。数式をプレビュー、PDFとEPUB3に出力することができます。

2.EPUB3とCSS3機能
(1)EPUB生成メニューにはEPUB3出力があります。
EPUB3をどのように出力すべきかはまだ検討中です。今後仕様が変わります。

EPUB3出力

(2)CSS3テーマ
CSS3を採用した試作テーマの縦書き版と横書き版を使うことができます。
このCSS3スタイルシートを指定してEPUB2を生成することもできますが、この場合、EPUB2としては正しくなくなります。(EPUB2でCSS3を使うことはできないため。)

CSS3

(3)PDFレイアウトV2
PDFレイアウト機能の強化版をV2として公開しました。

PDFV2

PDFレイアウトV2の詳細は先日ご紹介済みです。
CAS-UBのPDFレイアウトV2(アルファ版)を公開しました

CAS-UBに関心をお持ちの方は30日間の期限付きで評価利用していただくことができます。詳しくは次のWebページをどうぞ。
CAS-UBは「トレーニング・セミナー」

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CAS-UBのPDFレイアウトV2(アルファ版)を公開しました

本日のメンテナンスでCAS-UBのPDF生成機能「レイアウト設定」のV2アルファ版を公開しました。10月26日の「第3回CAS-UB紹介セミナー」でご案内しました開発中機能の一部になります。

本機能は、CAS-UBで作成した書籍の出版物データから作成するPDFのレイアウトを指定するためのものです。

PDF出力時のテーマは大きくa.横書き用、b.縦書き用、c.内容をそのままに分かれています。今回それぞれにV2を追加しました。

テーマから、例えば、縦書き用V2(アルファ版)を選び、「テーマ変更」のボタンを押すと、縦書き用の基本版面のリストがでます。基本版面を選ぶと判型と基本文字サイズ、行数・行間、字詰の標準値が決まります。そこで「保存」ボタンを押してからPDF生成を行なうと選択した版面の標準的なレイアウトでPDFを生成します。

PDFレイアウト(概要)

さらに、より細かい調整を行ないたい場合は、左下の「レイアウト詳細設定」のリンクをクリックします。そうしますと、次の図のような詳細設定項目へのリンクを表示します。

PDFレイアウト指定・詳細メニューへのリンク

ここから設定したい項目を選択して、詳細を設定します。たとえば、「圏点」へのリンクをクリックしますと、圏点の種類や圏点を出す位置(横書きでは上下、縦書きでは右・左)を設定するメニューになります。

圏点の設定変更メニュー

このようにして、PDF出力のオプションを細かく決めて自分好みの設定でPDFを出すことができます。

設定できる項目はかなり多岐にわたっていますが、DTPソフトと比べるとまだ少し少なくなっていますので、いろいろご要望をいただき順次追加していく予定です。現在は、V2はまだアルファ版の状態ですので機能追加も可能です。

CAS-UBは「トレーニング・セミナー」を開催しており、ご参加いただいた方に30日間無償で評価していただくことができます。

CAS-UBは「トレーニング・セミナー」
ぜひ、ご試用いただき、ご意見をお待ちしています。

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著作者の権利とクラウド書籍販売・保管サービスの関係

11月22日開催のJEPA & eBP共催 出版契約「書協新ひな型」に関する意見交換会に参加しました。
 
意見交換会の内容は、社団法人日本書籍出版協会から2010年に公開された電子出版対応の書籍出版契約書ヒナ型(3種類)についての説明です。雛形作成ワーキング・グループで中心的な活動をされた村瀬拓男弁護士からの、特に2005年版からの改訂点と、類型1、類型3の相違についての解説が中心でした。

◎電子出版対応の書籍出版契約書ヒナ型(3種類)
電子出版対応の書籍出版契約書ヒナ型

類型1:著作権法の出版権に関する規定を利用する「出版権設定」型。
類型2:紙の出版権を設定済みの場合に、電子書籍を追加する契約型。
類型3:著作物の利用に関する契約型。

以下の文章は当日の講演などからの私の理解によるものですので、独断と偏見を含んでいる可能性がありますが・・・

類型1では、著作権法に定められている出版権設定に関する条項を契約根拠として利用しますので、出版社には出版権に関して享受できる権利と義務が生じます。出版権の設定は、紙による出版しか認められないので、電子出版を行なう場合は、別途契約条項を追加する必要があります。

それに対して、類型3は著作者から、出版社に著作物の利用権の行使を認めてもらうものになります。従って、紙による出版と電子による出版の両方を統合的に行なうには、類型3の方が概念的な整理が簡単になると考えられます。

ちなみに、こうした考えでCAS電子出版「魔性のプレゼンテーション」出版に際しては、類型3をベースに契約書を作成しました。昨日の村瀬先生の話では、村瀬先生も個人としては類型3の方が良いとお考えとのことでしたので、若干意を強くしたのですが。

そのようなことで、前半の講演も勉強になりましたが、興味深かったのは、後半のパネルディスカッション特にフロアからの質疑応答でした。

出版契約は著者と出版社の間の契約です。書籍を読むの(著作物の最終利用者)は読者になりますが、読者までのルートに販売業者、電子の時代では配信業者が介在します。

電子書籍は有体物ではないので、電子書籍の販売は、物品の所有権転売行為ではなく、著作物の利用を許諾する契約行為になると思います。つまり、著者が出版社に利用を許諾し、出版社が販売業者に利用を許諾し、販売業者が読者に利用を許諾するという繋がりになります。

ところが大元の著者と出版社の契約期間は3年、5年、長くても10年~15年となります。あまり長期にわたる契約は公序良俗に反することになりますので、出版に関わる契約は数年として数年単位で見直し(自動継続もありえますが)することになります。

でもし、著者または出版社の意向で、出版契約を終了したときの扱いですが、出版社と著者が雛形どおりの契約を結んでいるとすると紙については在庫を販売することはできますが、パッケージ型電子書籍は別として、ダウンロードやストリーミング型の電子書籍の販売では在庫はありませんので、契約終了した時点で頒布を終了することになります。

このとき、販売業者も同時に頒布をやめなければなりません。こうなると、電子書籍だから絶版がないとは一概にはいえなくなるわけです。

それはともかくも、出版に関する契約が終了したとき、読者の利用権はどうなるか?というのが一つの疑問です。

これは、村瀬先生によりますと、出版物の利用で著作者の権利が侵害される蓋然性が高いのは複製の時点であるが、販売業者から読者が複製・取得するのは購入時点であり、購買後の複製・利用は私的利用のための複製にあたるので、仮に大元の契約が終了していても、著作権侵害にならないということのようです。従って、単純なダウンロード販売は、ダウンロード時点に大元の契約が有効期間内であれば問題がなく、その後の読者の私的利用のための複製は問題ないことになります。

もうひとつの疑問は次のようなものです。最近の電子書籍の販売は単純なダウンロードではありません。アマゾンやアップルでは読者の端末はクラウドの販売業者のデータベースと繋がっています。電子書籍データの実体がどこにあるか良くわからないのですが、読書端末として購買時点の端末とは異なる別の端末を登録して、そちらで読書を行なうことができます。また、購入した書籍を保管するトランクルームのようなサービスもあります。このようなサービスでは、購買した後にも販売業者との間で複製行為が行なわれることになります。この複製行為は、著作者の権利侵害にならないのか、さらには、大元の出版契約が終了し、出版社と販売業者との契約が終了した後に、著作物の複製が行なわれたとき、その複製はどのように正当化されるか、と言う疑問が起きます。

第2の疑問について、村瀬先生に(講演終了後)質問したところ、この問題は文化庁で研究することになっている、とのことでした。

第2の疑問で挙げた複製が私的複製の範囲を拡大して許諾されるのかどうか?興味深いところです。

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講談社電子文庫の27文字×11行は適切なのだろうか?

イーブックイニシアティブのWebページ(総合図書)で講談社電子文庫の「1ページ27字×11行の新組版で、どこの電子書籍より美しく、読みやすい」という宣伝を見ました。

イーブックイニシアティブ・総合図書

本の広告で組版を宣伝するとは・・・しかも版のない電子書籍に版を持ち出すとは・・・という感想も沸きましたが、この言葉につられて、早速、1冊購入してiPadで読んでみました。

リーダーは、イーブックイニシアティブのebiReaderHD(1.0.5)です。こんな感じになります。

1.見開き表示

2.1頁表示

☆いずれも、「柳生月影抄 名作短編集(2)」(吉川英治 講談社電子文庫より)

ざっと短編をiPadで読んでみました。iPad向けには27文字×11行は少し文字量が不足しているように思います。文字の量が少ないため1頁を読むのに要する時間が短く、常に頁をめくっている印象になります。

また、余白が大きくて画面に光があふれてしまう印象です。iPadの液晶の特性もありますが、こうしたことから長時間画面を見続けるのが辛いので、短編を読む程度であればあまり問題ないですが、長編をこれで読むとどうなんだろうという疑問がわきます。

以上のことから、もう少し1画面の文字量を増やしても良いと思います。

余白や字詰・行数はiPadよりもむしろiPhoneも考慮して版面サイズを決めているのかもしれません。しかし、もう少し余白を減らしたり、字詰・行数を変えたいと思っても、固定なので、読者が自分の読むリーダーに最適になるように字詰・行数を変更できません。やはり電子書籍では版面を固定にしてしまうのはあまり賛成できません。

それにしても、先日は「EPUBの要求仕様」ではなくて、電子書籍の要求仕様というべきでしたね。

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書籍の要求仕様と、Webの要求仕様と、EPUBの要求仕様、どこが違うのか。

2011年11月18日の第83回デジタルドキュメント研究発表会を聴講に行きました。なかなか面白い発表が多かったのですが、とりわけ最後のパネルディスカッションは熱が入りました。

パネルディスカッションで小林敏先生から「書籍の要求仕様と、Webの要求仕様と、EPUBの要求仕様、どこが違うのか。はっきりしていない。経験から必要な要求を作る必要がある。書籍では行間が重要・・・」という発言がありました。

これは、今、CAS-UBの開発でも一番切実に感じている問題でもあります。もちろん、まだ要求仕様というようなレベルでは到底なく、日々模索している状態です。

無論、現在のPDFとEPUBとWebには違いがあるわけです。でそれぞれのページを別々に作っている間はその作り方も表示も違うため、おそらくエディトリアル・デザイナーや、Webデザイナーが、それぞれの担当分野でベストな表示をそれぞれに追及しているのだろうと思います。そうしますと、書籍の要求仕様と、Webの要求仕様と、EPUBの要求仕様の違い、ということを切実に感じる局面は少ないのではないかと思います。

ところが、CAS-UBでは、PDF(印刷書籍)、EPUB、Webのプレビュー・スナップショットを、ワンソースからボタンひとつで作り出すため、3つの媒体でプレゼンテーションの相違が明確になります。そして、その相違の媒体別チューニングが簡単にはできないので、3つの媒体向けの要求仕様のちがいを意識することになってしまうのです。

1.ページネーション

この3つの媒体ではページネーションに対する要求の違いがもっと大きいと思います。大雑把に言うと、次のような違いです。

1) PDFは完全ページネーション

ページ区切りの制限が厳しい。

・見出しと本文の泣き別れ防止必須。
・図のための改ページでできる空きの最小化などが要求される。基本版面を固定すれば制作時に最適化できる。
・書籍では右ページ、左ページの概念がある
・その他、改ページ位置の制限がある。

従来、書籍、冊子、ちらしなどの制作では、テキストがページからはみ出した場合はテキストを削除する、テキストがたりないときはテキストを追加するなどの編集操作を行なっています。つまりページ区切りに内容を合わせることが一般的に行なわれます。これは自動処理泣かせなんですが。

・書籍用のPDFと電子書籍用のPDFでは作り方を変える方が良い。
・書籍用は見開きがある。しかし、電子書籍では見開きでないほうが良い。

2) EPUBは適当ページネーション

・EPUBをどのようにページネートするかは、リーダー任せになっており、EPUB仕様で決まっているわけではない。ページ概念を持ち込むかどうかも未確定。

・書籍のように見開き表示の概念があるのかどうか?

・読む側の立場からは見出しと本文の泣き別れは防止したい。しかし、空きができてもそれほど気にならない。ページ区切りはリーダー依存となるし、閲読時に決定するので、制作時に最適化できない。

・CSSで指定しておくなどの方法をとる。 

3) Webはページネーションなし
Webブラウザでコンテンツを読むときは、普通はページネートするという概念は適用されません。

コンテンツを巻物を読むように表示します。横書きのときは、縦長の巻物を上から、スクロールまたは「ページアップ」「ページダウン」で表示していきます。

この際、例えばスクロール時に見出しや図が画面の端になって欠けるのも問題にされません。

但し、CSSでは改ページを指定することができますので、このあたりはやや曖昧です。

印刷時には用紙の上に可視化されるので、当然、ページネートされることになります。

2.行間

小林先生から行間が重要という話がありましたが、段落内の行間と段落間の空きについていうと書籍では、通常、段落間の空きと段落内の行間は同じ量になると思います。しかし、Webでは読みにくいので、段落と段落の間を空けることになります。

電子書籍はどうかと言いますと、段落間を空けるべきか否か。現在の状態では段落間を空ける方が見やすいと思います。

段落間を空けると今度は表示面(画面の上の文字列の配置)がぱらぱらになるので図形の配置も結構ルーズになります。

3.先頭行インデント

段落間の空きと先頭行インデントはおそらく関係があります。紙の書籍では段落の区切りをつけるために通常は先頭行インデントをつけます。

しかし、Webでは段落間で空きをつけます。電子メールなどでは先頭行にインデントはつけないですし、おそらくWebページでも段落の先頭にインデントをつける必要はないと思います。

EPUBはどうしたら良いでしょうか?先頭行インデントが書籍において読みやすさを強化するために考案されたものであるならば、EPUBは段落間を空けて読みやすくし、先頭行インデントは使わないということが考えられます。

というようなことで、まだ、同じものを異なる媒体に出すときの違いをどのように整理したら良いのか、いまひとつわからなくて、もやもやとしているといったところです。

《広告》CAS-UBのPRページ

CAS本第二弾「魔性のプレゼンテーション~その美学と作法~」の新発売

CAS-UBでは、実際に商用書籍を制作してCAS電子出版のブランド(CAS本と略記)による販売も行なっています。現在、書籍の形式はEPUB2とPDFです。将来は、EPUB3や他の形式にも拡大していく予定です。

このCAS本の第2弾として、アートダーウィン代表・加藤哲義氏による「魔性のプレゼンテーション~その美学と作法~」のEPUB版とPDF版をDLマーケットで発売しました。

表題は、かなりデフォルメされていますし、文章の語り口もやや悪魔的ではありますが、本質は非常に真面目な内容です。プレゼンテーションにはいろいろな目的がありますが、本書は主に営業プレゼンの方法について内容になります。営業プレゼンの目的は商品をお客さんに訴えて購買行動につなげることであり、営業マンにとっては自らの活動の成否を決定するものです。中小企業の社長にとっては企業の業績を決定するものでもあります。プレゼン術の研鑽は重大課題といえます。

先日、亡くなったアップルのスティーブ・ジョブス氏はプレゼンの名手としても有名であり、そのプレゼンは「歪曲空間」とまで言われたようです。アップルの成功は、スティーブ・ジョブス氏のプレゼン術にも負っています。スティーブ・ジョブス氏の「脅威のプレゼン」という書籍は有名です。私も買って読みましたが、「魔性のプレゼンテーション~その作法と美学~」にはかなり共通するものがあります。

書籍の整理としてはおそらく「魔性のプレゼンテーション~その作法と美学~」の方がまさるとも劣らないと感じています。「脅威のプレゼン」はスティーブ・ジョブス氏による執筆ではありあませんし、スティーブ・ジョブス氏の真似はできなくても、加藤哲義氏を真似することはできます・・・

◎書籍のデータ(EPUB形式)
書名:「魔性のプレゼンテーション~その美学と作法~」
著者:加藤哲義
形式:EPUB2形式
発行:2011年11月18日(初版)
ISBN:ISBN978-4-900552-05-0
販売元:アンテナハウス株式会社(CAS電子出版)
販売価格:480円(税込み)
購入先:DLマーケット※販売書店は今後増やす予定です。

◎書籍のデータ(PDF形式)
書名:「魔性のプレゼンテーション~その美学と作法~」
著者:加藤哲義
形式:PDF形式、新書版、縦組、全78頁、2.2MB
発行:2011年11月30日(初版)
ISBN:ISBN978-4-900552-05-3
販売元:アンテナハウス株式会社(CAS電子出版)
販売価格:480円(税込み)
購入先:DLマーケット

◎DLマーケットでPDF版を立ち読みできます。

※販売書店は今後増やす予定です。

表紙画像:

CAS-UBにおける図版の配置

CAS-UBの第2作「魔性のプレゼンテーション」もそろそろ大詰めです。それでいつも最終的に手間がかかるのが図版です。図版の取り扱いは、テキストよりも難しいのではないかとさえも思います。

PDFを作成するときに注意すべきなのは図版のために大きな空白ができるのを避けることです。この空白は或るページに図版が入らないために図版の前で改ページが起きることによってできるものですが、この空きができないようにするには図版と文字の位置関係を変更することが必要です。

通常はDTPオペレータがこの操作を行ないます。コンピュータによる自動組版では、いままで図版と文字の位置を自動的に変更することができなかったのですが、最新のAH Formatterでは図版を最適配置する機能をもたせることで徐々に解決に向かっています。

さて、今回制作するPDFは新書版です。各ページで図版をいつも上に配置するようにしました。そうしますと組版結果は次のようになります。
1. 見開きに一つの図

2. 見開きに二つの図

3.図を1ページに2枚入れた例

CAS-UBで上の1, 2は自動最適配置です。3は二つの図を1ページに入れるように明示的に指示します。このマークアップは次のようになります。

[[[:fullpg:fig =統一感による信頼と意外性による魅力
{{touitsukan_ni_yoru_sinrai-433px-200dpi-20111114.png | touitsukan_ni_yoru_sinrai-433px-200dpi-20111114.png}}
\\
\\

{{touitsukan_ni_yoru_sinrai-433px-200dpi-20111114.png | touitsukan_ni_yoru_sinrai-433px-200dpi-20111114.png}}
]]]

[[[…]]]は、図版を囲むブロックです。
:fullpg はこの図版ブロックを1ページに配置することを指示します。
:fig はこのブロックが図版であることを指示します。
=以下はキャプションを示します。
{{ | }} イメージのファイル名と代替テキスト
\\ 強制改行です(2つの図の間の空きを広げるため)

今回のPDF制作には、この程度で大よそOKです。もう少し複雑になるといろいろ考えないといけないかもしれません。

EPUBはまだ緻密なレイアウトができないので、その分PDFより話が簡単です。