本のかたちを考える:縦書・新書判と四六判の版面パラメータの比較

先日(5月19日)基本版面の実態として、縦書・四六判の基本版面で決まるパラメータの定義とその分布を紹介しました[1]。

今日は少し視点を変えて、縦書・新書判と四六判の版面パラメータの比較を紹介します。

次の図は、手元の縦書・新書判25冊と四六判53冊の各種パラメータの平均値を集計したものです[2]。

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新書判は判型においては四六判の76%しかありませんが、1頁総文字数(行数×文字数)では四六判の87%となっており、文字数では接近していることがわかります。

①判の大きさ
新書判と四六判と言っても、出来上がりの判の大きさはそれぞれ少しずつ異なります。平均すると新書判は、高さで15.7mm、幅で21.8mm、四六判より小さくなっています。
判の頁面積では新書版は四六判の76%です。

②新書版の頁総文字数は647文字、四六判は741文字となり文字数においては87%となります。

新書版は上下・左右余白が小さく、文字の大きさも0.25ポイント小さい上に、行間が0.78ポイント狭くなっています。

新書判は限られた領域を有効につかう工夫がなされていると言えるでしょう。

[1] 本のかたちを考える:(縦組・四六判)基本版面の分布実態、読み易い版面は?
[2]この表の全体の列はあまり意味がありませんのでご注意ください。

『Adventures of Huckleberry Finn』英語版POD本をつくりました

来週はいよいよBook Expo America[1]です。今年はCAS-UBをBEAに出展します。CAS-UBでどんなことができるかをアメリカの人たちに理解していただくため、英語版の本をひとつ作成してみました。

素材としてProject Gutenbergの『Adventures of Huckleberry Finn』を使いました。テキストをCAS-UBにコピー&ペーストし、若干編集した上でプリントオンデマンド(POD)で出力、製本しました。

POD本のサイズは150mm×233mm。『An Unfinished Life』というJFKの伝記と同じにしました。ちなみに『Chicago Manual』が150mm×227mmです。幅はA5とほぼ同じですが、高さはA5と比べてかなり高いです。

本文の余白と行数も『An Unfinished Life』と同じにしました。英語の本はこの位のサイズが読み易そうな気がします。

『Adventures of Huckleberry Finn』はイラストが売りのようです。Project Gutenbergではイラストをスキャンした画像が96dpiと150dpi(画像による)で収録されています。

元のdpiのままだと画像が大きく印刷されて、本文が337頁(表紙を含まない総頁数は353頁)となりました。

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CAS-UBは改頁位置で画像による空きが発生しないように、自動的にテキストと画像の順序を入れ替え、文中に無駄な空白がでないようにしています。

このままでは画像が少し荒いので、画像を200dpiに強制的に縮小してみました。

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画像200dpiでは版面に対して画像が小さくなります。そこで、画像を小口に配置してテキストを回り込み指定しています。

イラストのサイズを変更して作成したPOD本2種類が次の写真です。上2冊は少し薄く、下2冊の方が厚くなっています。

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このように、CAS-UBでは設定変更のみでいろいろな本ができます。もし、文字が大きめの本を作りたいならば、文字サイズを変更してPDFを作り直すだけでOKです。

なお、POD版と同時にEPUBも制作しました。今回作成した、PDFとEPUBはCAS-UBのweb[2]よりダウンロードしていただけます。関心をお持ちの方は出来栄えをご覧になってみてください。

[1] BEA
[2] 『Adventures of Huckleberry Finn』サンプル本

本のかたちを考える:(縦組・四六判)基本版面の分布実態、読み易い版面は?

書籍の頁には周囲に余白があり、中央部に本文テキストが配置されます。本文テキストを配置する領域を版面と言います。柱・頁番号などは版面の外側に配置します[1]

書籍では何種類かの版面がありますが、本文テキストを配置する基本的な版面を基本版面と呼びます。基本版面で決まるパラメータには次の①~⑧にあげるものがあります。簡単に整理しますと、縦組の場合はそのパラメータの間に次の計算式が成り立ちます(横組については省略)。

①基本版面の高さ=文字の大きさ×字詰め[2]
②基本版面の幅=文字の大きさ×行数[3]+行間×(行数-1)

③行の高さ=文字の大きさ+行間
④行間比率=行間/文字の大きさ

⑤頁の高さ=基本版面の高さ+(上余白+下余白)
⑥頁の幅=基本版面の幅+(右余白+左余白)

⑦1頁の総文字数=字詰め×行数
⑧版面率(または版面面積率)=(基本版面の高さ×基本版面の幅)/(頁の高さ×頁の幅)

これらのパラメータは書籍の編集者が決めます。パラメータをどのように決めるかにはいろいろ考慮すべき要因があり、考え方についてのガイドブックなども多数あります。

基本版面のパラメータの値により、頁のレイアウト、ひいては読み易さも変わるはずですが、一般に市販されている書籍の基本版面の実態や、パラメータと読み易さの関係について統計的・科学的な資料はあまり見かけたことがありません。

そこで、最近刊行された書籍でこれらのパラメータの分布がどのようになっているかを調べてみました。

主に2000年以降に発行された縦組・四六判サイズの単行本についての結果をここに紹介します[4]

頁の大きさが決まっていて、文字の大きさや余白にも自然に最大・最小の値があります。従って各パラメータがとることのできる値の範囲には物理的な制約が生まれます。しかし、実際にその分布や組み合わせのパターンを見ますと、予想外にバラエティが大きいと思います。

アウトライン・フォントを使えば文字の拡大・縮小は自由自在です。またDTPや自動組版でパラメータを簡単に操作できますのでパラメータの組み合わせは非常に多様になります。もはや編集者が簡単な計算と経験・勘だけですべてのパラメータに渡る最適値を決めるのはかなり難しくなっていると思います。今後はオペレーションズ・リサーチのような工学的方法を使って最適解を求めることが必要になるかもしれません。

以下、個別に簡単に紹介します。

(1) 基本版面の幅は90mm~110mm、高さは132mm~152mmに跨って幅広く分布しています。基本版面の幅と高さは多様性があります。ということが判型が同じでも上下・左右の余白の取り方に幅が大きいと言えます。

基本版面の実態s1

(2) 1頁の文字数(頁総文字数)は525文字~882字に分布します。文字の大きさが小さいほど多くなる傾向があります。

スライド2

(3) 版面率は51%~63%にわたります。頁総文字数ほどの差はありません。

スライド3

(4) 字詰めは35文字~46文字です。実詰めと頁総文字数はかなり相関が大きいですが、次の行数ほどではありません。

スライド4

(5) 行数は15行~21行の範囲になります。行数と頁総文字数の関係は字詰めと頁総文字数よりも相関が大きく、頁の総文字数は行数で決まる傾向があります。

スライド5

(6) 字詰めと文字サイズは相関が大きい。基本版面の高さが一定ならば逆比例になるはずですが、完全な逆比例にはなっていません。余白で調整されています。

スライド7

(7) 字詰めが同じでも基本版面の高さにはかなり広がりがあります。これは字詰めが同じでも文字の大きさにバラエティがあるためです。

スライド8

(8) 行数と基本版面の幅は相関が大きいが、逆比例にはなっていない。行間、余白、文字の大きさといった他のパラメータで調整される。

スライド10

(9) 行数が増えれば行間は狭くなる。しかし、反比例ではない。文字の大きさや余白で調整されるからだろう。

スライド12

(10) 行数が多いほど文字サイズは小さくなる傾向があります。

スライド14

[1] 「日本語組版処理の要件」附属書G 用語集
[2] 1行の文字数をここでは字詰めと表現します。この式では文字は正方形であること、および、1段組を前提としています。
[3] 1頁の行数をここでは行数と表現します。頁全体を通じて文字の大きさや行間が固定値であることを前提としています。
[4] 私の本棚にある本ですので、どの程度、一般的かは不明です。また、一部、1990年代終わりに発行された本を含んでいます。これらの本はほとんどDTPでアウトラインフォントを使って作られているものと思います。
[5] 『本づくりの常識・非常識 第二版』(野村保惠、印刷学会出版部、2007年発行)の付録には、縦組み・四六判の字数でみて最大45文字・最少40字、行数でみて最大20行・最少14行の例が載っています。

この記事の続き
(1) 本のかたちを考える:基本版面のパラメータ設定の考え方を整理してみました
(2) 本のかたちを考える:四六判・基本版面の推奨値を検討する(案)

『本と装幀』にみる本のかたちに関連する用語

『本と装幀』(田中薫著、沖積舎、2003年発行)

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著者はあとがきで、

現在は「出版の概念」が、大きく変わりつつある時代でもある。だから、「紙に印刷して製本したものが本である」という概念だけが、正しいと言える時代がいつまで続くのかは、誰にもわからない。(p.263)

と述べているが、確かにその通りだと思う。

本書は、本のかたちについて、主に装幀などの観点を中心とする「装幀論」である。ところで、いままでいくつかの本を読んだ範囲では装幀という言葉の意味する範囲は分り難い。著者は大学の先生でもあり、本書ではさまざまな用語の解説も行われているので、本のかたちに関連する用語が本書でどのように規定または使用されているかをまとめてみる。なお、本書には和製本と洋製本の章が設けられているが、以下の用語はほとんど洋製本に関するものと言って良いだろう。

・製本(Book Binding):「加工作業」、「手書きまたは印刷された紙葉を、書物という形に作り上げる不可欠の工程」(p.28)、「紙を順序にまとめて、綴じ、縫い、糊付けするなどして、表紙に接合する作業のこと」(p.29)
・装本(Book Binding Design):「外装、体裁を整えること」「表紙、見返し、小口などに体裁上のデザインを加味すること」(p.29)「製本の設計図を描くデザイナーたちの作業部分」(p.30)
・新装本:判型も装幀も変えて新発行し、新刊扱いをして流通させること(p.21)
・装幀:「日本では、このような書籍の外装や体裁など、主として外観、つまり外回りに関するデザイン上の処理、あるいは、その仕様のことなどを、一般的に〈装丁〉という言葉で表現している。」(p.42)「書物における装幀デザインは、工業製品における意匠デザインや、流通などの便宜性のために、それらを収めるパッケージ・デザインと同じような機能を持っている」(p.73)[1]
・装幀デザイン:装幀と装幀デザインの関係は明示的に定義されていない。「装幀デザインは、… 完全版下という形で入稿することが多くなってきた。」(p.97)
・(装幀)デザイン・ポリシー:「基本的な編集意図を踏まえたデザイン方針」(p.143)、編集担当者と著者の間で討議する(p.146)
・ブック・デザイン:明示的な定義はないが、ブック・バインディング・デザインと同一のようだ。(p.30)
・装幀デザイナー:「装幀デザインを専門とするデザイナー」(p.41)
・ブック・デザイナー:明示的に定義していないが、装幀デザイナーと同一のようだ。(pp.217-219)
・装幀デザイナーの仕事:「(並製本の雑誌では)デザイナーの出番は、表①とよばれる、表表紙と背のデザイン・レイアウトに尽きてしまう」(p.84)、「(上製本では)単に表紙に表面的なデザインを加味するだけでなく、見返しや扉、帯、花布の選択、奧付のレイアウトなどのほか、各種の函なども含めると一冊の本をデザインする上での構成要素は大変多いものである」(p.85)「カバーはもっとも重要な装幀デザインのファクターの一つ」(p.95)
・装幀家、装幀作家:初期の装幀デザイナーのことのようだ(p.175)洋式製本とともに誕生、橋口五葉が初期。グラフィックデザイナーの活動の一環である。(p.173)
・本の中身:外側の体裁と対比している。(p.109)文章主体から、「写真や図版を見せることで正立している」本が増えてきた。(p.112)
・レイアウト:「文章や写真の美的で効果的な配置、つまりその並べ方のこと」(p.118)
・タイポグラフィー:「もともと活版による、文字の配列などのデザインのこと」(p.110)「今日では、ある種の誌面構成、レイアウトなども」(p.112)
・エディトリアル・デザイン:「版面の設定」、「活字の組み方、大きさ、書体などをどうするか」(p.109)「書籍や雑誌の中面のデザイン」「和製英語」(p.116)、「誌面構成のような、編集技術についての事柄を言おうとしている時に使うのは、用法としておかしいのかもしれない」(p.117)
・エディトリアル・デザイナー:「誌面構成に関するデザインを専門的に行う」(p.113)「昭和30年代に入ってから」(p.115)、編集デザイナー(p.116)

[1] 「2 製本と装本」では、装本という言葉を使い、「3 装幀とはなにか?」では装幀という言葉を説明している。どうも、装本と装幀という言葉を同じ意味で使っているように見えるが、定かではない。また、「3 装幀とはなにか?」で引いている『デザイン小辞典』(山崎幸雄他)、『執筆編集校正造本の仕方』(美作 太郎)では、組み方、判型なども装幀に含めているが、本書では、どうも組み方、判型などは含めていないように読める。しかし、「デザインを加味するファクターとして必要なところは、…外側の「目に見える部分のすべて」と言っても良いだろう。」(p.102)という表現もあるので判型などを含むという解釈もできる。本書は全体的に用語の統一がとれていないのが気になる。