12月18日JEPAセミナー「電子書籍実務者は見た!」。泥臭い話の中から見える今後の方向

昨日のJEPAセミナー「電子書籍実務者は見た!」[1]は、電子書籍2.0を目指すために、現状を把握するという趣旨で捕らえると、大変に示唆に富む話が多くありました。やはり、現場をよく見て、問題点を把握し、その問題に応じて解決策を考えるということが重要です。ブログで、問題点や解決策までは踏み込むことは無理なのですが、とりあえず、セミナーの内容で感じたことをかいつまんでメモしておきます。

1.電子化

林氏の話。紙の出版のプロセスの中でデジタル化されている部分とデジタル化されていない部分が混在しています。その上に電子書籍のプロセスを載せると紙にくっつけた電子のプロセスになります。そうするとコストが2重にかかる部分が多く、却って生産性が落ちる部分があります。特に、校正の問題が大きいようです。

2.プリントファーストな組織

梅屋氏(SBクリエイティブ)は、年間480タイトル(月40タイトル)を電子版でリリースしているとのことです。SBクリエイティブの全体の組織の中での位置づけは、紙の本を電子化する担当です。底本とDTPデータが入力で、出力は、配信を受け持っているわけです。そうしますと、梅屋氏の立場では、入力と出力の間を効率化するかということが役割になっています。

3.クオリティの維持

梅屋氏は「単なる流し込みではクオリティが下がる。底本を参考にしつつ、できないことは省略して底本を再現したい。」と述べます。つまり紙と電子ではかなりクオリティの要求水準が異なるということです。

このほか、テキスト・リフローでは文字を追っていかないとクオリティが維持できず、複数の端末で確認することが大きな負担のようです。特に、テキスト・リフローのEPUBリーダーの表現力が不足しているとのことです。

4.ツールの使い方で解決する?

田嶋氏の話は、InDesignのDTPデータから電書を作るときに発生しやすい問題のことでした。

いろいろな具体例がありましたが、『InDesignでは印刷した誌面では見分けがつかないが、データの作り方には様々なバリエーションがあり、EPUBを作ろうとすると最後は眼で見て判断するしかない。InDesignはなんでも許す形で発展してきているので、いまから簡単に方向転換はできないだろう。』という趣旨の発言がありました。

そこで、これはInDesignで作業を始めるときに電子化をにらんで、予め注意しておくべきこととなるでしょう。印刷会社の中で閉じている場合は良いが、出来上がってしまったもの、誰が作ったのかわからないものを、広い範囲から受け入れる場合は難しいということになります。

5.EPUBのチェック

大江氏の話は、緊デジでリフロー型の電子書籍の受け入れチェックの話でした。

メタ情報の不整合があることが多いということが印象に残りました。

あとは、文字の範囲のチェックを行なって結果を可視化するのは面白いです。

単純作業に属するチェックを人間の手で行なうのはなく、チェックをワンストップで行なう機能をシステムに組み込むのは意味があります。

6.産業出版との相違点

安井氏の報告は、比較的小規模な産業出版での話しです。大規模な産業出版では、手作業では効率が悪すぎるということでDITAのような仕組みを使う方向で進んでいます。

産業出版と書籍出版との相違点は、産業出版は組織として推進し、権利が組織に帰属するのにたいして、書籍出版では個人の著者・編集者が主役となることでしょう。

ところで、安井氏のプレゼンで冒頭に、CAS-UBブログで紹介した画像[2]が投影されたのはちょっとびっくりしました。ブログの趣旨とは少々異なっていますが、これに関してFacebookでのコメント[3]がありましたので紹介します。

本セミナーは、プロ向けソリューションを提供するベンダーの立場としても大変参考になりました。最後に講師の皆様にお礼を申し上げます。

続編:紙と電子書籍の同時発売の実現への課題(メモ)

[1] http://www.epubcafe.jp/egls/epubseminar34
[2] 縦組みにおける章・節・項番号、図表番号、箇条書き番号の付け方について珍しい例
[3] 山本さんの感想ポスト (閲読者限定)
[3] 鎌田 幸雄さんの感想ポスト (閲読者限定)

2014年 EPUBマニュアル研究会 準備会を開催 

本日は、BPIAのEPUBマニュアル研究会[1]2014年の準備会でした。

昨年度は、初年度でしたが、1月~7月までの研究会を積み重ねて報告書[2]を発行することができました。

業務マニュアルはWordで執筆されて、PDFや紙で配布されていることが多いのですが、これをEPUB化することで、マニュアルを業務にあわせて改訂しやすくなり、各自でしおりをつけたりメモを書くことでマイマニュアルとすることができます。

EPUB化によるメリットは見えていますが、一方で問題点もあります。

Wordのマニュアルはあまりスタイルをつけて構造化されておらず、いまのままではEPUBにうまく変換できません。WordのマニュアルをEPUBにうまく変換しやすくするにはどうしたら良いか?

また、紙であれば特別な機器を用意しなくても閲読できますが、EPUBにすると閲読用の端末とEPUBリーダーが必要になります。iPadでは、iOSという良いEPUBリーダーがありますが、Androidにはまだ、iBooksに匹敵するEPUBリーダーはありません。

また、現在のEPUBは、電子書籍用のフォーマットとして位置づけられており、出版関係者の間ではEPUBについての理解が進んでいます。しかし、企業の日常の業務のためのデータ・フォーマットとしては考えられておらず、一般のビジネス・パーソンの間での理解は進んでいないようです。

研究会は2年目に入りますので、このような現状を踏まえて進めていくことになります。

とりあえず、今日の準備会では、木村主査より大よそのプランの提示をうけ、意見交換しました。

研究会は、1月から7月まで原則第3火曜日に開催の予定です。

[1] BPIA EPUBマニュアル研究会
[2] 『マニュアルEPUB化ハンドブック2014年版』

デジタル出版物の制作方法 特にコンテンツの入力・編集の方法について

デジタル出版物(EPUB、PDF)をワンソースマルチユースで制作するワークフローについて考えて見ます。

先日Facebookで(https://www.facebook.com/kotaro.soryu/posts/580833075321422)で大変参考になる議論がありました。次に、Facebookの意見を参考にしながらもう少し考えてみました。

「ワンソースマルチユースの進化が遅い」(高木さん)というコメントがありました。確かに、そのとおりと思います。ワークフローを実際に動かすには関係者の学習が必要であり、また、システム化するとシステム構築のコストがかかるため、なかなか簡単には切り替えることができません。WYSIWYGがかなり急速に普及したのと比べると、ワンソースマルチユースの進化が遅いのは、システムコストの側面と、利用者の慣れ・学習の側面があるように思います。

「学習コストは別としてTeXはやっぱりシステム自体は完成されている」(山本さん)というコメントがありましたが、確かにTeXは、スタイルセットがいろいろ用意されているなど完成度の高い仕組みができています。

ワンソースマルチユースのワークフローでは、コンテンツとレイアウトの関係を再定義する必要があります。そこで上流から下流を、①ソースコンテンツの制作、②中間コンテンツの編集、③配布コンテンツの生成に分けてみると良いのではないかと考えています。

①ソースコンテンツとは、伝えたい言語内容を表現する文字(テキスト)、画像、数式、場合によっては動画などの表現したい内容の素材です。
②中間コンテンツとは、ソースコンテンツを配布形式にする過程で、ソースコンテンツを統合して作業する対象です。InDesignを使う場合は、InDesignのファイル形式であり、HTMLでオーサリングするのであればHTML形式が中間コンテンツとなります。XML形式のこともあります。中間コンテンツは、オーサリングの対象となりますので、オーサリングの仕組みと対で考える必要があります。
③配布コンテンツとは、デジタルコンテンツの配布形式です。現在では、PDF, EPUB, Web, などが主流です。配布コンテンツはPDFのようにレイアウト処理済みの形式と、WebやEPUBのようにレイアウト処理を、可視化時に行なうものがあります。いづれにしてもレイアウト指定が重要なポイントとなります。

ワークフローを考える第一のポイントは、ソースコンテンツから中間コンテンツを作る方法です。第二のポイントは、中間コンテンツから配布コンテンツへの変換の方法です。

TeXは大変に優れたシステムですが欠点もあります。第一に、ソースコンテンツにTeXの命令を埋め込みます。そこで、制作者がTeXの命令の使い方を学習する必要があります。つまり学習コストが大きいのです。第二に、TeXは紙への印刷やPDFの生成ではシステムとして完成しています。しかし、Webコンテンツに変換しようとすると、留意しないといけない側面もあります。つまり、TeXの命令は、ドキュメント処理用の命令、文字の表現、数式の記述の命令、システムやユーザーのマクロ命令など、役割の異なる命令が不可分に混在しています。また、TeXが開発されたのは、8ビットCPUの時代です。このためTeXは、現在ならUnicodeで表すことのできる文字をコマンドを使って表すなど少々時代遅れです。また、数式の中にテキストの記述が混在しています。MathMLでは、数式の中にテキストの配置を記述することができないため、数式をMathMLのようなマークアップに変換するのは極めて困難です。TeXドキュメントの中にユーザーの作ったマクロ命令が入っていたら汎用のコンバータではWeb形式に変換できないでしょう。

最近、人気をあつめているマークダウンは、ソースコンテンツに簡単なテキスト記法でマークをつけて、それをマークダウン処理ソフトで、中間コンテンツであるHTMLに変換する方法です。マークダウンの長所は、テキストのソースを簡単に記述できることですが、欠点はコンテンツの形式が極シンプルなものなら良いのですが、少し複雑なものは非常に難しくなります。マークダウンを採用して、今年、人気をあつめたサービスに「でんでんコンバータ」[1]があります。この記法の説明を読むと、HTMLで頻繁に使うクラス属性やID属性をつけるのが難しいことがわかります。「でんでんコンバータ」は簡単なEPUBを作るには良いですが、PDFは作れません。

CAS-UBは、Wiki記法を拡張したCAS記法を使ってソースコンテンツにマークアップします。CAS記法では、クラス属性やID属性などを簡単に付けることができるようにしています。CAS記法の方がマークダウンよりは考え方としては進化しています。CAS-UBでは、生成処理でEPUBとPDFを両方とも作れます。

CAS記法にしても、マークダウンにしても、独自の記法を覚えなければなりません。この記法によるマークアップは、プログラム作成と比較するととても簡単ですし、HTMLを直接記述するのと比べてもかなり楽です。従って、IT系では受け入れられやすいようです。しかし、どうも、一般の著者・編集者・制作者には敷居が高いようです。

結論として、一般の著者・編集・制作者にとってもっとも敷居の低い方法は、WordなどのWYSIWYGのワープロで原稿を用意して、そこから自動的に中間コンテンツに変換する方法のようです。しかし、Wordはもともと紙に印刷する想定でレイアウトを指定します。そして、一般のユーザーはレイアウトを優先して編集することに慣れています。ところが、レイアウト優先の文書は中間コンテンツにうまく変換できません[2]。うまく変換するには、Wordのスタイルを使って構造を統制した文書を作らねばなりません。CAS-UBによるワンソースマルチユースを普及させるために、今後は、Wordによるスタイル編集の普及・啓蒙活動に取り組みたいと考えています。

現在、配布コンテンツの形式が紙のみからEPUBやWebまで多様化していることから、ワンソースマルチユースの重要度が高まっています。ワンソースマルチユースでは中間コンテンツからマルチ配布形式を生成するため、中間コンテンツはレイアウトを分離しておき、生成時にレイアウト指定処理を行なうのが良いと考えます。このメリットを生かすにはレイアウト指定をパターン化・テーマ化し、そのテーマを増やすことが課題です。

[1] 電書ちゃんのでんでんコンバーター – でんでんコンバーター
[2] 『マニュアルEPUB化ハンドブック2014年版  EPUBマニュアル研究会報告書』(第3章参照)

Android EPUBリーダーの2つのまとめ

アンテナハウスでは、Android EPUBリーダーの表示精度や操作性について、二つの調査結果をまとめています。次に概要を紹介します。ご参考になれば幸いです。

1.第一調査の結果は、「EPUBリーダー比較調査レポート20種類を対象とする機能比較を中心に― 第2版」(2013年11月27日発行)として公開しています。

レポートのダウンロード

上記の調査は、7月と11月に行ないました。7月時点では①一般のユーザーが(電子書店ストアへのユーザー登録なしで)使える、②日本語のメニューが用意されている、という2つの基準を設けて、各OS環境で5種類のEPUBリーダーを選定しました。7月時点の調査では、Android環境では良いEPUBリーダーが見つからなかったため、11月に、Android環境に絞って、英語メニューのEPUBリーダーや電子書店ストアへのユーザー登録が必要なものを含めて再度ピックアップしました。

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図1 7月に調査対象としたAndroid用EPUBリーダー

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図2 11月に調査対象としてAndroid用EPUBリーダー

詳細は、レポートをご覧いただきたいのですが、結論としてはAndroidには操作性と表示精度の両面で、iPadのiBooksに匹敵するEPUBリーダーはないと言えると思います。

2.別途、EPUBリーダーの調査範囲を広げて選択しなおして、次の6種類のEPUBリーダー(Android)をインストールして評価してみました。結果は次に公開しています。

EPUBリーダーの紹介と比較(Android編)―第2回―

表 Android EPUB リーダーの評価

EPUBリーダー名 提供元 Google Play評価点  EPUB表示評価
gBook Reader Game Most Corp 4.0 (4件) △(和文表示に難がある)
Gitden EPUB3 Book Reader Gitden Inc. 4.3 (93件) △(和文表示に難がある)
Google Play ブックス Google 3.6(139,714件) ×(SVGが正しく表示できないことが多い)
IDEAL Group Reader IDEAL Group, Inc. 4.6 (100 件) △(和文表示に難がある)
Kindle for Android Amazon 4.2 (166,372件) ○(SVGが正しく表示できないことがある)
楽天 Kobo for Android 楽天 4.3(64,509件)