英語のPageとは?
西洋の古い図書の形式には、コデックス(冊子状)とスクロール(巻物状)があり、いずれにもページという言葉が適用されています。コデックスのページは現在の洋装本(洋本)のページと似ています。それに対してスクロールは羊皮紙・パピルスのシートをのりで貼ったり、端を糸で縫って左右につなげたもので、そのシートをパネルまたはページというようです(この部分は現在のWikipediaの記事によります。古代にも同じように表現していたかは分かりません)。
Scroll(Wikipedia)
A scroll is usually divided up into pages, which are sometimes separate sheets of papyrus or parchment glued together at the edges, or may be marked divisions of a continuous roll of writing material.
Scroll(聖書)A scroll is usually divided up into panels, which are sometimes separate sheets of papyrus or parchment glued or stitched together at the edges.
Introduction to biblical studies. James E. Smith, Ph.D, 2013
Wikipediaの資料にでているスクロールの写真では、文字はページの上に横書きされており、そのページを左右につなげています。
左右に巻き取る芯があり、横方向にスクロールする巻物の上に横書(行は上から下に進む)の文字を書くので、必然的にページに区切ることになります。ここから、英語のページは、図書の装丁あるいは本のかたちから独立した概念のように見えます。
日本語の「ページ」
『言葉に関する問答集 総集編』(文化庁編集、2015年11月16日版、全国官報販売協同組合発行)のpp. 476~477によるとページが日本で使われ始めた時期については、次のように書かれています。
・ヘボンの『和英語林集成』の初版・再版は「ページ」の見出しがなく、明治19年刊の第三版に至って「PEIJIペイジ」としてある。
・明治22年1月の『言海』の予約募集に「紙数、概算一千ページ」とある。
・新聞広告でも明治21年の書物の広告でページという言葉が使われている。
・明治22年から明治31年刊行の国語辞典の見出しにはページという言葉はない。
・明治41年刊の『ことばの泉 補遺』には見出しに「ぺえじ」とあり、以降、見出しはページになったが、現在まで辞書の見出しにページが出ている。
これから見ますと、ページという言葉は、明治20年過ぎ頃から出版界で使われはじめて、明治40年頃迄に辞書の見出し語になる程度まで一般に普及したようです。
ちなみに、『新しきことばの泉』(小林花眠著、博進館、大正10年)p.1163には次のようにありました。
見出し語:ページ、Page(英)
説明:頁。書籍・帳簿などの紙の片頁。頁刷(ページずり)といふは活版で、棒組み一定框に入れて、頁に刷り得るようにしたもの。頁附(ページづけ)といふは、ページ数を記しつけること。これを丁附ともいふ。
「頁」と「ページ」
『言葉に関する問答集 総集編』には、「ページ」を「頁」と表記することについて、次のように書いてあります。
・『言海』の内容見本明治24年のものには、「洋装大本紙数一千二百五十頁」として、「ページ」が「頁」に変わっている。
・他の書物も明治21年のものは「ページ」が使ってあり、明治23年以降は「頁」が圧倒的に多い。
・昭和21年内閣告示の「当用漢字表」、昭和56年内閣告示の「常用漢字表」には「頁」がない。従って、国語施策に従うときは、「頁」ではなく、「ページ」を使う。
・実際は現在でも書物の広告や内容見本には広く「頁」が使われている。
「頁」という文字をあてた理由は定説がないのですが、葉と中国語の発音が似ていたからという説が「新明解漢和辞典」に紹介されています。
ここから分かることは、ページという概念は、日本では明治の初め頃に洋装本が販売されてから広まったものであり、和本にはページに相当する概念はなかったのだろう、ということです。
以上を整理して、図に表すとこんな感じでしょうか。
和本にページに相当する概念がなかった(仮説ですが)ことには、二つの理由が考えられます。
(1) 巻物は横スクロールに縦書き(左から右に行が進む)していたので特に区切りが必要なかったこと
(2) 和本では1枚の和紙の片面に木版で刷ったり、あるいは手書きで書いて、それを二つに折って綴じていた。そのため洋装本のように紙をシートとして裏表を使うという発想がなかった。
現在の話に戻りますと、現在Webブラウザはページに区切る機能は弱いようです。これは、横書き文書を縦スクロールで表示するときは、行の進行方向とスクロールする方向が同じなので、ページに区切る必要性が小さいためでしょう。日本に昔はページの概念がなかった(仮説ですが)のと似ていませんか?
ところで、現在、ブラウザで縦組みができるようになりつつあります[1]。現在、ブラウザの縦組は横スクロールです。ブラウザで縦組みし、縦スクロールしようとすると、次の図のようにページに区切ることが必須となります。
CSSレベル3にはページドメディアという仕様案があります[2]。これはまだドラフトです。電子書籍(リフロー型EPUB)のページ区切りは、それぞれのEPUBリーダーの独自実装であり標準化されていません。
今後は、ブラウザや電子書籍でのページをもっと考えて行く必要がありそうです。
【参考】
次の写真は、古本屋で1冊200円で購入した和本(奥付には、安政4年(1857年)となっています)をバラした1枚の和紙の表と裏です。
和紙は薄いので文字が裏まで透けてしまいます。しかし、160年前の和紙が虫に食われているところを除けばあまり劣化していないのは驚きです。
『和本のすすめ』(中野三敏、岩波新書、2011年)によると江戸の本では、この1枚を「丁」というそうです。右は丁のオ、左は丁のウと言い、一ノオ、一ノウという風に数えていくそうです。従って、江戸の冊子本ではページという概念はなかったと言えるでしょう。
[1] CSS Writing Modes Level 3 W3C Candidate Recommendation, 15 December 2015
[2] CSS Paged Media Module Level 3 W3C Working Draft 14 March 2013
★本ブログの内容をもう少し整理して、次のWebページとしましたので、ぜひご一読ください。
■本のかたちを考える ― その2 ページって何? 「ページ」と本のかたちとの関係
★ページに関連する過去記事の一覧
[1] ページってどういう意味? 紙のページ、Webページ (memo)
[2] ページってどういう意味? 続編 Kindleの紙の本の長さと、KENPについて
[3] Kindle Unlimited問題とKENPの関係について(続き)
[4] Amazonでは本のページの数え方が三つある。Kindle Unlimitedは第三のKENPで著者への支払いが行われ、KENP相場が基準になる。
[5] ページっていったい、どういう意味なんだろう? ――Webページ