『鈴木 成一 装丁を語る』

『鈴木 成一 装丁を語る』(鈴木 成一著、イーストプレス、2010年)
四六判、242頁、2,000円+税

20150225

25年間、本の装幀を中心に仕事をしているという鈴木成一さんが自分が手掛けた作品の中から120点ほどを選んで演出の意図を解説した本。

装幀の手法別に表紙の画像と解説文、データを整理している。

構成は次のとおり。

①タイトル文字で伝える
②イラストを使う
③読後の印象から発想する
④本の構造を利用する
⑤著者本人、または関係する品を出す
⑥本文中の素材で構成する
⑦モチーフを形にする
⑧アート作品を併せる
⑨あえて何も使用しない

それぞれに演出の工夫が興味深い解説として語られている。本は極端に多品種少量生産なので、その個性を見出して装幀するわけだが、そこにいろいろな工夫・苦心がある。

鈴木さんのお客さんは第一に編集者なので、編集者の期待に応えるということが一番だそうだが、この言葉は、装幀の本義というよりも、商売を長く続ける秘訣だろう。

では装幀の本義はなんだろうか? 「読者や編集者を驚かせる」(p.4)という言葉も出てくるが、最後に装幀とは「本の個性をいかに表現してあげるか」(p.236)ということとまとめている。

〇感想
鷲尾さんの本[1]には、「本にも衣装」という節があり。装幀は日本独特の本の装い、旅立ちを願う気持ちが込められていると言っている。実に日本的である。いま、装幀はほとんどジャケットを作る仕事になっているように見える。ジャケット以外の装幀もありうるとは思うが。そういえば、昔は本は箱に入っていたが、最近の本で箱に入っているものは珍しい。

今のジャケットは流通形態で本を売るという立場からのもので、流通のしくみと密接に関係していると思う。その目的は主に書店の店頭で本に自己主張させることにあるだろう。プリントオンデマンドで本を作るようになると、ジャケットはどうなるのだろうか? 読者個人としてはジャケットは不要な気もする。いずれ別の装幀が生まれるかもしれない。

[1] 『編集とはどのような仕事なのか』

『編集とはどのような仕事なのか』

『編集とはどのような仕事なのか』(鷲尾 賢也著、トランスビュー、2004年初版発行)
四六判、上製本、256頁、2,200円+税

20150221

鷲尾さんは、講談社で「現代新書」編集長、「選書メチエ」創刊を初めとして多数の書籍を編集した名編集者なのだそうだ。本書は鷲尾さんの体験をもとに現役編集者あるいは編集志望者向けの教科書であるが、「編集という仕事は個別的である。ある本に通用したことが、別な企画には役に立たない」(あとがき)ことを念頭に置いてほしいとのこと。

しかし、編集者は本書を繰り返し熟読することで学ぶものが多いように思う。以下、個人的な観点で印象に残ったことのメモである。ちなみに、私は編集者の観点で読んでいるわけではありません。

1.編集者とは何か? の章では編集の機能として次の項目を挙げている(pp.11~14)。
・プランナーである。無から有を作り出す発案者である。
・編集者は著者をたらしこまなければならない。
・フットワーク良く、雑用をこなさねばならない。
・仕事の源は人間である。人間(著者)を育てなければならない。
・志があってほしい。

4.企画の発想法
・編集者のアイデアが出発点。アイデアから著者を見つける。著者を見つけるのも企画力の一つ。
・企画は価値(インパクト)、売れ行き(採算)、実現性の3角形で見る(企画の正三角形)。
・企画力とは(解く能力よりも)問題を作る能力である。
・編集会議で企画を修正・研磨する。編集長は自分なりの正三角形をもっていること。

5.原稿依頼とプロット
・プロットとは筋、構成であり、プロットを作ってから執筆に進まないと危険である。
・近年は編集者がプロット作りに深くかかわるようになった。
・書くことは世界への働きかけ。
・読者との距離感を小さく。

6.催促と読みと修正
・原稿は少しづつもらって早いうちに軌道修正する。
・修正は、著者に繰り返し行ってもらうのが原則。編集者はどのように直して欲しいかを著者に論理的に伝える。修正は苦しいので著者に対する説得力が必要。
・編集者は読者を考えて、途中で本を放り出されないように、分ったという読後感を作り出すために動く。
・読者の目で見て読んでもらえるように。
・原稿の修正を中途半端にしたまま出すのは厳禁。

7.チェックから入稿まで
・生原稿を、一定の方針で整理(原稿手入れ)する。赤字を入れる。
・漢字とひらがなの比率、改行、表現の統一、言い回し、誤字脱字など間違い・差別表現など文章上のチェック。
・四六判は1行40字~45字、1頁14~20行。
・本の単位は32頁。これを1単位にして折という。近年は機械の進化に伴い64頁も可能である。
・目次はふつう章・節で。著者は章・節まで。本文中の項(小見出し)は編集者が挿入する読者サイドの行為。ゴシックで2行取り左寄せが多い。
・目次は自分が読んだ本の中でうまい作り方のものをコピーして真似すると良い。
・参考文献・年表・巻末資料などの作成も編集者の仕事。

8.装幀・帯・タイトル
・日本の書籍が世界に誇る長所の一つが装幀。
・店頭で売れるのか? 目立つか?

11.本に未来はあるか?
・出版社を中心としたシステムが変わる。ここにビジネスチャンスがある。

〇感想
企画の正三角形という考え方はとても面白い。では、書籍以外の製品でも成り立つだろうか、と思って考えてみた。例えばソフトウェア製品では機能構成・用途・APIまたは操作性、競争相手・販売チャネル(販売方法)などもっと多くのパラメータを考慮する必要がある。企画の正三角形というバランス感覚は重要だが、他の業界に適用するにはパラメータが足りないように思う(編集者にはあまり関係ないです)。

本書を通じて一番の印象は、「売れる本を作る」という姿勢である。なにしろ後書きの最後の1行、つまり本書の最終行が「赤字がでるのではないか、実はそればかりを心配しています。」なのだから。うーーん。本書は黒字になったのだろうか? ちなみに、CAS-UBで作って、プリント・オン・デマンドで実売印税なら赤字になることはないのでこの心配はなくなる。逆にどうしたら売上を増やせるか? というところで新しいアイデアが重要になるのだ。つまり「赤字がでることを心配する。」というのは、現在の書籍の流通のしくみを前提としているように思う。ビジネスとしては、どうやってチャンスを広げるかという思考に転換する必要があるのではないだろうかね。

『編集者の仕事』

『編集者の仕事』(柴田 光滋著、新潮新書、2010年発行)
新書版、208頁、定価700円+税

20150219

著者の柴田さんは新潮社で40年間編集経験をもつという方。本書は大学の講座での授業経験から生まれたとのこと、初心者向けにやさしく書かれている。実際に編集に携わる人へのマニュアルではなく、編集の仕事について一般教養レベルでの説明である。

本文は5部からなる。
Ⅰ 本とはモノである
Ⅱ 編集の魂は細部に宿る
Ⅲ 活字は今も生きている
Ⅳ 見える装幀・見えない装幀
Ⅴ 思い出の本から

Ⅰでは、本作りはモノを作る作業であることを、繰り返し説く。

書籍は「心得のある編集者が丁寧に作業した本か、技量のない編集者が適当にやった本かは歴然としている」(p.16)

読みやすく、心地よく頁を繰れる本が良いと言い、具体的な作りの良しあしとして次の点を例に挙げている(pp.15-23)。
・スピン(リボン)がある
・開きが良い、あるいはのど側の余白がある
・目次が内容を伝える
・目次の体裁が良い―書体や行間のバランス

テキスト(原稿)は一次元、本は三次元。本からテキストを抽象的に取り出すのは間違い(p.30)。
モノなので細部までちゃんと仕立てないといけない(p.24)。
書籍の編集はどこかで職人仕事に近い(p.31)。
本は工業生産品ではない(p.31)。

Ⅱは、本文の体裁を中心にしており、技術的な細かい説明もある

個人的には、書籍の編集に関して、微妙なところで用語や仕様が標準化されていないように感じている。本書を見ていくつか新しく理解したこともある。

例えば、四六判は127mm×188mmが標準とされているが、実際の本をモノサシで測ってみると数ミリの相違がある。どうやら製造の誤差だけではないようだ。本書によると、四六判は出版社によってサイズが微妙に異なるということで、柴田さんが長年手掛けてきたのは、130mm×191mmで新潮四六判といい、本文の行数を増やしたい時、ぎりぎりで133mm×191mmも可能(p.43)だそうだ。

実際の本ではいろいろな場所にいろいろな扉が使われている。一方、最近はEPUBの仕様書(英文)にもNaka-Tobiraという用語が登場している[1]。W3Cの文書でもNaka-Tobiraという言葉が、英語で随所に出てきている。おそらく、『日本語組版処理の要件』の影響だろう。

しかし、中扉は特に用語として不統一と感じており気持ちが悪い。つまり、①1冊の本が幾つかに分かれる時に挿入する表題を扉の形式で入れるという説明([2])と、②本文が始まる前に書名を掲げる扉という説明が二つみられる。本書では扉については次のような説明がなされている(pp.57-59)。

・別紙の本扉:書名を記した別紙。別丁扉ともいう。目次の前にある。単行本にある。
・本文紙の本扉:本文紙の最初(1頁目)の扉
・目次扉:目次が2頁以上になる場合は、目次扉を付けるのが一般的。「目次」ないし「書名+目次」を記す。
・中扉:書名を記した扉。目次の後に出てくる。本扉の繰り返しに近い。
・題扉または章扉:章題または短編集の作品名。見出しが独立したもの。

目次扉とか、題扉という用語は、あまり他で見かけたことがなかったのだが、これらは、そのままで意味が通じる・分かりやすい用語なのでもっと普及して欲しいものだ。

[1] EPUB 3.0.1 Changes from EPUB 3.0 2.11 The rendition:align-x-center propertyにThis property was added primarily to handle the problem of Naka-Tobira.とある。
[2] デジタル大辞泉の解説日本語組版処理の要件(日本語版)もこの解釈。

〇JIS X4051の中扉の定義は「書籍の内容が大きく区分される場合に、その内容の区切りを明らかにするために本文中に挿入する」(91)とある。本文の定義をみると、本文は「書籍を構成する主要部分。通常、その前には前付けがつき、その後ろには後付けがつく」(117)とある。従って、JIS X4051では、本文と前付けの間にはいる扉は、中扉ではないということになるだろう。

〇日本語組版処理の要件(日本語版)は、「中扉は,書籍の内容を大きく区分する場合に用いる.標題のために1ページを用い(改丁とする),裏面は白ページにする.」(4.1.1 見出しの種類)とある。ここはJIS X4051と同じだが、その後ろに「大きく内容を区切る要素がない場合は,前付の直後,つまり本文の先頭に書名を中扉として掲げることもよく行われている.」とあって曖昧にしている。

しかし、実際の本を調べると、書名を記した中扉と部または章扉が両方ある本も見つかる。また、章扉の裏に章の本文を入れている本もある。こうしてみると柴田さんのように中扉は本扉の繰り返しとし、題扉・章扉は部や章の表題(見出し)のスタイルの一種と考える方が良いのではないだろうか。このあたりは、実態と要求仕様のかい離が大きいように感じる。