「紙か電子か」ではなく、「紙も電子も」の発想で。CAS-UBで電子と紙の本をシームレスに制作する

電子書籍に関して、「紙と比べて電子は**だからだめ」という趣旨の発言を時々見かける。一方で、電子書籍関係者はEPUBだKindleだとやかましく騒いでいる。新しい電子書籍制作ツールにしてもEPUB・Kindle版をつくることしかできない、という類のものが多い。

しかし、出版ビジネスのモデルを考える上では、紙か電子かという2者択一の議論ではなく、紙も電子もという議論が重要だと思う。どうやって紙と電子を両立させるか、その方法を考えなければならないのである。

紙の本と電子の本の製作と流通を同時・シームレスに実現するのはなかなか難しい。電子書籍と紙では製作や流通に関わる条件がまったく異なるためである。以下に、それぞれの製作に関わる点での特徴を思いつくままにあげてみる。

○電子書籍の特性

・コンテンツはテキストにXHTMLのタグをつけて表し、レイアウトはCSSで指定する。制作者がレイアウトを確定するのではなく、コンテンツを画面に可視化する電子書籍リーダが最終レイアウトを決定する。
・リーダは、タブレット、スマホ、などの閲読デバイスの上で動く。そこで、電子書籍が普及するにはまず閲読デバイスの普及が前提となる。デバイスの普及率はまだまだだし、書籍を読むタブレットになるとさらに普及台数は少ない。
・複製の製造コストはゼロであり、物としてのロットという概念はない。但し、初期契約金でXXX部のコピー権を買い取るというような契約としてのロットの概念はありうる。
・配布のための配信コストは、多くの場合、ほとんどかからない。
・電子書籍専門書店経由で購入しなければならない。そして、Amazon Kindle Store、楽天 Kobo、紀ノ国屋、など様々な専門書店ごとに独自の閲読システム、DRM(著作権管理)があるため、読者は専門書店別のサイロに入った状態になってしまう。
・配布形式は、これまでXMDF、ドットブックが中心であったが、現在は、KindleやEPUB3が増えつつある。フォーマットの過渡期でもあるのだ。

○紙の書籍の特性

・コンテンツは絶対寸法をもつページの上にレイアウトされる。制作者が最終レイアウトを完全にコントロールできる。
・紙に印刷したコンテンツを製本した状態が完成版であり、閲読デバイスは不要である。
・配布のためには、印刷製本する必要がある。印刷製本はボリュームによってコストがかなり異なり、大きなロットでの生産が有利になりやすい。これに対して講談社のように小ロットでも大き目のロットとおなじ単価になるようにしようという動きがある[1]。
・紙の本を印刷・製本するには多少の日数がかかる。但し、最近は、この日数も短縮されており少しの部数ならば1週間以内になっている。
・新しい動きとしてロットなしのBOD(ブックオンデマンド)が現実化してきている。エスプレッソブックマシンのように本を1冊から作る機械がでてきているし、AmazonのPOD(プリントオンデマンド)は1冊単位で注文による本作りを行なっているようだ。
・有形物なので、倉庫や配送などの物流コストがかかり、物流の仕組みが重要なポイントとなる。この点でもAmazonは注文に応じて1点から読者に直接送付する仕組みができている。
・書籍は書店を通じて基本的にどこでも同じものを入手できる。Amazonなどのオンラインショップでも同じものを買うことができる。

このように紙と電子では物理特性が根本的に異なる。このため製作・流通で紙と電子の両方を同時に考えるのは難しい。

しかし、上で挙げたように紙のほうも徐々に在庫レス・ロットレスという電子書籍的な特性を実現しつつある。特に、Amazonは紙の本を受注1冊から製作して流通させるという新しい仕組みを構築しつつある。Kindleという電子書籍だけではなくて、紙の本の流通でも静かな革命を起こしているのである。

○コンテンツ提供側としてはどう考えるか

コンテンツを提供する著者や出版社のビジネスは、売上を最大にすることがまず大事である。そのためには、紙も電子も同時に出し、さらに電子書籍はさまざまな形式を同時に用意して販売するのがもっとも有利だろう。

経営は売上を最大にするだけでは足りない。売上最大と同時に経費最小を実現しなければならないのだ。経費を最小にするには、一つのコンテンツから紙用のPDFと、様々な電子書籍をボタン一つで作り出して流通させる制作の仕組みがほしい。

○CAS-UBは紙も電子も一元的に製作するサービス

紙の組版やレイアウトに関する要件は、電子書籍と比べると極めて厳しい。このため、ボタン一つでEPUBを作るのは簡単だが、ボタン一つで紙の書籍用のPDFを自動的に作りだすのは難しかった。

このためには極めて強力な自動組版エンジンが必要なのである。強力な自動組版エンジンがないと、どうしても手作業によるDTPに頼らざるを得ない。これがこれまでの日本語書籍制作の制約であった。

CAS-UBは、自動組版ソフト「Antenna House Formatter」を使って、ここを突破することを目標としている。紙から電子書籍へと配布形式が移行する期間には、必ずCAS-UBのような仕組みが必要とされるだろうと考えたからである。

開発スタートしたのは電子書籍元年といわれた2010年春なので、そろそろ満3年になる。まだまだ完成というにはほど遠いが、漸く実用的に使えるレベルになってきた。

3月1日[2]、3月4日[3]のセミナーではこのあたりをご覧いただきたいと考えている。

[1]講談社が導入した国内初のデジタル輪転機を見てきた
[2]EPUB22 マニュアル、ビジネス文書でのEPUB活用(特に第二部)
[3]デジタルファーストの時代 売れる本の書き方を教えます~アマゾンで売れる本を作るには~