紙のページと電子デバイスの画面の相違がもたらす、現在のEPUB制作とリーダー開発の難点。

EPUB3には紙のページと同じようなページに関することを指定する仕様は少ない。

紙のページでは次のことができる。

・ページの大きさ(絶対寸法)がある。
・版面の大きさと、版面の位置を指定できる。
・版面の中で左右中央、上下中央、右上、左上という絶対方向を指定しての配置ができる。
・柱やノンブルを配置できる。
・文字の大きさ(絶対寸法)、1ページの行数、1ページの文字数を指定できる。
・左右ページがある。
・横組では左開き(左から右へ)進行、縦組では右開き(右から左へ進行)。
・横組・縦組の混在。
・改ページと改丁を指定できる。
・見開きがある。
・ページシーケンスの偶数開始の指定ができる。

もっと細かいこともあるけれどもそれらはとりあえず省略するとして。

紙のページならできることの中で、EPUB3の仕様で規定されているのは、改ページと進行方向(右開きか左開きかということ)ぐらいである。

上に挙げた紙のページ指定の中には、紙の物的特性と製本という処理に由来するものが多い。そうした特性の多くは、紙を媒体として使うことからくる制約である。そうした制約は、電子デバイスの画面では必要ないか、またはあまり意味のないことが多い。

だから、EPUB3の仕様にページに関する規定がすくないのは自然であるとも言える。

紙には裏表があり、本は背中で製本されているので、本を読む行為はページ捲りの動作と密接に結びついている。しかし、電子デバイスではページ捲りよりもスクロールの方が使い易い。

現在、多くのEPUBリーダーは画面をページのように見立てて、ページめくりっぽいインターフェイスを用意している。これは紙で作った本のイメージを継承するためのギミックである。こうして、EPUB3の仕様に規定されていないページの概念を持ち込んでしまったところに、EPUB制作上の問題、EPUBリーダー開発の難しさが生まれてしまったように思う。

『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (6) 紙のページと電子の画面の違い

『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (2)紙の本と電子の本をワンソースで作りたいの最後で「ページという概念の紙と電子(画面)での違いは、本質的です。」と書きました。

今日は、紙のページと電子の画面の違いについて考えてみます。

相違点1.紙の判型と電子の画面で寸法の考え方が違う

紙の本には判型(物理的なサイズをもつ)があり、判型の上に版面(本文をレイアウトする領域、基本版面)があります。紙では絶対寸法で表される大きさをもつ版面が必然であり、紙の制約条件とも言えます。版面の上に配置されるオブジェクトも絶対寸法をもち、一旦印刷されると拡大、縮小ができません。

電子では画面の大きさがあります、画面の大きさも物理的な制約なのですが、画面の上に配置されるオブジェクト(テキスト、図版、表など)は、絶対的な寸法を持ちません。拡大、縮小が自由です。

相違点2.裏表

紙には裏表があります。電子には裏表がありません。

本で裏表を考えて配置されるものに、扉があります。
扉の表に印刷される内容と裏に印刷される内容は役割が違います。例えば、本のタイトルを印刷するのは扉の表であり、扉の裏面ではありません。

電子の画面には裏表がありません。あるのは表示の順番だけです。

例えば、紙の本で書名扉の裏を空白ページにするのは珍しくありません。しかし、画面で空白のページを配置してもあまり意味がないように思います。

また、ページ番号は紙では奇数が表、偶数が裏になります。横組でも縦組でも奇数ページの方が表になり、開始位置として重要度が高くなります。偶数ページは裏になり、続きという意味合いになります。

相違点3.製本と見開き

紙の本は両面に印刷した紙を製本して作ります。すると、見開きページができます。

見開きのページは、片面に印刷して、片方を綴じたレポートのような印刷・製本では存在しません。従って、印刷・製本の仕方によるものです。

電子の画面で見開きのような表示はできますが、紙の本の見開きとは本質的な相違があります。

これを理解しやすい例として、縦組における脚注の配置を示します。
脚注をページ毎に示すと、次の画面のようになります。電子の画面でみるときは1画面=1ページ毎脚注を示すべきでしょう。
20160306
図1 1ページ毎に脚注を配置(注[1]

しかし、縦組の紙の本では、脚注を1ページ毎に配置するのはあまり行われません。次のように見開きの左ページに脚注を置くのが一般的です。
20160306d
図2 見開き毎に脚注を配置(注[2]

相違点4.ページを読み進める(開く、表示する)方向

製本した紙の本は紙のページを開く(捲る)操作と読み進める操作が分れています。画面ではページを順番に表示します。

この相違が一番問題になるのは、たとえば、本文が縦組で、索引が横組で、これが一冊の本として製本されているときです。

紙では本文は、本文の先頭ページから順に2ぺージづつ紙を捲りながら、右から左に読み進めていきます。索引を読む時は、索引の先頭頁を開いて、そこから左から右に読み進めます。

同じことは電子は実現するのは難しいと思います。

本文が縦組で、索引が横組のPDFを作成し、PDFをAdobe readerを使ってWindows PCのウインドウ上で表示してみます。PDF表示ではPDFファイルの中に物理的に登録されているページ順に表示するだけです。結果として索引のページは後ろのページから逆順に表示してしまいます。索引の先頭ページにしおりを設定してジャンプはできますが、そこから読み進めるには逆順にページを表示します。

Adobe Readerでは紙を捲るのと同じ操作は実現できていないようです。

[1] 『PDFインフラストラクチャ解説』をCAS-UBで縦組でPDF化。脚注をページ単位に配置するオプションを選択。
[2] 『PDFインフラストラクチャ解説』をCAS-UBで縦組でPDF化。脚注を奇数ページに配置するオプションを選択。
[3] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる?
[4] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (2)紙の本と電子の本をワンソースで作りたい
[5] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (3) 電子テキストは印刷ではなく、音声の暗喩と見る方が良い
[6] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (4) 『PDFインフラストラクチャ解説』の実践例より
[7] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (5) 『PDFインフラストラクチャ解説』のプリントオンデマンド制作と販売