『編集とはどのような仕事なのか』

『編集とはどのような仕事なのか』(鷲尾 賢也著、トランスビュー、2004年初版発行)
四六判、上製本、256頁、2,200円+税

20150221

鷲尾さんは、講談社で「現代新書」編集長、「選書メチエ」創刊を初めとして多数の書籍を編集した名編集者なのだそうだ。本書は鷲尾さんの体験をもとに現役編集者あるいは編集志望者向けの教科書であるが、「編集という仕事は個別的である。ある本に通用したことが、別な企画には役に立たない」(あとがき)ことを念頭に置いてほしいとのこと。

しかし、編集者は本書を繰り返し熟読することで学ぶものが多いように思う。以下、個人的な観点で印象に残ったことのメモである。ちなみに、私は編集者の観点で読んでいるわけではありません。

1.編集者とは何か? の章では編集の機能として次の項目を挙げている(pp.11~14)。
・プランナーである。無から有を作り出す発案者である。
・編集者は著者をたらしこまなければならない。
・フットワーク良く、雑用をこなさねばならない。
・仕事の源は人間である。人間(著者)を育てなければならない。
・志があってほしい。

4.企画の発想法
・編集者のアイデアが出発点。アイデアから著者を見つける。著者を見つけるのも企画力の一つ。
・企画は価値(インパクト)、売れ行き(採算)、実現性の3角形で見る(企画の正三角形)。
・企画力とは(解く能力よりも)問題を作る能力である。
・編集会議で企画を修正・研磨する。編集長は自分なりの正三角形をもっていること。

5.原稿依頼とプロット
・プロットとは筋、構成であり、プロットを作ってから執筆に進まないと危険である。
・近年は編集者がプロット作りに深くかかわるようになった。
・書くことは世界への働きかけ。
・読者との距離感を小さく。

6.催促と読みと修正
・原稿は少しづつもらって早いうちに軌道修正する。
・修正は、著者に繰り返し行ってもらうのが原則。編集者はどのように直して欲しいかを著者に論理的に伝える。修正は苦しいので著者に対する説得力が必要。
・編集者は読者を考えて、途中で本を放り出されないように、分ったという読後感を作り出すために動く。
・読者の目で見て読んでもらえるように。
・原稿の修正を中途半端にしたまま出すのは厳禁。

7.チェックから入稿まで
・生原稿を、一定の方針で整理(原稿手入れ)する。赤字を入れる。
・漢字とひらがなの比率、改行、表現の統一、言い回し、誤字脱字など間違い・差別表現など文章上のチェック。
・四六判は1行40字~45字、1頁14~20行。
・本の単位は32頁。これを1単位にして折という。近年は機械の進化に伴い64頁も可能である。
・目次はふつう章・節で。著者は章・節まで。本文中の項(小見出し)は編集者が挿入する読者サイドの行為。ゴシックで2行取り左寄せが多い。
・目次は自分が読んだ本の中でうまい作り方のものをコピーして真似すると良い。
・参考文献・年表・巻末資料などの作成も編集者の仕事。

8.装幀・帯・タイトル
・日本の書籍が世界に誇る長所の一つが装幀。
・店頭で売れるのか? 目立つか?

11.本に未来はあるか?
・出版社を中心としたシステムが変わる。ここにビジネスチャンスがある。

〇感想
企画の正三角形という考え方はとても面白い。では、書籍以外の製品でも成り立つだろうか、と思って考えてみた。例えばソフトウェア製品では機能構成・用途・APIまたは操作性、競争相手・販売チャネル(販売方法)などもっと多くのパラメータを考慮する必要がある。企画の正三角形というバランス感覚は重要だが、他の業界に適用するにはパラメータが足りないように思う(編集者にはあまり関係ないです)。

本書を通じて一番の印象は、「売れる本を作る」という姿勢である。なにしろ後書きの最後の1行、つまり本書の最終行が「赤字がでるのではないか、実はそればかりを心配しています。」なのだから。うーーん。本書は黒字になったのだろうか? ちなみに、CAS-UBで作って、プリント・オン・デマンドで実売印税なら赤字になることはないのでこの心配はなくなる。逆にどうしたら売上を増やせるか? というところで新しいアイデアが重要になるのだ。つまり「赤字がでることを心配する。」というのは、現在の書籍の流通のしくみを前提としているように思う。ビジネスとしては、どうやってチャンスを広げるかという思考に転換する必要があるのではないだろうかね。