3月1日の第22回JEPA EPUBセミナーでの講演要旨[1],[2]
アンテナハウス株式会社 代表取締役 小林 徳滋
■はじめに
電子書籍元年といわれた2010年以降、EPUBに注目が集まるようになってきました。当社も、この分野で何かサービスが提供できないかと思い、「CAS-UB」というEPUB変換サービスを開始しました。
以下、書籍の未来について、またCAS-UBの開発の狙いについて、お話したいと思います。
■書籍点数の予測
プロの書いた紙の書籍の年間発行点数は、戦後、2万点からピークには7万7千点まで増えてきました。現在、7万4千点くらいですので、踊り場を迎えているのかもしれません。
書店に行くと、新書や文庫本がたくさんあって、点数は多いのですが、売上はだんだん減ってきています。
一方、電子書籍は、今年度は一気に6万点の制作が行なわれています。2012年と2013年の発行点数は「キンデジ」効果があるでしょう。これは、「コンテンツ緊急電子化事業」のことで、書籍の電子化作業に国が補助金を出す事業です。こうした補助金があるために電子書籍はいま一気に点数が増えています。
これが2013年の3月末で終ります。
2014年以降、いったん点数は減って、そこからまた増えていくのではないかと思います。
電子書籍の場合、今後、個人出版が増えていくのではないかと予想しています。いわゆるプロでない人たちが、本を書くようになるのではないかと思います。
現在、個人の立場で電子書籍を出版している人は、まだ1000人弱の状況です[3]。しかし、これからはブログを書くように、本を書く人が増えてくるのではないでしょうか。年間10万人くらいの人が著者となって、100万タイトルを出版する…というようなことも起こりうると思います。
プロとアマが競争する時代がやってくるかもしれません。
■電子書籍の作成手順
こうした将来に対して、現在の書籍の作成手順はどうなっているのか、今後どうあるべきかについてお話したいと思います。
現在、ほぼ手順が決まっています。すでにできている本を電子化するときだけでなく、いま作りつつある本についても、ほとんどが同じ手順です。
最初にパソコンで版下を作ることになります。これは紙の本のデータを作ることでもあります。現在、版下をつくるのはDTPソフトを使うのが普通です。この版下データを元に電子書籍を作っていきます。
まず、DTPソフトで版下データからEPUB用データを取り出します。それをEPUBの制作ツールを使って編集し直します。こうやってEPUBのデータを作るという方法が普通です。
紙の本の場合は、著者が素材を用意して、編集者・制作者がそれを元に版下となるデータを作っていくことになります。
しかし、このDTPで作った版下データをEPUB化するのは、かなり面倒な手順が必要です。そんなに簡単ではありません。
現在のように、紙と電子書籍を分離させて作る二重制作が成り立つのは、電子化を進めるために、国からの補助金10億円を核とする20億円規模の「キンデジ」事業があるためです。
今後、紙と電子書籍の二重制作は難しくなるはずです。毎年、国の補助金をお願いするわけにも行かないですから、二重制作はなくしていくしかないと思います。
いずれ電子書籍タイトル数が、紙の書籍のタイトル数を上回るときがくるはずです。
そのとき、現在のように紙の書籍を想定して、まずDTPで版下データを作って、それを電子化する手順では対応できなくなります。
電子書籍先行という枠組みへの変更が求められるようになると思います。
■電子書籍も紙の書籍も自由自在に
今後のことを考えると、電子書籍だけに対応するとか、紙だけに対応するというのでは不十分ではないかと思います。
紙も電子も両方に対応できる、必要に応じて使い分けできるような制作方法が必要になると思います。
CAS-UBは、そのためのサービスです。
これは新しい仕組みですので、これから作られる新規出版物の制作を対象としています。
このツールを、プロの編集者・制作者が関与する書籍向けに提供していこうと考えています。
先ほど個人の著者が10万人になるのではないかと申しましたが、これら個人の方々は無料のツールを使って本にするだろうと思います。
サービスを提供して対価をいただくには、プロが関与する書籍、あるいは専門的な内容の書籍が作成できるようにしないといけないと考えています。
索引、参考文献、図表一覧、参照などを自由に作って、それを多用する書籍や、本文に数式や図表を含む書籍にも対応できるようにしたいと思っています。
現在まだ、これらに対応したEPUBリーダーはできていません。しかし、もっと高度化したリーダーがでてくるはずです。
こうした専門的な内容に対応できるサービスを提供していきたいと思っています。
■CAS-UBの主な3つの機能
それでは、CAS-UBが目指しているのはどういうものか、この辺をお話します。
著者が原稿を書いたり、写真、イラストを用意すること、これらはクリエイティブな仕事ですから、コンピュータで自動化するのは、たぶんできないでしょう。
しかし、それをCAS-UBに取り込んでいただけたら、EPUBとかKindleとかPDFにするのは、コンピュータを使って自動でやってしまいますよ…ということなのです。
CAS-UBの主な機能は3つあります。
(1) コンテンツを編集する機能
(2) データ交換の機能
(3) マルチ形式の出版物を作成する機能
これらの機能がスムーズに使えるようになるためには、いくつか問題があります。
まずコンテンツ編集をする場合に、一番のネックとなるのが、タグの問題です。
コンテンツは、最終的にHTMLで表現されます。HTMLの場合、文章に付箋のようにタグをつけて、その中に属性と属性値を指定することになります。<h1 color="red">というような記号をつけていく必要があります。
コンピュータを使って仕事をしている当社の社員などは、こうしたタグをつけることは全然苦にならないですし、大好きなのですが、そうでない人は、たいてい尻込みしてしまいます。このタグを入力するということがネックになります。
これをどうしたらいいか、いろいろ検討してみました。この点、簡易マークアップ記法を採用したらいいのではないかと考えました。
簡易マークアップ記法というのは、テキストにできるだけ少ないキータッチ入力でタグをつけられるようにするものです。こうした手法は、最近あちこちで見られます。このやり方はかなり普及すると思います。
CAS-UBの場合、CAS記法というものですが、テキストに少しマークアップの記号を入力して、コンテンツを作るという手法をとっています。
それから、構成編集メニューを用意しております。
書籍には、表紙があり、はしがき、目次、章、あとがき、参考文献、索引というような構造があります。こうした構成を作るのが構成編集メニューです。
構成の中で自動的に作れる項目があります。次のようなものです。
・目次
・図表目次
・索引
・注釈一覧
これに加えて、章番号・図表番号も、自動生成できるようになっています。
著者が作成した素材を取り込むのがデータ交換です。いまWordなどで書いた原稿を取り込むことができます。これについても、新たな開発が必要になってきました。
Word文書を変換するときに、オートシェイプは変換しなくてもいいと思っていたのですが、ご要望がありました。オートシェイプも自動変換できるように作業を進めています。
当社は変換一筋にやってきましたので、これはできるようにしないといけません。
できなかったのではなくて、必要ないと思っていただけですので、変換できるようにいたします。
それからCAS-UBには、マルチ形式の出版物を作成する機能があります。
1つのソースから、EPUB、Kindle、PDF、Webページ、HTMLといった複数の形式の文書を作成することができます。
これは、CAS-UBの最大の売りだと思っています。
■レイアウト
最後にCAS-UBのレイアウトについて、お話します。
EPUBのレイアウトについては、レディメイドのCSSスタイルシートを用意しております。
現在、横組み7種類、縦組み2種類の中から、選択することが可能です。
まだ縦組の数が少ないのですが、これを増やしていきたいと思っています。
それから、ユーザーによるカスタマイズができないのですか…という質問をよくいただきますが、もちろん可能です。
style.cssというファイルを用意していただいて、スタイルシートのところでアップロードしていただくと、最優先でカスタマイズされたレイアウトが有効になります。
サポートのページをご覧ください。
http://www.cas-ub.com/howto/support.html[4]
それから書籍版下用のPDFを生成することもできます。
縦組み・横組みに対応しております。
高品質な組版ができるように、レイアウトの機能をさらに向上させていこうと考えています。
自動組版エンジンのFormatterを、順次バージョンアップしていきたいと思います。
レイアウトについては、本とPDFとEPUBの比較検討をしています。
自分でも本を作ってみて、それを見ながら、本とPDFとEPUBを較べています。[5]
同じ箇所をPDFとEPUBで較べて見ると、PDFの方が文字列がきれいに並んでいますので、見やすい感じがします。
しかしタブレットで実際に読む場合、EPUBの方が文字が大きくて、読みやすいのではないかと思います。
一方、索引を見ると、PDFの方は2段組になっているのですが、EPUBはリンクのみで、現状だとややさみしい感じがします。
紙とPDFとEPUBと、これら三者に同じレイアウトを求める人が多数派であるかもしれません。しかし、それぞれ違うレイアウトの方が良いのではないかと思っています。
同じPDFデータでも、電子画面上で見るのと紙で見るのとでは違った印象を受けます。
画面のサイズによっても違ってきますし、それに伴って、余白や行間の取り方、見出しの大きさ等、それぞれに最適なものがあるように思います。
様々な調節をすることによって、見た印象がかなり違ってきます。
レイアウトについては、もう少し研究の余地がありそうです。
より高品質の組版を実現したいと思っています。
ありがとうございました。
[1]本記事は右の講演記録を元にして作成したものです。JEPA EPUBセミナーのページ
[2]パワーポイントスライド:http://www.cas-ub.com/info/handout/CAS-UB-20130301.pdf
[3]アマゾンKDPのみ。
[4]「CSS レイアウトのカスタマイズガイド」
[5] 『PDFインフラストラクチャ解説』をプリントオンデマンドで本にしてみました。http://blog.cas-ub.com/?p=4242