縦書きの数学書における英数字の方向は混沌

縦組みのときに、英数字を正立させるか横倒しにするかということについて、少しづつ調べています。で、英数字が沢山でてきそうな書籍のジャンルのひとつに数学関係があります。数学書の多くは、横組みなのですが、一般向けの数学書には縦組みの本をときどき見かけます。

で、次の3冊の縦組み数学書を調べてみました。

1.「いやでも楽しめる算数」(清水 義範著、講談社刊、2001年8月20日)
2.「江戸の数学教科書」(桜井 進、集英社インターナショナル刊、2009年2月28日)
3.「5分で楽しむ数学50話」(エアハルト・ベーレンツ著、岩波書店、2007年12月12日)

この3冊の本の縦組みのテキストの中で、英数字、特に数式がどのように扱われているかを整理すると次のようになります。

1.数式には文章の行の中に書くインライン数式と、数式だけで一つ以上の行領域を占めるブロック数式に分けることができます。

(1)ブロック数式はすべて数式ブロック全体を右に90°回転しています。従って、英数字も数式の記号もまとめて横倒しです。

(2)インライン数式の多くは数式の範囲を右に90°回転して横倒しで表記されます。長い数式ではすべて横倒しです。


(「5分で楽しむ数学50話」のp.12の一部)

上の図のe、xなどの数式中の1文字の定数や変数はすべて本文テキスト中で正立です。

上図左端行のeのx乗など1項の数式(べき乗)は正立表記です。

この中間の例として、上図の[3]の行f'(x)の横倒しと似たような数式を左端の行f(x)のように縦中横の形式で表記している例が見られます。この場合は、文字数にして4文字で正立、5文字で横倒しという区切りですが、むしろ1行の幅に入るなら正立、入らないなら横倒しとしているのかもしれません。

分数も同じようなことがあり、分母と分子が1桁の分数は分母の数値と分子数値を正立させ、分母と分子の桁数が大きくなるとYYY/XXXの形式で横倒しにしています。

他には長めのインライン数式を文字単位で正立させたり、「2n」を縦中横で表記したかと思うと、同一の本のなかで「πr」を横倒しにしてみたり、インライン数式を正立させるか横倒しにするかの判断は振れていることがわかります。特に2文字のインライン数式の方向性は振れています。

2.ラテンアルファベット

本文テキストの中のラテンアルファベットの方向は、通常の小説などと同じで、頭字語、1文字の大文字は正立です。

3.アラビア数字

アラビア数字は、1桁~2桁、場合によっては3桁までは縦中横正立です。それ以上長い桁数のアラビア数字を文字単位で正立させるか、数値として横倒しするかもかならずしも統一されていません。

次の3つの図は、「いやでも楽しめる算数」、「江戸の数学教科書」の中で数字がどのように表記されているか、例を並べてみたものです。ご覧いただくとおわかりのように、1冊の本のなかで、同じような数値が正立、横倒しの2種類の表記ででていたりします。かなり振れがあるといって良いと思います。


「いやでも楽しめる算数」の中の数値の表記例1


「いやでも楽しめる算数」の中の数値の表記例2


「江戸の数学教科書」の中の数値の表記例

3.方向とグリフ

(1)英数字の字形(グリフ)には半角形(アルファベットはプロポーショナル)と全角形がありますが、上の図で分かるように数式の変数や定数の正立するアルファベット文字は横倒しの数式中の文字と同じグリフになります。

(2)数字のグリフは1冊の本の中では1種類です。

4.補足:数字の扱いについて

(この書籍のことではありませんが)Twitterで教えてもらったことによると、@works014さんは「全角文字コードを正立、半角文字コードを縦中横・横倒しで表して、そのあと見え方として字形を統一する」そうです。なお、別の印刷会社の方に聞いた話では「入稿された原稿の数字を最初に全部半角文字コードに統一してから、正立する文字は回転させる」そうです。つまり、縦書きで数字の制作実務上の取り扱い方には二通りある、ということになります。