手元にある昭和の前半に発行された2冊の文学書を対象にして英数字の使われ方を調べてみました。
○最初は日本の作家の書いた小説の例です。
書籍:「成吉思汗」(尾崎士郎著、新潮社、昭和15年7月発行)
本文314頁、解説18頁
1.ラテンアルファベット
本書には全体を通じてラテンアルファベットはまったく使われていません。
2.アラビア数字
本書の中に現れるアラビア数字は、本文の節番号とノンブル(イタリック体で頁下中央に横書き)のみです。
なお、章番号は漢数字、目次の頁番号も漢数字となっています。
従ってアラビア数字は非常に少ないのですが、すべて正立しています。
○次は、原文はフランス語から翻訳した文学書です。
書籍:「サン・ペテルスブルグの夜話」(ド・メーストル著、岳野 慶作訳、中央出版社、昭和23年5月発行)
本文と解題205頁
1.ラテンアルファベット
匿名人物を指すために枢密顧問官なるT、騎士B、などの形式で本文中にときどき(全体を通じて10箇所程度)使われています。すべて1文字で正立です。本文の文字サイズと同じ高さをもちます。
人物名をカタカナ表記した後に注として原文が入っていることがあります。この場合、ラテンアルファベットの部分が横倒しです。これらの括弧内の文字は、本文より小さな文字サイズのプロポーショナルフォントで組まれています。
例)
ド・メーストル(De Maistre)、クリスティンヌ・ド・モッツ(Christine de Motz)など
他に書籍の題、難しい単語の原文が()内にとして付されていることがあります。この場合、ラテン文字の部分が横倒しです。
例)
「サン・ペテルスブルグの夜話」(Soirées de Saint-Petersbourg)、テ・デウム(Te Deum)(注、カトリック教会が感謝祭において歌う賛美歌。「Te Deum Laudamus・神よ、われら、おんみを...)
つまり、本文の補足的情報として括弧に括られた形式で単語がラテンアルファベットで表記されていることがあり、これらが横倒しになっています。
2.アラビア数字
本書にはアラビア数字はまったく使われていません。
頁番号(目次、見開き左右のノンブル)、章に相当する番号、年月日、数量などすべての数値が漢字表記です。
このように昭和の前半の文学書では英数字はあまり使われていません。しかし、少数みられる英数字の箇所は1文字のとき正立、翻訳書では注として原文の表記に使われていて、その場合横倒しとなっていることが分かります。