日本語の縦組みにおける英数字の方向を調べています。最近は、記号の方向も調べ始めました。さて、今回は、「本づくりの常識・非常識」(野村 保惠著)を調べてみます。
本書は原則縦組みですが、本文の第六章 組版ルール(横組)が章全体横組みという珍しい本です。また、後付の付録、参考文献、索引が横組みです。
数字は章番号、節番号をはじめ、九組、一冊、二〇〇〇年(平成十二)年十二月、印刷標準字体一〇二二字のように原則漢数字となっています[*1]。また、例えば二ミリ、五〇メートルのように単位をカタカナに展開しています[*2]。但し、専門書の特性上、専門用語を中心にラテンアルファベットがかなり沢山出てきます。例えば、「JIS規格」を「ジス規格」とは書きにくいでしょう。こうしてみますと、全体としては、伝統的組版の類型に属すると言って良いでしょう。
■特徴
本書では記号がかなり使われていてその方向が多様です。記号類が多数出現する専門的な原稿はDTPのようなWYSIWYGツールを使うのであれば良いですが、テキスト系のツールでマークアップして方向を指定するのは煩雑になる可能性があります。
■ラテンアルファベットは、大文字の頭字語は1文字ずつ正立、小文字の頭字語は正立(dpi)と横倒し(lpi)混在です。なお、WYSIWYGは正立と横倒しの両方出現します。しかし、英単語はすべて横倒しです。
■数字は上述のように漢数字が中心ですが、慣用句・固有名詞などではアラビア数字が使われており、縦中横もあります。但し、ページ番号、パーセント値など慣用句でないのにアラビア数字が使われている箇所があります。アラビア数字は縦組みの和文中ではすべて正立または縦中横です。
■記号類
記号類の中には説明の都合上、一部、本来の向きとは異なる向きで使われているものがありそうなので、注意が必要です。
正立:
©%†“”;:>—-–‐△
①②③④(箇条書き項目番号)
横倒し:
()「」『』—‐→:〈〉[]=…/÷
■データ
以下では、1文字ずつ正立する英数字を全角文字コードで表しています。[]内は注、[*]は後注です。
1.ラテンアルファベット
1.1 1文字ずつ正立(例)
B6、A5、JIS、FD・MO、DTP、aとd・o、bとf [p.26]、欧文のI・lの区別 [p.28]、小文字のaからzまでを並べた長さ[p.36]、MO(Magneto Optical Disk)[p.48、(内は横倒し)]、六〇〇dpi、WYSIWYG[p.147][*5]、CTF(Computer To Film)[p.158、()内は横倒し]、PS版(Pre-Sensitized plate)[p.161、()内は横倒し]、ページ記述言語(PDL、Page Description Language)[p.175、Page Description Languageは横倒し]
1.2 縦中横
なし
1.3 横倒し
copyright、x-height、a–z length (小文字のaからzまでを並べた長さ)[p.36、()内は1文字ずつ正立]、TeX、対話処理(WYSIWYG、What You See IS What You Get、)[p.50、横倒し欧文の区切りに、が使われている]、Rectos have odd numbers, versos even. (p. 144) [p. 51、オックスフォードルールの引用]、word間のword space [p.74]、Adobe AcrobatがPDF変換[PDFは正立]、言語はinkです。、lpi(lines per inchi)[p.167、全文字横倒し]、defact standard(事実上の標準)、長巻印刷(web)、tight back、hollow back、flexible backの訳語です。[p.200]、comprehensive layoutの略で
2.アラビア数字
2.1 正立(例)
B6、A5、第2版、JIS X 0208 7ビット及び8ビットの2バイト情報交換用符号化漢字集合、2004JIS、第3四半期、数字の1、6,7,8,9[p.35]、6—7ページ[p.87]、5%
2.2 縦中横
第22期国語審議会、78JIS、83JIS、90JIS、97JIS、97・11・22、18ポイント、10%の網[%は正立]、35ミリフィルム、135型[p.168]
2.3 横倒し
(p.144)[p.51、欧文の原著ページ参照]
3.記号
2.1 正立
©表示、何%[p.56[*1]]、例えば*、†など[p. 63]、“、”、;、:[以上p.82、[*2]]、小さく「>」を入れる[p.136、校正記号としての利用の説明]、一、ー、—、-、–、‐[p.140、イチ、オンビキ、全角ダーシュ、マイナス、ニ分ダーシュ、ハイフン。[*4]]、△で数字を囲みます、
①、②、③、④[p.62、箇条書き項目番号]が随所で使われています。
2.2 横倒し(右90度回転)
一‐一、(、)、「、」、『、』、10646‐1、「—」(全角ダーシュ)CD‐R、入力—編集(組版)—校正、入力機→編集機、四五—六十%[p.56、%は正立]、JIS X 4051:2004、〈、〉、[、]、[p.84、[*3]]、1ポイント=〇・三五二八ミリ、年月日……校了[p.143]、一二g/m2[p.180、単位は全体が横倒し、2は上付き]、ページ数÷全紙1枚で…[p.189、[*6]]、ラシャ紙:ラシャ紙、査定価格=一冊当たり生産原価÷〇・四で算出[p.232、[*7]]
[+記号は頻繁に現れるが、見掛けでは正立とも横倒しともいえない。]
■書籍情報
書名:「本づくりの常識・非常識」【第二版】
著者:野村 保惠
発行元:印刷学会出版部
発行年月:2007年9月25日第2版第1刷発行
ISBN:978-4-87085-189-4
[*1] 漢数字が原則のようだが、アラビア数字もかなり使われている。その多くはJIS規格番号などの固有名詞であったり、6ポイント、第3四半期のような慣用句であるが、しかし、10%などの数値もあり、完全に統一されているとはいえない。
[*2] パーセントは%のままでカタナカに展開していない。また、メートルもmになっている箇所がある[p.96]。しかし、センチメートル、キログラムはカタカナ表記している[p.194]ので、完全に統一されているとはいえない。
[*3] p.84
[*4] ここは記号の説明なので正立させているようだ。
[*5] WYSIWYGは正立と横倒しの両方があり不統一。
[*6] p.189ではブロック数式全体を横倒ししている。
[*7] p.232ではブロック数式全体を正立させている。
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