『たのしい編集』(和田文夫・大西美穂著、ガイア・オペレーションズ発行、2014年)
横127mm×高さ174mm(四六判の変形(?))、総頁数286、定価本体2,200円+税
35年に渡って本を編集してきたという和田さんが本づくりについてのアイデアやメモをまとめたものである。簡単なノウハウも含まれているので、同業者へのノウハウの開示にあたるが、むしろ後に続く若手に伝えておきたいメッセージをまとめたと解釈したい。
第一章 編集、第二章 DTP、第三章 校正、第四章 装丁、第五章 未来という構成になっており、幅広いテーマを扱っている。各章は2から6頁の短文をあつめており、短文ひとつひとつのテーマはエッセンスになっている。ブログ記事をあつめて本を作るのに近いかもしれない。全体として制作現場で本を形に作り上げるところに力点があるようだ。
各章の終わりにインタビューや参考図書の紹介があるなど、開始から終了まで一直線ではなく、回り道のある作り、雑誌的な作りになっている。全体をまっすぐ読むだけではなく拾い読みもできるし、肩がこらない。読んでいてたのしい本である。
また、和田さんは本づくりのたのしさということを繰り返し強調している。ご本人はもともと本を読むのが楽しく、その経験から出版の世界に入ったということなので、本そのものが好きで、また、ものを作ることも好きなのだろう。この本も自分の好きなように作ったようだ。なにしろ、たのしさのあふれた本である。
20世紀の終わり頃から、編集者がDTPを手にして自由な版面を作れるようになった、昔の活版や写植でレイアウトしようとすると、おそらく非常に手間がかかったであろうレイアウトをDTPを使えばいとも手軽にできる。「もうひとつの編集作業」(pp.98-102)では編集者がDTPをおこなう最大のメリットとして、「編集作業と密接に結びついた本づくりが可能になること」とあるが、本書の判型・版面・レイアウトから記事の構成まで、DTPによる手軽な版面作りの実践例でもある。
今後は、本のコンテンツはWebと競合する部分が増える。本という形態が存続するには、Webとの差別化が重大な課題になるだろう。そのためには、本書のように体裁にこだわって自分好みの本を作るというのはひとつの方策である。こういう方策は、自分で書いて、自分自身が発行元になっているからこそできることである。(読み返したらKindle Digital Publishing=電子本こそそうじゃないかと思いました! むむ。)
著者も電子書籍について、随所で言及しているが、「紙か、電子か」(pp.254-257)がそのまとめのようだ。この節の最後に「本とはパッケージにほかならない。」と断言した直後に「電子本の登場で、本という存在形式そのものへの再考が必要とされているのかもしれない。」という疑問を提示しているところに、著者の未来への迷いを感じる。