書籍制作Webサービス『CAS-UB』のブログとしてはオフ・トピックですが、先週、米国に出張した際、空港でのICTシステム導入展開に関して、興味深い事例に遭遇しましたので紹介します。2つの事例を目撃しただけですが、なんとなく革新的システムの展開に対する日米の取り組みに、文化の対照性を感じました。
1.航空会社のチェックイン・システム
最初の例は、航空会社のチェックイン・カウンターでの新システム配置の相違です。海外旅行に行かれる方は、既にご存知の通り、航空会社のチェックイン・システムは自動化が進んでいます。しかし、同じ航空会社の日米の空港チェックイン・カウンターで配備の仕方が対照的になっている例がありました。
a.成田空港
次の写真は、成田空港におけるアメリカン航空のチェックイン・カウンターです。各受付カウンターに、セルフチェックインのための装置が配備されています。すべてのカウンターには、従来通りのチェックイン受付担当者も配置されています。旅客は待ち行列に並びます。チェックインは空いたカウンターの担当者が行列の先頭から順番に一人ずつ呼んで処理します。セルフチェックイン装置のディスプレイ画面には、受付のための挨拶文が表示されているにも関わらず、誰もセルフチェックインの装置を使っていません。係員は、列を作ってチェックインを待っている人達に、セルフチェックインを案内しようともしていません。ここでは、折角のセルフチェックイン装置は全く実用に供されていません。
b.米国・フィラデルフィア空港
次の写真は、同じアメリカン航空のフィラデルフィア空港のチェックイン・カウンターです。セルフチェックイン装置だけの島があり、そこで(エコノミー客)全員がセルフチェックイン装置でチェックインするようになっています。セルフチェックイン装置をうまく使えない人もいるのですが、そういう人をアシストする係の人がいて、忙しく使い方を教えています。アシスト係りがあまりにも急いでいるので間違えそうで心配な位です。セルフチェックイン装置からは搭乗チケットだけでなく、預ける荷物につけるタグまでがプリントアウトされます。旅客は自分で荷物にタグまでつけてカウンターに出します。カウンターでは旅客の手荷物を受け入れるだけです。
フィラデルフィア空港のアメリカン航空チェックイン・カウンターの様子
《日米比較》
成田空港では、従来の方式と新ICTシステムを並行して動かしています。しかし、実際にはだれも新ICTシステムを使わず、新ICTシステムはほとんど飾りとなっているようです[1]。フィラデルフィア空港では全員が新ICTシステムを使います。
2.入国審査システム
次の例は、入国審査システムです。どうやら、日米でICTを使った自動化入国管理システムが展開されようとしているようです。このシステムの展開の仕方にも日米でやり方が対照的になっていました。(入国審査のエリアはおそらく撮影禁止と理解していて、写真を撮らなかったのが残念です。)
a.米国ダラス・フォートワース空港
米国は、毎年2回程度訪問しています。昨年はロスアンジェルス空港とワシントン・レーガン空港を利用しました。米国入国の際は、最初の到着空港で入国審査があります。これまではいつも長い審査待ち行列にうんざりしていました。
ところが、今回、ダラス・フォートワース空港に到着して、入国審査に向かって驚きました。ここではESTA登録者全員に対して自動化した入国審査を通るように誘導されていました。そこに並んでいるのは、航空会社のセルフチェックイン装置に似た端末です。旅客自身が空いている端末を見つけます。入国審査官の面接カウンターはまったくありません。
従来は、審査官が顔写真を撮影していました。しかし、今回の新システムはセルフ審査情報入力端末(勝手に命名しています)に向かってすべて自分で入力します(誰も面倒見てくれませんでした)。顔写真の撮影、指紋の採取も機械の指示によります。左右の指を画面に置くと採取ができたかどうか端末に表示されます。さらに、従来であれば、入国審査の後、荷物を取って、手書きで記入した関税申告用紙を提出していました。新システムでは、審査情報に加えて、関税申告書に手書きで記入する内容もディスプレイにタッチして入力します。すべての入力が終わるとレシートをプリントアウトします。
この効果はテキメンで、今回は審査待ち行列に並ぶ時間はほとんどなく、入国審査の所要時間はずっと早くなりました。ただし、ディスプレイの質問が全部英語でちゃんと英語の説明文を読んで回答しないとスムーズに通過できません。「例えば、果物を所有していますか?」という質問の回答は、Yesがデフォルトですが、しかし、(実際に、もっていないときは)Noを選択しないといけません。英語がわからないか、間違って、デフォルトのままYesで押してしまうと、すんなり通過できないようです。英語が読めないと要注意です。そのうち、質問が多言語化されればかなり効率が良くなりそうです。
入国審査のエリアを抜けて、荷物受取エリアに進むゲートに係官がいてセルフ審査情報入力端末からプリントアウトされたレシートをチェックしています。レシートでOKの人だけ次のエリアに進みます。NGの人は、別の審査窓口(たぶん面接係官のいる窓口)に回されます。みていると、かなり多くの人が別の窓口に振り分けられていました。別の窓口でどういうやり取りがなされているかは不明です。
b.成田空港
成田空港にも自動入国審査システムが配備されています。ここでは自動入国審査システムは審査官による審査のカウンター列の端の方に数台配置されています。これを使おうとして近寄ってみますと「利用するには事前に登録が必要です」と張り紙があります。残念ながら使えません。
私が見ていた5分程度で自動入国審査システムを使っているのは一人だけでした。残りのほとんどすべての人は従来通り、審査官のカウンターで入国手続きを済ませていました。
《日米比較》
日本では、従来の方式を優先し、新端末はお飾りになっています。米国ではすべての人にいきなり新端末を使わせています。習うより慣れろという感じです。
3.結論
この2つの事例には共通項があります。日本の空港でも米国の空港でも同じような新ICTシステムが配備されているにも関わらず:
・日本の空港では、新ICTシステムは従来の人によるカウンターの隣に補助的に用意されています。しかし、ほとんど実用に供されていません。
・米国の空港では、全員が新ICTシステムを使うように誘導されています。もちろん、上手く使えない人がいるわけですが、そういう人は、アシストする役割の人が配置されていて面倒を見てくれます。米国のやり方は、という方針になっているように思いました。
ここに、新システム展開に対する、日本の保守的態度、米国の革新態度の対照性を見たように感じます。e文書法などの導入が、岩盤規制で阻まれて、10年たってもほとんど進まないのと同様に、日本では、折角新ICTシステムを開発しても、現場ではお飾りとして棚上げしてしまい、従来の方法を変えようしていない、と言ったら言い過ぎでしょうか。
[1] もしかしたら、まだ新ICTシステムはまだ稼働していないのか、あるいは私がチェックインしたときは故障していたのかもしれませんが。しかし、電源の入っていない装置には使えない旨の張り紙がありましたので、他の装置は動いていたと思うのですが。