本の形を考える―段落と段落のスタイルを考える(草稿)

段落のスタイルについて検討します。

1. 目的

段落のスタイルでは、段落全体をどのような大きさで、どのような種類の文字(フォントファミリー)で、どのように配置するかなどを指定します。段落の配置において考慮することは、段落と段落の間をどの程度空けるか、段落の先頭をどのように処理するか、段落の行の左右字上げ・字下げ、揃え(中央・左右)、段落の先頭や末尾の行が次の頁に1行あるいは1文字だけはみ出したときにどうするかなどです。

XSL-FOやCSSのようなスタイルシートの仕様では、様々な段落スタイル指定機能があります。しかし、XSL-FOやCSSは、このスタイル指定機能をどのように使いこなすべきかということは決めていません。使いこなしはあくまで指定する側に委ねられています。

CAS-UBのような本を作るためのツールでは、適切な段落スタイルを簡単に指定できるようにするのが大切です。段落スタイルは本の種類や文章の内容によって変わります。そこで何種類かのスタイルを用途に応じて簡単に選択し、切り替えできると便利です。現在のところ段落スタイルの切り替え機能は不十分ですが、今後、これを強化していく予定です。

2. 段落とは

最初に段落とはなにかを簡単にまとめます。段落に相当する英語はパラグラフ(Paragraph)ですが、この文章では段落とパラグラフを同じ意味に使います[1]

文章の区切りを大きく分けると、①章のような大きな区切り、②節のような中程度の区切り、③段落のような小さ目の区切りに分かれます。野口[2]は文章を長さで分類するとパラグラフ、短文、長文、本の4種類になると言っています(p.87)。段落は文章を構成する基本単位であり、本のテキストは段落の集合です。段落よりも小さな単位に文・センテンス(sentence)があります。段落は意味をもつ最小単位であり、文は文法的な最小単位です。

野口[2]は段落は150字程度が良いといいます(pp.89-90)。木下[3]は、原則として一つの文だけからなるパラグラフは書くべきではないとして、パラグラフの長さには制限がないが敢えていえば200字~300字といいます(pp. 72-73)。1行40字のときは行数にして数行~7,8行程度になります。一般の書籍を見ますともっと長い段落も頻繁にでてきます。一つの段落で1,000字を超えることもあります(吉川[4] pp.68-70) 。

英語の文章のパラグラフの長さについて規定は見たことがありませんが、実際の書籍を見ますとかなり長いパラグラフが普通に出てきます。パラグラフの長い英語の本を日本語に翻訳するとき、もし英語のパラグラフをそのまま日本語の段落にすると1段落がかなり長くなるはずです。実際に、日本語の翻訳本を調べてみますと段落が長くなっている傾向があるようです。

段落の長さと段落のスタイルには関係あるかもしれません。

3. 段落の区切りの可視化

段落が文章の意味的な塊であるならば、その区切りが明確になる段落スタイルを採用すると文章の意味が判りやすくなります。段落のスタイルは、段落間の空きと段落の先頭処理によって規定できます。次に段落の区切りを判りやすくするためのスタイルを検討します。

3.1 改行で段落を区切ること
段落の区切りでは行を改めるのが一般的です。では行を改めれば段落の区切りかというとそうではなく、改行していても段落の区切りでないことがあります。次のような例があります。

(1) 用紙に印刷する場合、段落内で文字を配置していくとき、基本版面(テキスト印刷領域)の幅の終わりで改行します。このような自然改行は段落の終わりではありません。自然改行と段落の終わりが一致した場合、改行だけでは段落の区切りが分りません。
(2) 行を配置していくとき、段落の途中で基本版面の一番下の行の終わりに至ったとき、改行と改頁が同時に行われます。
(3) 段落の中にブロック数式などを置いたときは、ブロック数式の後で改行しますが、次の行は段落の続きになります。
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図1 野口悠紀雄『金融緩和で日本は破綻する』ダイヤモンド社 2013年発行 p.35

3.2 段落間の空き

改行のみでは段落を可視化するには不十分です。このため段落を可視化するには、①段落間の空きを段落内の行間よりも広くするか、②段落と段落の間の行間と段落内の行間を同じとし、3.3の段落の先頭処理と組み合わせた段落スタイルを使います。

英語の本では段落間の空きを広く取ることで段落の区切りを明確にするスタイルもよく見かけます。

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図2 Eliot Kimber “DITA for Practitioners” XML Press 2012

段落間の空きを通常の行間より広くするとき、その空き量をどの程度にするかは段落スタイルの選択となります。

Webページや電子メールのように画面に表示する文章は段落間を空けるスタイルが一般的です。しかし、印刷物の通常段落ではあまり推奨されていません[5]。印刷物ではページの区切りがあるため(3.1の(2)のようなケース)で段落の区切りか、段落内のページの区切りかを視覚的に区別しにくくなるからとのことです。

3.3 段落の先頭処理
日本語の文章では段落の終わりで改行した上で、次の段落の先頭を1文字下げるのが一般的です。

英語の文章では先頭の段落は字下げせず、次の段落以降を字下げすることが多いようです。
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図3 “The Chicago Manual of Style, 15th edition”

但し、日本語同様にすべての段落を字下げしている書籍もあります。字下げのことをインデント(indent)、段落の字下げを paragraph indentionまたはparagraph indentationといいますが、Paragraph Indentionのことは『Chicago Manual』15版には出てきません。Googleで検索してみますと、14版では記述があり、15版で削除されたとあります[6]

英語の文章の場合、ドロップキャップ(Drop Cap)という、先頭文字を大きく・飾り文字とすることで段落の区切りを明確にする方法があります。
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図4 Smithsonian Books “Nationnal Air and Space Museum, Third Edition” 2009

ドロップキャップはすべての段落の先頭ではなく、最初の段落の先頭文字に対する処理です。日本語でもそのような本を見かけますが、あまり読みやすいとは言えません。ドロップキャップは装飾の一種でしょう。

3.3 課題

(1) 本の中には2.段落で定義したような段落だけではなく、引用文、箇条書き、注釈のようないろいろな種類の文章がでてきます。このようなときスタイルの定義をどうすると良いか?
(2) 3.3により、特に英語の文章の場合、最初の段落とはどのような段落かを定義することが大事になります。

[1] 段落―Paragraphの長さは日本語と英語でかなり違うことがあるようです。もしかするとParagraphは野口・木下のいうことと違う場合があるのかもしれません。しかし、ここでは文章の書き方を検討するわけではありませんので、段落とParagraphの意味関係には深く立ち入りません。
[2] 野口悠紀雄『「超」文章法』中公新書 2010年
[3] 木下是雄『理科系の作文技術』中公新書 2011年
[4] 吉川浩満『理不尽な進化』朝日出版社 2014年
[5] The Chicago Manual of Style Online. “Manuscript Preparation” Web http://www.chicagomanualofstyle.org/qanda/data/faq/topics/ManuscriptPreparation/faq0065.html 2015年4月5日
[6] ask.metafilter.com. “No indentation of initial paragraphs?” May 18, 2005. Web. http://ask.metafilter.com/18872/No-indentation-of-initial-paragraphs 2015年4月5日

『たのしい編集』

『たのしい編集』(和田文夫・大西美穂著、ガイア・オペレーションズ発行、2014年)
横127mm×高さ174mm(四六判の変形(?))、総頁数286、定価本体2,200円+税

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35年に渡って本を編集してきたという和田さんが本づくりについてのアイデアやメモをまとめたものである。簡単なノウハウも含まれているので、同業者へのノウハウの開示にあたるが、むしろ後に続く若手に伝えておきたいメッセージをまとめたと解釈したい。

第一章 編集、第二章 DTP、第三章 校正、第四章 装丁、第五章 未来という構成になっており、幅広いテーマを扱っている。各章は2から6頁の短文をあつめており、短文ひとつひとつのテーマはエッセンスになっている。ブログ記事をあつめて本を作るのに近いかもしれない。全体として制作現場で本を形に作り上げるところに力点があるようだ。

各章の終わりにインタビューや参考図書の紹介があるなど、開始から終了まで一直線ではなく、回り道のある作り、雑誌的な作りになっている。全体をまっすぐ読むだけではなく拾い読みもできるし、肩がこらない。読んでいてたのしい本である。

また、和田さんは本づくりのたのしさということを繰り返し強調している。ご本人はもともと本を読むのが楽しく、その経験から出版の世界に入ったということなので、本そのものが好きで、また、ものを作ることも好きなのだろう。この本も自分の好きなように作ったようだ。なにしろ、たのしさのあふれた本である。

20世紀の終わり頃から、編集者がDTPを手にして自由な版面を作れるようになった、昔の活版や写植でレイアウトしようとすると、おそらく非常に手間がかかったであろうレイアウトをDTPを使えばいとも手軽にできる。「もうひとつの編集作業」(pp.98-102)では編集者がDTPをおこなう最大のメリットとして、「編集作業と密接に結びついた本づくりが可能になること」とあるが、本書の判型・版面・レイアウトから記事の構成まで、DTPによる手軽な版面作りの実践例でもある。

今後は、本のコンテンツはWebと競合する部分が増える。本という形態が存続するには、Webとの差別化が重大な課題になるだろう。そのためには、本書のように体裁にこだわって自分好みの本を作るというのはひとつの方策である。こういう方策は、自分で書いて、自分自身が発行元になっているからこそできることである。(読み返したらKindle Digital Publishing=電子本こそそうじゃないかと思いました! むむ。)

著者も電子書籍について、随所で言及しているが、「紙か、電子か」(pp.254-257)がそのまとめのようだ。この節の最後に「本とはパッケージにほかならない。」と断言した直後に「電子本の登場で、本という存在形式そのものへの再考が必要とされているのかもしれない。」という疑問を提示しているところに、著者の未来への迷いを感じる。

『専門家のための「本を書こう!」入門』

『専門家のための「本を書こう!」入門』(山内俊介著、遠見書房、2013年12月20日発行、四六判、145頁、1200円+税)[1]

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心と社会の学術書・専門書出版社の編集者による専門家向けの本の書き方に関するハウツー本である。この本の執筆の動機は「自分の会社に企画の持ち込みが増えないかなあ」ということのようなので、本書が想定する読者は潜在的な執筆者である。

つまり本書の想定する対象者は、専門家である著者(執筆者)。翻訳本を出したい訳者。共同執筆で本を作りたい人向け。プロのライターや作家ではなく、アマチュアの作家でもない。

2009年6月に発行のPDF版を紙版にしたものとのことである。同社のちらしを見るとPDF版は電子書籍のみ96頁1,000円となっている。PDF版をかなり加筆しているようだ。デジタルファーストの実践である。

本というのはひとつのパッケージであり、作るには結構時間とスキルを要する。専門職のライターでないが、その道の専門家といえる人たちが、そのパッケージをいかにしてつくりだすか? ということがこの本の主題である。

原稿の揃え方の観点で章立てをしている。

第1章、第2章 書き溜めた論文をまとめて本にする方法を説明
第3章 レジュメや講演・授業などのテープ音源があるとこ
第5章 教科書を作りたい
第6章 何人かで書きたい編集もの

のように分類して、かなり実務的な章を並べているのが、この本の特徴だ。全体的に本にするための原稿をどうやって用意するか、という点に力点がある。
特に、専門家対象なので過去に書き溜めた学術論文を整理して本にする方法を説明しているところが特徴である。

本書で強調されているのは、本を書くのは孤独でつらく、結構しんどい作業だということである。プロのライターや作家とは違って、自由になる時間が少ない専門家にとって、それなりのボリュームで内容をまとめる作業は大変なのだ。つまり本の価値はそんな風に思想や知識を絞り出し凝縮するところにあるといえるだろう。

「ですます」調で書かれており、ところどころ、ふまじめとも言えそうなかなり砕けたフレーズが出てくるところに身近さを感じる。

全体として本の頁数を原稿用紙の枚数を基準に計算しているところは、70年代から遅くても80年代の発想のように感じる。たぶん、90年代になったら原稿用紙に向かって原稿を書く人はいなくなっているのではないだろうか? 原稿を書くためのツールが進歩したのに、原稿のボリュームを測る尺度が旧来のままになっているアンバランスが面白い。

[1] 紙版にはノンブルがない。アマゾンの紹介文を見ると単行本(ソフトカバー): 145ページとなっている。