Page2012終了。いま、電子書籍制作のワークフロー論議をまとめると…

2月8日~10日池袋で開催されたPage 2012が終了しました。Page2012は印刷技術協会主催のイベントなので来場者は、印刷会社や制作会社が多く、書籍を作っている著者や出版社は比較的少ないようです。このためか、展示会の会場では電子書籍に関する製品やサービスは比較的少なかったように思います。

そういうなかで、この期間にワークフローについての話をいくつか聞き、印象に残りましたので少しまとめてみたいと思います。

1.スユアe-パブリシング研究会オープンフォーラムでのインプレスR&D 電子出版システム研究所 福浦一広氏の講演は、実際に、PDF、EPUBなどの電子書籍、POD(プリント・オン・デマンド)を採用した出版の新しいビジネスモデル構築に挑戦しているリアルな報告でたいへん触発されました。「最高!」です。以下は、概要です。

(1)OnDeckで行なっていること
・EPUBから自動変換で出版可能なPDFを作る
・記事単位で販売もする
・PODで紙版を販売する(在庫なしでAmazonの倉庫の中で印刷する方式)

(2)OnDeckの本当のイノベーションはデジタルファーストを実践している点であり、電子フォーマットを前提に作っていること。つまり、印刷出版物のデータを再利用していないことである。原稿に関しても、執筆者との間でマルチデバイス展開を合意済みになっていてコンテンツの再利用が可能になっている。

(3)印刷物から作るのではなくて、EPUBをDTPする方が話は簡単になる。記事はXHMLの集合として作り、EPUBにもKindleにもできるし、XHTML単位で再利用ができる。これをPDFにもできる。

(4)デジタルファーストを成功させるには、構造(XHML)とレイアウト(CSS)を完全分離して、XHTMLの中にスタイルを書かないことである。

(5)デジタルファーストは劇薬過ぎて出版社の社内で主張すると仲間はずれになる。しかし、出版業界は冷静に考えるとそうなるだろう。再利用可能な形式でコンテンツを作れば、手間もコストも削減できる。

(6)実はデジタルファーストはツールでしかなくて欠けているのはいいコンテンツなのだ。OnDeckの欠点は専門誌の範囲でしかなくて、まだ、万人には受けないことで、それを未来の出版のあり方とはいえない。デジタルファーストを浸透させるにはヒット作が必要である。

最後の「デジタルファーストを浸透させるにはヒット作が必要」というのはまさしくポイントをついた言葉だと思います。

2.ePubPubでのある出版社の電子書籍実践の話は、DTPから電子書籍を作ることを実践している現場の声で参考になりました。出版社の本作りは、現在、PTPで完成版を作り、そこから電子書籍展開するというワークフローが多いようです。DTPでは、以前は、スタイル機能を使わずにレイアウトをしていたため再利用がとても難しかったのですが、最近はスタイル機能を使うようになってきているので、電子書籍化がしやすくなっているという話でした。実は、プリントファーストでは電子書籍を作るのに苦労するという話と受け止めました。

3.デジタルファーストとは少し違いますが、類似の仕組みで目覚ましいコストダウンを実現した例としては、株式会社エヌ・エヌ・エーのWeb入稿によるニューズレター制作があります。昨年の12月に行なわれた「AH Formatter事例紹介セミナー」に詳しく報告されたものです。

※レジュメのPDFはこちらに公開されています:CSSレイアウトによる日刊情報誌「The Daily NNA」18 紙の制作

この仕組みを少し変えると直ちにデジタルファーストの仕組みを実現できます。
キーワードとしてコンテンツをXML特に「XHTML」で制作し、レイアウトをCSSで指定していることがあります。

現在、書籍の出版ではプリントを先に作って、これを頒布する方法で行なわれています。これを仮にプリントファーストと呼ぶと、図示してみると分かるとおり、プリントファーストとデジタルファーストは真っ向から対立する方法です。

プリントファーストでは、DTPによる「印刷用の版」を最初に作るのに対して、デジタルファーストのスタートラインは、「XHTML+CSS」となります。このXHTMLをどのように効率的に作るか成功の鍵です。以上は、制作ツールのレベルの話です。

さらに、デジタルファーストは出版販売までを統合した仕組みとして実現されることになります。そして、これが普及するための最重要要素は電子出版のための販売チャネルです。しかし日本ではこれが欠落しているためにまだ本格展開ができないという状態と思います。