自動組版の強化とデジタルファーストへの道程

「日本語組版処理の要件」が4月10日にプリントされた書籍として発行されました。この書籍の本文は、4月3日に公開されたWeb版(日本語版)と同等であり、Webコンテンツをほぼそのまま書籍化したデジタルファースト出版の事例になります。

デジタルファーストによる商業書籍出版においては、自動組版の技術が重要なポイントになると考えていますので、その観点で以下に少し説明をします。

ワークフローの概要はまえがきなどに述べられている通りで、本書のプリント版の本文すべてをAH Formatter V6による自動組版で制作しています。AH Formatterで日本語の書籍を制作して商業出版を行なった例は過去にも多々あります。しかし、大きなコンテンツの書籍をデジタルファーストで出版するのにAH Formatterを使用した事例としては初めてになります。

本書は図版の数が膨大であるという点で、DTPで制作するとしても相当作業量がかかるはずですが、これを著者グループが自動組版で行なったことで出版社の負担は非常に小さくなっているはずです。また、自動組版を使うことでWeb版の内容をフィックスしてから極めて短時間にプリント版を出すことができているという点、デジタルファーストからプリント版を制作するワークフローに自動組版を組み込むことの有効性を示すことができたと思います。

プリント版とWeb版では図版の精度が違っていたり、索引などWeb版にはない内容をプリント版では付け加えていますので、まったく同じコンテンツということでもないのですが、このあたりの詳細は、4月23日にJAGATで開催される「電子書籍と日本語組版『W3C技術ノート 日本語組版処理の要件』出版記念」セミナーでもプレゼンが予定されています。

テキストと図版が混在する文書で図版がページに入りきらない場合、図版の前で改ページしてしまうと、そのページのテキストの後ろ側に大きな空きスペースができます。Microsoft Wordなどで文書を編集する際も同じことが起きますので、経験している人は多いと思います。DTPでも同じですが、こうした空きをなくすために、対話型WYSIWYG編集ソフトをつかって著者やオペレータが画面を見ながら図版とテキストの位置を調整するのが普通です。このため図版の多い書籍の組版はテキスト主体の内容の組版と比べると大変です。

AH Formatter V6では、この図版位置調整の操作をプログラムで自動的に行なう機能を備えています。これによって、今回「日本語組版処理の要件」のプリント版制作では調整の手作業は大幅に減っています。

AH Formatter V6の自動図版位置調整機能は、米国内国歳入庁の案件(下記ケーススタディ参照)のために間に合うように実装したものですが、「日本語組版処理の要件」でも有効性を発揮しました。

但し、「日本語組版処理の要件」は横組みで脚注がない一段組みという比較的シンプルなページレイアウトの書籍です。これが縦組みや大量の脚注がある書籍は図版の位置調整はさらに難しくなります。現在、CAS-UBでさらに様々な書籍を制作しながら図版の位置を自動的に調整する方法の改良をつづけています。

また、図版の多い2段組文書としては論文があります。米国内国歳入庁の帳票は多段組みなのですが、比較的シンプルでした。これに対して、複雑な論文への応用という点では、JATS(Journal Article Tag Suite)で記述された論文の自動組版があります。アンテナハウスでは、フルJATSで記述された論文の組版のためのスタイルシートを開発しましたので、これについては、5月24日のJATS解説セミナー(JATSによる日本語学術論文の標準化と自動組版)にて公開し、オープンソースとして配布する予定です。

こうしたことを通じて、さまざまなレイアウト・タイプのプリント版を自動組版で簡単に制作できるようにすることで、デジタルファーストの普及への道を切り拓きたいと考えています。

*「電子書籍と日本語組版『W3C技術ノート 日本語組版処理の要件』出版記念」セミナー
*JATSによる日本語学術論文の標準化と自動組版セミナー
*日本語組版処理の要件(日本語版)W3C 技術ノート 2012年4月3日
*「W3C技術ノート日本語組版処理の要件 美しく読みやすい文字組版の基本ルール」W3C日本語組版タスクフォース 編
*IRS:アメリカ合衆国財務省:内国歳入庁(PDF)
*時代を乗り越える日本語組版
*Page2012終了。いま、電子書籍制作のワークフロー論議をまとめると…
*NLM DTDからJournal Article Tag Suiteへの進展:これまでの経過整理