「国際電子出版EXPO」最終日。本日も『簡単解説20ヶ条 消費税アップ ―その原則・特例と経過措置―』を配布します。

今日は、電子出版EXPO最終日です。

弊社ブースではCAS-UBという、電子書籍を編集・制作するWebサービスを中心に紹介していますが、今回はCAS-UBで制作したPDFを印刷・製本した紙版の『簡単解説20ヶ条 消費税アップ』という冊子(72ページ)を無償で配布しています。

「電子書籍のEXPOでなぜ、紙本を配布?」と疑問をもたれる方もいらっしゃいますので、簡単に説明させていただきます。

1.書籍の制作はInDesignがデファクト・スタンダードである。

1980年代にMacintoshと同時にDTP(デスクトップパブリッシング)が登場して30年弱を経過しました。DTPによって、印刷する書籍の制作フローは完全にそれ以前と変わってしまいました。

この間、主要なDTPソフトがいくつか現れましたが、現在は、アドビのInDesignが日本の書籍制作市場を席捲しています。

InDesignは、機能的には非常に優れたソフトのようです。操作の習得には若干のトレーニングが必要なようですが、アドビの上手なマーケティングに加えて、仕事が確保できるということで、InDesignを使える制作担当者は数多くなりました。

印刷会社への入稿もPDFのような標準形式で入稿するだけではなく、いまはInDesignのデータ入稿も一般的になっているようです。

このように最近の出版・印刷業界では、InDesingがデファクトになっています。

2.書籍の出版においては、すでに紙と電子(EPUB、Kindle)の同時発行が課題に

昨年前半位までは、電子書籍を発行すること自体が課題でした。

しかし、昨年後半からEPUBを中心とする電子書籍が売上に寄与し始めています。つまり電子書籍ビジネスが立ち上がっており、現在は、既に紙と電子(Kindle、EPUBが主流)を同時に刊行することが大きな課題になっているようです。

制作という面に限れば、InDesignのデータを速やかにEPUB化することがテーマとなっています。

しかし、InDesignは紙への印刷用データを作るために最適化されているため、InDesignデータをEPUB化するのは手間がかかってなかなか大変なようです。紙と電子の同時刊行を実現するには、短時間でEPUBを作る必要がありますが、レイアウト指定の方法によってはかなりの手間がかかり、コストも発生します。

これは、2013年現在の業界の大きな課題です。

解決策はいろいろあります。アドビはInDesignを機能アップしてEPUB書き出しの精度を上げようとしています。また、InDesignでのレイアウト指定の仕方を工夫してEPUB化の負荷を減らそうという試みもあります。

3.CAS-UBはもっと抜本的な解決策を提唱するものです。

2項の話は、従来のワークフロー、すなわち、まず、紙があり、次に電子、という順序を前提とし、その延長線上の話です。

しかし、いずれこの順序が逆転する日がやってくることになるでしょう。単純に、発行点数の伸び率だけから言ってもいつか逆転する日が来るはずです。

つまり、先に電子版をつくり、次に紙版を作る、いわゆるデジタルファーストというワークフローの時代が到来するはずです。

InDesignはデジタルファーストには適切なツールではありません。デジタルファーストを実践するにはツールの入れ替えが必須でしょう。

こうしたことを予測してCAS-UBはデジタルファースト時代のツールの王座を狙っています。

デジタルファーストの時代でも、紙の本は、引き続き、InDesignで作ることになるかもしれません。

しかし、電子書籍(EPUB版)と紙の本をワンストップで作り出すことができれば、飛躍的に便利になるはずです。

このためには、少なくとも現在、InDesignで作られているのと同じクオリティの紙版をCAS-UBで作り出せるようになる必要があります。また、これを多くの人にアピールする必要があります。

単純化した説明ですが、今回の国際電子出版EXPOにおいて、紙版の『簡単解説20ヶ条 消費税アップ』を配布している理由は以上のとおりです。

[1]国際電子出版EXPO。アンテナハウスのブースは、「26-51」です。どうぞお立ち寄りください。

CAS-UB V2.1リリース予定のご案内 ますます充実する電子書籍編集・生成機能

CAS-UBは12月20日木曜日の定期メンテナンスにて次の内容のバージョンアップを行なう予定です。このバージョンアップによって現在の出版物のデータには影響はありません。

1.編集機能の強化
・記事のタイトル(編集メニューの「タイトル」)、本文の見出し(’=’によってマークアップする見出し)、図・表のキャプションへのマークアップができるようになります。
・検索メニューに置換機能を追加します。
・表の埋め込み。XHTMLの表(table)を記事の中に埋め込むことができるようになります。
・履歴機能で、過去の二つの記事を比較する機能を正式サービスとします。(現在もメニューには表示されますが、正式機能ではありません。)

2.出版物の種類
・「ノート1」を正式サポート。ノート1は、表紙(カバーページ)や奥付のない簡単なレポート形式の文書用です。メルマガ変換を使った場合、出版物の種類はノート1になります。(出版物の種類は、作成後に変更もできます。)
・「マニュアル1」を正式サポート。マニュアル1は、ソフトウエアのメニューにあわせて深い階層構造の記事ツリーを作るための出版物クラスです。Windowsアプリケーション用のHTMLヘルプのソースファイルの生成にも使うことができます。

3.メルマガEPUB変換
・変換開始のメニューで設定できる項目にISBN、出版所、カバー画像などの項目を追加します。
・メルマガ変換の開始画面で設定できるメタ情報は次になる予定です。(図参照)

・出版物タイトル
・著者名
・ISBN
・発行所(会社名、住所、電話番号)
・発行所ロゴ

4.生成出力機能
(1) EPUB・Kindle
・出版物固有識別識別子にISBN、UUIDを追加。現在はTagURIですが、ISBN>UUID>TagURIの優先順位とします。
・カバー画像に任意のファイル名を指定可能とします。現在は、cover.*のみです。
・カバー画像が指定されていないとき、出版物の表題などから画像を自動生成します。
・カバーページ(カバー画像をXHTMLに指定したページ)とタイトルページ(現在の表紙)を分離して別々に指定可能とします。
・Kindleのmobiファイル生成を正式サポートします。

(2)PDF
・「ノート1」のPDFレイアウトをサポートします。
・ノート1ではカバーページがない代わりに、タイトルなどを集めた表題ブロックを作ります。2段組をサポートします。

(3)生成設定メニューの変更
・生成設定のメニューをより使いやすいメニュー項目と配置に変更します。

5.その他

○CAS-UBを使うことで、出版社の社内で制作した原稿から直ちにEPUBやKindleのmobi形式を作成できるようになります。さらに、これをPDFとしても出力ができるようになり、本格的なデジタルファーストの出版ができるようになります。ご期待ください。

□■□■□■□■□■□■ご案内□■□■□■□■□■□■

CASオンラインショップでCAS-UBのユーザー登録することで、誰でも30日間だけ無償でご利用いただくことができます。
CAS-UB評価ライセンス

自動組版の強化とデジタルファーストへの道程

「日本語組版処理の要件」が4月10日にプリントされた書籍として発行されました。この書籍の本文は、4月3日に公開されたWeb版(日本語版)と同等であり、Webコンテンツをほぼそのまま書籍化したデジタルファースト出版の事例になります。

デジタルファーストによる商業書籍出版においては、自動組版の技術が重要なポイントになると考えていますので、その観点で以下に少し説明をします。

ワークフローの概要はまえがきなどに述べられている通りで、本書のプリント版の本文すべてをAH Formatter V6による自動組版で制作しています。AH Formatterで日本語の書籍を制作して商業出版を行なった例は過去にも多々あります。しかし、大きなコンテンツの書籍をデジタルファーストで出版するのにAH Formatterを使用した事例としては初めてになります。

本書は図版の数が膨大であるという点で、DTPで制作するとしても相当作業量がかかるはずですが、これを著者グループが自動組版で行なったことで出版社の負担は非常に小さくなっているはずです。また、自動組版を使うことでWeb版の内容をフィックスしてから極めて短時間にプリント版を出すことができているという点、デジタルファーストからプリント版を制作するワークフローに自動組版を組み込むことの有効性を示すことができたと思います。

プリント版とWeb版では図版の精度が違っていたり、索引などWeb版にはない内容をプリント版では付け加えていますので、まったく同じコンテンツということでもないのですが、このあたりの詳細は、4月23日にJAGATで開催される「電子書籍と日本語組版『W3C技術ノート 日本語組版処理の要件』出版記念」セミナーでもプレゼンが予定されています。

テキストと図版が混在する文書で図版がページに入りきらない場合、図版の前で改ページしてしまうと、そのページのテキストの後ろ側に大きな空きスペースができます。Microsoft Wordなどで文書を編集する際も同じことが起きますので、経験している人は多いと思います。DTPでも同じですが、こうした空きをなくすために、対話型WYSIWYG編集ソフトをつかって著者やオペレータが画面を見ながら図版とテキストの位置を調整するのが普通です。このため図版の多い書籍の組版はテキスト主体の内容の組版と比べると大変です。

AH Formatter V6では、この図版位置調整の操作をプログラムで自動的に行なう機能を備えています。これによって、今回「日本語組版処理の要件」のプリント版制作では調整の手作業は大幅に減っています。

AH Formatter V6の自動図版位置調整機能は、米国内国歳入庁の案件(下記ケーススタディ参照)のために間に合うように実装したものですが、「日本語組版処理の要件」でも有効性を発揮しました。

但し、「日本語組版処理の要件」は横組みで脚注がない一段組みという比較的シンプルなページレイアウトの書籍です。これが縦組みや大量の脚注がある書籍は図版の位置調整はさらに難しくなります。現在、CAS-UBでさらに様々な書籍を制作しながら図版の位置を自動的に調整する方法の改良をつづけています。

また、図版の多い2段組文書としては論文があります。米国内国歳入庁の帳票は多段組みなのですが、比較的シンプルでした。これに対して、複雑な論文への応用という点では、JATS(Journal Article Tag Suite)で記述された論文の自動組版があります。アンテナハウスでは、フルJATSで記述された論文の組版のためのスタイルシートを開発しましたので、これについては、5月24日のJATS解説セミナー(JATSによる日本語学術論文の標準化と自動組版)にて公開し、オープンソースとして配布する予定です。

こうしたことを通じて、さまざまなレイアウト・タイプのプリント版を自動組版で簡単に制作できるようにすることで、デジタルファーストの普及への道を切り拓きたいと考えています。

*「電子書籍と日本語組版『W3C技術ノート 日本語組版処理の要件』出版記念」セミナー
*JATSによる日本語学術論文の標準化と自動組版セミナー
*日本語組版処理の要件(日本語版)W3C 技術ノート 2012年4月3日
*「W3C技術ノート日本語組版処理の要件 美しく読みやすい文字組版の基本ルール」W3C日本語組版タスクフォース 編
*IRS:アメリカ合衆国財務省:内国歳入庁(PDF)
*時代を乗り越える日本語組版
*Page2012終了。いま、電子書籍制作のワークフロー論議をまとめると…
*NLM DTDからJournal Article Tag Suiteへの進展:これまでの経過整理

学術情報誌の全文XML化はデジタルファーストへの転換の引き金

J-Stage新システム(J-Stage3)の開発が大詰めに来ている。次のJ-Stage新システムに関するWebページによると、4月から新システムの稼動予定となっており、その時点で学会誌などの受け入れは新しい方式に切り替わるようだ。

http://info.jstage.jst.go.jp/society/development/index.html

J-Stage3では、学会誌や予稿集の受け入れデータ形式が次の2種類となる。

  1. 書誌XML形式―①書誌抄録引用XML、②全文PDF、③全文テキストファイル、④その他(電子付録やグラフィカルアブストラクト等)を登録するもの。
  2. 全文XML形式―①全文XML、②全文PDF、③図、表、④その他(電子付録やグラフィカルアブストラクト等)を登録するもの。

全文XML化はまだ選択肢のひとつであるが、将来は全文XML化の方向へ進むものと期待されている。全文XML化になればHTMLをはじめとしてさまざまな出力形式に変換できる。例えば、EPUBなどの電子書籍形式に変換してスマートフォンなどの上で読むのも簡単にできる。J-Stage3でこうした可能性が視野に入ってきたといえる。

現在、学術情報誌の制作では、紙による出版に備えて論文PDFをまず制作し、そのデータからXMLを作るというワークフローが主流になっている。しかし、最初から論文を全文XMLでオーサリングすることができれば、XMLデータからPDFを自動生成することができる。もちろん、HTML・EPUBを同時に作ることもできるので、そうなると学術情報誌のビジネスモデルはデジタルデータを先に配信して紙はオプションというデジタルファーストに転換するだろう。こうしてみるとJ-Stage3で学術情報誌の全文XMLによる受け入れはプリントファーストからデジタルファーストへの転換の引き金である。

もっとも、英語圏では学術情報はデジタルファーストどころか、デジタルオンリーになってしまっているようなのでいまさら「引き金」といっても誰も驚かないかもしれない。

上述のシナリオが絵に描いた餅でないことを次に具体的に説明する。

J-Stage3のXMLはJATS0.4形式である。JATS0.4形式はNLM-DTD 3.1に相当するもので、米国のNISOで標準化が進んでいる。

詳しくは:NLM DTDからJournal Article Tag Suiteへの進展:これまでの経過整理

先のJ-Stage3の紹介ページにはサンプルの論文ファイルがある。

【資料3別紙】サンプルファイル(BIB, XML:BIB-J, XML:Full-J)

このサンプル論文ファイルは上記のNISOのページから提供されているXSLスタイルシートでHTMLとPDFに変換することができる。AH Formatterを使ってPDF変換を試してみた。

1.AH Formatterを起動して、①入力ファイルにJ-Stage3で提供しているサンプルXMLを指定し、②スタイルシートに、NISOのページから提供されているスタイルシートを指定する。

2.サンプルのJATS形式論文ファイルは次のように表示される。AH Formatter(スタンドアロン版)はこの画面からPDFを出力できる。

ここで使ったXSLスタイルシートはプレビュー用途として提供されているものなので簡潔なレイアウトになっている。このXSLスタイルシートを見栄えのする論文レイアウト出力に改造する作業は容易である。論文のレイアウトは学会誌によって若干違うので学会誌毎に用意することになる。

論文を最初からJATS形式で編集することができれば、このようにしてPDFを作ることができるので、DTPによるPDF制作は不要となる。但し、JATSをどうやってオーサリングするかという課題が残り、実はここが大きな壁なのである。

いつ、どこがこの壁を破って、プリントファーストからデジタルファーストへの引き金を引くのか、4月以降の動きから目を離せない。