JIS X4051で規定する縦組み時の字形と現実の書籍で使われている文字の向きの比較考証

「縦組みにおける記号の扱い―JIS X4051を検討して見えるもの」[1]で組版上特殊な役割をもつ文字が123文字あり、その中で、

1) 横書きと縦書きで字形が異なるもの:87文字
うち、①回転するもの41文字、②回転以外46文字。但し回転以外のうち41文字はこがきのかなとカタカナです。
2) 横書き専用:9文字
3) 縦書き専用:4文字

とされていることを説明しました。ここでは、実際にJIS X4051で指定されている字形と実際の書籍の印刷結果との関係をまとめます。

縦組み書籍20冊の頁(トータル4500頁前後)に出現する記号とその方向を調べてみた結果[2]のPDF:こちらに置きました

上のPDFのJIS X4051の欄では、JIS X4051で縦組み字形をコード表と同じ字形にしている文字に「U」、縦組み字形が右90度回転形になっている文字を「R」、字の形が変わるものを「T」、縦組みでは使わない文字を「N」と入力しています。JIS X4051の附属書に字形が出てこない文字は空白のままです。

【規則1】
JIS X4051定義文字の方向はそのまま、JIS X4051で規定されていない文字は正立(「U」)と仮定します。

【規則1の問題点】
そうしますと実際の書籍で使われている文字(主に記号類)と規則1の方向定義に大きな相違があるのは次の文字です。

①LESS THAN SIGN、EQUALS、GREATER THAN SIGN。特に等号(=)の向き。
等号の向きは大抵「R」(右90度回転)で出てきます。等号は「U」ではなく「R」とすると実際の縦組みでの使われ方に近くなります。

②全角のチルダの向きは規則1では「U」になります。一方、Wave記号(U+301C)の向きはJIS X4051で「T」になっています。「~」は正確には回転形印刷紙面で使われているのは全角チルダではなくて縦書きWave記号(U+301C)であるとすると問題ありません。縦組み書籍で使われている「~」は全角チルダではなくて縦書きWave記号(U+301C)であるとしています(9/17変更)。但し、Windows7のIMEで全角波形を入力するとチルダ(U+007E)に対応する全角文字コード(U+FF5E)が入力されてしまいます。このため全角チルダの向きを「U」、縦書きWeva記号を「T」とすると混乱が大きくなってしまうでしょう。両文字の向きは統一して「T」にしたいところです。

③右向き矢印(U+2192)の向きはJIS X4051では規定されていません。そこで規則1ではデフォルト方向は「U」となります。
しかし、実際には右向矢印は文脈的に文字の進行方向を示すことが多く、縦組みでは右90度回転していると想定するほうが素直です。つまり実際には「R」として使われていると考える方が自然ということになります。矢印は絶対方向を示すために使うことも相対方向を示すために使うことも可能ですが、相対方向を示すために使うとすると縦横自動切換えでは便利です。しかし、相対方向を示すというと混乱する可能性があります。「U」にすべきか「R」にすべきか悩ましいところです。

【まとめ】
UTR#50ではJIS X4051で縦組み字形が規定されている文字だけを縦組みのデフォルト方向として「R」または「T」を与えて、それ以外は全部デフォルト「U」にしてしまっても大むね問題は生じないように思います。このあたりはもう少し現実のデータで検証してみたいと考えています。

【注意事項】
・実際の書籍の文字は印刷された結果すなわちグリフイメージです。本調査ではグリフイメージから文字のコードポイントを推定していることになり、推定者に依存するため、必ずしも適切かどうかは保証できません。
・縦組みでは使わない文字が縦組みで使われているのは、意図的に間違った例としてあげていたり、もともと横書きの内容をあえて縦書きの行中に入れることがあるためです。こうした使い方に備えて強制的に方向を設定できることは必須です。

[1] 「縦組みにおける記号の扱い―JIS X4051を検討して見えるもの」
[2] Japanese Text, that is excluding western text. 対象は和文文脈のみ。長さには関係なく横倒し文脈の中の記号類は除外する。たとえば、数式(Z=14など)が全体として横倒しのときも除外。縦中横も除外する。L′(L Prime)は縦中横なのでこの場合のPrimeはUとはしない。-1を縦中横にしているときも同じで「-」は横書き中とみなすなどの前提を置く。