国立情報学研究所 電子図書館サービスを終了へ。電子版ジャーナル提供方法の再検討が必要に。

国立情報学研究所は、学術情報誌を電子化する電子図書館事業の終了を決定しました。

電子図書館(NII-ELS)の事業終了について

NII-ELSでは、学会・協会の論文誌(本文)を電子化しデータベースに蓄積するとともに、そのほかの論文の書誌などとともにデータベース化してCiNiiから公開するという事業を行なっています。現在までに428の学会の1400種類の雑誌の電子化を行い、CiNiiから提供しています。この事業が終了となります。

・電子化は、平成27(2015)年度末を目処に終了
・CiNiiから提供する場合、収入の一部が還元されているが、収入の還元制度は平成28(2016)年度末を目処に終了

NII-ELSが終了するに伴い、これまで同事業に参加して会誌の電子化と電子版の提供を行なってきた学会等は、今後の方針の再検討が必要です。

次のような選択肢があります。
・他のジャーナル・公開サイトへの移行
・自身のホームページでの提供
・機関レポジジトリーでの提供

今後1年半程度の期間での対応が必要です。

現在、日本における学術情報データベースは、国立情報学研究所のCiNiiと、科学技術振興機構(JST)のJ-STAGEの二つが並び立っています。しかし、国の支援は、今後J-STAGEに一本化されるため今回の決定に至ったとのことです。今回CiNiiは終了とされていませんが、いづれCiNiiの方も縮小に向かうのは避けられないでしょう。

アンテナハウスは、現在、学術情報をスマホ・タブレット向けにプッシュ方式により配信する学術情報配信システムを開発しております。情報の配信形式はPDFに加え、スマホやタブレットでの閲覧に向いたEPUB3形式にも対応しています。

また別途、PDFからEPUB3、Web(HTML)への変換なども簡単に行なえる仕組みを開発中です。NII-ELSの事業終了を受け、これらのサービスの提供開始時期を早めたいと考えております。

詳細は cas-info@antenna.co.jp までご連絡ください。

12月18日JEPAセミナー「電子書籍実務者は見た!」。泥臭い話の中から見える今後の方向

昨日のJEPAセミナー「電子書籍実務者は見た!」[1]は、電子書籍2.0を目指すために、現状を把握するという趣旨で捕らえると、大変に示唆に富む話が多くありました。やはり、現場をよく見て、問題点を把握し、その問題に応じて解決策を考えるということが重要です。ブログで、問題点や解決策までは踏み込むことは無理なのですが、とりあえず、セミナーの内容で感じたことをかいつまんでメモしておきます。

1.電子化

林氏の話。紙の出版のプロセスの中でデジタル化されている部分とデジタル化されていない部分が混在しています。その上に電子書籍のプロセスを載せると紙にくっつけた電子のプロセスになります。そうするとコストが2重にかかる部分が多く、却って生産性が落ちる部分があります。特に、校正の問題が大きいようです。

2.プリントファーストな組織

梅屋氏(SBクリエイティブ)は、年間480タイトル(月40タイトル)を電子版でリリースしているとのことです。SBクリエイティブの全体の組織の中での位置づけは、紙の本を電子化する担当です。底本とDTPデータが入力で、出力は、配信を受け持っているわけです。そうしますと、梅屋氏の立場では、入力と出力の間を効率化するかということが役割になっています。

3.クオリティの維持

梅屋氏は「単なる流し込みではクオリティが下がる。底本を参考にしつつ、できないことは省略して底本を再現したい。」と述べます。つまり紙と電子ではかなりクオリティの要求水準が異なるということです。

このほか、テキスト・リフローでは文字を追っていかないとクオリティが維持できず、複数の端末で確認することが大きな負担のようです。特に、テキスト・リフローのEPUBリーダーの表現力が不足しているとのことです。

4.ツールの使い方で解決する?

田嶋氏の話は、InDesignのDTPデータから電書を作るときに発生しやすい問題のことでした。

いろいろな具体例がありましたが、『InDesignでは印刷した誌面では見分けがつかないが、データの作り方には様々なバリエーションがあり、EPUBを作ろうとすると最後は眼で見て判断するしかない。InDesignはなんでも許す形で発展してきているので、いまから簡単に方向転換はできないだろう。』という趣旨の発言がありました。

そこで、これはInDesignで作業を始めるときに電子化をにらんで、予め注意しておくべきこととなるでしょう。印刷会社の中で閉じている場合は良いが、出来上がってしまったもの、誰が作ったのかわからないものを、広い範囲から受け入れる場合は難しいということになります。

5.EPUBのチェック

大江氏の話は、緊デジでリフロー型の電子書籍の受け入れチェックの話でした。

メタ情報の不整合があることが多いということが印象に残りました。

あとは、文字の範囲のチェックを行なって結果を可視化するのは面白いです。

単純作業に属するチェックを人間の手で行なうのはなく、チェックをワンストップで行なう機能をシステムに組み込むのは意味があります。

6.産業出版との相違点

安井氏の報告は、比較的小規模な産業出版での話しです。大規模な産業出版では、手作業では効率が悪すぎるということでDITAのような仕組みを使う方向で進んでいます。

産業出版と書籍出版との相違点は、産業出版は組織として推進し、権利が組織に帰属するのにたいして、書籍出版では個人の著者・編集者が主役となることでしょう。

ところで、安井氏のプレゼンで冒頭に、CAS-UBブログで紹介した画像[2]が投影されたのはちょっとびっくりしました。ブログの趣旨とは少々異なっていますが、これに関してFacebookでのコメント[3]がありましたので紹介します。

本セミナーは、プロ向けソリューションを提供するベンダーの立場としても大変参考になりました。最後に講師の皆様にお礼を申し上げます。

続編:紙と電子書籍の同時発売の実現への課題(メモ)

[1] http://www.epubcafe.jp/egls/epubseminar34
[2] 縦組みにおける章・節・項番号、図表番号、箇条書き番号の付け方について珍しい例
[3] 山本さんの感想ポスト (閲読者限定)
[3] 鎌田 幸雄さんの感想ポスト (閲読者限定)

CSSによる本作りの未来を占う―HTMLBookとはどのようなものか? 果たして普及するだろうか? 

最近、HTMLとCSSによる書籍制作が話題になっている。この話題を整理するとともに、この動きが大きな潮流になるかどうかを検討してみたい。未来がどうなるかを予測するのはなかなか難しいところだが、できるだけ論理的に考えてみよう。

まず、O’Reilly Mediaが提唱するHTMLBookを見てみよう。

1.HTMLを利用した書籍形式:HTMLBook

HTMLBookの仕様は次に公開されている。

HTMLBook

トップに「Let’s write books in HTML!」というスローガンがあるので名前のとおりHTMLで本を書いてみようということらしい。HTMLBookについて次のことを検討してみよう。

(1) HTMLBookとはどのようなものか? どうやってオーサリングするのだろうか?
(2) HTMLBookとほかのXMLドキュメント仕様との関係は?
(3) HTMLBookはPDFやEPUBとはどのような関係になるだろうか?
(4) HTMLBookはどのような分野で、どのように使われるだろうか? HTMLBookは普及するか?

2.HTMLBookとはどのようなものか? どうやってオーサリングするのだろうか?

2.1 HTMLBookの仕様

HTMLBookの仕様は現時点では作業ドラフトとされている。最新版は2013年8月付けである。

(1) HTMLBookは、HTML5のサブセットである。
(2) 技術書と参考書に使われる複雑な内容を含め、書籍の構造をあらわすように作られている。

HTMLBookの仕様

2013年8月版では次の要素が説明されている。HTML5をベースとするが、本を構成する部品はsectionを単位とし、部品の種類をdata-type属性で規定するのが特徴である。

(1)本を構成する部品
・Book 本 <body data-type="book">
・Chapter 章 <section data-type="chapter">
・Appendix 付録 <section data-type="appendix"> ほかに"afterword"がある。
・Bibliography 文献 <section data-type="bibliography">
・Glossary 用語 <section data-type="glossary">
・Preface 前書き <section data-type="preface"> ほかに"foreword", "introduction"がある。
・Frontmatter 前付け <section data-type="titlepage"> ほかに、"halftitlepage", "copyright-page", "dedication"がある。
・Backmatter 後付け <section data-type="colophon"> ほかに"acknowledgments", "afterword", "conclusion"がある。
・Part 部 <div data-type="part"> (章の親)
・Table of Contents 目次 <nav data-type="toc"> EPUB3のナビゲーション文書に準拠する。
・Index 索引 <section data-type="index"> EPUBの索引仕様準拠を推奨する。
・Sections 節 <section data-type="sect1"> "sect2", "sect3", "sect4", "sect5" は順に階層構造をなす。

(2)ブロック要素
・Paragraph 段落 <p>
・Sidebar サイドバー <aside data-type="sidebar">
・Admonitions 警告<div data-type="note"> ほかに、"warning"がある。
・Tables 表 <table>-<caption>-<colgroup>-<thead><tbody><tfoot>-<tr>-<th><td>
・Figure 図 <figure>-<figcaption>-<img>
・Examples 例 <div data-type="example">
・Code listings コードリスト <pre data-type="programlisting">
・Ordered lists 番号付きリスト <ol>-<li>
・Itemized lists 番号なしリスト <ul>-<li>
・Definition lists 定義リスト <dl>-<dt>
・Blockquote ブロック引用 <blockquote data-type="epigraph">
・Headings 見出し <h1>, <h2>, <h3>, <h4>, <h5>, <h6>
・Equation 数式 <div data-type="equation"> (MathMLを埋め込むことができる)

(3)インライン要素
・Emphasis 強調 <em>
・Strong 強い強調 <strong>
・Literal リテラル(インラインの整形済み) <code>
・汎用範囲指定 <span>
・Footnote, endnote 脚注・後注 <span data-type="footnote">
・Cross-references 参照 <a data-type="xref" href="#html5">
・Index Term 索引語 data-type="indexterm"; data-primary, data-secondary, data-tertiary; data-see, data-seealso; data-primary-sortas, data-secondary-sortas, data-tertiary-sortas
・Superscripts 上付き <sup>
・Subscripts 下付き <sub>

(4)対話
・Video ビデオ <video>
・Audio オーディオ <audio>
・Canvas キャンバス <canvas>

(5)メタデータ
・Metadata points メタデータ項目 <meta>: name, content

2.2 HTMLBookはAsciidocで記述できる

HTMLBookはどのようにオーサリングするのだろうか? HTMLBookはXSDスキーマが公開されているのでスキーマをサポートするXMLエディタを使えば、オーサリングは可能だろう。しかし、XMLエディタは一般の著者にはハードルが高い。

O’ReillyはAtlasという書籍編集制作サービスを運用している。Atlasでは当初Asciidocというテキスト形式で書籍をオーサリングするようになっていた。AsciidocとHTMLBookは一体どのような関係なのか?

Asciidocでは、コンテンツをテキストで執筆する。Asciidocはプレーンテキストに加えて、Wiki記法に似た簡易テキストマークアップ記法を使って、コンテンツにマークアップができる。画像やマルチメディアの埋め込みもできる。

Asciidocで1冊の本を執筆するときは、章などの単位でファイルを分けておき、ビルド用のファイル(book.asciidocなど)にinclude::[]マクロを記述することで1冊に統合する。

AscciidocをHTMLBookに変換するためのスクリプトが提供されている。こうしてみると、オーサリングは、Asciidocで行い、そこから変換することによってHTMLBookを生成するという想定のようだ。

asciidoctor-htmlbook

3.HTMLBookとほかのXMLドキュメント仕様の関係は?

3.1 DocBookをHTMLBookに変換できる

O’Reillyは、DocBookのサポートで有名であり、同社の書籍の多くはDocBookを利用して作成されていたようだ。GitHubには、DocBookをHTMLBookに変換するツールが公開されている。DocBookを使ってソースを編集した場合には、それをHTMLBookに変換することができる。

docbook2htmlbook

4.HTMLBookとPDF, EPUB, HTMLの関係は?

・HTMLBookのためのCSSテーマとして、“atlas_tech1c_theme” 、“atlas_trade_theme”が提供されている。CSSテーマは、EPUB、HTML、mobi、PDFの4種類がセットになっている。HTMLBookを、4つの媒体でできるだけ同じような見栄えで表示できるようなCSSが作成されている。

5.HTMLBookはどのような分野で使われるだろうか? 普及するだろうか?

以上から、HTMLBookは、本を直接オーサリングするというよりもむしろEPUB、mobi、HTML、PDFの形式で配布するための一種のハブ形式になっていると言ってよいだろう。原稿自体は、DocBookやAsciidocで記述して、それをHTMLBookを経由して配布形式にするという使い方が多いのではないだろうか。

・O’Reillyの説明にもあるとおり、HTMLBookは技術的な参考書を表現することをかなり意識している。しかし、書籍にはさまざまな種類がある。その中でどの程度の種類コンテンツを記述できるかは未知数である。このあたりは実際に使ってみないとわからないだろう。

・一般に、XMLなどのマークアップ言語を使ってドキュメントを執筆すると必ず出てくるのが、自分が書きたい・表現したいコンテンツをうまく表現できないということである。どうしても満足できない場合は、スキーマを独自拡張することになる。独自拡張はあまり望ましくないが、現実の問題としては、普及すればかならず独自拡張のニーズが生まれるものだ。HTMLBookが広く普及するには拡張を行なうための手続きやメカニズムが提供されている必要があるだろう。そしてユーザーによる拡張を標準に取り込むプロセスも欲しいところだ。

・HTMLBookが普及するかどうかは、周辺のツールやテーマの種類が増えるかどうか。また、それを利用する人たちのコミュニティが形成されるかどうか、が鍵になるだろう。まずは、O’Reilly以外に、これを採用するユーザーが出現するかどうか、に注目したい。

CAS電子出版 EPUB版2タイトルをiBookstoreから。『DITA CCMS調査報告2013』製本版アマゾンから。それぞれ販売開始。

『魔性のプレゼンテーション』を10/4 iBookstore(iTunestore)で販売開始したのに続いて、『転職の法律があなたを守る ―転職の法律36か条―』、『簡単解説20ヶ条 消費税アップ ―その原則・特例と経過措置―』も販売開始しました。

『転職の法律があなたを守る ―転職の法律36か条―』(EPUB版)280円(税込み)

『簡単解説20ヶ条 消費税率アップ』(EPUB版)360円(税込み)

『DITA CCMS調査報告2013』(印刷製本版)52,500円(税込み)

英国物理学会出版局の IOP ebooks 計画は、無償版eBookをHTML, PDF, EPUBで配信開始。

英国物理学会出版局(IOP Publishing)は、2013年10月のフランクフルト・ブックフェアでIOP ebooks計画に基づく本の配信を開始した。昨年のブックフェアにおいて、eブック分野の先駆的な出版社であるMorgan & Claypoolとの提携を発表し、その後1年かけて実際の出版計画を作り、本を制作した。

IOP ebooks計画は、eブックを主たる形式としてボーンデジタル方式による出版の可能性を追求する。主な特徴としては、

1)本とジャーナルの記事はIOPサイエンスと呼ぶ一箇所にまとめる。
2)本は章毎に分けて、HTML, PDFとEPUBの形式で出版する。
3)最終の原稿を入手してから4ヶ月で発行する。
4)本の章にはマルチメディアコンテンツを統合できる。
5)電子的な配信を念頭に置き、DRMフリーで配信する。

IOP ebookはExpanding PhysicsとConcise Physicsという2種類のシリーズからなる。Expanding Physicsは先駆的な研究者による、物理学と関係する領域に関する高度な教科書のシリーズ。Concise Physicsは、急速に進化する領域か、または入門的な教科書に焦点をあてた簡潔な本のシリーズ。

IOP ebooks

現在(10月10日の時点)で発行済みの書籍は、““Semiconductors”“Renewables”の2冊である。

この2冊の本は無料で配布している。IOP ebooksサイトよりWeb(HTML)、PDF、EPUBの形式ですべてをダウンロードすることができる。“Semiconductors”には数式が大量に使われている。EPUB版の中を確認すると数式はMathMLで表している。そしてMathJaxのJavaScriptをEPUBの中にMathJaxのプログラムを同梱している。JavaScriptを表示できるEPUBリーダーであれば数式を正しく表示できることになる。

eBookを新しく作って無料配布ではビジネスにならないだろうと思い、ブースにいた営業担当の人に聞いたところ、無償にするのはこの2タイトルだけとのこと。

2014年の発刊計画が公開されているが、それを見ると、Expanding Physicsが8タイトル、Concise Physicsが15タイトルの合計23タイトルになっている。このコレクションを、図書館や教育機関などの組織に対してまとめ売りをするとのこと。個人で買う人はあまり想定していないようだ。2014年コレクションのまとめ売り価格は3,337スターリング・ポンドで、コレクションを購入すると永久のアクセス権が付与される。

2015年の発刊計画は合計50タイトルで、2015年の価格は未定だそうです。

営業のことを考えると1タイトル単位で販売するよりも、コレクションとして販売するほうがやり易いと思いますが、果たして成功するかどうか?

ここフランクフルトブックフェアの会場では、デジタル時代に関わらず、紙の本を大量に陳列しているブースが多いが、IOPのブースは、紙の本は一切なく、期間中来場者にアルコールを振舞っていたのに注目した。

20131014