本のかたちを考える:四六判・基本版面の推奨値を検討する(案)

縦組書籍の判型の代表例は新書判と四六判です。今日はこの中の四六判の基本版面の推奨値を考えてみます。なお、今回は2段組を除外し、また脚注・頭注がある本も除きます。

前回[1]にも書きましたが、日本語組版における基本版面のパラメータは①文字のサイズ、②1行の文字数、③1頁の行数、④行間の4つです。

最近の四六判の基本版面の分布は以前に本ブログで紹介しました[2]。その後、追加調査した本を含めて四六判64冊の実態を整理してみます。

1.文字のサイズ
最小:8.8ポイント、最大:10.9ポイント、平均:9.4ポイント
文字サイズが9ポイント未満の本は珍しい存在ですが、今の時代では文字が小さすぎるとみられるのではないでしょうか。
10ポイント超も珍しい存在です。一般読者向けとしては、文字が大きすぎるでしょう。
推奨値としては9.0ポイント~10.0ポイントとします。

2.1行の文字数(字詰め)
最小:35文字、最大:46.0文字、平均:43.1文字
1行文字数は文字の大きさと余白の関係で決まりますが、9.0ポイント~10.0ポイントでは、40字~45文字が推奨となります。

3.1頁の行数
最小:15行、最大:21行、平均:17.8行
1頁15行の本はやや文字の並びが疎な印象があります。また、9.0ポイント以上では21行の本は無理があります。
16行~20行が推奨範囲となります。

4.行間(文字サイズに対する割合)
最小:50%、最大:92%、平均:67%
行間50%ですとルビがあるとき、ルビと左右の行がくっついてしまいます。
行間比率80%超の本はややスカスカな印象となります。
行間は55%~80%を推奨します。

5.1頁の文字数
1頁の文字数は、1行の文字数(字詰め)と1頁の行数の掛算となります。
実態としては最小:525文字、最大:900文字、平均:770.4文字です。
上の1~4の推奨値を組み合わせますと、
最小:40文字/行×16行=640文字
最大:45文字/行×20行=900文字
を推奨します。

基本版面としては次の5つを推奨パターンとします。

(1) 最小
640文字 40文字/行×16行 文字サイズ 9.8ポイント 行間比率70% 行間6.9ポイント(行送り16.7ポイント)
(2) 少なめ
714文字 42文字/行×17行 文字サイズ 9.6ポイント 行間比率68% 行間6.5ポイント(行送り16.1ポイント)
(3) 平均
774文字 43文字/行×18行 文字サイズ 9.4ポイント 行間比率66% 行間6.2ポイント(行送り15.6ポイント)
(4) 多め
836文字 44文字/行×19行 文字サイズ 9.2ポイント 行間比率64% 行間5.9ポイント(行送り15.1ポイント)
(5) 最大
900文字 45文字/行×20行 文字サイズ 9.0ポイント 行間比率62% 行間5.6ポイント(行送り14.6ポイント)

次に5つの推奨パターンによる組版例を示します。上から順に、最少、少なめ、平均、多め、最大です。
minimum
smalleraveragelargermax

実際にこの基本版面の設定で本を試作してみたいと思います。試作結果により最終的に決定します。

[1] 本のかたちを考える:基本版面のパラメータ設定の考え方を整理してみました
[2] 本のかたちを考える:(縦組・四六判)基本版面の分布実態、読み易い版面は?

本のかたちを考える:基本版面のパラメータ設定の考え方を整理してみました

紙の書籍で本文を配置する領域を基本版面[1]と言います。

基本版面の設定の考え方は次のようになります。

制約条件としては判型があります。判型により出来あがりの1頁の縦・横の寸法が決まります。

基本版面を設定するとき変更できるパラメータは、1段組では、①文字のサイズ、②1行の文字数、③1頁の行数、④行間の4つです。多段組を指定する場合は段数と段間の空きがパラメータに追加になります。

基本版面の設定値が適切かどうかを評価する尺度としては、編集者や制作者の立場では1頁に入る文字数が重要でしょう。読者の立場から見ますと読み易さが大事です。

1頁の文字数は尺度としては明快です。そして、例えば、1頁に入る文字数を多くするには、判型を大きくし、文字を小さくし、1行の文字数を多くし、行数を増やします。

一方、読み易さはやや曖昧です。読み易さを決める要因は、文字の大きさ、周囲の空きの量と、行間の空きの量が大事なように思います。周囲の余白が狭いと窮屈な感じになります。また、行間が狭いと、ルビや注の合印が行間に入らなかったり、あるいは重なったりします。

以上は、一見簡単そうですが、このパラメータの組み合わせは、無数になります。そしてこれらのパラメータのどれをどういう優先度で動かすべきかということが難しい問題です。

1頁の文字数を決める項目はすべて読み易さに影響を与えます。

たぶん総体的には次のような関係になるのでしょう。

20150722

この図は大雑把なものですので、今後、もう少し詰めていきたいと考えています。続きは「本のかたちを考える:四六判・基本版面の推奨値を検討する(案)」

[1] http://www.w3.org/TR/jlreq/ja/#elements_of_kihonhanmen
[2] 本のかたちを考える:縦書・新書判と四六判の版面パラメータの比較

本のかたちを考える:縦書・新書判と四六判の版面パラメータの比較

先日(5月19日)基本版面の実態として、縦書・四六判の基本版面で決まるパラメータの定義とその分布を紹介しました[1]。

今日は少し視点を変えて、縦書・新書判と四六判の版面パラメータの比較を紹介します。

次の図は、手元の縦書・新書判25冊と四六判53冊の各種パラメータの平均値を集計したものです[2]。

20150528

新書判は判型においては四六判の76%しかありませんが、1頁総文字数(行数×文字数)では四六判の87%となっており、文字数では接近していることがわかります。

①判の大きさ
新書判と四六判と言っても、出来上がりの判の大きさはそれぞれ少しずつ異なります。平均すると新書判は、高さで15.7mm、幅で21.8mm、四六判より小さくなっています。
判の頁面積では新書版は四六判の76%です。

②新書版の頁総文字数は647文字、四六判は741文字となり文字数においては87%となります。

新書版は上下・左右余白が小さく、文字の大きさも0.25ポイント小さい上に、行間が0.78ポイント狭くなっています。

新書判は限られた領域を有効につかう工夫がなされていると言えるでしょう。

[1] 本のかたちを考える:(縦組・四六判)基本版面の分布実態、読み易い版面は?
[2]この表の全体の列はあまり意味がありませんのでご注意ください。

本のかたちを考える:(縦組・四六判)基本版面の分布実態、読み易い版面は?

書籍の頁には周囲に余白があり、中央部に本文テキストが配置されます。本文テキストを配置する領域を版面と言います。柱・頁番号などは版面の外側に配置します[1]

書籍では何種類かの版面がありますが、本文テキストを配置する基本的な版面を基本版面と呼びます。基本版面で決まるパラメータには次の①~⑧にあげるものがあります。簡単に整理しますと、縦組の場合はそのパラメータの間に次の計算式が成り立ちます(横組については省略)。

①基本版面の高さ=文字の大きさ×字詰め[2]
②基本版面の幅=文字の大きさ×行数[3]+行間×(行数-1)

③行の高さ=文字の大きさ+行間
④行間比率=行間/文字の大きさ

⑤頁の高さ=基本版面の高さ+(上余白+下余白)
⑥頁の幅=基本版面の幅+(右余白+左余白)

⑦1頁の総文字数=字詰め×行数
⑧版面率(または版面面積率)=(基本版面の高さ×基本版面の幅)/(頁の高さ×頁の幅)

これらのパラメータは書籍の編集者が決めます。パラメータをどのように決めるかにはいろいろ考慮すべき要因があり、考え方についてのガイドブックなども多数あります。

基本版面のパラメータの値により、頁のレイアウト、ひいては読み易さも変わるはずですが、一般に市販されている書籍の基本版面の実態や、パラメータと読み易さの関係について統計的・科学的な資料はあまり見かけたことがありません。

そこで、最近刊行された書籍でこれらのパラメータの分布がどのようになっているかを調べてみました。

主に2000年以降に発行された縦組・四六判サイズの単行本についての結果をここに紹介します[4]

頁の大きさが決まっていて、文字の大きさや余白にも自然に最大・最小の値があります。従って各パラメータがとることのできる値の範囲には物理的な制約が生まれます。しかし、実際にその分布や組み合わせのパターンを見ますと、予想外にバラエティが大きいと思います。

アウトライン・フォントを使えば文字の拡大・縮小は自由自在です。またDTPや自動組版でパラメータを簡単に操作できますのでパラメータの組み合わせは非常に多様になります。もはや編集者が簡単な計算と経験・勘だけですべてのパラメータに渡る最適値を決めるのはかなり難しくなっていると思います。今後はオペレーションズ・リサーチのような工学的方法を使って最適解を求めることが必要になるかもしれません。

以下、個別に簡単に紹介します。

(1) 基本版面の幅は90mm~110mm、高さは132mm~152mmに跨って幅広く分布しています。基本版面の幅と高さは多様性があります。ということが判型が同じでも上下・左右の余白の取り方に幅が大きいと言えます。

基本版面の実態s1

(2) 1頁の文字数(頁総文字数)は525文字~882字に分布します。文字の大きさが小さいほど多くなる傾向があります。

スライド2

(3) 版面率は51%~63%にわたります。頁総文字数ほどの差はありません。

スライド3

(4) 字詰めは35文字~46文字です。実詰めと頁総文字数はかなり相関が大きいですが、次の行数ほどではありません。

スライド4

(5) 行数は15行~21行の範囲になります。行数と頁総文字数の関係は字詰めと頁総文字数よりも相関が大きく、頁の総文字数は行数で決まる傾向があります。

スライド5

(6) 字詰めと文字サイズは相関が大きい。基本版面の高さが一定ならば逆比例になるはずですが、完全な逆比例にはなっていません。余白で調整されています。

スライド7

(7) 字詰めが同じでも基本版面の高さにはかなり広がりがあります。これは字詰めが同じでも文字の大きさにバラエティがあるためです。

スライド8

(8) 行数と基本版面の幅は相関が大きいが、逆比例にはなっていない。行間、余白、文字の大きさといった他のパラメータで調整される。

スライド10

(9) 行数が増えれば行間は狭くなる。しかし、反比例ではない。文字の大きさや余白で調整されるからだろう。

スライド12

(10) 行数が多いほど文字サイズは小さくなる傾向があります。

スライド14

[1] 「日本語組版処理の要件」附属書G 用語集
[2] 1行の文字数をここでは字詰めと表現します。この式では文字は正方形であること、および、1段組を前提としています。
[3] 1頁の行数をここでは行数と表現します。頁全体を通じて文字の大きさや行間が固定値であることを前提としています。
[4] 私の本棚にある本ですので、どの程度、一般的かは不明です。また、一部、1990年代終わりに発行された本を含んでいます。これらの本はほとんどDTPでアウトラインフォントを使って作られているものと思います。
[5] 『本づくりの常識・非常識 第二版』(野村保惠、印刷学会出版部、2007年発行)の付録には、縦組み・四六判の字数でみて最大45文字・最少40字、行数でみて最大20行・最少14行の例が載っています。

この記事の続き
(1) 本のかたちを考える:基本版面のパラメータ設定の考え方を整理してみました
(2) 本のかたちを考える:四六判・基本版面の推奨値を検討する(案)

CAS-UBで作成したPDFとEPUBのサンプルファイル

CAS-UBで作成したPDFとEPUBのサンプルなどを紹介しています。

1.有償・無償で頒布の出版物

http://www.cas-ub.com/project/index.html

2.CAS-UB操作説明書

CAS-UBの操作説明書自体もCAS-UBで制作してEPUBとPDFにして公開しています。こちらからダウンロードしていただくことができます。

http://www.cas-ub.com/howto/support.html
※2014/9/13 「利用ガイド」のCAS-UB V2.2用を更新しました。

3.PDFとEPUBのサンプル

3.1 「電子書籍の時代」(サンプルテキスト)

3.2 「船中八策」(坂本 竜馬)
青空文庫より(図書カード:No.4254

(1) 縦組みEPUBとPDF

(2) 縦組みEPUBとPDF(画像中央配置のページを追加)

解説:「縦書き書籍(EPUB)で画像を左右中央配置するためのCAS-UBの指定方法

3.3 ランドマーク(Landmarks)を指定したEPUB3

ランドマーク関係は次をご参照ください。

3.4 SVGを直接spineに登録したサンプル

*SVG記事のサンプル:svg-entry-sample.epub

3.5 CAS-SUPPORTブログ記事のEPUB版

CAS-SUPPORTのブログ記事を月毎にWordPressからエクスポートしてCAS-UBでEPUB3にしてみました。ブログの月刊雑誌化!?です。
※WordPressの外部形式ファイル(WRX)インポート機能の利用例として

※2014/9/23リンク切れを訂正

4. CAS-UBによる数式の扱い

次はCAS-UBで数式を編集する方法に関する説明です。本機能は開発中であり、現在、アルファ版の段階です。今後、仕様を変更する可能性があることを予めご了承ください。

.CAS-UB で数式を使う方法について(開発中!暫定版)

5.CAS-UBで生成するPDFの基本版面のサンプル

http://www.cas-ub.com/samples/han-men-size.html

6. EPUB2段組

簡単な2段組のサンプル(EPUB3)

※iBooks(2.1.1)ではページ単位の2段組を正しく表示できません。上の簡単な例はファイルの最後まで2段組とした上で、2つのページに分割します(文字の大きさを変更するとわかります)。ページ単位で2段組にして欲しいところです。

7.CAS-UBのメルマガ変換を使って簡単な操作でメルマガをEPUBに!

メルマガテキスト(変換前)
メルマガから変換したEPUB(2014/9/23更新)
※本サンプルは「メルマガ変換」メニューの「メルマガ種別:メルマガT」の設定で変換できます。

8. EPUB Reader 評価用サンプル

2013/11/17