CAS-UBとO’Reilly Atlasの機能を比較してみた。

米国のO’Reilly Media社は、5月2日、非常に成功した出版関係のカンファレンスであるTools of Change for Publishingを終了して、出版のプラットフォーム事業を進めると発表した[1]。

そして、そのプラットフォーム事業の中核エンジンとしてAtlasを開発している[2]。Atlasはまだベータ版であるが、コンファレンスなどを通じて積極的なPR活動にのりだしている。

Atlasは、Webベースで本格的な書籍を執筆し、PDFとEPUB・mobiなどのマルチ形式で配布物を生成する機能をもっている。特に著者や編集者自身に執筆・編集してもらおうと考えているようである。このあたりのコンセプトは、CAS-UBとまったく同じである。

そこで、CAS-UBとAtlasの機能を比較して、概要を次表にまとめてみた[3]。

Atlasは記述形式の中核にAsciiDocを採用している。プログラムコードなどはAsciiDocをバイパスしてDocBookに直接取り込むことができる。AsciiDocは書籍構造をビルドインしている。これは簡単な英語版書籍の制作に向いている。こうした点で、書籍の編集と配布物の生成機能全般としては、現状ではおそらくCAS-UBの方が優れているように思うが、特にソーシャル連携などはAtlasにはCAS-UBが用意していない機能もある。

O’Reillyは、Atlasを出版事業の拡大の手段たるプラットフォームとして位置づけている。これに対し、CAS-UBは情報提供者へのサービスとして位置づけている。このように、現状ではAtlasとCAS-UBはポジショニングが異なり、直接競合するものではないが、今後、Atlasの良いところを研究してCAS-UBに取り込んでいきたいと考えている。

○CAS-UB vs Atlas

項目 CAS-UB Atlas
書籍フォーマット 出版物の種類&記事の種類を設定する。出版物の種類は、書籍1(日本語、英語)、書籍2(日本語)、ノート1(日本語、英語)、マニュアル1(日本語、英語)。 AsciiDocが基本。AsciiDocには一つの出版物種類(CAS-UBの「書籍1英語」に相当する)と記事の種類がビルドインされている。
マークアップ 各記事の内容はCAS記法で記述する。CAS記法はCreoleWiki標準を基本にして独自に拡張した簡易マークアップ記法である。 コンテンツのマークアップはWikiを拡張した簡易マークアップである。Markdownに近い。
バージョン管理 SVN。出版物を切り替える毎にSVNに保存してバージョン管理する。記事を保存する毎ではない。 Git。AsciiDocファイルをWikiインターフェイスで保存する毎にGitに記録してバージョン管理する。Gitに直接git push, git commitコマンドで登録もできる。
変更の追跡 更新ログ一覧と履歴メニュー 変更画面に変更点を表示する
配布物生成 生成メニューで対話的に条件設定して生成 配布物生成時に含めるファイル(AsciiDocテキスト)を指定する。
中間形式 独自XML(XHTMLに若干の属性を追加したもの) DocBook XML 4.5。生成時にAsciiDocからDocBookに変換する。なお、XMLマークアップしたフラグメントをDocBookに直接渡すこともできる。
出力フォーマット PDF, リフロー型EPUB2/3, 同mobi, Web, HTMLHelp PDF, リフロー型EPUB3, リフロー型mobi, Webブック
PDF生成エンジン AH Formatter V6.0 XSL-FO組版機能 AH Formatter V6.0 CSS組版機能
debug エラーメッセージベース。 toolを提供(?)。エラーログベース。
アカウントの開設 試用ライセンス(無償)と正式ライセンス(有償) O’Reillyか他の著者からの招待でアカウントを開設する
共同編集 出版物のオーナーが協力者を登録して共同編集できる。編集権限の設定ができる。 プロジェクトオーナーが協力者を招待して登録する。Atlasでプロジェクトを開始したら、直ぐに協力者を招待できる。編集権限の設定ができる。
執筆環境 CAS-UB上でブラウザで編集する。出版物の構成編集と記事編集の機能をもつ。構成編集は独自のインターフェイス。記事編集はフォーム上でテキストをCAS記法マークアップ入力である。 Atlas上のWiki編集インターフェイスまたはローカルPCで編集する。
ローカル編集 機能なし ローカル編集をするにはローカルPCにGitをインストールして、git cloneでAtlasからクローンを作成する必要がある。ローカル編集ではAsciiDocをテキスト・エディタで編集する。共同編集ではGitのコマンドを使って他の著者のデータとの調整を行なう。
図版挿入 編集画面で挿入位置にアップロードまたは図版を予めアップロードしておきリストから選択する。 図版をアップロードしておきイメージマネージャでサムネイルを選択する。
図版形式 SVG, PNG, GIF, JPEG 説明なし
コード記述 <pre>を使う。 コードのインライン書式記述機能やDocBookへのコードの直接取り込みなどがある。
数式 LaTeX, MathML, SVG(MathML, SVGはV2.2より) LaTeX
索引 CAS記法で単独索引、入れ子の索引、相互入れ子の索引を指定できる AsciiDocを独自拡張して索引機能を強化している。
メタデータ 出版物情報編集でDBに登録する。その中から指定した情報をPDFの奥付け、EPUBのメタデータなどに記録する。 オプションでbook-docinfo.xmlファイルを別途用意して追加する。copyrightページに記録する。
データインポート テキスト、Microsoft Word文書、PDF、WordPressのエクスポート(WXR)形式 説明なし
フィードバック cas-supportへのメールなど。FacebookにCAS-Clubを開設している。 GitHubとの親和性が高い。GitHub上にフォーラムがある。
読者からのフィードバック 機能なし Web版の本を公開できるChimeraサイトで読者からのフィードバックを得ることができる。コメント・調査・投票、Google Analyticsの利用ができる。
ソーシャル連携 機能なし ソーシャルサイドバーでChimeraのコメントの表示などができる。

[1] http://toc.oreilly.com/
[2] http://atlas.labs.oreilly.com/
[3] Atlasの機能は、O’Reilly Media「Getting Started with Atlas」Ninth Release 2013/5/29による。