CAS-UBによる本の制作工程: ECMJ流!  編集・制作作業の中途ふりかえり 

本企画の概要
目的
CAS電子出版の「ECMJ流!Eコマースを勝ち抜く原理原則 シリーズ」[1]は、ECマーケティング人財育成の石田社長が毎日書いているECMJブログ[2]を整理してプリントオンデマンド(POD)で本として出版するプロジェクトです。元のブログは2013年8月8日スタートから毎日更新されており、2016年6月18日に1000本に到達しています。POD本にする企画は2016年10月頃に決まり、現在は9月までの約1,100本を書籍の形式にすることに取り組んでいます。

Webページとして提供されているブログを原則として内容には手を加えずに、紙・電子書籍の形でも提供します。Webページは端末のディスプレイで読まれるものですので、POD本として紙にレイアウトした本とすることでディスプレイで読むよりは理解度が高まるでしょう。また、ブログの中で、飛び飛びに書かれている文章を一続きに整理することにも意味があると考えています。

ECMJ流! シリーズの構成

2016年9月までの1100本の記事はECMJサイトで大きくカテゴリーに分かれています(なお、このカテゴリーは2016年12月時点で刷新されましたので、現在は、当時とは異なっています。以下のカテゴリーは2016年11月時点のものです)。

編集・制作の工程
本書の編集・制作の流れは次のようになっています。

1.ブログ記事を仮に整理してPDFとして読む

(1) カテゴリーをベースにしてボリューム(巻)構成と章構成を仮に決めました。
(2) CAS-UBでは巻を1つの出版物として作成します。
(3) 各巻の章建てに従って、元のブログから記事毎にコピーして、CAS-UBにペーストして取り込みます[3]。元のブログ記事とCAS-UBの記事は1対1対応です。
(4) 各巻を仮に組版してPDFを作成、PDFをプリントアウトして目を通します。記事毎に何を言いたいかのポイントをEXCELに記入します。

2.ボリュームと章建ての見直し

前項のEXCEL表を見直し、記事の巻と章への割振を見直し、改めて各巻の章建てを決めました。

3. CAS-UBで、章建て-節建てを編集する

CAS-UBのアウトライン編集機能を使って、巻に章や節の追加をしたり、章や節の順番の入れ替えを行いました[4]。なお、巻の間の記事の入れ替えもあります。このときは、CAS-UBで2つの出版物を開いて行います。

20170113-outline

4. 各節の文章の編集

(1) ブログ特有の記述を書籍向けの記述に変更します。特に連載ものでは、ブログには「次回は」とか「前回はこちら」などのナビゲーション用リンクがあります。本にするときは続きものを連続して配置しています。本をページ順に読み進めてもらえば上述のナビゲーションは必要ありません。紙の本として違和感を感じないように、ブログ特有の書き方に関する部分はできるだけ無くします。
(2) 用字・用語の統一をします。用字用語は主に講談社発行『日本語の正しい表記と用語の辞典』を参考にしながら独自の規則も作成してエクセル表にまとめて処理しました。
(3) そのほか、各社のサービスの名前などを確認して正式表記に変更するなどの編集を行います。

5.POD本の本体版面

アマゾンのPODはページ当たりの印刷コストが2.5円であり、インクでの印刷と比べて高いため、ページ数の増加が販売単価アップに直結します。そこで、ページ数を減らすために判型を大きくしたいのですが、大きいと手にとってみたりするとき扱いにくくなります。扱い易さを考えると判型はB5判が上限ではないでしょうか。

小さくてハンディな判型とする方が持ち運びやすくて親しみ易いでしょう。しかし、小さくすると総ページ数が増えます。

本シリーズはそのバランスを考えて、1つ下のA5判に設定ししました。

縦組か横組かは迷うところです。一般に日本語の文章は縦組の方が読み易いでしょう、しかし、ブログ原文にはアラビア数字やアルファベットがかなり出てきます。また内容的にもビジネス書ということで横組としました。

PDFの版面は最終的に次のようになりました。なお、この版面レイアウトは一番最初に決めました。

・B5判
・横組二段組。章見出しは段抜き
・文字のサイズ 本文9ポイント。行送り15ポイント
・1行の文字数38。段間2文字(段内文字数:18文字/行)
・1頁の行数:33文字(1188文字/頁)

さらに1ページに出来るだけ多くの文字数を収録することができるように、文字サイズを9ポイントを小さめにします。二段組としたのは文字が小さめで、1行の文字数が多いので読み手が文字を追いかけるのに負担を感じないようにしたためです。

このレイアウトでは本文の先頭ページは次のようになります。

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6.索引作り

本書の成り立ちはブログのため、同じようなテーマの文章が随所に現れます。本文を読み進める過程で、あとで振り返って確認したい用語などが出てくることがあります。そこで索引から内容を見つけられるようにする、ということが重要です。索引作りにつきましては、ブログで紹介しています。本書の索引作りについては、別途、紹介しました[5]

7. タイトル・副題の決定、ISBN

・書名(タイトル)、副題、ISBNなど書誌情報を決定して設定します。
・著者名、著者のプロフィール、発行元情報などはシリーズ共通です。
・CAS-UBでは共通項は新しい出版物作成のときに、著者名、著者プロフィール、版面レイアウト設定などは、既存の出版物の設定をコピーできますので新しく入力する必要はありません。最初の出版物で共通項を決めておくと効率が上がります。

8.タイトルページ・前書・目次・奥付

・タイトルページはカバーを開いたときの最初のページです。ノンブルは振られませんが総ページ数にはカウントします。タイトルページはCAS-UBで自動的に作成できますが、PODに出すPDFはタイトルページをデザインしたものに差し替えています。なお、タイトルページは必須ではありませんが、タイトルページがないと表紙を捲ると前書になりますのであった方が良いでしょう。
・前書は目次の前に配置します[6]
・目次は本文の章タイトルのみから作成します。章と節を目次にすることもできますが、本シリーズはブログの1記事を節にしているため節も目次項目とすると、目次の項目数が多くなりすぎます。
・章の番号は自動的に設定します。
・総ページ数が奇数になった場合、改丁を改ページに変更し、偶数にする調整を行います(必須ではありませんが、奇数ページでは無駄な空白ページが追加されるのでこれを避けるため)[6]

9. POD用PDFの生成

POD用PDFは5項のPDFの生成設定を元に「POD用PDF」ボタンで設定を作って保存するだけです。

10. カバーの完成

POD本では表ー背-裏に跨がって包むカバーが必要です。これは別途PDFを作成します。

次は第4巻のカバーの例です。
20170113-cover

11. POD登録データの作成

POD取次に提出する登録データ(エクセル表)を作成します。
特に重要なのは、次のことです。
・販売価格
・宣伝文

12.POD登録

POD取次に本体PDF、カバーのPDF、POD登録データ(エクセル表)を提出します。

13.EPUB生成

CAS-UBではEPUB生成のホタンがあり、そこでEPUB生成の設定を指定してEPUBを生成します。Kindleのmobi形式を作ることもできます。これも最初の出版物で決めておけば2冊目から同じ設定でEPUBを作れます。

14.Kindle登録

できあがったEPUBまたはmobiをAmazon KDPに登録します。
KDPでは、セレクト(Kindle独占、ロイヤリィティ70%)を選択するか、非独占(35%)にするかを選択します。
セレクトを選択すると自動的にKindleアンリミテッドの対象となります。
セレクトの期間は3ヶ月間でその間は変更できません。デフォルト(既定値)では自動延長になっていますので注意してください。

まとめ

振り返ってみますと、CAS-UBを使えば、ECMJ流!シリーズのような簡単なレイアウトであれば、POD用PDFの生成と、Kindle用EPUBまたはmobiの作成はほとんど手間がかかりません。

生産性を上げるとしますと1~4項となります。これは結構労働集約的なので、今後、ソフトウェアによる支援を検討しないといけない工程です。

参考資料
[1] ECMJ流! Eコマースを勝ち抜く原理原則 シリーズ
[2] 株式会社ECマーケティング人財育成
[3] 取り込みの様子例を説明する動画を作りました:
ブログの記事を出版物の記事にする(タイトル、本文をコピー、本文に見出し)
ブログの記事を出版物にコピペ。見出し・箇条書きのマークアップ。段落先頭の空白を削除)
[4] アウトラインの編集例を説明する動画を作りました:
章の最後に、新しい記事で節を追加し、節の位置を移動する
節の直後に新しい節(3本)を挿入、ブログの記事をコピー&ペーストする
[5] 索引作りの説明
索引論再訪ー索引の目的とは。索引をどうやってつくるか?
索引の作り方を考える。一歩進んで、本文に出てこない索引語や、索引語の階層化の試み。
[6] 前書をWordで作って追加する例を説明する動画を作りました:本文と目次の前に前書を追加。Word文書で作成した「前書」を追加する
[7] 索引を改丁から改ページに変更する例の動画を作りました:PDFの総ページ数が奇数となった。索引が改丁で開始・前に空白頁があるので、索引の開始を改丁から改頁に変更する

『編集者の仕事』

『編集者の仕事』(柴田 光滋著、新潮新書、2010年発行)
新書版、208頁、定価700円+税

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著者の柴田さんは新潮社で40年間編集経験をもつという方。本書は大学の講座での授業経験から生まれたとのこと、初心者向けにやさしく書かれている。実際に編集に携わる人へのマニュアルではなく、編集の仕事について一般教養レベルでの説明である。

本文は5部からなる。
Ⅰ 本とはモノである
Ⅱ 編集の魂は細部に宿る
Ⅲ 活字は今も生きている
Ⅳ 見える装幀・見えない装幀
Ⅴ 思い出の本から

Ⅰでは、本作りはモノを作る作業であることを、繰り返し説く。

書籍は「心得のある編集者が丁寧に作業した本か、技量のない編集者が適当にやった本かは歴然としている」(p.16)

読みやすく、心地よく頁を繰れる本が良いと言い、具体的な作りの良しあしとして次の点を例に挙げている(pp.15-23)。
・スピン(リボン)がある
・開きが良い、あるいはのど側の余白がある
・目次が内容を伝える
・目次の体裁が良い―書体や行間のバランス

テキスト(原稿)は一次元、本は三次元。本からテキストを抽象的に取り出すのは間違い(p.30)。
モノなので細部までちゃんと仕立てないといけない(p.24)。
書籍の編集はどこかで職人仕事に近い(p.31)。
本は工業生産品ではない(p.31)。

Ⅱは、本文の体裁を中心にしており、技術的な細かい説明もある

個人的には、書籍の編集に関して、微妙なところで用語や仕様が標準化されていないように感じている。本書を見ていくつか新しく理解したこともある。

例えば、四六判は127mm×188mmが標準とされているが、実際の本をモノサシで測ってみると数ミリの相違がある。どうやら製造の誤差だけではないようだ。本書によると、四六判は出版社によってサイズが微妙に異なるということで、柴田さんが長年手掛けてきたのは、130mm×191mmで新潮四六判といい、本文の行数を増やしたい時、ぎりぎりで133mm×191mmも可能(p.43)だそうだ。

実際の本ではいろいろな場所にいろいろな扉が使われている。一方、最近はEPUBの仕様書(英文)にもNaka-Tobiraという用語が登場している[1]。W3Cの文書でもNaka-Tobiraという言葉が、英語で随所に出てきている。おそらく、『日本語組版処理の要件』の影響だろう。

しかし、中扉は特に用語として不統一と感じており気持ちが悪い。つまり、①1冊の本が幾つかに分かれる時に挿入する表題を扉の形式で入れるという説明([2])と、②本文が始まる前に書名を掲げる扉という説明が二つみられる。本書では扉については次のような説明がなされている(pp.57-59)。

・別紙の本扉:書名を記した別紙。別丁扉ともいう。目次の前にある。単行本にある。
・本文紙の本扉:本文紙の最初(1頁目)の扉
・目次扉:目次が2頁以上になる場合は、目次扉を付けるのが一般的。「目次」ないし「書名+目次」を記す。
・中扉:書名を記した扉。目次の後に出てくる。本扉の繰り返しに近い。
・題扉または章扉:章題または短編集の作品名。見出しが独立したもの。

目次扉とか、題扉という用語は、あまり他で見かけたことがなかったのだが、これらは、そのままで意味が通じる・分かりやすい用語なのでもっと普及して欲しいものだ。

[1] EPUB 3.0.1 Changes from EPUB 3.0 2.11 The rendition:align-x-center propertyにThis property was added primarily to handle the problem of Naka-Tobira.とある。
[2] デジタル大辞泉の解説日本語組版処理の要件(日本語版)もこの解釈。

〇JIS X4051の中扉の定義は「書籍の内容が大きく区分される場合に、その内容の区切りを明らかにするために本文中に挿入する」(91)とある。本文の定義をみると、本文は「書籍を構成する主要部分。通常、その前には前付けがつき、その後ろには後付けがつく」(117)とある。従って、JIS X4051では、本文と前付けの間にはいる扉は、中扉ではないということになるだろう。

〇日本語組版処理の要件(日本語版)は、「中扉は,書籍の内容を大きく区分する場合に用いる.標題のために1ページを用い(改丁とする),裏面は白ページにする.」(4.1.1 見出しの種類)とある。ここはJIS X4051と同じだが、その後ろに「大きく内容を区切る要素がない場合は,前付の直後,つまり本文の先頭に書名を中扉として掲げることもよく行われている.」とあって曖昧にしている。

しかし、実際の本を調べると、書名を記した中扉と部または章扉が両方ある本も見つかる。また、章扉の裏に章の本文を入れている本もある。こうしてみると柴田さんのように中扉は本扉の繰り返しとし、題扉・章扉は部や章の表題(見出し)のスタイルの一種と考える方が良いのではないだろうか。このあたりは、実態と要求仕様のかい離が大きいように感じる。

『たのしい編集』

『たのしい編集』(和田文夫・大西美穂著、ガイア・オペレーションズ発行、2014年)
横127mm×高さ174mm(四六判の変形(?))、総頁数286、定価本体2,200円+税

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35年に渡って本を編集してきたという和田さんが本づくりについてのアイデアやメモをまとめたものである。簡単なノウハウも含まれているので、同業者へのノウハウの開示にあたるが、むしろ後に続く若手に伝えておきたいメッセージをまとめたと解釈したい。

第一章 編集、第二章 DTP、第三章 校正、第四章 装丁、第五章 未来という構成になっており、幅広いテーマを扱っている。各章は2から6頁の短文をあつめており、短文ひとつひとつのテーマはエッセンスになっている。ブログ記事をあつめて本を作るのに近いかもしれない。全体として制作現場で本を形に作り上げるところに力点があるようだ。

各章の終わりにインタビューや参考図書の紹介があるなど、開始から終了まで一直線ではなく、回り道のある作り、雑誌的な作りになっている。全体をまっすぐ読むだけではなく拾い読みもできるし、肩がこらない。読んでいてたのしい本である。

また、和田さんは本づくりのたのしさということを繰り返し強調している。ご本人はもともと本を読むのが楽しく、その経験から出版の世界に入ったということなので、本そのものが好きで、また、ものを作ることも好きなのだろう。この本も自分の好きなように作ったようだ。なにしろ、たのしさのあふれた本である。

20世紀の終わり頃から、編集者がDTPを手にして自由な版面を作れるようになった、昔の活版や写植でレイアウトしようとすると、おそらく非常に手間がかかったであろうレイアウトをDTPを使えばいとも手軽にできる。「もうひとつの編集作業」(pp.98-102)では編集者がDTPをおこなう最大のメリットとして、「編集作業と密接に結びついた本づくりが可能になること」とあるが、本書の判型・版面・レイアウトから記事の構成まで、DTPによる手軽な版面作りの実践例でもある。

今後は、本のコンテンツはWebと競合する部分が増える。本という形態が存続するには、Webとの差別化が重大な課題になるだろう。そのためには、本書のように体裁にこだわって自分好みの本を作るというのはひとつの方策である。こういう方策は、自分で書いて、自分自身が発行元になっているからこそできることである。(読み返したらKindle Digital Publishing=電子本こそそうじゃないかと思いました! むむ。)

著者も電子書籍について、随所で言及しているが、「紙か、電子か」(pp.254-257)がそのまとめのようだ。この節の最後に「本とはパッケージにほかならない。」と断言した直後に「電子本の登場で、本という存在形式そのものへの再考が必要とされているのかもしれない。」という疑問を提示しているところに、著者の未来への迷いを感じる。