CAS-UB、5月16日のアップデートで「Word変換」メニューを追加します。

CAS-UBは、毎週、定期メンテナンスで小さな機能強化と障害の修正を行なっています。今週は、特別に、少し大きな機能追加として「Word変換」メニューを公開する予定です。

CAS-UBの通常の編集手続きでWordからEPUBを作るときは、①出版物を作成→②Word文書をアップロード→③EPUBを生成という流れです。①~③の各ステップでさまざまな変換条件の詳細設定が必要です。

新しく追加する「Word変換」メニューでは、最低限必要な設定を一枚のパネルで一括設定して、一気にEPUBを出力することができます。

これで飛躍的に設定の手間が少なくなります。さらに、詳細な設定をしたい場合は、設定済みの雛形文書を別に用意して、その雛形の設定を継承することができます。

CAS-UBにログインするとホーム画面(出版物一覧)を表示しますが、ここに「Word変換」が追加になります。

Word変換をクリックしていただきますと、次の画面となります。

この画面で必要な項目を設定して、あとは「WordをEPUB変換に」ボタンを押すだけで、自動的にEPUBを出力できます。

変換の仕様につきましては、5月16日のアップデートでは従来通りです。今後、さらに変換機能を強化する予定です。

なお、変換で作られた出版物はクラウドサーバ上に保存されますので、通常のとおりCAS-UBで編集することができます。

紀伊國屋書店新宿本店の歴史と文化について

昨日(5月10日)は、第33回 高円寺純情出版界での永江朗氏の講演に参加して、著書の「新宿で85年、本を売るということ」(メディアファクトリー新書 2013年2月発行 222頁)を購入しました。著者の講演を聞く機会がなければ読むこともなかったかもしれません。イベントも本との出合いに役立ちます。

早速一読してみましたので簡単に内容を紹介します。本書の3分の1以上は、紀伊國屋書店の創業者である田辺茂一氏のことですが、本書を読むと紀伊國屋書店新宿本店はまさに創業者の個性によって形作られたものであることがわかります。

田辺家は江戸時代に紀州から出てきた家柄で、茂一氏の祖父は新宿で材木商を営んでいたということです。新宿駅は日本どころか世界でももっとも乗降客数が多いのですが、新宿駅から100mの位置に自前の土地をもち、そこに本店があるという立地条件は草創期の紀伊國屋にとっての天の恵みともいえます。著者の永江さんが講演会で何度も口にされていましたが、書店経営は「取次から仕入れて売って、家賃を払っているのでは成り立たない。」のだそうですから。

ライバル店と比べると、草創期は圧倒的に有利だったわけですが、紀伊國屋が、新宿本店だけでなく、日本全国、海外にも店舗を有する大書店になったのはそれだけではありません。これは、第2代の社長となった松原治氏の力によるところが多いようです。「夜の市長」とまで言われた茂一氏でしたが、松原氏によると茂一氏は「天衣無縫で私利私欲がない」ので働きやすかったのでしょう。

著者によると、洋書の扱いと大学への外販のふたつが紀伊國屋の成長の牽引力だそうです。洋書は仕入れにボリュームディスカウントがあり、販売では値付けも自由なので、初期の頃は利益率が60%にも上ったそうです。一方で、返品もできませんので、仕入れた分だけ、短期間で売ることが必要となります。つまり需要を見極める力と営業力が死命を制します。大学卒の優秀な人材を外商部門に配置し、彼らが大学を回って直接研究者に新刊の洋書を売ることで成功したのです。大学への接近により、高度成長期の大学の新設にともなう図書館需要の取り込みもできたわけです。

1990年代にはブックオフや複合店であるヴィレッジヴァンガードの躍進、2000年代にはドットコム書店、アマゾンの進出もあり、それ以前と比べると経営環境が激変しています。これに対して、紀伊國屋書店は、2012年には本店をリニューアルオープン、4月26日には梅田にも新しい店舗をグランドオープンなどで店舗面積を拡大し、「本との出合いの場所」という書店の役割強化を図っているようです。

最近は書店独自の文庫フェアも多いのですが、中でも、昨年(2012年)に新宿本店で開催した「ほんのまくら」フェアは型破りな企画ということでネットや一般紙・誌で紹介され、大きな話題となりました。書店員お勧めの100点書籍について、著者名・書名・レーベルを一切見えなくして、書き出しの文章だけで客に選択してもらうものでしたが、750冊の目標に対して1万8600冊を販売。ジャンルはほとんど小説ということで、若い女性の来店が多かったようです。「なかなか本店ではなかったこと」だそうですが、ちょっとした冒険心を満たしたということなのでしょうか。

書店員には本との出会いを演出するという大きな役割があります。後半の第6章、第7章、終章では、店頭で本を売る書店員の役割が紹介されています。

ところで、著者の永江氏は、最近、「仕事で使う資料の半分は電子書籍」とのことです。本書の冒頭に、「なぜ紀伊國屋はネット書店や電子書籍販売を始めたのだろう。」という問いがあります。本書の中ではこの問いに対する答えがまだ十分ではないように感じました。次作では、ぜひ、この問いにも答えてほしいものです。

学術出版社のケーススタディと学術出版を取り巻く環境についての社会学的研究報告

佐藤 郁哉・他著 「本を生み出す力 学術出版の組織アイデンティティ」(新曜社 2011年2月発行、568頁)を読み終えました。

本書は「1999年から10年以上に渡って継続的に行なわれた共同研究報告の最終報告書(p.476)」です。学術出版社4社―ハーベスト社、新曜社、有斐閣、東京大学出版会―のケーススタディなどを中心に学術出版の営みやそれを取り巻く環境についてまでまとめた包括的な書籍です。

本書の中核は学術出版4社の責任者や編集者を対象に繰り返し行なったインタビューなどで構成するケーススタディ報告である第Ⅱ部です。研究対象は、①個人出版社であるハーベスト社、②一編集者一事業部的な運営を行なう中堅規模の出版社である新曜社、③創業百年を超え、この間家業から個人商店を経て近代的組織による運営にいたった大手出版社である有斐閣、④大学出版会の最大手である東京大学出版会です。報告には各社の本作りの営みがいきいきと記述されています。

歴史や規模の面では異なる特性をもつ4社ですが、学術出版という共通の領域で事業を営んでいますので、出版コンセプト面ではかなりの類似性があります。第Ⅲ部で、これを整理・分析しています。第Ⅲ部はケーススタディをもとに編集者の技能・役割を分析する第6章、組織を維持するための経営戦略である刊行物のポートフォリオについて説明する第7章、「文化対商業」・「職人対官僚」という2つの分析軸を抽出して、その領域で出版組織としてのアイデンティティをもとめて動くダイナミクスを記述する第8章から構成しています。

第Ⅳ部ではこうした学術出版がおかれた社会環境の違いについて説明しています。学術出版は著者、編集者と読者という点では比較的閉じた狭い世界の事柄になりますが、日本と主に米国の学術出版を比較すると、それぞれが社会全体の枠組みあるいは環境に依存していることがわかります。日本の場合は、学術的な本と大衆的な本とをつなぐ「中間領域」があり、「密度が高い大衆的読者市場」が成立してきたという特性がある(p.422)とのことです。それに対し、米国では学術出版は同業の専門家によるピアレビューを経て、大学付属の出版社が発行するという分野であり、ギルド的・閉鎖的になりやすい側面があります(第9章の五)。

学術出版は大学などに在籍する研究者が著者になることが多く、また読者も研究者になりがちですので、国の教育・研究施策からも大きな影響を受けます。第10章では日本・英国・米国での制度変更が与える影響について言及しています。このあたりは今後の行方にも大きな影響をあたえる可能性があり、もう少し踏み込んだ分析が欲しいとことです。

本書では印刷書籍型の学術出版について深く報告されており、大変参考になります。なるほど社会学はこういうことを研究するのか、とは素人の感想です。

一方で、学術コミュニケーションという点では、電子ジャーナルについてはまったく取り上げていません。また、電子教科書や学術書の電子化についてもまったく触れられていません。このあたり、別の研究報告を期待したいところです。

W3CワークショップのポジションペーパーにみるEPUBへの要望(2)

引き続きList of Position Papers submitted to the W3C Workshop on Electronic Books and the Open Web Platformから、EPUBについての要望を拾ってみます。

○(40番)John Wiley & Sons社Siegman:EPUB3とHTML5を大規模に使う方法や、Webセマンティックスを使って発見しやすさを向上する。ベストプラクティスの作成。
○(38番)Solob(歴史書に特化した出版社)Eric Aubourg:エジプトのヒエログラフの組版はリニアな方法ではできない。組版品質に関心がある。6000の記号を収録したヒエログラフ組版ソフトを開発している。この人は相当マニックだ。
○(3番)NISOのCarpenter:Andrew W. Mellon財団の資金で新しい書誌情報の交換環境へのロードマップを作成する作業を行なっている。

ほかにもいくつか読んだけど・・・続きはまた明日。