「ぎりぎり合格への論文マニュアル」にみる英数字と記号の方向

「ぎりぎり合格への論文マニュアル」(山内 志朗、平凡社新書)は英数字の使い方は一般的ですが、記号の使い方に特徴があります。特に「記号の使用法」という節を設けて、論文の中での記号の使い方を比較的詳しく説明しています。

1.ラテンアルファベット
ラテンアルファベットの使い方は一般的です。

(1)全角形・正立
・JIS、DTP、などの頭字語、MS-DOSのようなハイフンを含む固有名詞は全角形・正立です。
・(a)、(b)のような箇条書きでは全角形・正立
・A4、B5のような慣用区は全角形・正立

(2)横倒し
・英語、ラテン語、フランス語などの単語
・ページ番号(p.)、行数(l.)などの略記用記号
・欧文参考文献(著者、題名、発行所など)

2.数字
・本書は伝統的組版に属し[1]。和文中では数字は漢数字が原則です。フォントのサイズについても、九ポイント、十二ポイントなど漢数字です。先日の「新版論文の教室」も伝統的組版ですがフォントサイズはアラビア数字の正立形です。従って、本書は伝統的組版でも右翼に属すると言えます。
・それでも、[1]など番号箇条書き、「だんご3兄弟」(p.24)のような固有名詞とA4、B5のような慣用句ではアラビア数字が正立で使われています。
・引用文献、参考文献などの文脈ではアラビア数字を横倒しで使っています。

3.記号類
記号の種類と方向については「JIS X4051で規定する縦組み時の字形と現実の書籍で使われている文字の向きの比較考証」[2]に使ったPDFデータを改訂してアップしました:記号類の方向調査表(9/23)

本書では記号がいろいろ珍しい使い方がなされています。

1) 「:」、「;」、「,」が正立ででてきます。これらは記号の字形の紹介の意図と思います。
2) 一方、本文の中では「:」は横倒しで使われています。「:」については「本来欧文用の記号で横組み日本語に転用されるようになったもの」(p.94)という説明があります。縦組みの本書でも使っているのは、少々、矛盾するような印象を受けます。
3) 句読点の列挙で 「.」「,」「、」「。」が左右中央に表示されています。これは良識なんでしょうが、読点の位置が中央に揃っていません。
4) 番号箇条の番号に漢字を使って、区切り記号に「.」を使っています(p74)。「.」が右側になっています。これは正しいと思いますが、位置の調整はどうしたのでしょうか?
5) 波ダッシュに正立と横倒しの両方の例が紹介されています(p.108)。
6) ハイフンは「基本的に横書き向きだが、最近は縦書き日本語でも二つの概念の密接な連関を示す場合に用いられる。この辺の使用法ははっきりしない。」(p.110)とありますが、本書では、Ⅲ‐ⅵにハイフンを使っているように見えます。

こうしてみますと、コロン、セミコロン、カンマ、ピリオド、引用符などを含めて、欧文から由来した記号は、まず日本語の横書きに導入され、さらに縦書きに持ち込まれることになるという道筋をたどるため、使い方がとても難しくなることがわかります。こうした文字の用法が確立するまでにまだかなりの年月がかかるのではないでしょうか。

4.書籍の情報
書名:「ぎりぎり合格への論文マニュアル」
著者:山内 志朗
発行所:平凡社新書
発行年:2001年9月初版発行
ISBN:978-4-582-85103-8


[1] 伝統的組版については「英数字正立論」(http://www.cas-ub.com/project/index.html#Free)を参照してください。
[2] JIS X4051で規定する縦組み時の字形と現実の書籍で使われている文字の向きの比較考証

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「新版論文の教室」には書籍の縦組みレイアウトパターンと文字の方向パターンの典型例がある

「新版論文の教室」(戸田山 和久)は本書は現在の書籍の縦組みの複雑さを典型的に表していて、縦組みにおける英数字と記号などの向きの取り扱いを考える上では格好の材料です。なぜならば、日本語縦組み書籍のページレイアウトと縦組みにおけるラテンアルファベット、アラビア数字、記号の文字方向についてそれぞれの典型パターンを見ることができるからです。

I. 本書のレイアウト概要

1. 本書のページレイアウト・パターン
(1) 本文は縦組みです。
(2) ところどころに1ページまたは見開ページ全体を横組みしたページがあります。
(3) 縦組みのページの中に部分横書きの図が配置されているページがあります。

2. 英数字と記号の使い方パターンまとめ
最初に本書の英数字・記号の使い方には次の特長があります。
①本文は縦組みで数字は漢数字を原則としています。つまり伝統的組版に属します[1]。
②順序数としてのアラビア数字は頻出し、和字扱いのラテンアルファベット、記号類も豊富に使われています。
③アラビア数字だけの縦中横のみでなく、ラテンアルファベットと記号を組み合わせた縦中横、カタカナと記号を組み合わせた縦中横も使われています。
④論文の書き方に関するテキストということで文献の参照の記述方法とか、参考文献リストの書き方説明があります。
⑤テキストブックなので間違った例があります。つまり本来使うべきでない使い方の例もあります。

(1) ラテンアルファベットの使い方・パターン
・正立は1文字の記号、頭字語、および項目番号(順序をあらわす記号)として
・横倒しは英語の単語・フレーズ、参考文献引用箇所表示と参考文献一覧の著者名・欧文書名・雑誌名・欧文参考文献のタイトル・出版社名・ページ(p)
・記号と組み合わせての縦中横

(2) アラビア数字の使い方・パターン
・本書は伝統的組版に属します。つまり本文の文中の数字は漢数字が原則です。しかし、アラビア数字も一杯でてきます。アラビア数字の利用パターンのほとんどは章番号、節番号、項目番号、図番号、ページ番号などの順序数、ならびにそれらへの参照テキストです。これらは1から開始して2桁になることがあり、1桁では正立、2桁は縦中横です。ページ番号参照は3桁まで縦中横です。
・数値は原則漢数字でアラビア数字正立はあまり出てきません。但し、例外はフォントサイズを表すポイント数がアラビア数字の数値です。慣用でアラビア数字と判断しているのでしょう。漢数字基本で書いても、漢数字で表すのに不適切な数値があるということです。
・A4などの慣用句は1文字づつ正立です。
・本文中の年号は漢数字ですが、参考文献の発行年とページ数はアラビア数字で横倒し、また引用ページ番号の表記は横倒しです。但し、和書・雑誌の表題はアラビア数字正立もでてきます。「表題」のように原題を変更できないときは、原則と異なる表記も必要となります。

(3) 記号類の使い方・パターン
記号類についても正立・横倒し・縦中横(ラテンアルファベットと組み合わせで正立する)が出現します。

Ⅱ 本書における英数字・記号の使い方(詳細)

1.著者による全角・半角・数字の表記

この本の著者は、全角・半角・数字の表記について次のように書いています[2]。

○全角・半角・数字の表記の項(pp.256-7)
(1) 横書きの文章の場合、数字や年号はすべて半角の算用数字というのが基本だ。全角数字を使って「1995年」と書くのはやめる。
例外として、熟語や固有名詞の一部になっている場合は漢数字を使う。悩ましいのは「1つ」「2つ」「第1に」とするか「一つ」「二つ」「第一に」とするかだが、これはどちらもある。統一が取れているのが大事。算用数字で「1つ」と書く場合は、半角ではなく全角を使う。
(2) 外国語も半角がきまりである。

2. ラテンアルファベットの使い方・パターン例
(1) 1文字毎正立
・順序を表す:付録A~E、パターンA~パターンC、成績のA、B、C
・記号:「Aなんじゃ」、「A」、AならばBである、AであればB、Aではない/Aである、Aの話、Bの話、aとbが似ている、物体X
・頭字語:NHK、OKだから、ATOK、DVD、NASA、RPG法、UFO、CD
・人名:R・A・ラファティ
・慣用句:A4

(2) 縦中横
・対立仮説H´ [Hとプライムの組み合わせ]
・(a)も(b)も [()との組み合わせ]

(3) 横倒し
・欧文単語~文:(right)、concept、conception、real、検索結果がaggregation, assemblage, assembly, assortment, bee, body, breedと… 、“Pay it forward”、“it”、“You’re really something”、euphemism、(Sokal’s Hoax)、(profession)、comestibles、food、skelton、abduction、induction、dedcution、(the thing)、(references)、
・Webのサービス名・URL:infoseek、Yahoo、Google、goo、http://www…、Reliable sources、CiNii Books (http://ci.nii.ac.jp/books)、CiNii Articles (http://ci.nii.ac.jp/)
・引用箇所を表記するときの文献名、著者名、ページ番号:(Papinou 1996 p.2)
・英文参考文献の著者名、論文タイトル、書名・雑誌名、出版社名、出現ページ範囲:Simpson, L. (2991). “How to Play the Alto-Saxophone”, Murphy, B. G. ed. Modern Jazz Performance, Horny Dick Press. pp. 156-201

3. アラビア数字
(1) 正立
・章番号:第1章~第9章
・章番号参照:第2章では、第4章の内容には
・節番号:1-1~9-5
・節番号参照:3-6でも触れたが、
・項目番号:その1~その5、【1】~【3】[【】は数字の上下につき、数字のみ正立]、【鉄則1】~【鉄則9】【練習問題1】~【練習問題9】、(2-1)~(2-3)、テクニック1~、条件1~条件2、例1、例2
・項目番号参照:[鉄則1]
・図番号参照:図1~図9 [図自体は横書きであり、図番号・キャプションは横書き。本文内の図番号参照は縦書きである。]
・横書きページ中のテキストを縦書き内から参照:アウトライン・バージョン2
・慣用句:A4
・数値:0点、10・5ポイント[3]

(2) 縦中横
・目次項目のページ番号:2桁、3桁のページ番号が縦中横
・項目番号:(1)~(3)[これはU+2474~でも可]、【鉄則10】~【鉄則36】、【練習問題10】~【練習問題17】
・ページ番号参照:19ページ[2桁ページ番号参照]、108~109ページ[3桁ページ番号参照]
・図番号参照:図11~
・注番号と注の合印:(23)と注の合印(23)、注23
・数値(2桁):12ポイント

(3) 横倒し
・引用文献参照の出版年・ページ番号:(Papinou 1996 p.2)
・参考文献の出版年・ページ番号:ラテンアルファベットの横倒しの例を参照。

4. 記号の使い方・パターン
(1) 正立
・部番号:Ⅰ~Ⅴ
・区切り記号:!?‼
・箇条書き:㋑㋺…、①②…、
・その他:α、★(箇条書きラベル参照)、★(箇条書きラベル)、/、段落の区切りに(/)を入れる、%、†

(2) 縦中横
・括弧がローマ数字と組み合わせて正立:(i)~(ⅲ)
・縦中横で記号の方向は変わらない:カ*(記号の派生)

(3) 横倒し
・「」『』【】()[]
・… ― = ~:;“”.,
・矢印:⇔、→

※次は、横倒し文脈内の例である。
・;[引用文献の文献間区切り]
・英語と一緒:“”、’、.、,

5. 横書きのページ
・pp.108~109:(1)~(3)、Ⅰ~Ⅵ、NASA、→、Groupthink、?
・p.111:バージョン0、Ⅰ~Ⅴ、(1)~(3)が登場する。
・p.117:同
・p.127:[]、()、?、/
・p.136:バージョン1、「」
・p.143:バージョン2
・p.176:aもbも、AならBである

6. 部分横書き
・柱:章番号
・図:図1~図16(ラベル)、根拠1~、∴、()

Ⅲ 書籍の情報
書名:「新版論文の教室」
著者:戸田山 和久
発行所:NHKBooks
発行年:2012年8月第1刷発行
ISBN:978-4-14-091194-5


[1] 伝統的組版については「縦組み時の文字方向について:UTR#50のSVOデフォルト、MVOデフォルト、現代方式、伝統方式、新聞方式の相違を分析する」を参照。
[2] この部分は、漢数字とアラビア数字の使い分けと、全角・半角の使い分けの話が入り混じっています。このうち、全角・半角については横書きでは英数字は半角が原則としています。ただし、アラビア数字1文字のときだけは全角としています。ここでいう半角・全角は、専門的には文字コードではなくてグリフ(字形)と解釈すべきです。但し、InDesignのような印刷専門のソフトでは文字コードとグリフを独立に扱うことができますが、オフィスソフトのような一般向けのツールの多くは文字コードとグリフを独立に扱う機能がないことが多いので、「1つ」は全角文字(コード)を使うと解釈しても問題は生じません。
[3] 縦横変換の難しい例である。横書きで10.5のように2桁の数字と1桁の数字が連続するとき、10を半角、5を全角(10.5)とすると非常に見にくい。横書きでは10.5→縦書きでは10・5と小数点が別の文字になる。

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JIS X4051で規定する縦組み時の字形と現実の書籍で使われている文字の向きの比較考証

「縦組みにおける記号の扱い―JIS X4051を検討して見えるもの」[1]で組版上特殊な役割をもつ文字が123文字あり、その中で、

1) 横書きと縦書きで字形が異なるもの:87文字
うち、①回転するもの41文字、②回転以外46文字。但し回転以外のうち41文字はこがきのかなとカタカナです。
2) 横書き専用:9文字
3) 縦書き専用:4文字

とされていることを説明しました。ここでは、実際にJIS X4051で指定されている字形と実際の書籍の印刷結果との関係をまとめます。

縦組み書籍20冊の頁(トータル4500頁前後)に出現する記号とその方向を調べてみた結果[2]のPDF:こちらに置きました

上のPDFのJIS X4051の欄では、JIS X4051で縦組み字形をコード表と同じ字形にしている文字に「U」、縦組み字形が右90度回転形になっている文字を「R」、字の形が変わるものを「T」、縦組みでは使わない文字を「N」と入力しています。JIS X4051の附属書に字形が出てこない文字は空白のままです。

【規則1】
JIS X4051定義文字の方向はそのまま、JIS X4051で規定されていない文字は正立(「U」)と仮定します。

【規則1の問題点】
そうしますと実際の書籍で使われている文字(主に記号類)と規則1の方向定義に大きな相違があるのは次の文字です。

①LESS THAN SIGN、EQUALS、GREATER THAN SIGN。特に等号(=)の向き。
等号の向きは大抵「R」(右90度回転)で出てきます。等号は「U」ではなく「R」とすると実際の縦組みでの使われ方に近くなります。

②全角のチルダの向きは規則1では「U」になります。一方、Wave記号(U+301C)の向きはJIS X4051で「T」になっています。「~」は正確には回転形印刷紙面で使われているのは全角チルダではなくて縦書きWave記号(U+301C)であるとすると問題ありません。縦組み書籍で使われている「~」は全角チルダではなくて縦書きWave記号(U+301C)であるとしています(9/17変更)。但し、Windows7のIMEで全角波形を入力するとチルダ(U+007E)に対応する全角文字コード(U+FF5E)が入力されてしまいます。このため全角チルダの向きを「U」、縦書きWeva記号を「T」とすると混乱が大きくなってしまうでしょう。両文字の向きは統一して「T」にしたいところです。

③右向き矢印(U+2192)の向きはJIS X4051では規定されていません。そこで規則1ではデフォルト方向は「U」となります。
しかし、実際には右向矢印は文脈的に文字の進行方向を示すことが多く、縦組みでは右90度回転していると想定するほうが素直です。つまり実際には「R」として使われていると考える方が自然ということになります。矢印は絶対方向を示すために使うことも相対方向を示すために使うことも可能ですが、相対方向を示すために使うとすると縦横自動切換えでは便利です。しかし、相対方向を示すというと混乱する可能性があります。「U」にすべきか「R」にすべきか悩ましいところです。

【まとめ】
UTR#50ではJIS X4051で縦組み字形が規定されている文字だけを縦組みのデフォルト方向として「R」または「T」を与えて、それ以外は全部デフォルト「U」にしてしまっても大むね問題は生じないように思います。このあたりはもう少し現実のデータで検証してみたいと考えています。

【注意事項】
・実際の書籍の文字は印刷された結果すなわちグリフイメージです。本調査ではグリフイメージから文字のコードポイントを推定していることになり、推定者に依存するため、必ずしも適切かどうかは保証できません。
・縦組みでは使わない文字が縦組みで使われているのは、意図的に間違った例としてあげていたり、もともと横書きの内容をあえて縦書きの行中に入れることがあるためです。こうした使い方に備えて強制的に方向を設定できることは必須です。

[1] 「縦組みにおける記号の扱い―JIS X4051を検討して見えるもの」
[2] Japanese Text, that is excluding western text. 対象は和文文脈のみ。長さには関係なく横倒し文脈の中の記号類は除外する。たとえば、数式(Z=14など)が全体として横倒しのときも除外。縦中横も除外する。L′(L Prime)は縦中横なのでこの場合のPrimeはUとはしない。-1を縦中横にしているときも同じで「-」は横書き中とみなすなどの前提を置く。

UTR#50のフォーラムでの質問に答える: UTR#50とMVOは拙劣な規定であり、日本語の縦書きは不便になる

先日、UTR#50のフォーラムに「The approach of UTR#50 is different from Japanese standards」(UTR#50のアプローチはJIS X4051と異なる)というコメントを投稿した[1]ところ、次のような質問がありました。回答を直接英語で書くのは面倒なので、日本語で書いてGoogle Translationで翻訳してみようと思います[2]。うまくいくと一石二鳥だけど。(で結論としては、まだまだという感じですがとりあえず下訳的につかって修正したものを投稿しました[3]。まあ、私の英語力はそんなに高くないですので、便利といえば便利です。)

質問1. なぜ、我々の世界をJIS X 4051に限定する必要があるか?

質問2.UTR#50またはMVOが役に立たないというのであれば、その理由が分からない。

回答1.世界全体の言語の中で、文字を縦書きする言語は比較的少ない。現時点では、縦書きを採用する言語の中で、世界中で最も多くの人が使っているのは日本語である。過去においては縦書きで最も多く使われる文字は中国の漢字であった。また漢字文化圏の周辺には漢字以外にも縦書きする文字が多数あった――満州文字、モンゴル文字、西夏文字、契丹文字、ハングル、チュノムなど。しかし、中国本土の中国語は漢字の簡体字化に伴い、横書きに移行してしまった。また、周辺部の縦書きする文字の多くは消滅した。この結果、縦書きする文字は減っているのである。

縦書きの中に、横書きしかできない文字をどのように配置するかは非常に難しい問題である。これを正しく規定しているのはJIS X4051のみである。「日本語組版処理の要件」(JLReq)は、和欧混植に関する規定に関して、残念ながらJIS X4051よりも劣っている。

こうしてみると、JIS X4051は縦書きの中に横書き専用文字をどう配置するか――日本語組版でいう和欧混植――を正しく仕様化した世界で唯一の文書であるだろうと思う。縦書きの中に横書き文字を配置する方法に関して、JIS X4051をリスペクトするのは当然である。

逆に質問したい。縦書きの中に横書き専用の文字を配置する仕様を定めた文書が他にあるのか?あるのなら教えていただきたい。

回答2.Unicodeの文字は抽象的なものである。文字の形をグリフというが、印刷ではグリフの具体的な形状(グリフイメージ)をレンダリング(可視化)するのである。文字のコードポイントからグリフイメージへの変換処理方法には、文字によって様々な違いがある。一般的に言えば、コードポイントにグリフイメージを直接対応つける方法は、世界の文字を印刷するための技術としては役に立たない。

UTR#50とMVOは文字のコードポイントにグリフ可視化結果を規定する方法である。上に述べたように、一般論としてもこのアプローチは誤っている。このことを、以下に、具体的に例を示して説明する。

縦書き時のグリフイメージは文字のコードポイントの特性ではない。文字のコードポイントとグリフイメージは独立である。例えばInDesignにはアスキー文字を全角形で表示して、正立させる機能がある。その逆に、全角文字コードをプロポーショナル字形で表すこともできる。つまり、InDesignは文字のコードポイントとグリフイメージを独立のものとして扱っている。[4]

(9/21追記開始)文字のコードポイントに対して対応をつけることのできるグリフはひとつではない。複数のグリフを対応つけることができる。例えば、日本語組版ではラテンアルファベットには全角形とプロポーショナル形があるとしている。全角形とプロポーショナル形というのはグリフの区別であり文字コードの区別ではない。ラテンアルファベットの文字コードはU+0041~005A(大文字)とU+0061~007A(小文字)である(これらをアスキーアルファベットという)。JIS X4051の規定では、横書き時にはアスキーアルファベットにプロポーショナル形を割り当てて使うのが標準である(横書き時にアスキーアルファベットを全角形で表すことは一般には行なわない)。縦書き時には、アスキーアルファベットを全角形で正立したり、プロポーショナル字形で横倒しで並べたりできる。これは文字コードの使い分けではなく、グリフの使い分けである。具体的な実装例でいうと、InDesignは、縦書き時にアスキーアルファベットをプロポーショナル形で横倒し表示したり、全角形で正立させて表示する機能がある。つまり、InDesignは文字のコードポイントに対してグリフを何種類か対応付け、実際の表示においてその中から切り替えることができるのである。(9/21追記終わり)

別の例を示す。XML文書でコンテンツを表すのは文字コードの並びである。コンテンツ自体に方向属性を含むと再利用性が失われる。ひとつのコンテンツを縦書きでも横書きでも使えるようにするためには、縦書きのときのグリフイメージの向きを、コンテンツに対するXMLマークアップとスタイルシートの組み合わせによって指定するべきである。

繰り返すが、UTR#50とMVOは文字のコードポイントに縦書き時の方向を規定するというものである。特に、縦書きで、全角文字コードは正立し、アスキー文字を横倒しすると規定している。UTR#50とMVOを採用すると、コンテンツを縦書き専用、横書き専用に書き分ける必要が生じて大変不便である。

また、日本語の縦組みの書籍では、1ページの中に縦書きと横書きが混在している。また、本文は縦書きで索引は横書きという方式が一般的である。このように縦書きと横書きを同時に使う場合にも、UTR#50とMVOを採用すると不便である。[5]

[1]http://unicode.org/forum/viewtopic.php?f=35&t=346
[2]Google Translationの出力
[3]コメント投稿 2012/9/11
[4]上記のUnicodeフォーラムにて、山本太郎氏から独立ではないという指摘がありました。確かに、独立という表現は正しくないので、9/21にこの部分を削除して表現を改めました。文章の後ろの方もフォーラムの議論を鑑みてもっと補足するほうが良いのですが、これは別途、文章化することにします。
[5]この文章はUnicodeのフォーラムに投稿するために原文として書いたものなのですが、別途に何がどう不便かをもう少し具体的に説明したいと思っています。

縦組みにおける記号の扱い―JIS X4051を検討して見えるもの

「英数字正立論」[1]は現在0.5版ですが、現時点で欠けているのが記号類の扱いです。

これまでで、英数字についての考え方は大体整理できましたので、現在は記号類に取り組んでいます。最初に、記号類についての基本的な考え方を整理しなければなりません。そのため日本語組版に関するJIS規格であるJIS X4051を見てみましょう。

1. 組版上特殊な役割をもつ記号

JIS X 4051では文字をクラス[2]に分けており、記号類の多くは一般の和字(文字クラス表では(1)~(12)以外の和字)または欧字に含まれています。しかし、記号類は文章を区切ったり、あるいは単位として扱うため特殊な役割を負っており、特別文字クラスに分類されているものが多数あります。特別な文字クラスの大半は記号類です。

各クラスに分類されている文字(記号以外には小書きのカタカナなどを含む)は横書きのときの文字種を基準にして、縦書きで異なるものを付属書1の別表2~13に記載しています。別表の文字について縦書きと横書きでの相違・類似は表の通りで次のように整理できます。

1) 横書きと縦書きで字形が異なるもの:87文字
うち、①回転するもの41文字、②回転以外46文字。但し回転以外のうち41文字はこがきのかなとカタカナです。
2) 横書き専用:9文字
3) 縦書き専用:4文字

文字クラス 付属書1 文字数 横書きと縦書きで字形を変える 横書き専用 縦書き専用 縦横同形
小計 回転する 回転以外
(1) 始め括弧類 表2 16 15 14 1 1 0 0
(2) 終わり括弧類 表3 18 16 14 2 2 0 0
(3) 行頭禁則文字 表4 47 41 0 41 0 1 5
(4) ハイフン類 表5 4 3 2 1 1 0 0
(5) 区切り約物 表6 6 0 0 0 0 0 6
(6) 中点類 表7 3 2 2 0 1 0 0
(7) 句点類 表8 2 1 0 1 1 0 0
(8) 分離禁止文字 表9 6 3 3 0 0 3 0
(9) 前置省略記号 表10 6 0 0 0 0 0 6
(10) 後置省略記号 表11 9 0 0 0 3 0 6
(20) 割注始め括弧類 表12 3 3 3 0 0 0 0
(21) 割注終わり括弧類 表13 3 3 3 0 0 0 0
合計 123 87 41 46 9 4 23

2. 一般の文字

一般の和字と欧文用欧字の中にも記号類が多数ありますが、JIS X4051には横書きと縦書きの字形の相違の記載がありません。これについてはJIS X0213 の付属書4に記載がありますが、縦書きと横書きで字形が異なる例として掲載されているのは、全角ミリ(U+3349:㍉)などの16文字のみです[3]。これは一般の和字に分類されます。

欧文用文字には、コンマ、ピリオド、コロン、セミコロンなど欧文組版で使う記号類も分類されています。またアラビア数字も欧文用文字の中に含まれます。こうしてみますと、欧文用空白(20)と欧文用文字(21)だけを使って欧文組版が実現できますので、JIS X4051では欧文の世界を、別世界と考えていることになります。

3.まとめ

(1) JIS X4051では和文と欧文を分類しており、和文の中で特別な役目をもつ記号類などをクラスにまとめています。 特別な役目をもつ記号で縦書きと横書きで字形が異なるものは87文字です。

(2) 欧文用の記号類だけでなくアラビア数字も欧文用文字に分類しています。欧文用文字に分類されている文字種はそれだけで欧文組版ができます。欧文には縦組みという概念はないので縦組みと横組みで方向や形が変わるのは、和字の記号だけと考えるのが良いようです。

[1] 「英数字正立論」
[2] JIS x4051のクラスに属する文字は既定値であり、システムで追加できる。
[3] Unicodeにはこの種の文字がもっと沢山規定されていますが、JIS X0213では数が少ない。

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縦組みは複雑さを増し、移行期的混乱状態。その原因は英数字の書字方向にある。

「横書き登場」(屋名池 誠著、岩波新書、2003年初版発行)[1]を読むと、幕末・明治時代から西欧の文明を取り入れる過程で横書きの普及が始まって、現在に至っていることがはっきり分かる。最初は、和字を右から左に書く右横書きと、左から右に書き進める左横書きが行なわれ、戦前までは併用されていたが、戦後に急速に左横書きに一本化された。

英語を中心とする欧米の文字は左横書きしか向かないラテンアルファベットで綴られているため欧文を和文中に取り込むためには左横書きが便利である。これに対して右横書きは和文中に欧文を取り込む上ではあまりメリットはない。戦後になって日本が米国の勢力圏になってあっという間に左横書きに統一されたのは自然とも言える。「横書き登場」では最初の左横書きの出版物は1871年(明治4年)に登場したとしている(p.61)ので、左横書きという書字方向が確立するのに70年~80年という期間がかかったことになる。

現在の出版物は、(1)横書きのみで構成する横組みと(2)縦書きを主体とし補助的に横書きを併用する縦組みの二つの組版方式が使われている。

横組みと比べると縦組みでは文字や行を進める方向が複雑に入り組んでいることが多い。この複雑さの主な原因はラテンアルファベットとアラビア数字(以下、総称して英数字)である。どのような複雑さがあるかを整理すると次のようになる。

■縦組み書籍の中の横組み頁

書籍などの出版物は、縦組みに分類されるものであっても、すべての頁が縦書きだけで組まれているものはほとんど存在しない。表1にあげるような横組み頁も併用されている。

表1 縦組み出版物の中での横組み頁
・参考文献
・索引
・表紙、章扉、奥付け

表紙や扉の横組みはデザイン上の配慮によるものが多いだろうが、参考文献や索引は英数字を多用することが横組みにする理由だろう。

■縦組み頁の中の横書き箇所

縦組み頁の中の一部に横書きのブロックが入ることも多い。表2のようなケースがある。

表2 縦組み頁の中の横書き箇所
・表は表自体の行とセルの組み方が横書きのものが主流であり、そのときセル内の数字や文章は横書きになる。
・図表の番号、キャプション、図表の説明文。
・目次のページ番号(縦中横)
・各頁のノンブル、頁上・下の柱

表2のような横書きが使われる箇所で使われる数字の種類はアラビア数字である。

■本文の中の英数字の扱い

さらに、縦書きの本文テキストの行中(インライン)での英数字の取り扱いの方法には次の3通りの方法がある。

①英数字を和字として扱う。このときは全角字形を使い、正立させる。
②英数字を欧字として扱う。このときはプロポーショナル字形を使い、文字列全体を横倒しする。このとき和字は日本語組版規則にしたがうが、欧字は欧文組版規則に従う。和欧混植方式となる。
③アラビア数字やラテンアルファベットの組を縦中横で配置する。縦中横には表3のようなケースがある。

表3 縦中横の適用箇所
・月、日、年齢などの2桁の数字を縦中横で配置するとき
・本文中から2桁または3桁の章番号、頁番号を参照するとき
・注番号、箇条書き番号などを(1)のように縦中横で扱うとき
・本文中の2桁の数値(アラビア数字)などを縦中横として扱うとき

■縦組みの類型

現在の日本語縦組み出版物における、本文テキスト中での英数字の取り扱い類型は大よそ3つである。

①新聞方式:朝日、読売、日経等の大新聞は、21世紀になってから、2桁の数字については縦中横表記とするが、それ以外のほぼすべての英数字を和字として扱う方式に移行した。

②伝統的方式:数量を表すアラビア数字は漢数字表記とする。固有名詞や慣用句はアラビア数字のままである。また図表番号や章番号などの参照は、参照先がアラビア数字の場合はアラビア数字のことが多い。従って、伝統的方式であってもアラビア数字は随所に使われる。外来語をはじめ外国人などの人名など欧文の単語はできるだけカタカナで表記する。カタカナ表記の括弧内に原文のラテンラテンアルファベット表記を添える。この時ラテンラテンアルファベットは和欧混植の対象となる。

②現代的方式:アラビア数字は新聞と同じように和字として全角形で正立する。頭字語のラテンラテンアルファベット大文字は和字扱いする。商品名などではラテンラテンアルファベット大文字と小文字が入り混じるが、そのとき文字列全体を和字扱いとしたり、または大文字だけなら和字扱いで正立・小文字が入ると文字列全体を横倒しする。どのような種類の文字列を正立させるかあるいは横倒しするかの基準は曖昧で書籍毎に異なるし、書籍の中でも完全に統一されていないときがある。

■縦組みの未来

商品名(iPhone、iPadなど)、サービス名(twitter、facebookなど)、人気グループ名、会社名などの固有名詞にラテンアルファベットが多用されるようになっている。これらはカタカナ表記できないので、出版物にも必然的にラテンアルファベットが増える。縦組みにおいてラテンアルファベットを和字扱いするか欧字扱いするかは、新聞のようにすべて和字扱いする方式から全部を欧字扱いすることまで幅広く明確な基準がない。

アラビア数字は、漢数字に変更する方式から、すべて和字扱いで正立する方式まである。

このように、本文テキスト中のラテンラテンアルファベットとアラビア数字の扱い方はさまざまであり、混乱状態にあると言っても過言ではない。

全体としては伝統的方式から現代的方式への移行過程にあるだろう。そうすると縦組みは移行期的混乱の中にあると言って良い。この混沌状態の結果として新たな縦組み方式が定着するのか、それとも縦組みの複雑さに見切りをつけて、横組みに1本化されるのか?

こうした混沌に加えて、縦組みは横組みに比べて製作コストが高い方式となっていることにも注意が必要である。これについては別途検討する。

[1]「横書き登場」と縦書きと横書きのゆくえ

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「横書き登場」と縦書きと横書きのゆくえ

「横書き登場」(屋名池 誠著、岩波新書、2003年初版発行)は、日本語の印刷物に横書きが登場してから、現在に至るまでの軌跡を豊富な調査と図版をもとにして丁寧に解説している。

日本語は、現在、縦書き・横書きという2つの書字方向を許す世界でもまれな言語である。その理由は、日本語を表記するのに使う漢字、ひらがな、カタカナという3種類の文字が形態素・音節文字で一字がカバーする範囲が広いこと(p.66)、漢字・ひらがな・カタカナの多くは字形が正方形であって文字を縦方向にも横方向にも続けて書くことができる特性をもっているからである。

それに対して、西欧から入ってきた言語はもともと横方向だけにしか書かれない。これは①ラテン文字が正方形でないというデザインの特性、②ラテン文字は音素に対応する、すなわち語を表すのに多くの文字を使い、文字列をひとつのまとまった形として読み取るという方式になっているためである(p.66)。このため西欧の言語を縦書きするには横転横書きをする必要がある。

日本語は江戸時代までは縦書き専用であった。日本が西欧の文化・技術を取り入れた幕末から明治にかけての時代は、日本語の書字についても混沌の時代になったのは必然である。

さて著者は、明治から戦後までの日本語の書字方向について、次のように整理している。

1. 日本語の横書きが登場したのは江戸幕府が開国したころ。最初は右から左へ書き進めるものであった。右横書きは縦組みの行が進む方向と書き進める方向が同じなのでわかり易かった。
2. 明治初期の辞書は欧字を左横書き、和字を横転縦書きして欧語と日本語の共存を図った。横転縦書きでは、欧語は左から右へ。日本語を左90度回転して縦書きする。横転縦書きは大正13年まで見られる。
3. 左横書きは明治4年の英和辞書で初めて登場した。欧字との共存のためである。また、左横書きは、楽譜、数学、簿記(数字)などに用いられた。こうした左横書きは西欧の文物を本格的に学んだ人、すなわち一部のインテリ向けでハイカラ・西洋文明受け入れ派という印象がある。これに対して、右横書きは切符、地図など民衆向けの用途であった。これは縦組みの行進行方向と文字の読む方向が一致しており、一般人にわかりやすく、また書籍の製本もしやすかったため。
4. 右横書きは、縦書きの印刷物の中で、右横書きを見出し、記事のリード、キャプションなどに使う、縦書き(右横書き併用)のスタイルとしても使われた。これに対して左横書きは専用で使われた。
5. 大正になると、縦書きの印刷物の中で、左横書きを見出し、記事のリード、キャプションなどに使う、縦書き(左横書き併用)のスタイルも使われるようになった。
6. 昭和の戦前は、①縦書き(右横書き併用)のスタイル、②縦書き(左横書き併用)のスタイル、③左横書き専用の3つのスタイルが並存した。但し、左横書きは西欧文化を受け入れる印象があり、右翼政治家などの攻撃を受けることがあった。しかし、効率という面で左横書きを採用しようという動きもあった。
7. 戦後は、一気に、①左横書きが増え、また、②縦書き(左横書き併用)のスタイルと二つがつかわれるようになった。
8. 今後は、左横書き(縦書き併用)に収斂していくのではないだろうか。

■感想
現在では縦組みは、新聞、雑誌、書籍の一部などの印刷出版物の世界のみで見かけるものとなり、出版関連の専門家や趣味の世界で使われるものとなっている。

実用・効率を重んじるビジネス文書などではほとんど使われないし、Webや電子メールはすべて横書きである。

そういう意味では、確かに、既に社会全体としては左横書き(縦書き併用)の時代になっている。日本語の書字方法は西欧文化との遭遇で大幅に変化した。左横書きが定着した明治から戦後までの変化が第一段階とすると、インターネット技術と遭遇している現在は第二段階と言える。現在、Webでは縦書きはほとんど用いられていないし、あまり必要性も語られない。従って、第二段階が、このまま推移すると、縦書きが消滅する方向で収斂する可能性も大きいだろう。

100年~200年単位でみると出版でも縦書きを使う文化が生き残るか、そして縦書きを使い続けるにはどうしたら良いかを考えさせられる。

■書籍の情報
書名:「横書き登場」
著者:屋名池 誠
発行所:岩波新書
発行年:2003年11月初版1刷発行
ISBN:4-00-430863-1

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縦組み書籍における記号の方向に関する予備調査の結果

「英数字正立論―SVO を基本とするコンテンツマークアップの方法」(8/7版)[*1]において縦組みにおける英数字の方向に関する基本的な考え方を示しましたので、その完成に向けて、縦組みにおける記号の向きの取り扱いを考え始めました。

まず、現状を予備的に調査してみました。詳しくは「データ」の箇所をご覧いただきたいのですが、UTR#50(第5案)におけるSVOの値の中で表1の記号は実態とだいぶかけ離れているようです。

今回は書籍の中で出現するか否かだけを調べたのですが、出現頻度も含めた本格的な実態調査が必要なように思います。
(どうしましょうか)。

■表1 SVOの値を見直すべきではないかと思われる記号

・U+003D、U+FF1D =(等号)
・U+FF5E 全角~ 但し、Wave dashは問題ない
・U+2026 横3点リーダ 但し、Unicodeには縦の3点リーダが別に登録されています。この使い分けはどうするのでしょうか?
・U+2192 右向き矢印
・他には、不等号、÷記号が怪しいと思います。

■データ
・本ブログで英数字の方向を取り上げてきた書籍を対象として記号類の方向を調べました。
・対象としたのは、縦組みの和文コンテキスト中における記号類の方向です。
・和文と欧文の境界上の記号(引用符が多い)は対象に含めます。

次のタイプの文字列は和文には分類しません。この中の記号は除外します。
a. ラテン文字など欧文の文字で表記した英語や諸外国の単語などの中の記号類 (文字列全体が右90度回転しているので)
b. 横倒し数値列、横倒し数式の中の記号類 (文字列全体が右90度回転しているので)
c. 縦中横の中の記号類 (横組みなので)

例 a.John Wood Campbell, Jr., 1910-17 のような文字列の中の、「,」「.」「-」を除外
  b.Z=14 のような数式が横倒しのとき「=」を除外
  c. L’ (Lプライム)が縦中横のとき「´」を除外

[結果]

[*1]「英数字正立論」

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「超・文章法」にみる縦組みの英数字・記号類の方向

日本語の縦組みにおける英数字と記号の方向を調べています。さて、今回は、「超・文章法」(野口 悠紀雄著)を調べてみます。本当は、この分野で一番の「理科系の作文技術」を調査したいのですが、残念ながら、これは横組みです。

本書は原則縦組みですが、ところどころに挿入されたコラムのページが1ページ丸ごと横組みになっています。また、最後の索引が横組みです。以下の調査では、横組みページを除外します。

■特徴
数字は一九九三年などの年号、一五〇〇字などの数量をはじめとして原則漢字ですので伝統的組版といえますが、英単語が多数あります。それも最初の方は、日本語書名の次の()内に原題を記しているような形式ですが、後ろに方では英文が主()内に日本語などと逆転しています。いづれにしても欧文が多数出てくるのが本書の特徴です。

■ラテンアルファベット
ラテンアルファベットの正立用法は、「Aさん」、「重力乗数g」、のような記号としての使用、頭字語、「(A)」のような箇条番号、「A・ピアーズ」のような名前の頭文字、「日本人はlとrの区別が」など多彩です。一方、横倒しは、IEEE 802.3とURLの表記を除くとすべて欧文の文節または単語です。

なお、vsが縦中横です。

■数字
数字は上述のように漢数字が主ですが、章番号、節番号、箇条書きの項番号、パート2などの順序数がアラビア数字です。また、A4のような慣用句もアラビア数字です。漢数字中心の伝統的なスタイルなので縦中横は比較的少なくなります。

アラビア数字は正立が主ですが、参考文献である欧文書籍の発行年、外国人の生年など欧文文脈中では横倒し。また、IEEE 802.3とか6×1024 といった表記が横倒しです。

■記号類
記号類は和文中の記号は他の書籍とそれほど変わらず、種類は比較的少ないですが、欧文中の記号の種類が比較的多いです。

正立:
?!%のほか、ⅠⅡなどローマ数字が正立です。′[U+2032]

縦中横:
A′[U+2032, エイ・プライム]

横倒し(右90度回転):
和文中:「」()『』–[U+2013]——[2倍ダッシュが横倒し]=【】…:;〈〉
欧文・URL中:'[U+0027]“”[引用符],.:;/-&

■データ
以下では、1文字ずつ正立する英数字を全角文字コードで表しています。[]内は注、[*]は後注です。

1.ラテンアルファベット
1.1 1文字ずつ正立(例)
Aさん、A新聞、SF作家、A地点、R2–D2、C–3PO、重力乗数g、距離(d)、速さ(v)、A4一枚、PTA会議、A・ピアース、ITは、A・B・ミグダル、OS、(A)[()はそれぞれ右90度回転]、QED、DAVプロトコル、WECプロトコル、DVDプレイヤー、GM(ゼネラル・モータース)、日本人はlとrの区別が、LIBOR、ITM、OTM

1.2 縦中横
日常vs旅、善vs悪

1.3 横倒し(例)
『夜来る』(原題 Nightfall)、「旅の仲間」(The Fellowship of the Ring )、ジョセフ・キャンベル(Joseph Champbell, 1904–87)、善悪や正邪を逆転させる(Fair is foul, and foul is fair)、hidden agendaというのがある(……)[()内に説明文]、ポーリンの冒険(The Perils of Pauline)、悪いことのクライマックス(bottom)であり、良いことのクライマックス(zenith)だ、All’s Well Thats Ends Well(『終わりよければすべてよし』)、Minimax(最大値の最小)、Maxmin(最小値の最大)、鞍点 saddle point といわれる、『若草物語』(Little Women)、『小公子』(Little Lord FauntLeroy)、『母を訪ねて三千里(愛の学校)』(Cuore)、『岩窟王』(Comte de Monte-Cristo)、The Lord of the Ringsを「ロード・オフ・ザ・リング」として、モットー(motto)、If the stars should appear one night in a thousand years…(もし星が千年に一度しか現れないのであれば)、Ralph Waldo Emerson, Nature, 1836.、全文は、http://www.ecotopia.org/about/nature/naturrel.html、John Wood Campbell, Jr., 1910-17、Rhoda Thomas Tripp, The International Thesaurus of Quotations, Harper & Row (1970) [書名はイタリック]、Bartlett’s Familiar Quotations [イタリック]、電子図書館PROJECT BARTLEBY、例えば「love」と、The Left-Handed Dictionary [イタリック]、J. M. and M. J. Cohen, Dictionary of Quotations, Penguin, 1960 [書名はイタリック、このほかにも、参考文献は欧文が多いが残りは省略。]、“Roman Holiday”、英語ではthatを用いて、英語ではclause)、英語ではphrase)、IEEE 802.3、Quantity(量)、Comparative(比較)、 adv(副詞)[p.207]、very、gas、

2.アラビア数字
2.1 正立(例)
第1章、1[節番号]、Ⅱ–1、[1]、『「超」整理法3』、1[箇条書き項目番号]、(1)[1が正立、(と)は1の上下にて右90度回転]、図2–1、桃太郎パート2、A4

2.2 縦中横
11ページ

2.3 横倒し
ジョセフ・キャンベル(Joseph Champbell, 1904–87)、6×1024 [数字全体]、IEEE 802.3

3.記号
2.1 正立
?、!、Ⅰ、Ⅱ–1[–を除く]、九〇%[%記号]

2.2 縦中横
A′[p.212、エイ・プライム]

2.3 横倒し(右90度回転)
「、」、(、)、『、』、Ⅱ–1[–が横倒し]、(1)——内容面の[()と2倍ダッシュが横倒し]、内容別に分類する方法=正しい、【、】、第二楽章は……[3点リーダ]、[地球の重さ×g][p.106]、All’s Well Thats Ends Well [U+0027 アポストロフが横倒し]、“Aritheuso rose from a couch of snows in the Aquasaromian Mountains” [p.142 引用符が横倒し]、Ralph Waldo Emerson, Nature, 1836. [p.147]、http://www.ecotopia.org/about/nature/naturrel.html、John Wood Campbell, Jr., 1910-17、:の記号を認める[p.168]、そして;記号が使われて、:(コロン)、と;(セミコロン)、(,)(;)(:)(.)の順で区切る力が強い[p.202]、〈、〉[p.202]、Roget’s Thesaurus [p.207]、曖昧の〈が〉、記号(′)はプライムと[p.212]

■書籍情報
書名:「超・文章法」
著者:野口 悠紀雄著
発行元:中央公論社 中公新書
発行年月:2010年10月10日第10版
ISBN:4-12-101662-9

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「本づくりの常識・非常識」にみる縦組みの英数字・記号類の方向

日本語の縦組みにおける英数字の方向を調べています。最近は、記号の方向も調べ始めました。さて、今回は、「本づくりの常識・非常識」(野村 保惠著)を調べてみます。

本書は原則縦組みですが、本文の第六章 組版ルール(横組)が章全体横組みという珍しい本です。また、後付の付録、参考文献、索引が横組みです。

数字は章番号、節番号をはじめ、九組、一冊、二〇〇〇年(平成十二)年十二月、印刷標準字体一〇二二字のように原則漢数字となっています[*1]。また、例えば二ミリ、五〇メートルのように単位をカタカナに展開しています[*2]。但し、専門書の特性上、専門用語を中心にラテンアルファベットがかなり沢山出てきます。例えば、「JIS規格」を「ジス規格」とは書きにくいでしょう。こうしてみますと、全体としては、伝統的組版の類型に属すると言って良いでしょう。

■特徴
本書では記号がかなり使われていてその方向が多様です。記号類が多数出現する専門的な原稿はDTPのようなWYSIWYGツールを使うのであれば良いですが、テキスト系のツールでマークアップして方向を指定するのは煩雑になる可能性があります。

■ラテンアルファベットは、大文字の頭字語は1文字ずつ正立、小文字の頭字語は正立(dpi)と横倒し(lpi)混在です。なお、WYSIWYGは正立と横倒しの両方出現します。しかし、英単語はすべて横倒しです。

■数字は上述のように漢数字が中心ですが、慣用句・固有名詞などではアラビア数字が使われており、縦中横もあります。但し、ページ番号、パーセント値など慣用句でないのにアラビア数字が使われている箇所があります。アラビア数字は縦組みの和文中ではすべて正立または縦中横です。

■記号類
記号類の中には説明の都合上、一部、本来の向きとは異なる向きで使われているものがありそうなので、注意が必要です。

正立:
©%†“”;:>—-–‐△
①②③④(箇条書き項目番号)

横倒し:
()「」『』—‐→:〈〉[]=…/÷

■データ
以下では、1文字ずつ正立する英数字を全角文字コードで表しています。[]内は注、[*]は後注です。

1.ラテンアルファベット
1.1 1文字ずつ正立(例)
B6、A5、JIS、FD・MO、DTP、aとd・o、bとf [p.26]、欧文のI・lの区別 [p.28]、小文字のaからzまでを並べた長さ[p.36]、MO(Magneto Optical Disk)[p.48、(内は横倒し)]、六〇〇dpi、WYSIWYG[p.147][*5]、CTF(Computer To Film)[p.158、()内は横倒し]、PS版(Pre-Sensitized plate)[p.161、()内は横倒し]、ページ記述言語(PDL、Page Description Language)[p.175、Page Description Languageは横倒し]

1.2 縦中横
なし

1.3 横倒し
copyright、x-height、a–z length (小文字のaからzまでを並べた長さ)[p.36、()内は1文字ずつ正立]、TeX、対話処理(WYSIWYG、What You See IS What You Get、)[p.50、横倒し欧文の区切りに、が使われている]、Rectos have odd numbers, versos even. (p. 144) [p. 51、オックスフォードルールの引用]、word間のword space [p.74]、Adobe AcrobatがPDF変換[PDFは正立]、言語はinkです。、lpi(lines per inchi)[p.167、全文字横倒し]、defact standard(事実上の標準)、長巻印刷(web)、tight back、hollow back、flexible backの訳語です。[p.200]、comprehensive layoutの略で

2.アラビア数字
2.1 正立(例)
B6、A5、第2版、JIS X 0208 7ビット及び8ビットの2バイト情報交換用符号化漢字集合、2004JIS、第3四半期、数字の1、6,7,8,9[p.35]、6—7ページ[p.87]、5%

2.2 縦中横
第22期国語審議会、78JIS、83JIS、90JIS、97JIS、97・11・22、18ポイント、10%の網[%は正立]、35ミリフィルム、135型[p.168]

2.3 横倒し
(p.144)[p.51、欧文の原著ページ参照]

3.記号
2.1 正立
©表示、何%[p.56[*1]]、例えば*、†など[p. 63]、“、”、;、:[以上p.82、[*2]]、小さく「>」を入れる[p.136、校正記号としての利用の説明]、一、ー、—、-、–、‐[p.140、イチ、オンビキ、全角ダーシュ、マイナス、ニ分ダーシュ、ハイフン。[*4]]、△で数字を囲みます、

①、②、③、④[p.62、箇条書き項目番号]が随所で使われています。

2.2 横倒し(右90度回転)
一‐一、(、)、「、」、『、』、10646‐1、「—」(全角ダーシュ)CD‐R、入力—編集(組版)—校正、入力機→編集機、四五—六十%[p.56、%は正立]、JIS X 4051:2004、〈、〉、[、]、[p.84、[*3]]、1ポイント=〇・三五二八ミリ、年月日……校了[p.143]、一二g/m2[p.180、単位は全体が横倒し、2は上付き]、ページ数÷全紙1枚で…[p.189、[*6]]、ラシャ紙:ラシャ紙、査定価格=一冊当たり生産原価÷〇・四で算出[p.232、[*7]]

[+記号は頻繁に現れるが、見掛けでは正立とも横倒しともいえない。]

■書籍情報
書名:「本づくりの常識・非常識」【第二版】
著者:野村 保惠
発行元:印刷学会出版部
発行年月:2007年9月25日第2版第1刷発行
ISBN:978-4-87085-189-4

[*1] 漢数字が原則のようだが、アラビア数字もかなり使われている。その多くはJIS規格番号などの固有名詞であったり、6ポイント、第3四半期のような慣用句であるが、しかし、10%などの数値もあり、完全に統一されているとはいえない。
[*2] パーセントは%のままでカタナカに展開していない。また、メートルもmになっている箇所がある[p.96]。しかし、センチメートル、キログラムはカタカナ表記している[p.194]ので、完全に統一されているとはいえない。
[*3] p.84

[*4] ここは記号の説明なので正立させているようだ。
[*5] WYSIWYGは正立と横倒しの両方があり不統一。
[*6] p.189ではブロック数式全体を横倒ししている。

[*7] p.232ではブロック数式全体を正立させている。

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