アマゾンPODの便利な利用法

5月24日にアマゾンPOD(プリントオンデマンド)で、『スタイルシート開発の基礎』という本を発売しました。

XSLT

発行日:2016年5月
著者:アンテナハウス株式会社
サイズ:B5判 横組み
ISBN:978-4-900552-23-4
ページ数:192ページ(オンデマンド版)
価格(税込):2,462円(オンデマンド版)

★Webページ:スタイルシート開発の基礎―XML と FO で簡単な本を作ってみよう

この本は、XSL-FOを使って簡単な本を作るためのスタイルシート開発方法を解説したものです。早速、社内で若手を集めて勉強会を呼びかけたところ、参加希望者が5人集まりました。

弊社は、本社(東京)、名古屋と伊那に支店があります。さらに都内某所に開発室があります。で、なんと、勉強会参加者希望者が、4か所で5人という状態になってしまいました。

そこでテキストブックを配布する方法として思いついたのが、アマゾンのギフトです。POD本を購入して各事務所宛にギフトで送付しました。

東京本社は翌日に届きましたが、他の3か所は翌々日の昼から夕方にかけて次々に届きました。

勉強会テキストをPODで作ってばらばらの参加者にアマゾンで配達してもらう。これはとっても便利なPODの利用法です。勉強会はSkype会議で行う予定です。うまく行ったら、新しい勉強会スタイルとして紹介したいと考えています。

『XSL-FOの基礎 – XML を組版するためのレイアウト仕様』POD出版顛末記

『XSL-FOの基礎 – XML を組版するためのレイアウト仕様』のプリントオンデマンド(POD)による紙版が発売になりました。5月13日にPOD取次よりストアに配信されたのですが、本日、確認しましたところ、三省堂オンデマンド(神田本店のオンデマンド本コーナー)で発売となっていました。三省堂は19日付けですから6日後で発売です。既に10日を経過したのですが、アマゾンとか、ウェブの書斎、hontoウェブストアではまだ発売になっていません。

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三省堂オンデマンド オンデマンド和書(その他出版社)の項

早速、三省堂に電話しましたところ、1冊30分かかるということでした。そこで3冊注文して夕方帰り道に立ち寄って入手しました。次の写真です。

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『XSL-FOの基礎』の元ネタは、2001年から2002年頃のセミナーのテキストです。XMLが登場したのは1998年、XSL-FOは2001年に最初の仕様(V1.0)が完成しました。弊社では、その頃、XSL Formatterの販促のため、XSL-FOのセミナーを十数回開催しました。それから十数年経過しました。そのうち、セミナーだけでは人が集まらなくなり、ワークショップ(XSL School)形式にしてしばらく行っていました。XSL Schoolはイーエイドの藤島さんがXSL-FO解説を担当されていましたが、残念ながら藤島さんはなくなられてしまいました。そこで、今回はセミナー以外の方法として本の出版を企画しました。

XMLドキュメントはニッチな分野です。XMLドキュメントを組版するのはXMLの中でもニッチです。XSL-FOはそういう意味ではニッチを二乗した分野になります。特に日本国内では商業書籍のテーマとしての成立は望むべくもありません。このため十数年経過しても、まだ日本ではXSL-FOをきちんと解説した書籍は発行されませんでした。世界でも数少なく、英語でも古くからある本が数種類のみで、XSL-FOを解説した新刊本はありません。『Definitive XSL-FO』のKen Holmanさんももはや引退モードです。但し、なぜか、ドイツ語では新しく数冊出ています。さすがにグーテンベルグの国だけあります。

しかし、こうしたニッチな世界でもPODを使えば出版自体は成り立ちそうです。CAS-UBは、もともと、こうした用途を狙っていたものです。ということで、昔のテキストをCAS-UBを使って書籍用PDFとし、POD出版を企画してみました。XSLはV1.1になって新しい機能がいろいろ追加されていることもあり、仕様書と格闘すること2カ月弱かかりましたが、ようやく初版ができあがりました。

ゼロから書けば、少なくとも3か月位はかかるでしょう。そうしますと出版単独で人件費までカバーするのはなかなか難しいと思います。ビジネスとしてうまく回す方法はないものでしょうか? もう少し、いろいろトライしてみたいと考えています。

[1] facebook
[2] XSL-FO の基礎 – XML を組版するためのレイアウト仕様
[3] PODで『XSL-FOの基礎』の出版を準備中です。
[4] 『XSL-FOの基礎』画像制作のこと。Word経由でインポートした画像は印刷品質の劣化が激しいため、第2版ではできるだけSVG形式に変更した件。
[5] 『XSL-FOの基礎 第2版』は全文をWebでも公開。CAS-UBのWeb生成機能でプリントオンデマンド用PDFもWebページもワンタッチで完成。

『XSL-FOの基礎』(草稿)をFormatter Club会員向けに配布中。

御承知の方も多いかと思いますが、最近、Amazon を始め様々なオンライン書店からプリントオンデマンド(POD)による書籍の販売が始まっています。

PODは、PDFを書店に預けておき、受注の都度、プリントと製本をして届けるという方式です。その方式の特性上、採算を目標とする商業出版にはあまり向かないと思います。しかし、商業出版では採算に合わないような少部数の出版物や、普及啓蒙を目的とする出版で活用できると考えております。

そこで、その実践として、この度、昔「XSL-School」で使用していましたテキストを刷新してPODで販売することを計画しました。このテキストは、2001年~2002年にXSL Formatterの草創の時代に作成したものです。

現在、この内容を見直してPODなどで販売する準備を進めております。本のタイトルは『XSL-FOの基礎』(XML を組版するためのレイアウト仕様)を予定しています。

XSL-FO-Book

本書は、XSL-FO V1.1の仕様をご理解いただくことを目的としています。本書で解説しておりますのは、標準の仕様書の範囲内ですので、アパッチのFOPなどのオープンソースXSL-FOプロセサでも共通であり、弊社AH XSL Formatter V6.3のユーザーでない方でも活用いただけるものです。

当初のテキスト作成時は、XSL-FOプロセサの完成度、XSL-FOの仕様書の実装度合も不十分でした。現在、XSL-FO V1.1の仕様書に沿って内容を見直し、仕様書に書かれた内容をサンプルFOとしてAH XSL Formatter V6.3で作成しています。10数年を経て、XSL Formatterの完成度が高くなっていることが実感できました。

現在、関心をお持ちの方にレビューいただきながら改訂を進めています。本書完成するまでの間、Formatter Clubの会員向けに配布しております。関心をお持ちの方は、ぜひFormatter Clubにご参加いただき、本書へのご意見をお寄せください。

Formatter Clubの参加方法は次のWebページにございます。

AH Formatter:Formatter Clubについて

なお、本書は完成後は、PODで販売を計画しており、無料配布は完成までの期間のみとなります(完成版と同時に無料配布は終了の予定です)。予めご了承くださいますようお願いいたします。

平日に買い、休日に読む? 

アマゾンの電子書店:キンドル・ダイレクト・パブリッシング(KDP)には、KDPセレクトという設定ができます。

KDPセレクトに設定すると、1冊販売する毎のロイヤリティが高くなります。それだけではなく、さらにプライム会員向けのKindle オーナー ライブラリー(KOL)に登録されます。KOLは、月に1冊本に限り自由に読むことができる本の一つになります。

KDP出版社向けのレポートには、販売部数と読んだページ数が表示されます。

1月16日に発売した『PDFインフラストラクチャ解説』ですが、発売にあたり、KDPセレクトに設定しました。

アマゾンでKDP実績レポートを見ますと、次のようになっています。

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先週中に、13冊販売しました。それとは別に、KOLで190頁強読んでいただきました。

面白いのは、KOLの読書が1月24日日曜日に一番多くなっています。購入いただいた方と、お読みいただいた方は同一人ではないのでしょうが集団としては、平日に購入し、休日に読む、と言えそうです。

『PDFインフラストラクチャ解説』 0.55版を公開。無料配布の最終版となります。

2005年10月にブログ「PDF千夜一夜」を開始してから既に満10年を経過しました。

「PDF千夜一夜」はブログを1000日間連続で書き続けるというものでしたが、大勢の方にご愛読いただきました。

PDF千夜一夜 全記事一覧

その記事を中心に、さらに新しい話題を追加し、編集・執筆してきました『PDFインフラストラクチャ解説』。本書は、CAS-UBによるワンソース・マルチユースのユースケースとして、PDF、EPUBの形式で同時に作成するほか、随時プリントオンデマンドで紙の本をサンプルとしても作ってきました。

現在、0.55版を公開しています。

『PDFインフラストラクチャ解説』0.55版(EPUB,PDF)無料ダウンロード ~12月初旬まで
2016年1月に本書発売となり、無償配布を終了させていただきました。(『PDFインフラストラクチャ解説』POD版とKDP版が揃い踏みとなりました

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12月には1.0版として発売する予定です。

今般、弊社では、アマゾン、三省堂書店、ウェブの書斎、honto.jp、楽天ブックスなどのストアから、CAS-UBで制作した本をPOD方式で販売するサービスを始めることになりました。

お知らせ: CAS-UBで作ったPDFを、アマゾンなどから紙の本として出版するサービスを始めます。

12月には『PDFインフラストラクチャ解説』をそのルートで販売開始します。本書は、現在、内容の最終チェックと索引整備の作業に入っています。12月にストアで販売開始後は、勝手ながらPDFとEPUB版の無償ダウンロードは終了させていただきます。いまが、最後のチャンスです。

微力ながら、満10年かけて作りました。手に入らなくなる前にPDFとEPUBのダウンロードをお急ぎください。

『本と装幀』にみる本のかたちに関連する用語

『本と装幀』(田中薫著、沖積舎、2003年発行)

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著者はあとがきで、

現在は「出版の概念」が、大きく変わりつつある時代でもある。だから、「紙に印刷して製本したものが本である」という概念だけが、正しいと言える時代がいつまで続くのかは、誰にもわからない。(p.263)

と述べているが、確かにその通りだと思う。

本書は、本のかたちについて、主に装幀などの観点を中心とする「装幀論」である。ところで、いままでいくつかの本を読んだ範囲では装幀という言葉の意味する範囲は分り難い。著者は大学の先生でもあり、本書ではさまざまな用語の解説も行われているので、本のかたちに関連する用語が本書でどのように規定または使用されているかをまとめてみる。なお、本書には和製本と洋製本の章が設けられているが、以下の用語はほとんど洋製本に関するものと言って良いだろう。

・製本(Book Binding):「加工作業」、「手書きまたは印刷された紙葉を、書物という形に作り上げる不可欠の工程」(p.28)、「紙を順序にまとめて、綴じ、縫い、糊付けするなどして、表紙に接合する作業のこと」(p.29)
・装本(Book Binding Design):「外装、体裁を整えること」「表紙、見返し、小口などに体裁上のデザインを加味すること」(p.29)「製本の設計図を描くデザイナーたちの作業部分」(p.30)
・新装本:判型も装幀も変えて新発行し、新刊扱いをして流通させること(p.21)
・装幀:「日本では、このような書籍の外装や体裁など、主として外観、つまり外回りに関するデザイン上の処理、あるいは、その仕様のことなどを、一般的に〈装丁〉という言葉で表現している。」(p.42)「書物における装幀デザインは、工業製品における意匠デザインや、流通などの便宜性のために、それらを収めるパッケージ・デザインと同じような機能を持っている」(p.73)[1]
・装幀デザイン:装幀と装幀デザインの関係は明示的に定義されていない。「装幀デザインは、… 完全版下という形で入稿することが多くなってきた。」(p.97)
・(装幀)デザイン・ポリシー:「基本的な編集意図を踏まえたデザイン方針」(p.143)、編集担当者と著者の間で討議する(p.146)
・ブック・デザイン:明示的な定義はないが、ブック・バインディング・デザインと同一のようだ。(p.30)
・装幀デザイナー:「装幀デザインを専門とするデザイナー」(p.41)
・ブック・デザイナー:明示的に定義していないが、装幀デザイナーと同一のようだ。(pp.217-219)
・装幀デザイナーの仕事:「(並製本の雑誌では)デザイナーの出番は、表①とよばれる、表表紙と背のデザイン・レイアウトに尽きてしまう」(p.84)、「(上製本では)単に表紙に表面的なデザインを加味するだけでなく、見返しや扉、帯、花布の選択、奧付のレイアウトなどのほか、各種の函なども含めると一冊の本をデザインする上での構成要素は大変多いものである」(p.85)「カバーはもっとも重要な装幀デザインのファクターの一つ」(p.95)
・装幀家、装幀作家:初期の装幀デザイナーのことのようだ(p.175)洋式製本とともに誕生、橋口五葉が初期。グラフィックデザイナーの活動の一環である。(p.173)
・本の中身:外側の体裁と対比している。(p.109)文章主体から、「写真や図版を見せることで正立している」本が増えてきた。(p.112)
・レイアウト:「文章や写真の美的で効果的な配置、つまりその並べ方のこと」(p.118)
・タイポグラフィー:「もともと活版による、文字の配列などのデザインのこと」(p.110)「今日では、ある種の誌面構成、レイアウトなども」(p.112)
・エディトリアル・デザイン:「版面の設定」、「活字の組み方、大きさ、書体などをどうするか」(p.109)「書籍や雑誌の中面のデザイン」「和製英語」(p.116)、「誌面構成のような、編集技術についての事柄を言おうとしている時に使うのは、用法としておかしいのかもしれない」(p.117)
・エディトリアル・デザイナー:「誌面構成に関するデザインを専門的に行う」(p.113)「昭和30年代に入ってから」(p.115)、編集デザイナー(p.116)

[1] 「2 製本と装本」では、装本という言葉を使い、「3 装幀とはなにか?」では装幀という言葉を説明している。どうも、装本と装幀という言葉を同じ意味で使っているように見えるが、定かではない。また、「3 装幀とはなにか?」で引いている『デザイン小辞典』(山崎幸雄他)、『執筆編集校正造本の仕方』(美作 太郎)では、組み方、判型なども装幀に含めているが、本書では、どうも組み方、判型などは含めていないように読める。しかし、「デザインを加味するファクターとして必要なところは、…外側の「目に見える部分のすべて」と言っても良いだろう。」(p.102)という表現もあるので判型などを含むという解釈もできる。本書は全体的に用語の統一がとれていないのが気になる。

『本をつくる者の心 造本40年』

『本をつくる者の心 造本40年』(藤森 善貢著、日本エディターズスクール出版部、1986年発行)
四六判、上製本、262頁

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藤森氏は岩波書店で長く仕事をされ、定年退職後は本づくりを軸として出版技術の体系化・教育・普及のために活動された方である。本書は藤森氏が亡くなったあと、日本エディタースクールがまとめたもので「遺稿集」にあたる。神田の古本屋で入手して一気に読んでしまった。藤森氏と縁が深かったという精興社が印刷を、牧製本が製本を担当している。刊行されてから30年近いが、読みやすく、開きやすく、堅牢にできている。造本が素晴らしい本である。

遺稿集ということで、さまざまな原稿が収録されているが、その中核は造本40年という一種の自分史にあたる章(pp. 21-144)である。

藤森氏は岩波茂雄さんの遠縁にあたる方で、岩波氏を頼って上京し、最初は2年ほど東京の書店で働き、書店が解散したあと岩波書店に入店する。昭和の初めの書店の仕事が生き生きと描かれている。岩波書店に入ってからは営業、広告を経験したあと徴兵されて、終戦後再び岩波書店に復帰した。

満州事変後、戦争が近くなった時期の警察による本の検閲や発売禁止本などへの対応の経験(pp. 31-40)を読むと出版が不自由な時代の世相を身近に感じられる。

戦後は書籍の製作にたづさわり、辞書を中心にさまざまな書籍を作ってきた。特に『広辞苑』の製作がもっとも印象深い。他にも『岩波英和辞典』新版、『岩波ロシア語辞典』、『岩波国語辞典』、などなどの実績が次々に登場して眼が眩むほどである。いまではこのような事典を新しく紙で出すのは難しいのではないだろうか。まさしく出版の輝かしい最盛期である。

藤森氏は「活字の可読性」を研究したり、「造本・装幀」、特に本が壊れない造本ということについて科学的な精神で取り組まれ、その集大成が、日本エディタースクールから発行された『出版編集技術』(上下二巻)となったようだ。

製作面の入門者には、最後の「造本上の良い本・悪い本」という章(pp. 203-245)が参考になる。1974年に行われた株式会社ほるぷの幹部研修会の講演録のようだが、最近の造本が悪くなっていることを述べ、戦後はパルプに闊葉樹を使っているため繊維が短く質が低い、短期間に製本するため膠が本に浸透しない、このため本が壊れるという。

講演録ということで若干話が横に跳んだりしているが、造本は内容・用途・刊行意図によって方式を選ぶという考え方について述べている箇所も興味深い。このポイントは、①長く読まれる専門書は30年、50年という堅牢で長期にわたってもつ紙と製本方式を選ぶことになる。このように内容によって上製本にするか、仮製本にするかを決める。②学生の引く小型事典のように使用頻度が多く、持ち運びやすいものは小型で軽く、しかも開きやすく安い、というように用途で形態が決まる。③文庫本や新書のように図書の普及を狙うものは持ち歩き、定価を安くという条件となる。

但し、今は、専門書は電子化して活用しやすくする方が重要で、紙の本は読み捨てにしても良いのではないかとも思える。このようにデジタル化によって考え方の基準を変えるべきところもあるように思う。そういう意味では批判的に検証する読書態度が必要かもしれない。

『本はどのように消えていくのか』

『本はどのように消えていくのか』(津野 海太郎著、晶文社、1996年発行)
四六判、220頁、1900円+税

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書名と同名の短文を中核とする短文集である。一読して、やはり「本はどのように消えていくのか」(pp. 76-97)が最も印象に残る。

本文の趣旨を整理すると、次のようになるだろう。

冒頭で「はたして紙と活字の本はなくなるのか。」と問い、「おそらくなくなるだろう。」、ただし、数百年かかるだろう、と答える。本文で論じているのはどのような過程をたどってなくなるのか? ということである。

まず、紙と活字の本のモノとしての側面を、①明朝体の文字をタテヨコそろえて組み、②それを白い紙の上にインキのしみとして定着し、③綴じてページづけしたもの、と定義付ける。(p.77)

津野さんは、そのような本と並行して、数十年の間に①ネットワークを通じてデータを入手し、②ディスプレイ画面にデジタル文字として表示、③複数のウィンドウを切り替ながら読むという仕組みが出現するという。(p.91)

こうしたモノとしてのデジタル電子本は50年以内には完成するかもしれない。しかし、「いまあるような紙と活字の本が、まるごと別のモノによっておきかえられるには百年、二百年、いや三百年かかる。」(p.92)

その理由は、紙と活字の本は「水のように流れる自分の想念を書くことによってせきとめ、ふかめ、それをインキのしみとして、紙やその他の素材の上にしっかり定着しつづけてきた。」(p.94)、「ディジタル・ネットワークにおける…中略…ディスプレイ画面上の文字はインキのしみではなく、かげろうのようにはかない一瞬の映像に過ぎない。印刷が印刷でないものにとってかわられるということは、…印刷によってきざまれる動と静、運動と定着のリズムが私たちの社会から完全に消滅してしまうことを意味する。」(p.95)

要するに印刷が安心感の根拠であるが、モノとしての電子本が新しい安心感の根拠になるまでの社会あるいは人間の「読書習慣」の変化には数百年かかるだろうから、その間は、紙と活字の本と新しいデジタルの本が共存する期間となる、というのが津野さんの主張の骨子である。

さて、この記事が書かれてから既に20年になろうとしている。この間、活字は既に消滅し、デジタルフォントに置き換えられた、そして印刷もデジタル印刷に変わりつつある。そして、津野さんのいうデジタル電子本も技術的にはかなり進んできた。そして電子書籍が一部で確実に普及している。

しかし、この文章の冒頭の「はたして紙と活字の本はなくなるだろうか?」という設問への答えはまだ見えておらず、相変わらず想像力を掻き立てる問いのままである。

本は津野さんのいうように一つの世界観を封じ込めた精神的なカプセルである。そのカプセルの内容を表示する装置が紙か電子デバイスであるかということが紙の本と現在のデジタル本の違いである。ところで、そのカプセルの内容を紙の上に定着させた場合と、画面に一瞬表示した場合で、読み手に与える効果・影響にどの程度の相違があるのだろうか? これはまだはっきりとはわかっていない。津野さんの主張は、その相違および読書習慣の永続性を強調しすぎているとも思える。

いずれにせよ、日々の糧を得ようとしてアクセクしているわが身にとっては、数百年後に紙と活字の本はなくなるだろうというのは時間のスケールが違いすぎる。

『活字が消えた日』

『活字が消えた日』(中西 秀彦著、晶文社、1994年)
四六判、251頁、2,600円+消費税

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京都の老舗印刷会社中西印刷が活版を完全にやめて電算写植に移行するまでの約6年間をドキュメンタリー風につづった書である。以前から書名は何度も見かけて知っていたがまだ読んでいなかった。たまたま先日神田の古本屋で見つけて早速購入して一読。若旦那こと中西さんの筆力に感銘を受けた。

1980年代から1990年代にかけて15年足らずの間に活版から電算写植へと制作技術が短期間で変遷したときの日々の出来事がまるで目の前の出来事のようにいきいきと描きだされている。

活字を拾い(「文撰」)・活字を凧糸で組み上げてページの形に整える「植字」を行うベテランの職人技に関心しながらも、若旦那はコンピュータを使った合理的な電算写植へと突き進む。

コンピュータによる組版にかけた若い息子と彼の父親である社長の、会社・印刷の未来をめぐる対話も興味深い。家業としての印刷会社ならでは風景である。

活版の設備投資はすべて償却済みなので償却負担がない。それに対して、新しいコンピュータ組版の設備は膨大な新規設備投資必要なため、生産性が上がっても、償却負担が大きくて儲からないという話もある(p.226)。

技術の強みと弱みを見据え、将来性を見て投資の判断を行っていかなければならない印刷会社の経営の難しさも良く分かる。

『出版社社長兼編集者兼作家の購書術 本には買い方があった!』

『出版社社長兼編集者兼作家の購書術 本には買い方があった!』(中川右介著、小学館新書、2015年2月発行)
新書判、208頁、720円+税

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いまは、「本は本屋で売っている」ことを知らない人が多い(はじめに)という衝撃的な文章を読み、本当なんだろうか? と早速購入した。

本を買うための指南書というふれこみであるが、読んでみると、書かれている内容は業界人から見た書籍の流通に関する説明の量が多い、と感じる。

著者が、出版社の経営者であり、また編集者でもあるので当たり前ではあるが、しかし、タイトルと内容にずれがあるのではないだろうか。その分、中途半端なのが惜しまれる。

実際のところ、解説の内容は出版社側の観点からの、次のような話が多い。

・本の初版印刷部数について。新書・文庫は最初にする部数は1万部前後がほとんど。単行本は四六判が最も多く、定価2000円以下で大手の版元だと5000部~1万部が一般的。中小・零細版元の本は3000部が上限。版元の規模と最初の刷り部数は比例する。大手版元はコストが大きいので5000部でないと会社がやっていけないのがその理由である。(p.31)大手では分業体制になっているのでコストが大きくなるとのことだ。
・発売直後の売れ行きを初速という。売れた本か、売れなかった本かは発売直後の数週刊で決まってしまう。(p.47)
・本の値段の決め方は、内容ではなくて製造原価が大きな要因になっている。(p.169)
・印税の話(pp.172-178)

著者自身がかなり大量の本を買っており、その体験に基づく本の買い方についての説明ももちろんある。人によっては参考になるかもしれないが、東京に住んでいて、ある意味業界人としての観点の説明が多いのでかなり異端のように感じる。

今の出版界の稼ぎ頭は、パートワークなのだそうだ。(p.89)
・パートワークとは、「分冊百科」ともいう。など、定期購読もの
・隔週でCDやDVDが付いたもの
・自動車や戦車の模型がついたもの
・全部集めると帆船が組み立てられる
・十数頁の小冊子がおまけについているが、建前は冊子が本体になっている

この他、出版販売は、書籍を取次、書店経由で売るだけでなく、外商、コンビニ、オンライン書店など多様化している実情も説明されている。

やはり、これは業界もののような気がする。