ページってどういう意味? 続編 Kindleの紙の本の長さと、KENPについて

アマゾンKDPに詳しい人はご存じかと思いますが、Kindleストアにはページという言葉が二つ登場します。

一つは、KDPの本の紹介で表示される「紙の本の長さ」という項目の値です。図の赤枠で囲った部分です。説明文には「推定の長さは、Kindle で表示されるページ数を使用し、印刷本に極力近い表現になる設定で計算されます。」と表示されます。

20161020

「印刷本に極力近い表現」ってどういう意味なんでしょうか? 図の『PDFインフラストラクチャ解説』Kindle版の場合、417ページと表示されます。ちなみに、『PDFインフラストラクチャ解説』には、POD本が別にあります。POD本はページ数を極力抑えるためにB5判型にしていることもあり、本文268ページなんですが。

もう一つのページ概念は、KENP(Kindle Edition Normalized Pages)というものです。KENPは、Kindle Unlimited[1]とKindleオーナー ライブラリー[2]の利用料支払いの基準になるページ数です。Kindle Unlimitedは「初めて読まれたページ数に応じて KDP セレクト グローバル基金の分配金を受け取る」とあり、オーナーズライブラリーも「初めて読まれたページ数に応じて」ロイヤリティを受け取るとされています。

つまり、ページ数はロイヤリティの支払い基準なので重要な概念なのです。

KENPは、現在、v2.0だそうです。「KENPC v2.0 では、フォント、行の高さ、およびスペースなど本の長さを標準化する計算方法に多くの改良が加えられています。」[3]という説明があります。

それでは、実際のKENPの単価はどうなっているのでしょうか? これに関してはあまりデータがないんですが;

『PDFインフラストラクチャ解説』は発売した1月から7月までKindle Selectに登録しており、この間で、稼いだKENPが延べ8,279ページでした。KENPによるロイヤリティ収入は、6,875円です。計算すると1 KENPが83銭となっています。

ちなみに、鈴木みそさんのブログ[4]には11冊のコミックのKENP数とロイヤリティ収入が公開されていますが、11冊すべて1KENPが50.7銭となっています。コミックは、たぶん、紙と同じページでしょうから、紙版と同等ページが、1ページ読まれたら約50銭の収入が得られる、ということになるのでしょう。

さて、この83銭と50銭をどう考えたら良いんでしょうか?

[1] Kindle Unlimited
[2] Kindleオーナー ライブラリー
[3] Kindle Unlimited およびKindleオーナー ライブラリーのロイヤリティ
[4] 鈴木みそは「アマゾン読み放題」で儲かったのか!? 金額発表!

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★ページに関連するブログ記事の一覧
[1] ページってどういう意味? 紙のページ、Webページ (memo)
[2] ページってどういう意味? 続編 Kindleの紙の本の長さと、KENPについて
[3] Kindle Unlimited問題とKENPの関係について(続き)
[4] Amazonでは本のページの数え方が三つある。Kindle Unlimitedは第三のKENPで著者への支払いが行われ、KENP相場が基準になる。
[5] ページっていったい、どういう意味なんだろう? ――Webページ
[6] ページって何? 「ページ」と本のかたちとの関係、「ページ」と「頁」の関係、ブラウザと電子書籍の未来

『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (5) 『PDFインフラストラクチャ解説』のプリントオンデマンド制作と販売

最初、PODで本にしてみたところ、PDFと紙での版面の印象の違いが大きいのに驚いた。本の内容をPDFにして画面で読むのと、同じPDFから印刷・製本して、本として読むのを実際に試してみると想像以上に印象が違う。どうやらPDFと紙の本は全く別物である。

POD版の試作とレイアウト改良

そこで、『PDFインフラストラクチャ解説』の制作中、PODで実際に本を作ってみて、基本版面や表などのレイアウト設定値をより読み易くなるように変更を重ねた。変更したレイアウト設定値を、CAS-UBの「PDFレイアウト設定」のデフォルト値として反映する。こうすれば、新しく本を作るときに、同じことを繰り返さなくて済む。

PODを3回試作した。
・初回のPOD試作 2013年2月 0.24版 256ページ (詳しくは
・第2回POD試作 2013年7月 0.33版 258ページ (詳しくは
・第3回POD試作 2014年3月 0.39版 268ページ (詳しくは

PODで作った本を外部の人などに評価してもらい、基本版面、見出しの文字サイズ・配置・番号の付け方、表の罫線の引き方・セルの空き・本文と表の文字の大きさの関係などを改良した。

基本版面

日本語組版におけるページの文字レイアウトは基本版面で設定する[1]。本書は、B5判型、横組・一段、文字サイズは10ポイント(pt)と決めていた。そのとき、行送り(文字サイズと行間を足した値)、字詰め数(一行の文字数)と行数(一頁の行数)を変更できる。この三つの設定を変更するだけでもページの印象はかなり変わる。

POD 判型 文字サイズ 行送り 字詰め数 行数
0.24版 B5

10pt 19pt 38 30
0.33版 B5 10pt 18pt 39 33
0.39版 B5 10pt 17pt 39 36
リリース版 B5 10pt 16.8pt 39 35

文字だけのページで四つの版面を比較してみる。
v024-1
図1 0.23版
v033-1
図2 0.33版
v039-1
図3 0.39版
v100-1
図4 リリース版

0.24版は行間の空きが広く、また上下の余白が広い。ページに余裕を感じる。
0.33版と0.39版を比較すると0.39版は印刷領域が上下に広く、上下余白がやや余裕がない印象がある。
リリース版は行間を少し詰めて、1行減らしたので上下の余裕を感じる。35行にするか、36行にするかは迷うところである。

表の組版

表のスタイルは当初は、すべてのセルの周囲に罫線を引き、ヘッダ行に網掛けする(レポートスタイル)としたが、最終的にはJIS X4151に定められているスタイルとした。CAS-UBでは、PDF生成時に、どちらかのスタイルを選択できる。また、表のセル内文字の大きさ、セル内のテキスト配置、テキストと罫線の間の空きについてもバージョンを重ねる毎に調整した。

v024-2
図5 0.24版の表

v100-2
図6 リリース版の表

図の大きさ

本書には図版が多数あるが、大きさは一律ではない。PDFを出力するとき、図の大きさはマークアップで指定できる。次は、図の幅を版面の60%にした例である(図8 リリース版)。

[[[:fig =コードポイント・字体・字形
{{:width=60% Unification-JIS.png | Unification-JIS.png}}
]]]

図のキャプションの位置も上と下を選択できる。リリース版では、図のキャプションは図の下に配置することとした。ちなみに、市販の書籍でもキャプションを図を下に置くことが多い。
v024-3
図7 0.24版の図

v100-3
図8 リリース版の図

PODのためのPDF仕様

PODのためのPDFは、アマゾンPOD仕様をベースとしている。

・PDFバージョンは1.3(透明を使えない)
・CAS-UBではPDF/X-1a:2001を指定する(PDF/X-1a:2001はPDF 1.3ベース)
・塗り足し(判型のサイズの外側に3mm)
・判型は新書~A4まで
・頁数は24~746
・ページには所定の余白が必要

POD用PDFとオンライン配布用PDFの比較

オンラインで読むためのPDFと、PODに使うためのPDFは別々に作成する必要がある。そこで、CAS-UBに、オンライン閲覧用PDF設定から、PODに使うPDF設定への変更メニューを追加した。次の点に注意が必要である。

・POD用PDFは周囲に3mmの余白が必要である。
・PDF/X-1aでは、印刷範囲(BleedBox)に注釈を置けない。
・PDFではリンクを注釈で扱うので、POD用PDFには次のようなリンクが出せない。
・目次から本文へのリンク、索引語から本文へのリンク、本部の参照リンクなど。
・POD用PDF(PDF/x-1a)では画像のカラー表現をCMYKに変換する
PODPDF-setting
図9 CAS-UB POD設定

POD版の本の販売

現在、PODで本を作る業者に依頼すれば、どこでも少部数でも製本した本を作れる。これまでにもCAS-UBで制作したレポート類を数冊、POD業者に外注して印刷・製本した実績がある。

こうして作成した本は、自社の直販と、アマゾンのe託を使って販売していた。電子版はインターネットでダウンロード販売できる。これに対して、紙の本は梱包して物流に乗せる必要がある。このため、低価格の書籍を、直接販売するのは手間とコスト面で難しい点がある。これまで出した本は、比較的高価格である。

もう少し割安になる流通手段を期待していたところ、2015年終わりにインプレスR&D社がPOD取次を始めたので、この機会に契約してPOD出版で販売することとした。

次の表はアマゾンのe託とPOD取次を比較したものであるが、e託と比べて、POD取次方式は各段に効率的である。

取り扱い POD製作 取り扱い費用 在庫負担
e託 街の業者 年会費9,000円。定価の40% 在庫負担あり。アマゾンの倉庫に納品するコストもかかる
POD取次 アマゾンが印刷製本 定価の38% PDFで取次に渡すので、在庫負担と納品コスト負担なし

e託は、常にアマゾンの倉庫の在庫をチェックして在庫がなくなったら倉庫に納める必要がある点、不便であり、コストも高い。POD取次ではPDF納品となるのがありがたい。

KPD用の書籍制作と販売

CAS-UBでは出版物の原稿を一回制作すれば、ワンボタンでEPUB、Kindle mobi形式にできる。Kindle mobi形式の販売はアマゾンKindle用のみであるが、EPUBにすればアマゾン以外の電子書店で販売できる。但し、取次を使わないのであれば個人出版を受け付けるストアのみで販売することになる。

KDPの方は、既にいろいろな本をKDPで販売していたので特段新しいことはなくスムーズに出版手続きを行えた。

PODとKDPの発売時期をできるだけ揃えたかったので、KDP登録作業は1週間後に行った。
無料配布版があることがひっかかってしまったが、無償版の配布を終了して翌日にはリリースとなった。POD版の方が発売まで予想外に日数がかかった。

販売促進

PODとKDPを使えば、誰でも、低コストで本を出版できる。大きな部数で印刷・製本して在庫を持たなくて済むのは助かる。しかし、出版したら売らなければならない。

出版社から出版される場合は、取次から書店に配本される。本自体が宣伝材料になる。しかし、個人で本を出版したら、まず、その存在を知ってもらわなければならない。存在を知られないかぎり出版していないのと同じである。

『PDFインフラストラクチャ解説』については、本を制作する段階からfacebookグループを作って参加者を募集してきた。しかし、トピックが一般大衆向けではないためか、参加者はまだ少ない。

PDFinterest facebook グループ

本を紹介するために簡単なWebページを作った。これだけでは不十分である。

『PDFインフラストラクチャ解説』Webページ

販促活動の一環として、2月16日に出版記念講演会を開催した。

『PDFインフラストラクチャ解説』出版記念 特別講演会のお知らせ

販売状況

PODで少部数の出版ができるといっても、ビジネスとして成立するかどうかは別である。まだ数字をまとめる段階ではないが、簡単にレポートする。

POD版の実績は、まだ不明である。

KDPでは、Kindle独占(セレクト)の選択ができる。現在のところ、セレクトとして登録・販売している。セレクトにするとロイヤリティ70%である。さらにアマゾンのプライム会員は毎月1冊を無料で読めるが、KDPセレクトで販売している本がその対象になるようだ。

多い日は1日500頁(KENP)以上読まれている。どうも、休日に読まれることが多いようなのは興味深い。KDPの販売部数に比べて、読まれるページ数がだんだん増えているようだ。これは、本の単価が高いことが原因かもしれない。

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図9 販売部数(上)とプライムで読まれたKENPページ数(下)

現在までの実績は27部(KDP)であり、ロイヤリティは2万円強。KENPは、読まれたページ数を恐らく端末の差を調整した値のようだ。これがどのように金額に換算されるかは不明である。

いづれにせよ、単独のプロジェクトとして収支を計算すれば、制作・販売コストの回収はともなく、人件費の回収ができるかどうかはまだ分からない。長く売れれば、意外に売上が増えるかもしれない。

[1] 『日本語組版処理の要件(用語集)』では、組方向、段数、文字サイズ、字詰め数(文字数/一行)、行数、行間と段間で指定する。
[2] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる?
[3] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (2)紙の本と電子の本をワンソースで作りたい
[4] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (3) 電子テキストは印刷ではなく、音声の暗喩と見る方が良い
[5] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (4) 『PDFインフラストラクチャ解説』の実践例より
[6] プリントオンデマンドの本を作る デジタル書籍制作Webサービス CAS-UB

平日に買い、休日に読む? 

アマゾンの電子書店:キンドル・ダイレクト・パブリッシング(KDP)には、KDPセレクトという設定ができます。

KDPセレクトに設定すると、1冊販売する毎のロイヤリティが高くなります。それだけではなく、さらにプライム会員向けのKindle オーナー ライブラリー(KOL)に登録されます。KOLは、月に1冊本に限り自由に読むことができる本の一つになります。

KDP出版社向けのレポートには、販売部数と読んだページ数が表示されます。

1月16日に発売した『PDFインフラストラクチャ解説』ですが、発売にあたり、KDPセレクトに設定しました。

アマゾンでKDP実績レポートを見ますと、次のようになっています。

2016-01-26

先週中に、13冊販売しました。それとは別に、KOLで190頁強読んでいただきました。

面白いのは、KOLの読書が1月24日日曜日に一番多くなっています。購入いただいた方と、お読みいただいた方は同一人ではないのでしょうが集団としては、平日に購入し、休日に読む、と言えそうです。

CAS-UBで制作したEPUB3をAmazon KDPで販売してみました

CAS-UBは12月20日のアップデートで、Amazon Kindle対応を正式機能とする予定です。そのチェックもかねて、CAS-UBで制作したEPUB版の書籍をKDP(Kindle Direct Publishing)で販売してみました。

ためしということで、今回、個人でKDPアカウントを作ってみました。KDPにアカウントを作ることはいまさら説明することもないくらい簡単です[1]。

素材としては、CAS-UBで今年の初めから書いてきた「縦組みにおける英数字正立論」をEPUB3にしたものを使います。

Kindleでは表紙(カバー)画像とか目次について守ったほうが良いガイドがありますが、今回はこれを無視して、表紙画像なし、目次はEPUB標準のNAV形式とNCX目次の両方を設定しています。

12月10日の朝8時過ぎ(出社する前)にアップしました。そうしましたら、夕方16時過ぎにはもうKindle Storeで発売されました。わずか8時間程度でリリースというすばやさです。

・今回、表紙画像を用意しませんでしたので、表紙画像なしとなっています。表紙画像なしでも販売はできるようです。
・販売元が「Amazon Services International, Inc.」になっています。
・とりあえず、値段は240円(3ドル)としてみました。価格には税込みか税別かは記載されていません。

今回はテストが目的なので、自分で購入してみます。Kindleで本を買うのは簡単です。購入後にアカウントサービスでMy Kindleを見ると購入した書籍が保管されています。

ここから端末(Kindle Paperwhite)に配信してみます。Papewhiteで問題なく最後まで読むことができます。

Kindle本をPCにダウンロードすることもできます。

ダウンロードしたKindle本のファイルは拡張子azw3となっています。このファイルをMobiUnpack 0.47で開こうとしましたが、エラーになります。アップロードする際「DRMなし」で設定したので、DRMが原因ではないと思いますが、MobiUnpack 0.47は、azw3形式には未対応なのでしょうか? ということで残念ながら、EPUBからの変換結果がどうなっているかは確認できません。

iPad版のKindleアプリでもクラウドからダウンロードして読むことができます(次の図)。

自分で本をアップロードして、自分で1冊購入したのですが、販売レポートを見ると、「な!なんと!販売実績2冊」です!!

どなたか、奇特な方にお求めいただいたようです。ありがとうございました!

ということでCAS-UBで制作したEPUB3本をKindleで発売する第一段階のテストは終わりました。

あとは、表紙画像と目次ですね。

・表紙画像は、CAS-UBでは、ユーザーが自分で用意することができますので、その機能を使えば問題ないだろうと思いますが、12月20日版で表紙画像を自動生成する機能があります。それが使えるかどうか? 確認しておきたいと思います。

・今回制作したのはEPUB3形式ですが、NCX形式の目次も設定しています。Papwewhiteでは「移動」メニューに、この目次が表示されますので、最低限の目次は付いています。しかし、本文にHTML形式の目次も用意するのがベターです。この機能も12月20日段階で用意する予定です。

なにはともあれ。CAS-UBで制作したEPUBをKDPで販売するのは思いのほか簡単です。販売数量を増やすのは、また別の問題なのですが。

[1] 本当は契約書をきちんと読まないといけないのです。実はそれが一番時間がかかるでしょう。とりあえず注意すべきことをあげておきます。KDPの著者ロイヤリティは35%と70%があるのですが、日本では35%しかないので選択の余地がありません。また、アマゾンの米国法人との契約になるため、著者のロイヤリティから、30%をアマゾンが源泉してIRS(合衆国の国税徴収機関)に収めます。このため、著者に払われるのは定価の35%×70%になるようです。但し、日米租税条約に基づく書類を提出することで30%のIRSへの源泉税支払いは免除されます。
[2] (12/15)読み返したところ、説明文中でNAVとNCXを取り違えている箇所がありましたので、訂正しました。