EPUB3.1の最終ドラフトが公開されました。EPUB3.1での機能変更は当初期待より大幅に縮小となりました。

追記【】2017年1月にEPUB 3.1はIDPFの勧告仕様となりました。
EPUB 3.1 Recommended Specification 5 January 2017

————以下、元のブログ————
2016年8月1日、EPUB3.1の仕様書最終ドラフトが公開されました(これはEditor’s Draftとのことです。詳しくは下の追記を参照)。今後は新しい機能が追加される予定はなく、新しい要求があっても次のバージョンに持ち越される予定です。

EPUB3.1の開発は、2015年の夏に始まりました。最初の方向検討会議では、非互換をおそれず、EPUB3.1で様々な新機能を盛り込むという話でした[1]。しかし、その後、市場からのフィードバックなどによるものと思いますが、新機能の話は大幅に後退しました。EPUB3.0.1からEPUB3.1への変更の多くは仕様書の文書としてのメンテナンスになり、実質的変更は小さなものとなります。

EPUB3.1 2016年8月1日版の仕様書は次のモジュールからなっています。

EPUB3.1概要
EPUB3.0.1からEPUB3.1への変更点

仕様書の構成は現行バージョンのEPUB3.0.1からかなり変更されています。しかし、これは仕様書としてモジュール間の整合性を整えるために行われたものが多く、仕様の実質的な変更は、それほど多くはないようです。

以下、主に「EPUB3.0.1からEPUB3.1への変更点」を参考にして、変わった項目をざっと紹介します。なお、以下は、すべてを網羅しているわけではありませんので、予めお断り致します。

1.EPUBパッケージ3.1

EPUB Publications 3.0.1は、EPUBパッケージ3.1にタイトルが変更になりました。さらに、EPUB内容文書3.0.1に収容されていたEPUBナビゲーション文書の仕様は、そっくり、EPUBパッケージ3.1に移動しました。これはEPUBでは幾つものHTML文書を一つにパッケージし、それらの文書をナビゲーションすることが重要との判断に基づいています。

EPUBパッケージ3.1では、パッケージ化について記述する.opfファイル(XMLファイル)を規定しています。
(1) .opfファイルのルート要素packageのversion属性に、EPUBのバージョン番号を記述します。これが<package version=”3.0″>から<package version=”3.1″>に変更になります。バージョンを確認しているEPUBリーダーでは読み込まないかもしれません[2]。従って、EPUB3.1形式の出版物をリリースするにはストア毎に対応を確認してからとなるのでしょう。
(2) package要素の子供からguide要素が削除されました。
(3) metadata要素の子供からOPF2_meta要素が削除されました。
a. metadata要素の子供のdc:identifierにopf:scheme (オプション)が追加されました。
b. 同dc:title要素の属性にopf:alt-script(オプション)とopf:file-as(オプション)が追加されました。
c. 同contributor、creator、publisher要素の属性にopf:alt-scriptとopf:file-as(いずれもオプション)が追加されました。contributor、creator要素の属性にopf:role(オプション)が追加されました。
d. 同meta要素の属性にrefinesが置き換え対象[3]となり、代わってopf:alt-script、opf:file-as(オプション)が追加されました。
(4) manifest要素の子供item要素にduration属性(条件によって必須)が追加されました。
(5) bindings要素が削除され、マニフェストfallbackが追加されました。
(6) NCX(EPUB2の目次)は廃止予定[4]となりました。これにともない、spineのtoc属性が廃止予定となりました。

2.EPUB内容文書3.1

EPUB内容文書3.1は、EPUBの内容を記述するHTML5とSVGについて規定します。HTML5にはHTML構文とXHTML構文がありますが、EPUB3.1ではXHTML構文で記述します。ファイル名の拡張子は.xhtmlを使うべきとされています。このあたりは、EPUB3.0.1.から変わっていません。

(1) HTML5、SVGへの参照方法が変わり、HTML5、SVGの仕様が改訂されるとすぐにEPUB3.1に反映されるようになります。
(2) CSSの参照方法が変わり、CSSサポートがより一般的になります。
  EPUB3.0.1で採用されているプレフィックス付のプロパティは、できるだけ早く使わないようにすることが推奨されています。writing-modeプロパティは変更なし。text-orientationはプロパティの値が変更となります。また、特に、-epub-text-combineプロパティは廃止され、text-combine-uprightプロパティとなります。
(3) リーダーのスタイルよりも、著者とユーザーのスタイルを優先するためのガイダンスを追加します。
(4) スクリプトのサポートの明確化。
(5) コンテント切り替え機能(switch要素)を削除します。
(6) オーディオやビデオのようなマルチメディア再生のためのユーザーインターフェイスをマークアップするtrigger要素は削除されます。EPUB3.1ではオーディオやビデオのようなマルチメディア再生はHTML5のaudio要素、video要素でコントロールすることを勧めています。
(7) EPUBリーダーオブジェクトとして、IDL定義を追加。

その他のモジュールは省略します。

[1] EPUB 3.1 開発計画の概要 2015/10/20現在
[2] 例えば、IDPFで準備した仕様書のEPUB 3.1ファイルは、AdobeのDigital Edition3.0.1、iBooks 4.1.1は現在でもEPUB3.1を開くことができます。KindleGen V2.9でkindle mobi形式に変換もできます。packageのバージョンをチェックしているEPUBリーダーは少ないのかもしれません。
[3] superceded。将来廃止されるので使わないようにする。
[4] obsolete。次のバージョンアップで廃止される。
[5]《経過》2016年1月30日のEditor’s Draft初版では、急進的な変化を組み込んだドラフトが発表されました。
  EPUB 3.1 Changes from EPUB 3.0.1 Editor’s Draft 30 January 2016
  その後、2016年4月26日のEditor’s Draft第2版で急進的なアプローチは否定されたようです。
  EPUB 3.1 Changes from EPUB 3.0.1 Editor’s Draft 26 April 2016
  今回の最終ドラフトは4月26日版の延長となります。

[6] 追記(8月17日) 8月16日にIDPFから来たメールによりますと、8月1日に公開されたのは、3回目のEditor’s Draftであり、機能的には完成で、指摘された問題を解決済みのもの。コミュニティでレビューしてもらい、9月の早いうちに正式なパブリックドラフト(formal Public Draft)にする予定だそうです。

PODで『XSL-FOの基礎』の出版を準備中です。

今回の電子出版ブームは2010年に始まりました。

2010年にEPUB3.0の標準化のお手伝いをさせていただいたとき、これからはEPUBと紙のハイブリッドの出版の時代になる、と予想してクラウドで書籍を制作編集するWebサービス「CAS-UB」の開発を始めました。

その後、御承知の通り、EPUB3.0は既に電子書籍のデファクト形式となりました。
一方で、このところ、プリントオンデマンドで本を売るという仕組みが注目を集め、また実際に使えるようになってまいりました。

そして一部で、電子書籍と紙による同時出版の実践が始まっています。大よそ、5年前の予想通りの進展です。

CAS-UBの方もまだ完成とは言えませんが、なんとかPDFとEPUBを同時に作ることができるようになりました。

プリントオンデマンドは、商業出版では採算に合わないような少部数の出版物や、普及啓もう出版で使われるのではないかと考えております。そこで、その実践として、この度、昔「XSL-School」で使用していましたテキストを刷新してPODで販売することを計画しました。

このテキストは、2001年~2002年にXSL Formatterの草創の時代に作成したものです。とりあえず、昔のものをCAS-UBに移して、PDFとEPUBとして作成してみました。

『XSL-FOの基礎』 EPUB 0.62版
『XSL-FOの基礎』 PDF 0.62版

[4/12追記] 一般配布を終了しました。
4月12日版以降は、Formatter Clubの会員のみ配布いたします。
AH Formatter:Formatter Clubについて

なにしろ、10数年前の資料を元にしておりますので、いろいろ不備もございます。これをPODで販売に値する内容にするには、まだいろいろ手を懸けなければならないところが多くあります。

皆様のご批判をいただきたいと存じます。また、こんな風にしたら良いというご要望もいただければと存じます。
ご意見、ご要望は cas-info@antenna.co.jpまでいただければ幸いです。

また、昔の資料をPODとEPUBで出すのにどのような作業を行ったかを後日整理していきたいと思います。

よろしくお願い致します。

[4/4] 更新しました。
EPUB、PDFを0.60版⇒0.62版
XSL-FO V1.1の機能(しおり、索引)を追加し、第1章~第3章をかなり書き直しました。

[4/12] 一般配布を終了しました。

『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (6) 紙のページと電子の画面の違い

『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (2)紙の本と電子の本をワンソースで作りたいの最後で「ページという概念の紙と電子(画面)での違いは、本質的です。」と書きました。

今日は、紙のページと電子の画面の違いについて考えてみます。

相違点1.紙の判型と電子の画面で寸法の考え方が違う

紙の本には判型(物理的なサイズをもつ)があり、判型の上に版面(本文をレイアウトする領域、基本版面)があります。紙では絶対寸法で表される大きさをもつ版面が必然であり、紙の制約条件とも言えます。版面の上に配置されるオブジェクトも絶対寸法をもち、一旦印刷されると拡大、縮小ができません。

電子では画面の大きさがあります、画面の大きさも物理的な制約なのですが、画面の上に配置されるオブジェクト(テキスト、図版、表など)は、絶対的な寸法を持ちません。拡大、縮小が自由です。

相違点2.裏表

紙には裏表があります。電子には裏表がありません。

本で裏表を考えて配置されるものに、扉があります。
扉の表に印刷される内容と裏に印刷される内容は役割が違います。例えば、本のタイトルを印刷するのは扉の表であり、扉の裏面ではありません。

電子の画面には裏表がありません。あるのは表示の順番だけです。

例えば、紙の本で書名扉の裏を空白ページにするのは珍しくありません。しかし、画面で空白のページを配置してもあまり意味がないように思います。

また、ページ番号は紙では奇数が表、偶数が裏になります。横組でも縦組でも奇数ページの方が表になり、開始位置として重要度が高くなります。偶数ページは裏になり、続きという意味合いになります。

相違点3.製本と見開き

紙の本は両面に印刷した紙を製本して作ります。すると、見開きページができます。

見開きのページは、片面に印刷して、片方を綴じたレポートのような印刷・製本では存在しません。従って、印刷・製本の仕方によるものです。

電子の画面で見開きのような表示はできますが、紙の本の見開きとは本質的な相違があります。

これを理解しやすい例として、縦組における脚注の配置を示します。
脚注をページ毎に示すと、次の画面のようになります。電子の画面でみるときは1画面=1ページ毎脚注を示すべきでしょう。
20160306
図1 1ページ毎に脚注を配置(注[1]

しかし、縦組の紙の本では、脚注を1ページ毎に配置するのはあまり行われません。次のように見開きの左ページに脚注を置くのが一般的です。
20160306d
図2 見開き毎に脚注を配置(注[2]

相違点4.ページを読み進める(開く、表示する)方向

製本した紙の本は紙のページを開く(捲る)操作と読み進める操作が分れています。画面ではページを順番に表示します。

この相違が一番問題になるのは、たとえば、本文が縦組で、索引が横組で、これが一冊の本として製本されているときです。

紙では本文は、本文の先頭ページから順に2ぺージづつ紙を捲りながら、右から左に読み進めていきます。索引を読む時は、索引の先頭頁を開いて、そこから左から右に読み進めます。

同じことは電子は実現するのは難しいと思います。

本文が縦組で、索引が横組のPDFを作成し、PDFをAdobe readerを使ってWindows PCのウインドウ上で表示してみます。PDF表示ではPDFファイルの中に物理的に登録されているページ順に表示するだけです。結果として索引のページは後ろのページから逆順に表示してしまいます。索引の先頭ページにしおりを設定してジャンプはできますが、そこから読み進めるには逆順にページを表示します。

Adobe Readerでは紙を捲るのと同じ操作は実現できていないようです。

[1] 『PDFインフラストラクチャ解説』をCAS-UBで縦組でPDF化。脚注をページ単位に配置するオプションを選択。
[2] 『PDFインフラストラクチャ解説』をCAS-UBで縦組でPDF化。脚注を奇数ページに配置するオプションを選択。
[3] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる?
[4] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (2)紙の本と電子の本をワンソースで作りたい
[5] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (3) 電子テキストは印刷ではなく、音声の暗喩と見る方が良い
[6] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (4) 『PDFインフラストラクチャ解説』の実践例より
[7] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (5) 『PDFインフラストラクチャ解説』のプリントオンデマンド制作と販売

EPUB3.0のアクセシビリティを高めるためのガイドライン

EPUB3.0形式の電子書籍のアクセシビリティについては、EPUB3.0を制定した団体であるIDPFが制作して配布している「EPUB 3 Accessibility Guidelines」[1]を紹介する。

EPUB3.0のパッケージ中は、XHTML5、CSS、SVGとJavaScriptというWebコンテンツ形式で構成する。従って、アクセシビリティの基本はWebアクセシビリティ、つまり、WCAG(Webアクセシビリティガイドライン)とWAI-ARIA(アクセシブルなリッチインターネット・アプリケーション)である。但し、EPUB3.0には、PLS辞書(発音辞書)、ナビゲーション文書のような独自の機能もある。

EPUB3.0では、音声読みあげツールなどの支援技術を使ったときにも、本の読み順が分かりやすいようにマークアップしなければならない。EPUB3.0のアクセシビリティを高めるポイントは非常に多岐にわたる。

EPUB 3 Accessibility Guidelinesは、次の構成になっている。

1. 意味
・論理的な読み順
・epub:type属性
・スタイルの分離
2. XHTMLコンテント文書
2.1 一般
・言語
・ページ番号
・インライン・フレーム
2.2 整形
・ボールドとイタリック
・リンク
2.3 前付
・出版された仕事
・目次
・イラストの一覧
・表一覧
2.4 本文
・部・章・節
・見出し
・表
・箇条書き
・説明
・図
・画像
・画像マップ
・オーディオ
・ビデオ
・脚注・後注
・注釈
・文脈の区切り
2.5 後付
・文献一覧
・索引
3. MatML
・説明
4. SVG
・言語
・タイトルと説明
・部品
・テキスト内容
・リンク
・スタイル
・対話性
5. EPUB スタイルシート
・色
・背景とイメージ
・隠れた内容
・重要なルール
・CSSのプロパティ参照表
6. 固定レイアウト
・XHTML
・イメージ
7.ナビゲーション
・目次
・ランドマーク
・ページリスト
・図一覧
・表一覧
8.メタデータ
・ONIXコードリスト196
・Schema.orgアクセシビリティ・メタデータ
9.メディアオーバレイ
・概要
・ハイライト
・箇条書き
・表
10. テキストから読み上げ
・概要
・PLS辞書
・SSML
・CSS3スピーチ
11. スクリプトに依る対話性
・プログレッシブ・エンハンスメント(UAの能力に応じて機能を拡張)
・コンテンツの妥当性
・WAI-ARIAとカスタムコントロール
・フォーム
・ライブ領域
・キャンバス
12. 準拠
・参考資料:セクション508

[1]EPUB 3 Accessibility Guidelines(このWebページもEPUBも、最初の「Getting Started」の見出しがO’Reilly本の広告へのリンクになっているので注意)。この資料は、Webページとして閲覧できるほか、EPUB形式でも無料でダウンロードできる。
[2] アクセシビリティとは(草稿)
[3] 著作権法とアクセシビリティ(草稿)
[4] アクセシビリティという言葉がどのように使われているか
[5] PDFのアクセシビリティ。ワンソースマルチユースのもう一つの応用。

PDFのアクセシビリティ。ワンソースマルチユースのもう一つの応用。

PDFへのアクセシビリティとはPDFの形式で表された情報や知識の利用しやすさである。

1.PDF形式で表される情報の主な種類

・PDFは紙への印刷物をデジタル化したものであるが、最近は、印刷物ではない3D画像や動画を埋め込んだり添付することもできるようになっている。
・印刷物として表された知識は文字(テキスト)が中心であるが、写真や絵画のようにテキストで表せないものもある。
・テキストの一部にイラストのような図版、写真、表を含むことも多い。
・書物のような冊子を表すPDFについては、目次・索引・リンクなど必要な情報を探し、そこにたどり着くための仕組みもある。
・PDFはJavaScriptプログラムを使ってアクションを設定できる。

2.PDFのアクセシビリティについて定めた規格

PDFのアクセシビリティについて定めた規格には、PDF/UAとWCAGをベースとする規格の二つがある。

(1) PDF/UA(ISO 14289-1:2014)
ISO 32000-1:2008 をベースとして、アクセシブルなPDFのための要求項目を決めている。2008年に初版、2012年に改訂、2014年に再び改訂された。主な内容は、次の通り。
・ファイルの識別方法(5節)
・要求項目まとめ(6節)
・ファイル形式への要求項目(7節)
・準拠リーダーへの要求項目(8節)
・準拠支援技術への要求項目(9節)

7節のファイル形式への要求項目が中心である。1.で簡単に紹介したようにPDF中には多様な情報を含んでおり、要求項目は多岐に渡る。見出しだけを挙げると次のとおりである。
・一般(7.1)
・テキスト(7.2)
・グラフィックス(7.3)
・見出し(7.4)
・表(7.5)
・箇条書き(7.6)
・数式(7.7)
・ページのヘッダー・フッター(7.8)
・注釈と参照(7.9)
・オプショナル・コンテント(7.10)
・埋め込みファイル(7.11)
・アーティクル・スレッド(7.12)
・電子署名(7.13)
・非対話フォーム(7.14)
・XFA(7.15)
・セキュリティ(7.16)
・ナビゲーション(7.17)
・注釈(7.18)
・アクション(7.19)
・XObject(7.20)
・フォント(7.21)

PDF/UAは、まずタグ付きPDFでなければならない。特に本文については、7.2から7.9できめ細かくタグを付けることが要求されている。例えば、見出しはH1タグをルートとし、H2H3…と順を追って階層化した見出しタグを付けなければならない。図にはFigureタグを付け、図のキャプションにはCaptionタグを付けなければならない。

(2) Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0(ISO/IEC 40500:2012)
  日本語版JIS X8341-3:2010
Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0(原文)
WCAG 2.0 ガイドライン(日本語訳)

Webコンテンツ一般のガイドラインであり、PDFもその一種として対象としている。WCAG2.0は高レベル(抽象度の高い)ガイドである。

具体的なテクニック解説文としてPDFの作り方に関する説明がある。
Techniques for WCAG 2.0(原文)
WCAG 2.0 実装方法集(日本語訳)
PDF Techniques for WCAG 2.0(原文)

「WCAG 2.0 実装方法集」は、準拠基準ではなく実装の解説である。

例えば、文書をスキャンして画像化したPDFはPDF/UA準拠ではない。PDF/UA準拠にするには機械可読としてタグを付ける。WCAG 2.0 実装方法集にはその例が記載されている、という関係である。

3.ワンソースマルチユースの応用としてのアクセシブルPDF生成

全体として、PDF仕様の複雑さと、アクセシビリティ要求の難しさを考慮すると、アクセシブルレベルの高いPDFを手作業で制作するのはかなり難易度が高い。PDF/UA準拠にするために、できあがったPDFに後から手作業でタグ追加するのは効率を考えると良い方法といえない。オーサリングの段階で文書を構造化しておき、タグをPDFに自動的に埋め込む必要がある。

アクセシブルなPDFを自動的に作れないと製作コストが許容できないほど高くなってしまうだろう。このようにコンテンツから印刷用PDFと共にアクセシブルなPDFを自動生成することは、ワンソースマルチユースのもう一つの応用になるであろう。

[1] アクセシビリティとは(草稿)
[2] アクセシビリティという言葉がどのように使われているか
[3] PDFのアクセシビリティ。ワンソースマルチユースのもう一つの応用。
[4] EPUB3.0のアクセシビリティを高めるためのガイドライン

アクセシビリティという言葉がどのように使われているか

国連の「障害者の権利に関する条約」をみると、原文では“access”という単語は63か所出てくる。普遍的な用語である。

原文では“accessibility”は9か所に出てくる。しかし、日本語訳にはアクセシビリティという単語は出てこない。原文の“accessibility”が出てくる箇所の対訳を下記に示す。

《まとめ》
「障害者の権利に関する条約」において、アクセシビリティは障害者にとっての施設やサービスの利用のしやすさを意味する言葉として使われている。

《記》

1.前文(V)

(v) Recognizing the importance of accessibility to the physical, social, economic and cultural environment, to health and education and to information and communication, in enabling persons with disabilities to fully enjoy all human rights and fundamental freedoms,

【訳文】
(v) 障害者が全ての人権及び基本的自由を完全に享有することを可能とするに当たっては、物理的、社会的、経済的及び文化的な環境並びに健康及び教育を享受しやすいようにし、並びに情報及び通信を利用しやすいようにすることが重要であることを認め、

2.第3条
Article 3 General principles
The principles of the present Convention shall be:

(f) Accessibility;

【訳文】
第三条 一般原則
この条約の原則は、次のとおりとする。

(f) 施設及びサービス等の利用の容易さ

3.第9条 見出し
Article 9 Accessibility

【訳文】
第九条施設及びサービス等の利用の容易さ

4.~8.第9条本文
1. To enable persons with disabilities to live independently and participate fully in all aspects of life, States Parties shall take appropriate measures to ensure to persons with disabilities access, on an equal basis with others, to the physical environment, to transportation, to information and communications, including information and communications technologies and systems, and to other facilities and services open or provided to the public, both in urban and in rural areas. These measures, which shall include the identification and elimination of obstacles and barriers to accessibility, shall apply to, inter alia:
(a) Buildings, roads, transportation and other indoor and outdoor facilities, including schools, housing, medical facilities and workplaces;
(b) Information, communications and other services, including electronic services and emergency services.
2. States Parties shall also take appropriate measures:
(a) To develop, promulgate and monitor the implementation of minimum standards and guidelines for the accessibility of facilities and services open or provided to the public;
(b) To ensure that private entities that offer facilities and services which are open or provided to the public take into account all aspects of accessibility for persons with disabilities;
(c) To provide training for stakeholders on accessibility issues facing persons with disabilities;
(d) To provide in buildings and other facilities open to the public signage in Braille and in easy to read and understand forms;
(e) To provide forms of live assistance and intermediaries, including guides, readers and professional sign language interpreters, to facilitate accessibility to buildings and other facilities open to the public;
(f) To promote other appropriate forms of assistance and support to persons with disabilities to ensure their access to information;
(g) To promote access for persons with disabilities to new information and communications technologies and systems, including the Internet;
(h) To promote the design, development, production and distribution of accessible information and communications technologies and systems at an early stage, so that these technologies and systems become accessible at minimum cost.

【訳文】
1.締約国は、障害者が自立して生活し、及び生活のあらゆる側面に完全に参加することを可能にすることを目的として、障害者が、他の者との平等を基礎として、都市及び農村の双方において、物理的環境、輸送機関、情報通信(情報通信機器及び情報通信システムを含む。)並びに公衆に開放され、又は提供される他の施設及びサービスを利用する機会を有することを確保するための適当な措置をとる。この措置は、施設及びサービス等の利用の容易さに対する妨げ及び障壁を特定し、及び撤廃することを含むものとし、特に次の事項について適用する。
(a)建物、道路、輸送機関その他の屋内及び屋外の施設(学校、住居、医療施設及び職場を含む。)
(b)情報、通信その他のサービス(電子サービス及び緊急事態に係るサービスを含む。)

2 締約国は、また、次のことのための適当な措置をとる。
(a)公衆に開放され、又は提供される施設及びサービスの利用の容易さに関する最低基準及び指針を作成し、及び公表し、並びに当該最低基準及び指針の実施を監視すること。
(b)公衆に開放され、又は提供される施設及びサービスを提供する民間の団体が、当該施設及びサービスの障害者にとっての利用の容易さについてあらゆる側面を考慮することを確保すること。
(c)施設及びサービス等の利用の容易さに関して障害者が直面する問題についての研修を関係者に提供すること。
(d)公衆に開放される建物その他の施設において、点字の表示及び読みやすく、かつ、理解しやすい形式の表示を提供すること。
(e)公衆に開放される建物その他の施設の利用の容易さを促進するため、人又は動物による支援及び仲介する者(案内者、朗読者及び専門の手話通訳を含む。)を提供すること。
(f)障害者が情報を利用する機会を有することを確保するため、障害者に対する他の適当な形態の援助及び支援を促進すること。
(g)障害者が新たな情報通信機器及び情報通信システム(インターネットを含む。)を利用する機会を有することを促進すること。
(h)情報通信機器及び情報通信システムを最小限の費用で利用しやすいものとするため、早い段階で、利用しやすい情報通信機器及び情報通信システムの設計、開発、生産及び流通を促進すること。

9 第31条 
3. States Parties shall assume responsibility for the dissemination of these statistics and ensure their accessibility to persons with disabilities and others.

【訳文】
3 締約国は、これらの統計の普及について責任を負うものとし、これらの統計が障害者及び他の者にとって利用しやすいことを確保する。

[1] アクセシビリティとは(草稿)
[2] 著作権法とアクセシビリティ(草稿)
[3] PDFのアクセシビリティ。ワンソースマルチユースのもう一つの応用。
[4] EPUB3.0のアクセシビリティを高めるためのガイドライン

著作権法とアクセシビリティ(草稿)

以前に書いたアクセシビリティとは(草稿)は、まだ十分にカバーできていない範囲があるようです。原稿提出を(勝手に)延期して、もう少し調べています。

その一つは、著作権法です。著作権法は、書かれたテキストだけではなく、音楽のようにもっぱら聞くだけの著作物、映画や演劇のような見て聞く著作物、プログラム著作物など幅広い著作物をカバーしています。

まず、印刷などで出版されている著作物を読むことができない(プリントディスアビリティ)人々向けには、著作権法第37条の例外規定があります。そこでは、①点字の作成と送信ができ、②政令で認められた者は文字を音声にするなど必要な方式で複製して公衆通信を行うことができます(第37条3項)。

また、聴覚で認識する方式で発表されているものについては、聴覚障害者向けに、著作権法第37条の2での例外規定で、政令で認められた者は音声のテキスト化や複製、貸出を行えます。

政令で認められた者には、障害者向け福祉施設・団体などの他、大学図書館、国会図書館、図書館法・学校図書館法などで定める図書館が該当します。

第37条および第37条の2に定める例外規定は、いずれも著作権者や著作権者の許可を受けたものが行っていないときに限ります。そこで、出版元が制作・販売を開始したときや、障害者向けに制作したものを一般に販売するときには別途取り決めが必要になります。

著作権法は日本の国内法ですが、国際的な利用を推進するために、2013年にマラケシュ条約が制定されています。マラケシュ条約は、2016年1月現在では発効していませんが、批准する国が増えていますので遠からず発効するでしょう。

第二の追加ポイントですが、プリントディスアビリティな人々向けの情報提供の仕組みとしては、点字システムが古くから使われていますが、近年はデジタル録音方式(音声DAISY)の利用が増えています。さらに、画面上で読み上げている箇所をハイライト表示するなど、音声・画像・テキストを同期できるマルチメディアDAISYの普及が始まっています。マルチメディアDAISYは、現在、日本国内ではDAISY2仕様によるものが多いようです。

DAISY4仕様は制作のために使うものとなり、配布形式はEPUB3と統合されました。EPUB3出版物には印刷物を読むことに困難な人にとってアクセシブルでないものも多く含まれますが、配布形式としてEPUB3を採用することで、アクセシブルな出版物の総数が増えることが期待されています。

[1] アクセシビリティとは(草稿)
[2] アクセシビリティという言葉がどのように使われているか
[3] PDFのアクセシビリティ。ワンソースマルチユースのもう一つの応用。
[4] EPUB3.0のアクセシビリティを高めるためのガイドライン

『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (3) 電子テキストは印刷ではなく、音声の暗喩と見る方が良い

さて、前回の続きとして、紙の本と電子の本には本質的な相違があるという点について、別の論点を見てみます。

ミシガン大学のThe Journal of Electronic Publishing誌が創刊20周年の特集を組んでいますが、その中で過去20年の人気記事のリストがありました。“Writing Electronically: The Effects of Computers on Traditional Writing”という、電子テキストと紙のテキストの相違に関する論点を整理した記事が、アクセス数の第3位です。

以下、著者の論点を簡単にまとめます:

印刷による本は個人で所有するという概念を形成しました。人々は個人的に読む本を所有したいと望み、それが出版産業を形成するベースになりました。

コンピュータは印刷に原点をもっていますが、コンピュータを媒介とする情報伝達では、印刷のように文章を連ねるのと違って、読者に内容の操作を許します。書き手と読み手の差異が曖昧です。

大きな差異としてハイパーテキストがあります。従来の紙のテキストは順番に意味がありました。これに対して、コンピュータではハイパーテキストによって順番の意味が薄くなります。また、理路整然とした物語が推奨されなくなり、単なるリンクのルーズな集合となります。

紙では文字がページの上に固定されます。電子テキストは常に流動的です。

紙は一方的であり受け身のコミュニケーションなのに対し、電子テキストは積極性と対話性があります。

電子テキストの時代には、インターネットにアクセスできる人は誰でも出版ができます。何世紀にもわたって、散文、詩、学術情報などは、それぞれに紙の上に表現する標準を作ってきました。しかし、電子ではこれらはすべて見直しになり、伝統的な質から、価値への転換となります。

著者は、結論として次のように述べています:
電子テキストは文字によるコミュニケーションの拡張に位置づけられ、印刷と比較される傾向がある。しかし、対話性において従来とは大きな相違があるので、むしろいままでの印刷の暗喩ではなく、音声コミュニケーションの暗喩と見る方が良いのではないか。

この文章は、2002年に書かれたものですが、その後のfacebookのようなSNSの進展を考え合わせますと深くうなずけるところがあります。電子書籍を紙の書籍の延長上で考える電子と紙のワンソースマルチユースは再考する必要がありそうです。

[1] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる?
[2] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (2)紙の本と電子の本をワンソースで作りたい
[3] Ferris, Sharmila Pixy. Writing Electronically: The Effects of Computers on Traditional Writing この論文の電子テキストとは、ネットワーク化されたコンピュータというメディアで書かれるテキストであり、ウェブ上のテキストに焦点をあてている。

『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (2)紙の本と電子の本をワンソースで作りたい

『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる?の続きです。前回は紙の本と電子の本を同時に作りだすのが目的とお話しました。

紙の本と電子の本を、コンピュータで作るならば、コンテンツを1回作成したら両方の形式を自動的に作りたいと考えるのは自然です。つまりワンソースマルチユースの実現が課題となります。

ワンソースマルチユースについて考えてみます。主に、CAS-UBや電子出版の関連プロジェクトに5年ほど取り組んだ経験から、最近は、次のように考えています。

紙の本と電子の本には本質的な相違がある (そんなのはあたりまえだろ! って?)

紙の本と電子の本を完全にワンソースで作るのは不可能です。可能なことを示すには、実際にやってみる必要がありますが、不可能なことを示すのはできない例を示せばよいので簡単です。

できない例を幾つか示してみます。簡単で判りやすい例から行きます。

1.まず、表紙についてはどうでしょうか。

紙の本は、本文を綴じたうえに包みのカバーをかけます。カバーは表表紙、裏表紙、背表紙から構成します。しかし、電子の本には背表紙はありえません。なにしろ厚さがないのですから。紙の本の表紙は、飾りだけではなく、本文の紙を保護したり、手にもって開いたり読んだりするために有用です。その点、紙の本には裏表紙は欠かせませんが、また、電子の本に裏表紙を付けることは意味がないでしょう。

表表紙も違います。紙の本では表1、表2(通常は白)があります。電子の本では、表1だけは紙の本と類似にする意味があります。表2はあまり意味がありません。

2.紙の本は、表紙以外にも伝統的な構成、つまり、本扉、前付、本文、後付という大構成、さらに細分化すると、前付は前書、目次、献辞、権利(英語の本)といった構成があります。

この構成について、電子の本を紙の本と同じ構成にするかどうか? このあたりはまだあまり議論がなされていないように思います。もし、構成を変える方が良いということになりますと、ワンソースではできないことになります。

最近、『PDFインフラストラクチャ解説』という本をCAS-UBでプリントオンデマンドとKindleで発売しました[1]。この本のKindle版には図表一覧があります。しかし、POD版は図表一覧は省略しました。販売価格を抑えるためページ数を減らして、コストを抑えたのです。

紙の本はページ数に応じてコストが増えるのですが、電子の本はその心配がありません。このように紙と電子ではコスト構造が違いますので、電子の本で一部を省略したり、入れ替えることは十分合理的です。

3.レイアウト依存の内容があります。ひとつの例は、見開きのページでしょう。

見開きページは、紙という固定サイズをもつ用紙を左右の中央で綴じたメディアで意味があります[2]。電子の画面に見開きという概念は存在しないのではないでしょうか。見開きは単に大きな画面ではないでしょう。

本文がすべて見開き単位でレイアウトされているのであれば、紙の見開きページを電子の1画面に対応つけることになるでしょう。こうしたときは関係はシンプルです。

リフロー形式の本で、大きな画像ページが見開きになっているときは、紙のページと電子の画面では、テキストと画像の位置対応関係が難しくなります。テキストの流れの中の画像の位置と、紙にレイアウトして見開画像のページを挟んだときとでは、テキストの流れと画像の位置の相対関係が変わります。

こうしたとき、ワンソースで紙と電子で最適な本を自動的に作りだすのは、それなりのアルゴリズムが必要です。

4.3項と前後しますが、ページという概念の紙と電子(画面)での違いは、本質的です。

次回は、この点をもう少し、考えてみたいと思います。(「『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (6) 紙のページと電子の画面の違い」をご参照ください。)

[2]上下で綴じた場合も見開きというのかどうかは、まだ調べていません。

『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる?

最近、プリントオンデマンド(POD)が流行っているようです。流行っているといっても全国的な流行なのか、私の周りだけの流行なのか、いまのところ、まだはっきりとは見極めがつきませんが。

CAS-UBの目標は、紙の本と電子の本の両方を同時に作りだすことです。

さて、そうしますと、紙の本と電子の本があります。で、この両者について『本をコンピュータで作る』ということをもう少しブレークダウンして考えてみます。

紙の本を作るには、印刷と製本の工程が欠かせません。しかし、これをCAS-UBで完結するのは無理です。そこで、1冊から印刷・製本ができるPODの普及を期待し、また、その使いこなし術を会得したいところです。

一つの論点=課題として、PODに使えるデータをコンピュータで作れるかどうか? があります。ここをもう少し、ブレークダウンすると次の3項目になるでしょう。
・本文のPDF
・包みの表紙のPDF
・POD用のメタデータ(表形式が多い)

電子の本は、現在、EPUB3.0がデファクトスタンダードになっています。

と言ってしまうと話が終わりそうです。しかし、もう少し現実に戻りますと、最近、弊社の電子出版サービスにEPUBを作ってもらえないかという引き合いが増えてきています。その内容を聞いてみますと、EPUB3.0ではなく、電書協ガイドだったり、別のガイドだったりします。EPUB2をベースにした独自仕様もあります。そうそう、Kindleも独自仕様だったりします。

EPUB3.1の標準化が進みつつあります。EPUB3.1ができても、それで終わりではなく、今後も変化するでしょう。

そうしますと、電子の本についての論点=課題の一つは多様なフォーマットにどう対応できるか? ということになるのでしょうか。

まだ、タイトル課題への回答にはなっていませんが、今日は、この辺で。

続きは:『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (2)紙の本と電子の本をワンソースで作りたい

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流通によるプリントオンデマンドでの出版が現実のものとなった今、その活用の課題を考える。(2017年1月時点)