「国際電子出版EXPO」最終日。本日も『簡単解説20ヶ条 消費税アップ ―その原則・特例と経過措置―』を配布します。

今日は、電子出版EXPO最終日です。

弊社ブースではCAS-UBという、電子書籍を編集・制作するWebサービスを中心に紹介していますが、今回はCAS-UBで制作したPDFを印刷・製本した紙版の『簡単解説20ヶ条 消費税アップ』という冊子(72ページ)を無償で配布しています。

「電子書籍のEXPOでなぜ、紙本を配布?」と疑問をもたれる方もいらっしゃいますので、簡単に説明させていただきます。

1.書籍の制作はInDesignがデファクト・スタンダードである。

1980年代にMacintoshと同時にDTP(デスクトップパブリッシング)が登場して30年弱を経過しました。DTPによって、印刷する書籍の制作フローは完全にそれ以前と変わってしまいました。

この間、主要なDTPソフトがいくつか現れましたが、現在は、アドビのInDesignが日本の書籍制作市場を席捲しています。

InDesignは、機能的には非常に優れたソフトのようです。操作の習得には若干のトレーニングが必要なようですが、アドビの上手なマーケティングに加えて、仕事が確保できるということで、InDesignを使える制作担当者は数多くなりました。

印刷会社への入稿もPDFのような標準形式で入稿するだけではなく、いまはInDesignのデータ入稿も一般的になっているようです。

このように最近の出版・印刷業界では、InDesingがデファクトになっています。

2.書籍の出版においては、すでに紙と電子(EPUB、Kindle)の同時発行が課題に

昨年前半位までは、電子書籍を発行すること自体が課題でした。

しかし、昨年後半からEPUBを中心とする電子書籍が売上に寄与し始めています。つまり電子書籍ビジネスが立ち上がっており、現在は、既に紙と電子(Kindle、EPUBが主流)を同時に刊行することが大きな課題になっているようです。

制作という面に限れば、InDesignのデータを速やかにEPUB化することがテーマとなっています。

しかし、InDesignは紙への印刷用データを作るために最適化されているため、InDesignデータをEPUB化するのは手間がかかってなかなか大変なようです。紙と電子の同時刊行を実現するには、短時間でEPUBを作る必要がありますが、レイアウト指定の方法によってはかなりの手間がかかり、コストも発生します。

これは、2013年現在の業界の大きな課題です。

解決策はいろいろあります。アドビはInDesignを機能アップしてEPUB書き出しの精度を上げようとしています。また、InDesignでのレイアウト指定の仕方を工夫してEPUB化の負荷を減らそうという試みもあります。

3.CAS-UBはもっと抜本的な解決策を提唱するものです。

2項の話は、従来のワークフロー、すなわち、まず、紙があり、次に電子、という順序を前提とし、その延長線上の話です。

しかし、いずれこの順序が逆転する日がやってくることになるでしょう。単純に、発行点数の伸び率だけから言ってもいつか逆転する日が来るはずです。

つまり、先に電子版をつくり、次に紙版を作る、いわゆるデジタルファーストというワークフローの時代が到来するはずです。

InDesignはデジタルファーストには適切なツールではありません。デジタルファーストを実践するにはツールの入れ替えが必須でしょう。

こうしたことを予測してCAS-UBはデジタルファースト時代のツールの王座を狙っています。

デジタルファーストの時代でも、紙の本は、引き続き、InDesignで作ることになるかもしれません。

しかし、電子書籍(EPUB版)と紙の本をワンストップで作り出すことができれば、飛躍的に便利になるはずです。

このためには、少なくとも現在、InDesignで作られているのと同じクオリティの紙版をCAS-UBで作り出せるようになる必要があります。また、これを多くの人にアピールする必要があります。

単純化した説明ですが、今回の国際電子出版EXPOにおいて、紙版の『簡単解説20ヶ条 消費税アップ』を配布している理由は以上のとおりです。

[1]国際電子出版EXPO。アンテナハウスのブースは、「26-51」です。どうぞお立ち寄りください。

『PDFインフラストラクチャ解説』第2回目の試作BODできました。電子出版EXPOにてご覧いただくことができます。

7月1日『PDFインフラストラクチャ解説』の第2回目のBOD(ブックオンデマンド)試作版ができあがりました。CAS-UBで原稿を執筆して制作したものです。7月3日から開催の「電子出版EXPO」会場にてお手にとってご覧いただきたいと存じます。

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第1回目は2月でしたので、第2回目までに4ヶ月経過しました。この間の変更点は次の通りです。

1.組版の変更

○初回試作のBOD版について組版の専門家に評価していただきました。評価いただいた結果によりCAS-UBのPDF生成レイアウトについて主に次のような点を改めました。
(1) 基本版面にY15a (B5判39文字、33行、10ポイント)を追加して、第2回目はこちらで組版しました。第1回目はY15(B5判38文字、30行、10ポイント)でしたが、ゆったりしているという印象が強かったようですのでもう少し詰めてみました。
(2) 見出しの配置を変更。第1回目で行頭寄せの方が無難という意見が多くありましたので、見出しを中央から行頭寄せに変更しました。但し、行頭1文字を空けています。(行頭を左詰めという意見が多かったのですが、実際の書籍を見ますと、1文字空けているものも多く見られます。)
(3) 章・節番号の形式を変更、章・節番号と見出しテキストの間の空き、図とキャプションの間の空きなどの空きを調整しました。
(4) 図のキャプションを下に、表のキャプションを上に設定しました。
(5) 表セル内の文字のサイズを本文の0.9倍(0.9em)、行送りを1.5emに変更しました。
(6) 注をすべて脚注に変更しました。

なお、PDFレイアウト詳細設定に機能がなかったものは機能を追加しています。PDFレイアウト詳細設定には非常に多数の設定項目がありますが、組版の専門家の意見を元にして既定値の組み合わせを決定して、それを推奨パターン(推奨テーマ)として用意し、ユーザーは推奨テーマを使うことで専門知識なしに専門家の作った組版と同じ結果を得られるようにしたいと考えています。

2.表紙の変更

表紙に無料素材画像を使っていたのですが解像度不足のため、新たにデザインしました。

3.内容の変更

内容も第1回目は0.24版(2/22)から今回は0.33版(6/20)にバージョンアップしています。主な変更は次の通りです。

(1) 9.2節 PDFにおける構造の項を追加
(2) 9.3節タグ付きPDFを追加
(3) 14.1節 Web最適化の記述を追記・編集
(4) 14.2節 アクセシビリティを追記
(5) 21.1 ~21.4節 PDF電子署名、タイムスタンプを追加。
(6) 22.6節 PDF/Aの作り方の解説を追加
(7) 22.7節 PDF長期署名(PAdES)の節を追加。
(8) その他細かい変更

内容はだいぶ増えましたが、基本版面の変更で総ページ数は前回とほぼ同じになっています。

4.参考文献の形式を変更

参考文献の形式をいろいろと調査した結果、MLA方式[2]に準じた形式を採用することにして、参考文献の形式を全面変更しました。参照元の参照形式も書き直しています。MLA方式を採用したのは、参考文献の書き方を具体的に詳しく説明していること、ウェブを参考文献に記載する方法が充実していることなどが主な理由です。

参考文献の記載方法はおおむね次の順序です。
①著者名またはそれに準じる団体名、②記事名、③書名、④発行所、⑤発行年月、⑥媒体、⑦ウェブのときURL、⑧URLへのアクセス日

発行年月が発行所の後ろに付くこと、媒体表記が特長です。

できあがったページは次のようになります。

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もともとブログの記事でしたので、文章中に外部リンクを多数埋め込んでいましたが、これらをすべて参考文献に移して、参考文献から外部リンクをするようにしました。

CAS-UBは、電子書籍(EPUB、Kindle)を制作するのにご利用いただくことが多いのですが、今後の出版において紙の優位性はまだかなり長い間続くものと予想されます。そこで、紙と電子の両方の形式を簡単に制作することができるようにすることを開発目標のひとつとしています。BOD版の試作はその実現に向けての取り組みの一つとなります。

5.EPUB版、PDF版はWebから配布しています。
『PDFインフラストラクチャ解説』(EPUB版、PDF版)は無料でダウンロードしていただくことができます。→CAS電子出版の紹介

2016年1月にPOD版とKDP版を発売しました。これに伴い、無料配布は終了いたしました。

[1] 『PDFインフラストラクチャ解説』をプリントオンデマンドで本にしてみました
[2] 「MLA Handbook for Writers of Reseach Papers, Seventh Edition」(Modern Language Association, 2009)

CAS電子出版・リリース情報とAmazon Kindle Storeで気がついたこと

1.CAS電子出版の「はたらく人のための転職の実学」第3版2013年6月10日発行しました[1]。

やさしい法律シリーズ第1弾として本書の第2版を発行したのは2011年6月ですので、それから約2年経過です。第2版はEPUB版を売る方法をなかなか見つけることができず、かろうじてDLマーケットから発売したのが夢のようです。

2年間でAmazon、Koboから簡単にリリースできるようになりました。

この本の特徴は、表紙以外の本文画像はすべてSVGファイルを使っていることです。たぶん、画像にフルSVGを使っている電子書籍は数少ないと思います。但し、この本は、Kindle FireとPaperwhiteに転送できますが、iPadのKindleアプリには転送できません。(画像にSVGファイルを使っているためではないかと想像しています。)

2.やさしい法律シリーズ第2弾の「転職の法律があなたを守る」は値下して360円となりました[2]。

こちらは、KindleのPaperwhiteでもiPadアプリでもどちらにも転送できます
「転職の法律があなたを守る」は微小な改訂を行なって2刷としてリリースしています。
最初に出たのが2012年末で、それをすぐに自分で購入してチェックしました。
本日、自分のKindleクラウド書庫をチェックしたところ、クラウドの方の購入済み書籍も2刷に更新されています。クラウド書庫の方はAmazonが改訂版に差し替えているようです。というか、おそらく販売しているものと同じバイナリをリンクしているのでしょう。

[1]「はたらく人のための転職の実学」
[2]「転職の法律があなたを守る」
[3]CAS出版物紹介のページ

『本を作るための新しい仕組みの登場(制作ツールから考える電子書籍論)』

以前にブログなどに書いた記事を少しまとめて、『本を作るための新しい仕組みの登場』というタイトルのEPUB版とPDF版を作りました。

次からダウンロードしてお読みいただくことができます。

『本を作るための新しい仕組みの登場』
(制作ツールから考える電子書籍論)

■目次
第1章 PDF に代わってEPUB が普及する1
第2章 書籍の未来を考える5
第3章 世界の各地で登場。本を作る新しい仕組み9
第4章 CAS-UB とO’Reilly Atlas の機能比較13
第5章 CAS-UB で本の制作支援17
第6章 本の構成の編集と文章の編集

第1版
2013年6月9日発行
EPUB3版とPDF版を用意しました。
それぞれ次でダウンロードしていただくことができます。

EPUB版
PDF版

EPUB版を読むにはEPUBリーダが必要です。

『本を作るための新しい仕組みの登場』(EPUB本)アルファ版

以前にブログなどに書いた記事を少しまとめて、『本を作るための新しい仕組みの登場』というEPUB版(アルファ版)にしました。

考え方をもう少し整理してみたいと思っていますが、関心をお持ちの方にお読みいただいて批判をいただけると幸甚です。

http://www.cas-ub.com/project/publications/book-production.epub

『PDFインフラストラクチャ解説』を0.32版に改訂。PDF/Aの解説を改訂し、PDF/Aの作り方の節を追加しました。

6月2日『PDFインフラストラクチャ解説』を0.32版に改訂しました。

平成25年4月1日より、学位規則(昭和28年文部省令第9号)が新しくなり、国会図書館で収集する博士論文の電子データの形式がPDF/A推奨となります。

◎国会図書館
国内博士論文の収集について3. 博士論文の電子データの形式を参照

これにあわせて『PDFインフラストラクチャ解説』でもPDF/Aの仕様解説を詳しくするとともに、PDFの作り方の解説の項を追加しました。

■『PDFインフラストラクチャ解説』はCAS-UBで編集し、EPUB3版とPDF版を作成して、無料で配布しています。

資料はこちらからダウンロードしていただくことができます。2016年1月本書を正式発売しましたので、無償配布を終了いたしました。詳細は、下の【広告】をご参照ください。

◎CAS電子出版の紹介
無償配布している出版物

■第0.32版の改訂内容

0.32版では、次の改訂を行ないました。

(1) 0.31版「第24章PDFの国際標準」の章を「第2章PDFの国際標準」に移動する。

(2) 「2.5 PDF/UA(ISO 14289)」(PDFのアクセシビリティ)の節を追加。

(3) PDF/X関連の節を、「第17章 印刷ワークフローにおけるPDF」の章17.2~17.7に移動。

(4) PDF/A関連の節を、「第22章 PDFの長期保存」の22.1~22.4に移動。

(5) 「22.2 PDF/A-1」 に関する説明を改訂してより詳しくした。

(6) 「22.5 PDF/Aの作り方」の節を追加

CAS-UBとO’Reilly Atlasの機能を比較してみた。

米国のO’Reilly Media社は、5月2日、非常に成功した出版関係のカンファレンスであるTools of Change for Publishingを終了して、出版のプラットフォーム事業を進めると発表した[1]。

そして、そのプラットフォーム事業の中核エンジンとしてAtlasを開発している[2]。Atlasはまだベータ版であるが、コンファレンスなどを通じて積極的なPR活動にのりだしている。

Atlasは、Webベースで本格的な書籍を執筆し、PDFとEPUB・mobiなどのマルチ形式で配布物を生成する機能をもっている。特に著者や編集者自身に執筆・編集してもらおうと考えているようである。このあたりのコンセプトは、CAS-UBとまったく同じである。

そこで、CAS-UBとAtlasの機能を比較して、概要を次表にまとめてみた[3]。

Atlasは記述形式の中核にAsciiDocを採用している。プログラムコードなどはAsciiDocをバイパスしてDocBookに直接取り込むことができる。AsciiDocは書籍構造をビルドインしている。これは簡単な英語版書籍の制作に向いている。こうした点で、書籍の編集と配布物の生成機能全般としては、現状ではおそらくCAS-UBの方が優れているように思うが、特にソーシャル連携などはAtlasにはCAS-UBが用意していない機能もある。

O’Reillyは、Atlasを出版事業の拡大の手段たるプラットフォームとして位置づけている。これに対し、CAS-UBは情報提供者へのサービスとして位置づけている。このように、現状ではAtlasとCAS-UBはポジショニングが異なり、直接競合するものではないが、今後、Atlasの良いところを研究してCAS-UBに取り込んでいきたいと考えている。

○CAS-UB vs Atlas

項目 CAS-UB Atlas
書籍フォーマット 出版物の種類&記事の種類を設定する。出版物の種類は、書籍1(日本語、英語)、書籍2(日本語)、ノート1(日本語、英語)、マニュアル1(日本語、英語)。 AsciiDocが基本。AsciiDocには一つの出版物種類(CAS-UBの「書籍1英語」に相当する)と記事の種類がビルドインされている。
マークアップ 各記事の内容はCAS記法で記述する。CAS記法はCreoleWiki標準を基本にして独自に拡張した簡易マークアップ記法である。 コンテンツのマークアップはWikiを拡張した簡易マークアップである。Markdownに近い。
バージョン管理 SVN。出版物を切り替える毎にSVNに保存してバージョン管理する。記事を保存する毎ではない。 Git。AsciiDocファイルをWikiインターフェイスで保存する毎にGitに記録してバージョン管理する。Gitに直接git push, git commitコマンドで登録もできる。
変更の追跡 更新ログ一覧と履歴メニュー 変更画面に変更点を表示する
配布物生成 生成メニューで対話的に条件設定して生成 配布物生成時に含めるファイル(AsciiDocテキスト)を指定する。
中間形式 独自XML(XHTMLに若干の属性を追加したもの) DocBook XML 4.5。生成時にAsciiDocからDocBookに変換する。なお、XMLマークアップしたフラグメントをDocBookに直接渡すこともできる。
出力フォーマット PDF, リフロー型EPUB2/3, 同mobi, Web, HTMLHelp PDF, リフロー型EPUB3, リフロー型mobi, Webブック
PDF生成エンジン AH Formatter V6.0 XSL-FO組版機能 AH Formatter V6.0 CSS組版機能
debug エラーメッセージベース。 toolを提供(?)。エラーログベース。
アカウントの開設 試用ライセンス(無償)と正式ライセンス(有償) O’Reillyか他の著者からの招待でアカウントを開設する
共同編集 出版物のオーナーが協力者を登録して共同編集できる。編集権限の設定ができる。 プロジェクトオーナーが協力者を招待して登録する。Atlasでプロジェクトを開始したら、直ぐに協力者を招待できる。編集権限の設定ができる。
執筆環境 CAS-UB上でブラウザで編集する。出版物の構成編集と記事編集の機能をもつ。構成編集は独自のインターフェイス。記事編集はフォーム上でテキストをCAS記法マークアップ入力である。 Atlas上のWiki編集インターフェイスまたはローカルPCで編集する。
ローカル編集 機能なし ローカル編集をするにはローカルPCにGitをインストールして、git cloneでAtlasからクローンを作成する必要がある。ローカル編集ではAsciiDocをテキスト・エディタで編集する。共同編集ではGitのコマンドを使って他の著者のデータとの調整を行なう。
図版挿入 編集画面で挿入位置にアップロードまたは図版を予めアップロードしておきリストから選択する。 図版をアップロードしておきイメージマネージャでサムネイルを選択する。
図版形式 SVG, PNG, GIF, JPEG 説明なし
コード記述 <pre>を使う。 コードのインライン書式記述機能やDocBookへのコードの直接取り込みなどがある。
数式 LaTeX, MathML, SVG(MathML, SVGはV2.2より) LaTeX
索引 CAS記法で単独索引、入れ子の索引、相互入れ子の索引を指定できる AsciiDocを独自拡張して索引機能を強化している。
メタデータ 出版物情報編集でDBに登録する。その中から指定した情報をPDFの奥付け、EPUBのメタデータなどに記録する。 オプションでbook-docinfo.xmlファイルを別途用意して追加する。copyrightページに記録する。
データインポート テキスト、Microsoft Word文書、PDF、WordPressのエクスポート(WXR)形式 説明なし
フィードバック cas-supportへのメールなど。FacebookにCAS-Clubを開設している。 GitHubとの親和性が高い。GitHub上にフォーラムがある。
読者からのフィードバック 機能なし Web版の本を公開できるChimeraサイトで読者からのフィードバックを得ることができる。コメント・調査・投票、Google Analyticsの利用ができる。
ソーシャル連携 機能なし ソーシャルサイドバーでChimeraのコメントの表示などができる。

[1] http://toc.oreilly.com/
[2] http://atlas.labs.oreilly.com/
[3] Atlasの機能は、O’Reilly Media「Getting Started with Atlas」Ninth Release 2013/5/29による。

『PDFインフラストラクチャ解説』を0.30版に改訂。「PDF長期署名(PAdES)」の節を追加しました。

『PDFインフラストラクチャ解説』を0.30版に改訂しました。

こちらから無償配布しています:CAS-UB出版物紹介の「PDFインフラストラクチャー解説(仮)」

【追記:2016/1/21】
2016年1月に本書発売となり、無償配布を終了させていただきました。(『PDFインフラストラクチャ解説』POD版とKDP版が揃い踏みとなりました
【追記:ここまで】

1.内容の追加

第21章PDFの長期保存:21.1 PDF長期署名の節を有限会社ラング・エッジの宮地社長に執筆していただきました。

2.参考資料の形式を変更

(1) 参考資料の一覧形式を変更しました。「MLA Handbook」第7版[1]をベースとする独自方式で整理しています。

(2) また、本文から参考資料へのリンクも変更しました。従来、本文中から参考資料(Web)へ直接リンクしていましたが、これを廃止して、本文から参考資料へリンクしています。参考資料からWebへ必要に応じてリンクを設定しています。

3.PDF生成のレイアウトを変更しました(途中)。

・基本版面を変更するとともに、見出しのレイアウトを変更しました。
・CAS-UBのPDF生成詳細設定の見出しのデフォルト・レイアウトを変更。PDFはデフォルト・レイアウトで生成しています。[2]

[1] “MLA Handbook for Writers of Research Papers. Seventh Edition.” New York: Modern Language Association. 2009
[2] 『PDFインフラストラクチャ解説』はCAS-UBできちんとした本(PDF、EPUB)を作るための実証材料としても利用しています。3月にBODで本を作りました(『PDFインフラストラクチャ解説』をプリントオンデマンドで本にしてみました)が、この本の組版レイアウトを専門家に評価していただき、その評価を反映して、基本版面やPDF生成の詳細設定のデフォルトを変更しています。これはまだ途中段階です。

紀伊國屋書店新宿本店の歴史と文化について

昨日(5月10日)は、第33回 高円寺純情出版界での永江朗氏の講演に参加して、著書の「新宿で85年、本を売るということ」(メディアファクトリー新書 2013年2月発行 222頁)を購入しました。著者の講演を聞く機会がなければ読むこともなかったかもしれません。イベントも本との出合いに役立ちます。

早速一読してみましたので簡単に内容を紹介します。本書の3分の1以上は、紀伊國屋書店の創業者である田辺茂一氏のことですが、本書を読むと紀伊國屋書店新宿本店はまさに創業者の個性によって形作られたものであることがわかります。

田辺家は江戸時代に紀州から出てきた家柄で、茂一氏の祖父は新宿で材木商を営んでいたということです。新宿駅は日本どころか世界でももっとも乗降客数が多いのですが、新宿駅から100mの位置に自前の土地をもち、そこに本店があるという立地条件は草創期の紀伊國屋にとっての天の恵みともいえます。著者の永江さんが講演会で何度も口にされていましたが、書店経営は「取次から仕入れて売って、家賃を払っているのでは成り立たない。」のだそうですから。

ライバル店と比べると、草創期は圧倒的に有利だったわけですが、紀伊國屋が、新宿本店だけでなく、日本全国、海外にも店舗を有する大書店になったのはそれだけではありません。これは、第2代の社長となった松原治氏の力によるところが多いようです。「夜の市長」とまで言われた茂一氏でしたが、松原氏によると茂一氏は「天衣無縫で私利私欲がない」ので働きやすかったのでしょう。

著者によると、洋書の扱いと大学への外販のふたつが紀伊國屋の成長の牽引力だそうです。洋書は仕入れにボリュームディスカウントがあり、販売では値付けも自由なので、初期の頃は利益率が60%にも上ったそうです。一方で、返品もできませんので、仕入れた分だけ、短期間で売ることが必要となります。つまり需要を見極める力と営業力が死命を制します。大学卒の優秀な人材を外商部門に配置し、彼らが大学を回って直接研究者に新刊の洋書を売ることで成功したのです。大学への接近により、高度成長期の大学の新設にともなう図書館需要の取り込みもできたわけです。

1990年代にはブックオフや複合店であるヴィレッジヴァンガードの躍進、2000年代にはドットコム書店、アマゾンの進出もあり、それ以前と比べると経営環境が激変しています。これに対して、紀伊國屋書店は、2012年には本店をリニューアルオープン、4月26日には梅田にも新しい店舗をグランドオープンなどで店舗面積を拡大し、「本との出合いの場所」という書店の役割強化を図っているようです。

最近は書店独自の文庫フェアも多いのですが、中でも、昨年(2012年)に新宿本店で開催した「ほんのまくら」フェアは型破りな企画ということでネットや一般紙・誌で紹介され、大きな話題となりました。書店員お勧めの100点書籍について、著者名・書名・レーベルを一切見えなくして、書き出しの文章だけで客に選択してもらうものでしたが、750冊の目標に対して1万8600冊を販売。ジャンルはほとんど小説ということで、若い女性の来店が多かったようです。「なかなか本店ではなかったこと」だそうですが、ちょっとした冒険心を満たしたということなのでしょうか。

書店員には本との出会いを演出するという大きな役割があります。後半の第6章、第7章、終章では、店頭で本を売る書店員の役割が紹介されています。

ところで、著者の永江氏は、最近、「仕事で使う資料の半分は電子書籍」とのことです。本書の冒頭に、「なぜ紀伊國屋はネット書店や電子書籍販売を始めたのだろう。」という問いがあります。本書の中ではこの問いに対する答えがまだ十分ではないように感じました。次作では、ぜひ、この問いにも答えてほしいものです。

学術出版社のケーススタディと学術出版を取り巻く環境についての社会学的研究報告

佐藤 郁哉・他著 「本を生み出す力 学術出版の組織アイデンティティ」(新曜社 2011年2月発行、568頁)を読み終えました。

本書は「1999年から10年以上に渡って継続的に行なわれた共同研究報告の最終報告書(p.476)」です。学術出版社4社―ハーベスト社、新曜社、有斐閣、東京大学出版会―のケーススタディなどを中心に学術出版の営みやそれを取り巻く環境についてまでまとめた包括的な書籍です。

本書の中核は学術出版4社の責任者や編集者を対象に繰り返し行なったインタビューなどで構成するケーススタディ報告である第Ⅱ部です。研究対象は、①個人出版社であるハーベスト社、②一編集者一事業部的な運営を行なう中堅規模の出版社である新曜社、③創業百年を超え、この間家業から個人商店を経て近代的組織による運営にいたった大手出版社である有斐閣、④大学出版会の最大手である東京大学出版会です。報告には各社の本作りの営みがいきいきと記述されています。

歴史や規模の面では異なる特性をもつ4社ですが、学術出版という共通の領域で事業を営んでいますので、出版コンセプト面ではかなりの類似性があります。第Ⅲ部で、これを整理・分析しています。第Ⅲ部はケーススタディをもとに編集者の技能・役割を分析する第6章、組織を維持するための経営戦略である刊行物のポートフォリオについて説明する第7章、「文化対商業」・「職人対官僚」という2つの分析軸を抽出して、その領域で出版組織としてのアイデンティティをもとめて動くダイナミクスを記述する第8章から構成しています。

第Ⅳ部ではこうした学術出版がおかれた社会環境の違いについて説明しています。学術出版は著者、編集者と読者という点では比較的閉じた狭い世界の事柄になりますが、日本と主に米国の学術出版を比較すると、それぞれが社会全体の枠組みあるいは環境に依存していることがわかります。日本の場合は、学術的な本と大衆的な本とをつなぐ「中間領域」があり、「密度が高い大衆的読者市場」が成立してきたという特性がある(p.422)とのことです。それに対し、米国では学術出版は同業の専門家によるピアレビューを経て、大学付属の出版社が発行するという分野であり、ギルド的・閉鎖的になりやすい側面があります(第9章の五)。

学術出版は大学などに在籍する研究者が著者になることが多く、また読者も研究者になりがちですので、国の教育・研究施策からも大きな影響を受けます。第10章では日本・英国・米国での制度変更が与える影響について言及しています。このあたりは今後の行方にも大きな影響をあたえる可能性があり、もう少し踏み込んだ分析が欲しいとことです。

本書では印刷書籍型の学術出版について深く報告されており、大変参考になります。なるほど社会学はこういうことを研究するのか、とは素人の感想です。

一方で、学術コミュニケーションという点では、電子ジャーナルについてはまったく取り上げていません。また、電子教科書や学術書の電子化についてもまったく触れられていません。このあたり、別の研究報告を期待したいところです。