文字だけのページで四つの版面を比較してみる。
図1 0.23版
図2 0.33版
図3 0.39版
図4 リリース版
0.24版は行間の空きが広く、また上下の余白が広い。ページに余裕を感じる。
0.33版と0.39版を比較すると0.39版は印刷領域が上下に広く、上下余白がやや余裕がない印象がある。
リリース版は行間を少し詰めて、1行減らしたので上下の余裕を感じる。35行にするか、36行にするかは迷うところである。
表の組版
表のスタイルは当初は、すべてのセルの周囲に罫線を引き、ヘッダ行に網掛けする(レポートスタイル)としたが、最終的にはJIS X4151に定められているスタイルとした。CAS-UBでは、PDF生成時に、どちらかのスタイルを選択できる。また、表のセル内文字の大きさ、セル内のテキスト配置、テキストと罫線の間の空きについてもバージョンを重ねる毎に調整した。
図5 0.24版の表
図6 リリース版の表
図の大きさ
本書には図版が多数あるが、大きさは一律ではない。PDFを出力するとき、図の大きさはマークアップで指定できる。次は、図の幅を版面の60%にした例である(図8 リリース版)。
[[[:fig =コードポイント・字体・字形
{{:width=60% Unification-JIS.png | Unification-JIS.png}}
]]]
図のキャプションの位置も上と下を選択できる。リリース版では、図のキャプションは図の下に配置することとした。ちなみに、市販の書籍でもキャプションを図を下に置くことが多い。
図7 0.24版の図
図8 リリース版の図
PODのためのPDF仕様
PODのためのPDFは、アマゾンPOD仕様をベースとしている。
・PDFバージョンは1.3(透明を使えない)
・CAS-UBではPDF/X-1a:2001を指定する(PDF/X-1a:2001はPDF 1.3ベース)
・塗り足し(判型のサイズの外側に3mm)
・判型は新書~A4まで
・頁数は24~746
・ページには所定の余白が必要
POD用PDFとオンライン配布用PDFの比較
オンラインで読むためのPDFと、PODに使うためのPDFは別々に作成する必要がある。そこで、CAS-UBに、オンライン閲覧用PDF設定から、PODに使うPDF設定への変更メニューを追加した。次の点に注意が必要である。
・POD用PDFは周囲に3mmの余白が必要である。
・PDF/X-1aでは、印刷範囲(BleedBox)に注釈を置けない。
・PDFではリンクを注釈で扱うので、POD用PDFには次のようなリンクが出せない。
・目次から本文へのリンク、索引語から本文へのリンク、本部の参照リンクなど。
・POD用PDF(PDF/x-1a)では画像のカラー表現をCMYKに変換する
図9 CAS-UB POD設定
POD版の本の販売
現在、PODで本を作る業者に依頼すれば、どこでも少部数でも製本した本を作れる。これまでにもCAS-UBで制作したレポート類を数冊、POD業者に外注して印刷・製本した実績がある。
こうして作成した本は、自社の直販と、アマゾンのe託を使って販売していた。電子版はインターネットでダウンロード販売できる。これに対して、紙の本は梱包して物流に乗せる必要がある。このため、低価格の書籍を、直接販売するのは手間とコスト面で難しい点がある。これまで出した本は、比較的高価格である。
もう少し割安になる流通手段を期待していたところ、2015年終わりにインプレスR&D社がPOD取次を始めたので、この機会に契約してPOD出版で販売することとした。
次の表はアマゾンのe託とPOD取次を比較したものであるが、e託と比べて、POD取次方式は各段に効率的である。
取り扱い |
POD製作 |
取り扱い費用 |
在庫負担 |
e託 |
街の業者 |
年会費9,000円。定価の40% |
在庫負担あり。アマゾンの倉庫に納品するコストもかかる |
POD取次 |
アマゾンが印刷製本 |
定価の38% |
PDFで取次に渡すので、在庫負担と納品コスト負担なし |
e託は、常にアマゾンの倉庫の在庫をチェックして在庫がなくなったら倉庫に納める必要がある点、不便であり、コストも高い。POD取次ではPDF納品となるのがありがたい。
KPD用の書籍制作と販売
CAS-UBでは出版物の原稿を一回制作すれば、ワンボタンでEPUB、Kindle mobi形式にできる。Kindle mobi形式の販売はアマゾンKindle用のみであるが、EPUBにすればアマゾン以外の電子書店で販売できる。但し、取次を使わないのであれば個人出版を受け付けるストアのみで販売することになる。
KDPの方は、既にいろいろな本をKDPで販売していたので特段新しいことはなくスムーズに出版手続きを行えた。
PODとKDPの発売時期をできるだけ揃えたかったので、KDP登録作業は1週間後に行った。
無料配布版があることがひっかかってしまったが、無償版の配布を終了して翌日にはリリースとなった。POD版の方が発売まで予想外に日数がかかった。
販売促進
PODとKDPを使えば、誰でも、低コストで本を出版できる。大きな部数で印刷・製本して在庫を持たなくて済むのは助かる。しかし、出版したら売らなければならない。
出版社から出版される場合は、取次から書店に配本される。本自体が宣伝材料になる。しかし、個人で本を出版したら、まず、その存在を知ってもらわなければならない。存在を知られないかぎり出版していないのと同じである。
『PDFインフラストラクチャ解説』については、本を制作する段階からfacebookグループを作って参加者を募集してきた。しかし、トピックが一般大衆向けではないためか、参加者はまだ少ない。
・PDFinterest facebook グループ
本を紹介するために簡単なWebページを作った。これだけでは不十分である。
・『PDFインフラストラクチャ解説』Webページ
販促活動の一環として、2月16日に出版記念講演会を開催した。
・『PDFインフラストラクチャ解説』出版記念 特別講演会のお知らせ
販売状況
PODで少部数の出版ができるといっても、ビジネスとして成立するかどうかは別である。まだ数字をまとめる段階ではないが、簡単にレポートする。
POD版の実績は、まだ不明である。
KDPでは、Kindle独占(セレクト)の選択ができる。現在のところ、セレクトとして登録・販売している。セレクトにするとロイヤリティ70%である。さらにアマゾンのプライム会員は毎月1冊を無料で読めるが、KDPセレクトで販売している本がその対象になるようだ。
多い日は1日500頁(KENP)以上読まれている。どうも、休日に読まれることが多いようなのは興味深い。KDPの販売部数に比べて、読まれるページ数がだんだん増えているようだ。これは、本の単価が高いことが原因かもしれない。
図9 販売部数(上)とプライムで読まれたKENPページ数(下)
現在までの実績は27部(KDP)であり、ロイヤリティは2万円強。KENPは、読まれたページ数を恐らく端末の差を調整した値のようだ。これがどのように金額に換算されるかは不明である。
いづれにせよ、単独のプロジェクトとして収支を計算すれば、制作・販売コストの回収はともなく、人件費の回収ができるかどうかはまだ分からない。長く売れれば、意外に売上が増えるかもしれない。
[1] 『日本語組版処理の要件(用語集)』では、組方向、段数、文字サイズ、字詰め数(文字数/一行)、行数、行間と段間で指定する。
[2] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる?
[3] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (2)紙の本と電子の本をワンソースで作りたい
[4] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (3) 電子テキストは印刷ではなく、音声の暗喩と見る方が良い
[5] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (4) 『PDFインフラストラクチャ解説』の実践例より
[6] プリントオンデマンドの本を作る デジタル書籍制作Webサービス CAS-UB
2014年7月8日に「AH Formatter 事例紹介セミナー」を開催します。今回は、XSL-FO の第一人者である Tony Graham 氏をアイルランドから招き、学術情報誌組版への『AH Formatter』の利用経験を踏まえての特別講演(同時通訳付)を行っていただきます!通常の事例紹介セミナーでは聴く機会がないビッグチャンスです。参加費は無料です。是非ともご参加ください。
→ 事例紹介セミナーの詳細とお申し込み方法
AH Formatter事例紹介セミナーは終了しました。
アンテナハウスは、クラウド型EPUB/電子文書リーダ“AH Reader Preview”を公開しました。AH Readerを使うとEPUBをiPad、iPhone、Android端末やPC画面で読むことができます。お使いいただくには、次のAH Readerについてのページにアクセスして、「AH Reader Preview を使ってみる」をクリック。
○AH Readerについて http://r.cas-ub.com/
次の画面で「読む本を追加」をクリックします。すると次の画面が現れますので、EPUBのファイル名またはURLを指定します。
EPUBを指定して「読む」をクリックするとEPUBの内容を画面に表示します。次はWindowsのPC画面にEPUB表示した画面の例です。
AH Readerは、サーバ側でXML自動組版ソフトAH Formatter[1]のCSS組版機能を使ってEPUBを組版しています。そこで、現在の多くのEPUBリーダよりはかなり高度なページレイアウトを指定した文書を表示することができます。
AH Readerは現在プレビュー版の位置づけですので、今後はCAS-UBを初めとするEPUBソリューションに組み込む形で提供することを予定しています。
関心をお持ちの方は、営業窓口(cas-info@antenna.co.jp)までお問合せください。
[1] AH Formatter
第2回 AH Formatter事例紹介セミナー 7月27日(金曜日)午後開催です。
■開催場所: 堀留町区民会館 東京都中央区日本橋堀留町1-1-1
交通 (東京メトロ日比谷線、都営浅草線「人形町駅」A5番出口 徒歩5分
東京メトロ日比谷線「小伝馬町駅」 3番出口 徒歩5分)
■日時 2012年7月27日(金)13時30分~16時40分
■アジェンダ
13:30 開始
13:35~13:50 AHFormatter概要とW3C日本語書籍の組版
13:50~14:20 DITAによるマニュアル作成の実体
~シングルソース・マルチターゲットへの取り組み~
(ニューメリカルテクノロジーズ)
14:20~14:50 XMLによるデジタルビデオカメラ取扱説明書の制作事例
~多言語制作の効率化(iTrexシステム)~
(三和印刷工業)
14:50~15:20 オンライン入稿・自動組版でのAH Formatterの活用事例
(ニューキャスト)
15:20~15:30 休憩
15:30~16:00 JATS(学術出版物)スタイルシートの説明
16:00~16:20 電子出版への応用
16:20~16:40 質疑応答
16:40 終了
■お申し込み
申し込みフォーム
(事務局:エクスイズムのWebページにジャンプします)
■概要
「第2回AH Formatter事例紹介セミナー」のご案内
■お知らせ(CAS-UB試用ライセンス)
CASオンラインショップでCAS-UBのユーザー登録することで、誰でも30日間だけ無償でご利用いただくことができます。
「日本語組版処理の要件」が4月10日にプリントされた書籍として発行されました。この書籍の本文は、4月3日に公開されたWeb版(日本語版)と同等であり、Webコンテンツをほぼそのまま書籍化したデジタルファースト出版の事例になります。
デジタルファーストによる商業書籍出版においては、自動組版の技術が重要なポイントになると考えていますので、その観点で以下に少し説明をします。
ワークフローの概要はまえがきなどに述べられている通りで、本書のプリント版の本文すべてをAH Formatter V6による自動組版で制作しています。AH Formatterで日本語の書籍を制作して商業出版を行なった例は過去にも多々あります。しかし、大きなコンテンツの書籍をデジタルファーストで出版するのにAH Formatterを使用した事例としては初めてになります。
本書は図版の数が膨大であるという点で、DTPで制作するとしても相当作業量がかかるはずですが、これを著者グループが自動組版で行なったことで出版社の負担は非常に小さくなっているはずです。また、自動組版を使うことでWeb版の内容をフィックスしてから極めて短時間にプリント版を出すことができているという点、デジタルファーストからプリント版を制作するワークフローに自動組版を組み込むことの有効性を示すことができたと思います。
プリント版とWeb版では図版の精度が違っていたり、索引などWeb版にはない内容をプリント版では付け加えていますので、まったく同じコンテンツということでもないのですが、このあたりの詳細は、4月23日にJAGATで開催される「電子書籍と日本語組版『W3C技術ノート 日本語組版処理の要件』出版記念」セミナーでもプレゼンが予定されています。
テキストと図版が混在する文書で図版がページに入りきらない場合、図版の前で改ページしてしまうと、そのページのテキストの後ろ側に大きな空きスペースができます。Microsoft Wordなどで文書を編集する際も同じことが起きますので、経験している人は多いと思います。DTPでも同じですが、こうした空きをなくすために、対話型WYSIWYG編集ソフトをつかって著者やオペレータが画面を見ながら図版とテキストの位置を調整するのが普通です。このため図版の多い書籍の組版はテキスト主体の内容の組版と比べると大変です。
AH Formatter V6では、この図版位置調整の操作をプログラムで自動的に行なう機能を備えています。これによって、今回「日本語組版処理の要件」のプリント版制作では調整の手作業は大幅に減っています。
AH Formatter V6の自動図版位置調整機能は、米国内国歳入庁の案件(下記ケーススタディ参照)のために間に合うように実装したものですが、「日本語組版処理の要件」でも有効性を発揮しました。
但し、「日本語組版処理の要件」は横組みで脚注がない一段組みという比較的シンプルなページレイアウトの書籍です。これが縦組みや大量の脚注がある書籍は図版の位置調整はさらに難しくなります。現在、CAS-UBでさらに様々な書籍を制作しながら図版の位置を自動的に調整する方法の改良をつづけています。
また、図版の多い2段組文書としては論文があります。米国内国歳入庁の帳票は多段組みなのですが、比較的シンプルでした。これに対して、複雑な論文への応用という点では、JATS(Journal Article Tag Suite)で記述された論文の自動組版があります。アンテナハウスでは、フルJATSで記述された論文の組版のためのスタイルシートを開発しましたので、これについては、5月24日のJATS解説セミナー(JATSによる日本語学術論文の標準化と自動組版)にて公開し、オープンソースとして配布する予定です。
こうしたことを通じて、さまざまなレイアウト・タイプのプリント版を自動組版で簡単に制作できるようにすることで、デジタルファーストの普及への道を切り拓きたいと考えています。
*「電子書籍と日本語組版『W3C技術ノート 日本語組版処理の要件』出版記念」セミナー
*JATSによる日本語学術論文の標準化と自動組版セミナー
*日本語組版処理の要件(日本語版)W3C 技術ノート 2012年4月3日
*「W3C技術ノート日本語組版処理の要件 美しく読みやすい文字組版の基本ルール」W3C日本語組版タスクフォース 編
*IRS:アメリカ合衆国財務省:内国歳入庁(PDF)
*時代を乗り越える日本語組版
*Page2012終了。いま、電子書籍制作のワークフロー論議をまとめると…
*NLM DTDからJournal Article Tag Suiteへの進展:これまでの経過整理