最初、PODで本にしてみたところ、PDFと紙での版面の印象の違いが大きいのに驚いた。本の内容をPDFにして画面で読むのと、同じPDFから印刷・製本して、本として読むのを実際に試してみると想像以上に印象が違う。どうやらPDFと紙の本は全く別物である。
POD版の試作とレイアウト改良
そこで、『PDFインフラストラクチャ解説』の制作中、PODで実際に本を作ってみて、基本版面や表などのレイアウト設定値をより読み易くなるように変更を重ねた。変更したレイアウト設定値を、CAS-UBの「PDFレイアウト設定」のデフォルト値として反映する。こうすれば、新しく本を作るときに、同じことを繰り返さなくて済む。
PODを3回試作した。
・初回のPOD試作 2013年2月 0.24版 256ページ (詳しくは)
・第2回POD試作 2013年7月 0.33版 258ページ (詳しくは)
・第3回POD試作 2014年3月 0.39版 268ページ (詳しくは)
PODで作った本を外部の人などに評価してもらい、基本版面、見出しの文字サイズ・配置・番号の付け方、表の罫線の引き方・セルの空き・本文と表の文字の大きさの関係などを改良した。
基本版面
日本語組版におけるページの文字レイアウトは基本版面で設定する[1]。本書は、B5判型、横組・一段、文字サイズは10ポイント(pt)と決めていた。そのとき、行送り(文字サイズと行間を足した値)、字詰め数(一行の文字数)と行数(一頁の行数)を変更できる。この三つの設定を変更するだけでもページの印象はかなり変わる。
POD | 判型 | 文字サイズ | 行送り | 字詰め数 | 行数 |
---|---|---|---|---|---|
0.24版 | B5 | 10pt | 19pt | 38 | 30 |
0.33版 | B5 | 10pt | 18pt | 39 | 33 |
0.39版 | B5 | 10pt | 17pt | 39 | 36 |
リリース版 | B5 | 10pt | 16.8pt | 39 | 35 |
取り扱い | POD製作 | 取り扱い費用 | 在庫負担 |
---|---|---|---|
e託 | 街の業者 | 年会費9,000円。定価の40% | 在庫負担あり。アマゾンの倉庫に納品するコストもかかる |
POD取次 | アマゾンが印刷製本 | 定価の38% | PDFで取次に渡すので、在庫負担と納品コスト負担なし |
e託は、常にアマゾンの倉庫の在庫をチェックして在庫がなくなったら倉庫に納める必要がある点、不便であり、コストも高い。POD取次ではPDF納品となるのがありがたい。
KPD用の書籍制作と販売
CAS-UBでは出版物の原稿を一回制作すれば、ワンボタンでEPUB、Kindle mobi形式にできる。Kindle mobi形式の販売はアマゾンKindle用のみであるが、EPUBにすればアマゾン以外の電子書店で販売できる。但し、取次を使わないのであれば個人出版を受け付けるストアのみで販売することになる。
KDPの方は、既にいろいろな本をKDPで販売していたので特段新しいことはなくスムーズに出版手続きを行えた。
PODとKDPの発売時期をできるだけ揃えたかったので、KDP登録作業は1週間後に行った。
無料配布版があることがひっかかってしまったが、無償版の配布を終了して翌日にはリリースとなった。POD版の方が発売まで予想外に日数がかかった。
販売促進
PODとKDPを使えば、誰でも、低コストで本を出版できる。大きな部数で印刷・製本して在庫を持たなくて済むのは助かる。しかし、出版したら売らなければならない。
出版社から出版される場合は、取次から書店に配本される。本自体が宣伝材料になる。しかし、個人で本を出版したら、まず、その存在を知ってもらわなければならない。存在を知られないかぎり出版していないのと同じである。
『PDFインフラストラクチャ解説』については、本を制作する段階からfacebookグループを作って参加者を募集してきた。しかし、トピックが一般大衆向けではないためか、参加者はまだ少ない。
本を紹介するために簡単なWebページを作った。これだけでは不十分である。
販促活動の一環として、2月16日に出版記念講演会を開催した。
・『PDFインフラストラクチャ解説』出版記念 特別講演会のお知らせ
販売状況
PODで少部数の出版ができるといっても、ビジネスとして成立するかどうかは別である。まだ数字をまとめる段階ではないが、簡単にレポートする。
POD版の実績は、まだ不明である。
KDPでは、Kindle独占(セレクト)の選択ができる。現在のところ、セレクトとして登録・販売している。セレクトにするとロイヤリティ70%である。さらにアマゾンのプライム会員は毎月1冊を無料で読めるが、KDPセレクトで販売している本がその対象になるようだ。
多い日は1日500頁(KENP)以上読まれている。どうも、休日に読まれることが多いようなのは興味深い。KDPの販売部数に比べて、読まれるページ数がだんだん増えているようだ。これは、本の単価が高いことが原因かもしれない。
図9 販売部数(上)とプライムで読まれたKENPページ数(下)
現在までの実績は27部(KDP)であり、ロイヤリティは2万円強。KENPは、読まれたページ数を恐らく端末の差を調整した値のようだ。これがどのように金額に換算されるかは不明である。
いづれにせよ、単独のプロジェクトとして収支を計算すれば、制作・販売コストの回収はともなく、人件費の回収ができるかどうかはまだ分からない。長く売れれば、意外に売上が増えるかもしれない。
[1] 『日本語組版処理の要件(用語集)』では、組方向、段数、文字サイズ、字詰め数(文字数/一行)、行数、行間と段間で指定する。
[2] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる?
[3] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (2)紙の本と電子の本をワンソースで作りたい
[4] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (3) 電子テキストは印刷ではなく、音声の暗喩と見る方が良い
[5] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (4) 『PDFインフラストラクチャ解説』の実践例より
[6] プリントオンデマンドの本を作る デジタル書籍制作Webサービス CAS-UB
近日発売!『PDFインフラストラクチャ解説』出版記念 特別講演会のお知らせ
アンテナハウス株式会社(本社:東京都中央区、資本金:4,000万円、社長:小林 徳滋)は、2016年2月16日16時から、東京市ヶ谷にて『PDFインフラストラクチャ解説』出版を記念した記念講演会を開催いたします。
『PDFインフラストラクチャ解説』は紙に代わって情報化社会を支えるインフラとなったPDFについて、システム開発者などの理解を促進することを目的としています。アンテナハウスのブログで2005年10月から2008年7月にかけて1000日間にわたって連載された「PDF 千夜一夜」の記事に、オリジナルの内容を加えてPDFや関連領域を網羅的にカバーしています。10年以上の歳月にわたって制作され、2016年1月に出版の予定です。
記念講演会では、本書編著者の小林 徳滋より書籍Web制作サービスCAS-UBを使ってPDFを制作し、ブックオンデマンドで本を作り、またAmazonのKindleストアなどで販売するに至った過程と、新しい出版の方法を分かりやすく解説します。
さらに、メインゲストとして、PDFの国際規格ISO32000やPDF/Xなどの派生規格の作成に参加されている画像電子学会フェローの松木眞氏をお招きして、PDFのこれからについてご講演いただきます。
講演会の後、懇親会の開催も予定しています。(詳細は、別途ご案内します)
本講演会は無事終了しました(2016・3・18追記)。
講演会の内容スライド&ビデオ:『PDFインフラストラクチャ解説』 出版記念特別講演会の資料公開 (2016年2月16日 in 市ヶ谷健保会館)
セミナーの概要・タイムテーブル
16:00~16:10 | 主催者挨拶 |
16:10~17:00 | だれでも本を出版できるPOD出版時代を迎えて 『PDFインフラストラクチャ解説』の制作過程 アンテナハウス代表取締役社長/小林 徳滋 |
17:00~18:00 | ISO32000: PDFの国際規格の現状とこれから(仮題) 画像電子学会フェロー/松木 眞 氏 |
18:00~18:10 | 参加者質疑応答 |
休憩 | |
18:30~20:30 | 記念懇親会 |
開催概要・お申し込み
開催日時 | 2016年2月16日(水)16時00分~18時10分 |
開催場所 | 市ヶ谷健保会館 E会議室 |
住所・アクセス | 東京都新宿区市谷仲之町4-39 都営新宿線曙橋駅下車徒歩8分 都営大江戸線牛込柳町駅下車徒歩8分 |
参加費 | 講演会のみ:1,000円(税込) 懇親会は講演会にお申込みいただいた方に、別途ご案内致します。 |
定員 | 30名(事前予約制) |
お申し込み | 次のページからお申し込みをお願いします: http://peatix.com/event/138690 |
■PDF参考情報
流通によるプリントオンデマンドでの出版が現実のものとなった今、その活用の課題を考える。(2017年1月時点)
『リーディング・プレゼンテーションの技法』(加藤 哲義著、CAS電子出版)が発売されました。
アマゾンより、『リーディング・プレゼンテーションの技法』がプリントオンデマンドで発売となりました。
アマゾンサイト:ビジネスを強化する リーディング・プレゼンテーションの技法 オンデマンド (ペーパーバック) – 2015/12/2 加藤哲義 (著)
四六判 56ページ(表紙を除く)で消費税込み734円です。
早速、昨夜1冊注文しましたところ、さきほど事務所に到着しました。
アマゾンのPOD版を自分で発行して買うのは初めてです。本のでき具合は、と言いますと表紙が少々硬い印象がありますが、本文はまずまず読み易いと思います。
肝心の内容ですが、本書は以前に『魔性のプレゼンテーション~その美学と作法~』として電子書籍(EPUB、mobi、XMDF)で販売していたものです。内容はとても良いと思いましたが、残念ながら期待したほど売れませんでした。いろいろ考えてみますに、タイトルがデフォルメし過ぎていて伝わらなかったのではないかという結論となりました。そこで、今回、タイトルを変更して再チャレンジするものです。現在はプリントオンデマンド版で紙からのスタートとなりますが、電子版もおいおい出す予定です。
本書の内容は、スーパー営業マン加藤哲義氏の20年以上に渡るビジネスの経験から生まれた異色のプレゼン論&プレゼン手法です。書かれている内容には共感するところが大きいので、なんとかしてこのプレゼン技法を普及させたいと考えております。
CAS-UBに、プリントオンデマンド販売用PDF設定用ボタンを追加しました
既にご案内のとおり、アンテナハウスではCAS-UBで制作したPDFを、アマゾン、三省堂、他のオンラインストア経由で出版するサービスを開始しました。
本サービスについてのご案内ページ:本の制作室 プリントオンデマンド出版サービス
プリントオンデマンド(POD)用PDFは次のような制約条件があります。
・PDFのバージョンは1.3
・断ち切り3mmを周囲につける。トンボはつけない。
・表紙(cover)はなし。 (クルミの表紙を別途用意する)
・判型は新書サイズ~A4まで
・透明効果は不可(PDF1.3では透明を使えない)
・マージン(仕上がりサイズに対して):天地、小口は6.35mm、ノドはページ数による
24~150 ページ 9.53mm
151~300 ページ 12.7mm
301~500 ページ 15.88
501~700 ページ 19.05mm
701~828 ページ 22.23mm
・奧付に印刷、製本、価格情報を載せない
・総ページ数は偶数
PDF設定のメニューで、上の条件指定できます。しかし、ばらばらに指定するのは面倒で、忘れてしまいがちです。そこでCAS-UBの12月3日定期メンテナンスで、POD用PDFをワンボタンで設定する「POD版設定」を用意しました。
「POD版設定」を押すと、通常のPDFレイアウト設定をコピーした上で、POD版の要求を満たすように変更した設定を作ります。この設定を名前を付けて保存できます。これにより、通常のPDF出力設定と、POD版PDF出力設定を切り替えて使えます。
『PDFインフラストラクチャ解説』 0.55版を公開。無料配布の最終版となります。
2005年10月にブログ「PDF千夜一夜」を開始してから既に満10年を経過しました。
「PDF千夜一夜」はブログを1000日間連続で書き続けるというものでしたが、大勢の方にご愛読いただきました。
その記事を中心に、さらに新しい話題を追加し、編集・執筆してきました『PDFインフラストラクチャ解説』。本書は、CAS-UBによるワンソース・マルチユースのユースケースとして、PDF、EPUBの形式で同時に作成するほか、随時プリントオンデマンドで紙の本をサンプルとしても作ってきました。
現在、0.55版を公開しています。
◎『PDFインフラストラクチャ解説』0.55版(EPUB,PDF)無料ダウンロード ~12月初旬まで
2016年1月に本書発売となり、無償配布を終了させていただきました。(『PDFインフラストラクチャ解説』POD版とKDP版が揃い踏みとなりました)
12月には1.0版として発売する予定です。
今般、弊社では、アマゾン、三省堂書店、ウェブの書斎、honto.jp、楽天ブックスなどのストアから、CAS-UBで制作した本をPOD方式で販売するサービスを始めることになりました。
◎お知らせ: CAS-UBで作ったPDFを、アマゾンなどから紙の本として出版するサービスを始めます。
12月には『PDFインフラストラクチャ解説』をそのルートで販売開始します。本書は、現在、内容の最終チェックと索引整備の作業に入っています。12月にストアで販売開始後は、勝手ながらPDFとEPUB版の無償ダウンロードは終了させていただきます。いまが、最後のチャンスです。
微力ながら、満10年かけて作りました。手に入らなくなる前にPDFとEPUBのダウンロードをお急ぎください。
プリントオンデマンドの用語解説(草稿)
JEPAの「いまさら聞けない電子書籍のABC ~ebookpedia~」の下書きです。最終版は、JEPAのページをご参照ください。
プリントオンデマンドとは
プリントオンデマンド(POD、 Print on Demand)の語義は「要求がありしだいすぐに印刷する」である。印刷ビジネスとしてはデジタル印刷機をつかって、小ロットの印刷物を短納期で製作する形態を意味する。出版が対象とする書籍(本)や雑誌では、印刷だけではなく製本や流通までを含む意味で使われることが多い。本の場合は、ブックオンデマンドという用語をあてる方が適切だろうが、今はプリントオンデマンドという言葉を使うのが主流である。ここではブックオンデマンドの同義語としてのプリントオンデマンドを中心に考える。
歴史
プリントオンデマンドは、1990年代後半から登場したデジタル印刷技術と、糊などの材料を含む製本技術の進歩によって支えられている。
印刷技術の進歩
現在主流になっているオフセット印刷は、印刷機にセットする版を制作し、印刷機によって版に転写したインクを紙に転写するアナログ方式である。版の製作、印刷機を動かして刷り出しを見ながらインクの量を調整するなどの準備工程が必要であるため、小ロット・短納期の印刷物には向いていない。これに対し、デジタル印刷機は複写機やプリンタのように印刷物を作るので、ロットの大きさでコストが変わることがない。印刷開始までの時間も短いので、小ロット・短納期が要求される印刷物に向いている。
印刷コストは、部数が少ないとデジタル印刷機の方が安いが、部数が多くなるとオフセット印刷の方が安くなる。オフセット印刷では版代や印刷の立ち上げコストなど初期費用がかかるが、刷り始めるとページあたりのコストが安い。デジタル印刷機では、ページあたりのコストは部数にあまり関係なく一定であるためである。両者のコストがクロスするのはモノクロで数百部といわれている。
製本技術の進歩
ちらしなどと違い、本をつくるには製本が必要である。製本は丁合・折り・綴じ・糊付け・表紙の取り付け・断裁など複雑な工程からなる。綴じにもさまざまな方式があり、即乾性の糊の登場など進歩が速く、製本専門の会社が工夫を重ねて製本技術が進歩してきた。単行本の製本は印刷会社とは別の製本専門会社が担当することが多い。雑誌は発行日が決まっているので、部数が多い雑誌の製本では、発行日に間に合わせるため、専用のラインを使って高速に製本することが求められる。現在の単行本や雑誌の製本工程は一度に大量の部数を、専門化したラインでバッチ処理することで、高い生産性を実現し、結果として製本コストが安くなっている。
最先端のプリントオンデマンド・システムではデジタル印刷機と自動製本装置を連動する一貫システムで、ほとんど人手を掛けずに製本ができる。このようなシステムは日本では数システムが導入されているといわれる。自動製本システムは、専門会社の製本ラインほどの高い生産性を挙げることができない。こうして、現在のところ、最先端の製本システムを使ってもバッチ処理のシステムより一部あたり製本コストが高くなるようだ。
流通
プリントオンデマンドのコストの仕組みは電子書籍に似ているが、決定的に異なるのは形があるモノを作ることだ。このため、一般の読者に本を届けるには新しい物流の仕組みを構築する必要がある。
その一つはデジタル印刷機と製本を一体化したエスプレッソマシンである。アメリカでは大学などのテキストを組み合わせてその場で製作して学生に渡すのにつかわれているといわれる。日本でも、一時、神田の三省堂本店に導入され、お客の要望で本を作る試みがなされた。このように出版物を読者の手元で作るのにつかえる。
アマゾン(日本)は2011年4月よりプリントオンデマンドを導入した。当初は洋書から開始したが、現在は、国内出版社の本も対象にしている。電子書籍のKDP (Kindle Direct Publishing)は個人の出版者が参加できるが、PODサービスでは取次を通す必要がある。このほか、楽天ブックス、hontoのようなオンライン書店が次々とプリントオンデマンドの本を扱い始めている。こうしたオンライン書店のプリントオンデマンドサービスは、読者からみると従来のアナログの本作りと同じである。
出版活動の経済面とプリントオンデマンド
印刷・製本の両面からみてプリントオンデマンドでコスト・メリットがあるのは小部数の出版物である。プリントオンデマンドでは部数が多くなっても単価が下がらないので、千部以上ともなればアナログの印刷とバッチ製本の組み合わせで製作する方が安い。商業出版社の本では企画・編集・制作のコストが最初にかかるが、千部以下でそのコストを回収するのは難しい。プリントオンデマンドが有利になるような部数の本はそもそも出版できないのであり、商業出版社にとっては初版にプリントオンデマンドを採用する意味はない。むしろ増刷の際やシリーズものの欠品を回避するために採用されている。
出版活動には、自己の思想や考え方を広める出版、学術研究成果を社会に還元する専門出版、企業のPR本などの利益を目指さない分野がある。こうした商業出版以外の領域では初版部数を気にする必要がない。むしろ少ない部数から出版できて、コストの総額を小さくできるプリントオンデマンドを採用することで、出版できる本の種類が増える。
経済面からみるとプリントオンデマンドは電子書籍に似ている。電子書籍とともに、出版活動の敷居を下げ、その活発化を担う両輪となることが期待される。
[1] https://www.facebook.com/tokushige.kobayashi/posts/1057419407676505
本のかたちを考える:基本版面のパラメータ設定の考え方を整理してみました
紙の書籍で本文を配置する領域を基本版面[1]と言います。
基本版面の設定の考え方は次のようになります。
制約条件としては判型があります。判型により出来あがりの1頁の縦・横の寸法が決まります。
基本版面を設定するとき変更できるパラメータは、1段組では、①文字のサイズ、②1行の文字数、③1頁の行数、④行間の4つです。多段組を指定する場合は段数と段間の空きがパラメータに追加になります。
基本版面の設定値が適切かどうかを評価する尺度としては、編集者や制作者の立場では1頁に入る文字数が重要でしょう。読者の立場から見ますと読み易さが大事です。
1頁の文字数は尺度としては明快です。そして、例えば、1頁に入る文字数を多くするには、判型を大きくし、文字を小さくし、1行の文字数を多くし、行数を増やします。
一方、読み易さはやや曖昧です。読み易さを決める要因は、文字の大きさ、周囲の空きの量と、行間の空きの量が大事なように思います。周囲の余白が狭いと窮屈な感じになります。また、行間が狭いと、ルビや注の合印が行間に入らなかったり、あるいは重なったりします。
以上は、一見簡単そうですが、このパラメータの組み合わせは、無数になります。そしてこれらのパラメータのどれをどういう優先度で動かすべきかということが難しい問題です。
1頁の文字数を決める項目はすべて読み易さに影響を与えます。
たぶん総体的には次のような関係になるのでしょう。
この図は大雑把なものですので、今後、もう少し詰めていきたいと考えています。続きは「本のかたちを考える:四六判・基本版面の推奨値を検討する(案)」
[1] http://www.w3.org/TR/jlreq/ja/#elements_of_kihonhanmen
[2] 本のかたちを考える:縦書・新書判と四六判の版面パラメータの比較
本のかたちを考える:PDFからプリントオンデマンドで本を作る。2015年版は『暗号舞踏人の謎』
今週は、7月1日からいよいよ国際電子出版EXPOです([1]を参照)。
毎年、展示見本用としてCAS-UBで制作したPDFからプリントオンデマンドの本を作っています。
今年は、縦組の機能強化をテーマにしていますので、シャーロックホームズの『暗号舞踏人の謎』(踊る人形というタイトルの方が有名かもしれません)を本にしてみました。
1.PODサービスで作成した紙の本
判型は新書サイズ。文字の大きさは9ポイントで行間を6ポイントに設定。1行42文字、1頁16行にしてみましたところ、表紙別で58頁です。本の構造はシンプルで、PDFを作るのはとても簡単でした。青空文庫のテキストファイルと画像を使って約1日の作業でできました。
問題としては青空文庫のままですと2倍ダッシュの間が空いてしまいます。青空文庫のテキストはダッシュに「ホリゾンタルバー」(U+2015)を使っていますが、IPAex明朝ではホリゾンタルバーを二つ使うと間が空いてしまうためです。そこで、「ホリゾンタルバー」を「全角ダッシュ」(U+2015)に置換しました([2]を参照)。
2.画像の配置例
画像の配置の見本として、いくつか独自イラストを用意して、ページの中に配置してみました。
3.ユーザーがアップロードしたアウトラインフォントをPDFに埋め込む
『暗号舞踏人の謎』の肝は人形のかたちで表した暗号文です。ファンの手で、人形のかたちをアウトラインフォント化した「GL-DancingMen font」が提供されています。CAS-UB V2.3からユーザーがアップロードしたアウトラインフォントをPDFに埋め込めるようになりました([3]を参照)。次の図はGL-DancingMen fontを利用した頁の見本です。
本書は電子出版EXPOに出展致しますので、お手にとってご覧いただければと思います。
なお、PDF、EPUB、mobi版はこちらからダウンロードしていただくことができます。
[1] 電子出版EXPO出展のご案内
[2] CAS-UBの使い方:PDFで2倍ダッシュを繋げるには、全角ダッシュ(U+2014)を使いましょう。
[3] ユーザーがアップロードしたアウトラインフォントをPDFに埋め込むためのCAS-UBの操作方法
本のかたちを考える:目次の扉・目次開始処理を考える
日本語(紙)書籍では目次の始め方には、次の3通りがあります。
1.目次専用の扉(目次扉)をおき、その裏(偶数頁)から目次の内容を開始する
2.目次扉をおかずに改丁して目次を始める
3.目次扉をおかずに改頁して目次を始める
手元の書籍106冊について目次の開始の仕方を調べてみたところ次の表のようになりました。
縦組の本では半数近くの本に目次専用の扉があることが分ります。(数少ないですが)横組の本では目次専用の扉は置かれません。
改丁開始と改頁開始は拮抗しています。但し、目次の直前に「まえがき」などがあり、その内容が偶数頁で終了しているときは、(3)改頁して目次を始めると、奇数頁始まりになりますので、見かけ上は(2)改丁して目次を始めるときと同じになります。(2)と(3)の区別はできあがった書籍を見ただけでは判別できないことに注意してください。
目次扉を置くメリットは?
縦組の本で目次扉を置きその裏から目次の内容を始めると、目次が見開きになり、視認性・一覧性が高いというメリットがあります。横組では見開きにでも行の進む方向と頁の進行方向が逆なので視認性が高くなるとは言えないかもしれません。そのあたりに縦組のとき目次扉を置くことが多い理由だろうと思います[1]。
目次を改丁してはじめることにもメリットがあると思います。
本の表紙や本扉は必ず奇数頁にあり、偶数頁は裏となります。そこで自然に紙を捲ると視線は最初に奇数頁に行くと予想します。
特に目次について考えますと、目次は本の最初の方にあります。従って、本を机の上の置いて目次を開いた状態では奇数頁に重心があり眼と平行になります。一方、偶数頁は丸くなり浮いた状態になります。従って、奇数頁の方が読み易いし、注目されやすいはずです。
なお、英語の本では、一般論として奇数頁の方が重要な頁とされており[2]、献辞は原則として奇数頁に置きます。
[1] 但し、目次の直前の内容が奇数頁で終わっていれば、目次専用の扉を置かなくても、目次の内容は見開きになりますので、目次扉を置く理由の説明は見開きにするためというだけでは足りないかもしれません。
[2] 例えば、New Harts’s Rulesでは、“The recto is regarded as more important of the two pages of a spread….”とあります。
『Adventures of Huckleberry Finn』英語版POD本をつくりました
来週はいよいよBook Expo America[1]です。今年はCAS-UBをBEAに出展します。CAS-UBでどんなことができるかをアメリカの人たちに理解していただくため、英語版の本をひとつ作成してみました。
素材としてProject Gutenbergの『Adventures of Huckleberry Finn』を使いました。テキストをCAS-UBにコピー&ペーストし、若干編集した上でプリントオンデマンド(POD)で出力、製本しました。
POD本のサイズは150mm×233mm。『An Unfinished Life』というJFKの伝記と同じにしました。ちなみに『Chicago Manual』が150mm×227mmです。幅はA5とほぼ同じですが、高さはA5と比べてかなり高いです。
本文の余白と行数も『An Unfinished Life』と同じにしました。英語の本はこの位のサイズが読み易そうな気がします。
『Adventures of Huckleberry Finn』はイラストが売りのようです。Project Gutenbergではイラストをスキャンした画像が96dpiと150dpi(画像による)で収録されています。
元のdpiのままだと画像が大きく印刷されて、本文が337頁(表紙を含まない総頁数は353頁)となりました。
CAS-UBは改頁位置で画像による空きが発生しないように、自動的にテキストと画像の順序を入れ替え、文中に無駄な空白がでないようにしています。
このままでは画像が少し荒いので、画像を200dpiに強制的に縮小してみました。
画像200dpiでは版面に対して画像が小さくなります。そこで、画像を小口に配置してテキストを回り込み指定しています。
イラストのサイズを変更して作成したPOD本2種類が次の写真です。上2冊は少し薄く、下2冊の方が厚くなっています。
このように、CAS-UBでは設定変更のみでいろいろな本ができます。もし、文字が大きめの本を作りたいならば、文字サイズを変更してPDFを作り直すだけでOKです。
なお、POD版と同時にEPUBも制作しました。今回作成した、PDFとEPUBはCAS-UBのweb[2]よりダウンロードしていただけます。関心をお持ちの方は出来栄えをご覧になってみてください。