オンデマンドブックストアでのPOD本の販売のこと

弊社では、昨年末からオンデマンドブックストア経由での本の販売を始めました。まだまだ実験的あるいは探索的要素が強いのですが。

2015年末に出版した2冊『【新装版】DITA CCMS 調査レポート 2013』、『ビジネスを強化する リーディング・プレゼンテーションの技法』は、以前に出していた本のリメイク版です。

今年になってからはブランドニューのタイトルを三つ出版しました。

2016年1月には本ブログでも既に紹介しました『PDFインフラストラクチャ解説』を、5月は『XSL-FOの基礎 – XMLを組版するためのレイアウト仕様』、『スタイルシート開発の基礎』の2冊を出しました。これらは、自社で使っている仕様や技術を普及促進することが狙いです。

PODによって本を作る、ということ自体は以前から、少し行っていました。PODで作った本をアマゾンのe託にて販売もしていました。

そうしたPOD本の自主製作・販売と比べて、オンデマンドブックストアでの販売では、版元がPDFを納品してストアが本を注文によって製作します。例えば、アマゾンe託でPOD本を販売しようとしますと、本の在庫を自分で持ち、アマゾンの倉庫まで納品する必要があります。しかし、アマゾンPODではPDFを用意して渡すだけです。

オンデマンドブックストアでの販売は5タイトルになりました。

現在(5月26日10時)、確認できているところでは、

『【新装版】DITA CCMS 調査レポート 2013』、『ビジネスを強化する リーディング・プレゼンテーションの技法』、『PDFインフラストラクチャ解説』は、三省堂オンデマンド、アマゾン、ウェブの書斎(楽天)、hontoで販売されています。

『XSL-FOの基礎 – XMLを組版するためのレイアウト仕様』は(5月13日配信)、三省堂オンデマンド、アマゾン、ウェブの書斎(楽天)で販売されています。hontoは未発売です。

『スタイルシート開発の基礎』(5月16日配信)はアマゾンのみで発売済み。三省堂オンデマンド、ウェブの書斎(楽天)、hontoは未発売です。

『XSL-FOの基礎 – XMLを組版するためのレイアウト仕様』は三省堂が一番速かったのですが、どうも本のリストの更新のタイミングの関係だったようです。アマゾンでは『XSL-FOの基礎 – XMLを組版するためのレイアウト仕様』、『スタイルシート開発の基礎』の2冊が24日に同時に発売になりました。

amazon0524

24日夜9時に確認して即注文しましたところ、25日の15時30分に製本された本が届きました。驚きのスピード感です。実施に手に取ってみますと、こうした技術書は、EPUB/KindleよりPDFが良い、さらにPDFより紙が良い、と実感します。

[1]『XSL-FOの基礎 – XML を組版するためのレイアウト仕様』POD出版顛末記
[2]『PDFインフラストラクチャ解説』
[3]『XSL-FOの基礎 – XMLを組版するためのレイアウト仕様』、『スタイルシート開発の基礎』

技術書典出展のお知らせ

来る6月25日(土)秋葉原の通運会館で、技術書典というイベントがあります。
今回初めての企画ですが、主催者はTechboosterという同好会と達人出版会です。

アンテナハウスもCAS電子出版で参加することにしました。
40サークルを募集で、40以上のサークルが集まったらしく、抽選となり落選したサークルもあったようです。我がサークルはめでたく当選し、2階企業ブロック07番が割り当てられました。

技術書典:https://techbookfest.org/

このイベントが、コミケのように大きく成長すると面白いですが。

ということで、現在、鋭意書籍を準備中です。

■出展予定:
1.『PDFインフラストラクチャ解説』
2.『XSL-FO の基礎 – XML を組版するためのレイアウト仕様』(販売予告)
3.『スタイルシート開発の基礎』(販売予告)

その他、いろいろ思案中です。

なお、なにか出展したいアイデアをお持ちのかたはご相談ください。

よろしくお願いします。

PODで『XSL-FOの基礎』の出版を準備中です。

今回の電子出版ブームは2010年に始まりました。

2010年にEPUB3.0の標準化のお手伝いをさせていただいたとき、これからはEPUBと紙のハイブリッドの出版の時代になる、と予想してクラウドで書籍を制作編集するWebサービス「CAS-UB」の開発を始めました。

その後、御承知の通り、EPUB3.0は既に電子書籍のデファクト形式となりました。
一方で、このところ、プリントオンデマンドで本を売るという仕組みが注目を集め、また実際に使えるようになってまいりました。

そして一部で、電子書籍と紙による同時出版の実践が始まっています。大よそ、5年前の予想通りの進展です。

CAS-UBの方もまだ完成とは言えませんが、なんとかPDFとEPUBを同時に作ることができるようになりました。

プリントオンデマンドは、商業出版では採算に合わないような少部数の出版物や、普及啓もう出版で使われるのではないかと考えております。そこで、その実践として、この度、昔「XSL-School」で使用していましたテキストを刷新してPODで販売することを計画しました。

このテキストは、2001年~2002年にXSL Formatterの草創の時代に作成したものです。とりあえず、昔のものをCAS-UBに移して、PDFとEPUBとして作成してみました。

『XSL-FOの基礎』 EPUB 0.62版
『XSL-FOの基礎』 PDF 0.62版

[4/12追記] 一般配布を終了しました。
4月12日版以降は、Formatter Clubの会員のみ配布いたします。
AH Formatter:Formatter Clubについて

なにしろ、10数年前の資料を元にしておりますので、いろいろ不備もございます。これをPODで販売に値する内容にするには、まだいろいろ手を懸けなければならないところが多くあります。

皆様のご批判をいただきたいと存じます。また、こんな風にしたら良いというご要望もいただければと存じます。
ご意見、ご要望は cas-info@antenna.co.jpまでいただければ幸いです。

また、昔の資料をPODとEPUBで出すのにどのような作業を行ったかを後日整理していきたいと思います。

よろしくお願い致します。

[4/4] 更新しました。
EPUB、PDFを0.60版⇒0.62版
XSL-FO V1.1の機能(しおり、索引)を追加し、第1章~第3章をかなり書き直しました。

[4/12] 一般配布を終了しました。

『PDFインフラストラクチャ解説』 出版記念特別講演会の資料公開

去る2月16日に市ヶ谷健保会館で開催しました『PDFインフラストラクチャ解説』出版記念 特別講演会の資料一式のご案内です。

1.スライドの内容とビデオ

第一部 だれでも本を出版できるPOD出版時代を迎えて
~『PDFインフラストラクチャ解説』の制作過程~
アンテナハウス代表取締役社長/小林 徳滋
PDF規格化の動向
第二部 ~ 印刷関連(TC130)を中心として~
画像電子学会フェロー/松木 眞 氏
PDF/Xなどの派生規格やISO32000の最新動向について解説します。

『PDFインフラストラクチャ解説』出版記念特別講演会の資料公開

2.寄稿記事
第一部のテーマのうち、ワンソースマルチユースでプリントオンデマンド本を作ることについてもう少し整理してまとめました。テキストをマガジン航に寄稿しました。

本のワンソースマルチユース制作〜その理論・実践・未来

★参考資料
[1] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる?
[2] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (2)紙の本と電子の本をワンソースで作りたい
[3] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (3) 電子テキストは印刷ではなく、音声の暗喩と見る方が良い
[4] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (4) 『PDFインフラストラクチャ解説』の実践例より
[5] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (5) 『PDFインフラストラクチャ解説』のプリントオンデマンド制作と販売
[6] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (6) 『PDFインフラストラクチャ解説』のプリントオンデマンド制作と販売

『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (5) 『PDFインフラストラクチャ解説』のプリントオンデマンド制作と販売

最初、PODで本にしてみたところ、PDFと紙での版面の印象の違いが大きいのに驚いた。本の内容をPDFにして画面で読むのと、同じPDFから印刷・製本して、本として読むのを実際に試してみると想像以上に印象が違う。どうやらPDFと紙の本は全く別物である。

POD版の試作とレイアウト改良

そこで、『PDFインフラストラクチャ解説』の制作中、PODで実際に本を作ってみて、基本版面や表などのレイアウト設定値をより読み易くなるように変更を重ねた。変更したレイアウト設定値を、CAS-UBの「PDFレイアウト設定」のデフォルト値として反映する。こうすれば、新しく本を作るときに、同じことを繰り返さなくて済む。

PODを3回試作した。
・初回のPOD試作 2013年2月 0.24版 256ページ (詳しくは
・第2回POD試作 2013年7月 0.33版 258ページ (詳しくは
・第3回POD試作 2014年3月 0.39版 268ページ (詳しくは

PODで作った本を外部の人などに評価してもらい、基本版面、見出しの文字サイズ・配置・番号の付け方、表の罫線の引き方・セルの空き・本文と表の文字の大きさの関係などを改良した。

基本版面

日本語組版におけるページの文字レイアウトは基本版面で設定する[1]。本書は、B5判型、横組・一段、文字サイズは10ポイント(pt)と決めていた。そのとき、行送り(文字サイズと行間を足した値)、字詰め数(一行の文字数)と行数(一頁の行数)を変更できる。この三つの設定を変更するだけでもページの印象はかなり変わる。

POD 判型 文字サイズ 行送り 字詰め数 行数
0.24版 B5

10pt 19pt 38 30
0.33版 B5 10pt 18pt 39 33
0.39版 B5 10pt 17pt 39 36
リリース版 B5 10pt 16.8pt 39 35

文字だけのページで四つの版面を比較してみる。
v024-1
図1 0.23版
v033-1
図2 0.33版
v039-1
図3 0.39版
v100-1
図4 リリース版

0.24版は行間の空きが広く、また上下の余白が広い。ページに余裕を感じる。
0.33版と0.39版を比較すると0.39版は印刷領域が上下に広く、上下余白がやや余裕がない印象がある。
リリース版は行間を少し詰めて、1行減らしたので上下の余裕を感じる。35行にするか、36行にするかは迷うところである。

表の組版

表のスタイルは当初は、すべてのセルの周囲に罫線を引き、ヘッダ行に網掛けする(レポートスタイル)としたが、最終的にはJIS X4151に定められているスタイルとした。CAS-UBでは、PDF生成時に、どちらかのスタイルを選択できる。また、表のセル内文字の大きさ、セル内のテキスト配置、テキストと罫線の間の空きについてもバージョンを重ねる毎に調整した。

v024-2
図5 0.24版の表

v100-2
図6 リリース版の表

図の大きさ

本書には図版が多数あるが、大きさは一律ではない。PDFを出力するとき、図の大きさはマークアップで指定できる。次は、図の幅を版面の60%にした例である(図8 リリース版)。

[[[:fig =コードポイント・字体・字形
{{:width=60% Unification-JIS.png | Unification-JIS.png}}
]]]

図のキャプションの位置も上と下を選択できる。リリース版では、図のキャプションは図の下に配置することとした。ちなみに、市販の書籍でもキャプションを図を下に置くことが多い。
v024-3
図7 0.24版の図

v100-3
図8 リリース版の図

PODのためのPDF仕様

PODのためのPDFは、アマゾンPOD仕様をベースとしている。

・PDFバージョンは1.3(透明を使えない)
・CAS-UBではPDF/X-1a:2001を指定する(PDF/X-1a:2001はPDF 1.3ベース)
・塗り足し(判型のサイズの外側に3mm)
・判型は新書~A4まで
・頁数は24~746
・ページには所定の余白が必要

POD用PDFとオンライン配布用PDFの比較

オンラインで読むためのPDFと、PODに使うためのPDFは別々に作成する必要がある。そこで、CAS-UBに、オンライン閲覧用PDF設定から、PODに使うPDF設定への変更メニューを追加した。次の点に注意が必要である。

・POD用PDFは周囲に3mmの余白が必要である。
・PDF/X-1aでは、印刷範囲(BleedBox)に注釈を置けない。
・PDFではリンクを注釈で扱うので、POD用PDFには次のようなリンクが出せない。
・目次から本文へのリンク、索引語から本文へのリンク、本部の参照リンクなど。
・POD用PDF(PDF/x-1a)では画像のカラー表現をCMYKに変換する
PODPDF-setting
図9 CAS-UB POD設定

POD版の本の販売

現在、PODで本を作る業者に依頼すれば、どこでも少部数でも製本した本を作れる。これまでにもCAS-UBで制作したレポート類を数冊、POD業者に外注して印刷・製本した実績がある。

こうして作成した本は、自社の直販と、アマゾンのe託を使って販売していた。電子版はインターネットでダウンロード販売できる。これに対して、紙の本は梱包して物流に乗せる必要がある。このため、低価格の書籍を、直接販売するのは手間とコスト面で難しい点がある。これまで出した本は、比較的高価格である。

もう少し割安になる流通手段を期待していたところ、2015年終わりにインプレスR&D社がPOD取次を始めたので、この機会に契約してPOD出版で販売することとした。

次の表はアマゾンのe託とPOD取次を比較したものであるが、e託と比べて、POD取次方式は各段に効率的である。

取り扱い POD製作 取り扱い費用 在庫負担
e託 街の業者 年会費9,000円。定価の40% 在庫負担あり。アマゾンの倉庫に納品するコストもかかる
POD取次 アマゾンが印刷製本 定価の38% PDFで取次に渡すので、在庫負担と納品コスト負担なし

e託は、常にアマゾンの倉庫の在庫をチェックして在庫がなくなったら倉庫に納める必要がある点、不便であり、コストも高い。POD取次ではPDF納品となるのがありがたい。

KPD用の書籍制作と販売

CAS-UBでは出版物の原稿を一回制作すれば、ワンボタンでEPUB、Kindle mobi形式にできる。Kindle mobi形式の販売はアマゾンKindle用のみであるが、EPUBにすればアマゾン以外の電子書店で販売できる。但し、取次を使わないのであれば個人出版を受け付けるストアのみで販売することになる。

KDPの方は、既にいろいろな本をKDPで販売していたので特段新しいことはなくスムーズに出版手続きを行えた。

PODとKDPの発売時期をできるだけ揃えたかったので、KDP登録作業は1週間後に行った。
無料配布版があることがひっかかってしまったが、無償版の配布を終了して翌日にはリリースとなった。POD版の方が発売まで予想外に日数がかかった。

販売促進

PODとKDPを使えば、誰でも、低コストで本を出版できる。大きな部数で印刷・製本して在庫を持たなくて済むのは助かる。しかし、出版したら売らなければならない。

出版社から出版される場合は、取次から書店に配本される。本自体が宣伝材料になる。しかし、個人で本を出版したら、まず、その存在を知ってもらわなければならない。存在を知られないかぎり出版していないのと同じである。

『PDFインフラストラクチャ解説』については、本を制作する段階からfacebookグループを作って参加者を募集してきた。しかし、トピックが一般大衆向けではないためか、参加者はまだ少ない。

PDFinterest facebook グループ

本を紹介するために簡単なWebページを作った。これだけでは不十分である。

『PDFインフラストラクチャ解説』Webページ

販促活動の一環として、2月16日に出版記念講演会を開催した。

『PDFインフラストラクチャ解説』出版記念 特別講演会のお知らせ

販売状況

PODで少部数の出版ができるといっても、ビジネスとして成立するかどうかは別である。まだ数字をまとめる段階ではないが、簡単にレポートする。

POD版の実績は、まだ不明である。

KDPでは、Kindle独占(セレクト)の選択ができる。現在のところ、セレクトとして登録・販売している。セレクトにするとロイヤリティ70%である。さらにアマゾンのプライム会員は毎月1冊を無料で読めるが、KDPセレクトで販売している本がその対象になるようだ。

多い日は1日500頁(KENP)以上読まれている。どうも、休日に読まれることが多いようなのは興味深い。KDPの販売部数に比べて、読まれるページ数がだんだん増えているようだ。これは、本の単価が高いことが原因かもしれない。

20160222
図9 販売部数(上)とプライムで読まれたKENPページ数(下)

現在までの実績は27部(KDP)であり、ロイヤリティは2万円強。KENPは、読まれたページ数を恐らく端末の差を調整した値のようだ。これがどのように金額に換算されるかは不明である。

いづれにせよ、単独のプロジェクトとして収支を計算すれば、制作・販売コストの回収はともなく、人件費の回収ができるかどうかはまだ分からない。長く売れれば、意外に売上が増えるかもしれない。

[1] 『日本語組版処理の要件(用語集)』では、組方向、段数、文字サイズ、字詰め数(文字数/一行)、行数、行間と段間で指定する。
[2] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる?
[3] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (2)紙の本と電子の本をワンソースで作りたい
[4] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (3) 電子テキストは印刷ではなく、音声の暗喩と見る方が良い
[5] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (4) 『PDFインフラストラクチャ解説』の実践例より
[6] プリントオンデマンドの本を作る デジタル書籍制作Webサービス CAS-UB

『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (4) 『PDFインフラストラクチャ解説』の実践例より

はじめに

『PDFインフラストラクチャ解説』は、書籍編集制作システムCAS-UBによる制作と出版のケーススタディである。CAS-UBを使って、本格的な本を書き、プリントオンデマンド(POD)と電子書籍(KDP)で出版した。この経験を数回にわたり報告したい。

『PDFインフラストラクチャ解説』の紹介Webページ

CAS-UBはブラウザを使って原稿を執筆・編集し、原稿ができたらワンボタンでPDFとEPUB形式の本を作る仕組みである。2010年から開発を始めた。

CAS-UBの紹介Webページ

2011年の末頃からシステムの開発の一環として本格的な本の執筆を始めた。自分で実践することにより、多くのことを学んだ。もちろんその多くはCAS-UBの開発に反映している。

『PDFインフラストラクチャ解説』のPOD出版

2015年を振り返ると、EPUBによる電子書籍の話題が一段落した一方、PODによるセルフ出版が注目を集めた年であった。但し、POD本によるセルフ出版は、いまのところ小説やSFなど娯楽系の本が多いようである。

『PDFインフラストラクチャ解説』は娯楽系の本ではない。かといってエンジニアを対象とする硬い専門書というわけでもない。いわば、PDFに関する教養書であり、文字やデジタルの紙としてのPDFにまつわる技術的な内容をできるだけ判りやすく説明することを目指している。内容の性格上、横組で、図版や表が多い。図版は、行中のインラインのイメージと、ブロック配置のイメージで本文中に画像ファイルとして150個以上ある。表はCAS-UBでは画像ではなく、HTMLと同じように表(table要素)でマークアップしている。

紙版はB5判、268頁(表紙別)で、定価は2,698円(消費税込み)である。アマゾンで本を買う立場から見れば、通常のペーパーバックと変わらない。アマゾン・プライムで注文すれば翌日には配達される。

電子版はKindle Direct Publishing(KDP)で販売中である。価格は1,250円(消費税込み)と紙版と比べて大幅に安く設定した。紙の本は、やはり印刷・製本や物流の原価が高いので、原価積み上げ方式で価格を決める限り、電子版より高くならざるを得ない。

しかし、紙版を実際に手にもってみると、PDFで同じ内容を画面で見るのと比べ各段に読み易い。2010年頃から数年、本の出版は紙から電子へ変わるという予想が増えた。しかし、ここに来て紙への回帰が始まっているともいわれる[1]。PODで紙の本を手にしてみると、紙の良さを実感できる。やや陳腐だが、紙のすごさを見直しているところである。

PDF-infrustructure

本書の執筆・制作経過

原稿制作過程を簡単に説明する。

ブログの時代の原稿

2005年10月から2008年7月まで、「PDF千夜一夜」というPDFの技術周りの話題を中心とするブログを1000日間連続で書いた。ブログを継続することで多くの読者を集めることができるだろうと期待したのである。当初の狙い通り継続は成功であった。もうブログを終了して7年以上経つが、いまでも、「読んだよ」と言っていただける。読者に記憶に残る印象をもっていただけたのは継続によるものだろう。

ブログの記事の一覧表はこちらにある。毎日完結した話題ではないが、1日1ファイルとすると1000件のファイルがある。

PDF千夜一夜 全記事一覧

本書の内容の多くは、ブログの記事から選択して編集した。ブログを書いていたときは、内容を本にすることを想定してはいなかった。ブログの記事は本の構成を考えて書いたわけではないので、トピック(テーマ)がかなり乱雑に並んでいる。

本のアウトライン

ブログの記事を本にする整理を始めたのは2011年暮れである。本にするにあたり、ブログの記事をテーマ別に分類整理した。テーマを元に、本の目次でいうと章と節にあたる大雑把なアウトラインを作った。アウトラインをCAS-UBの構成編集画面で、章や節のタイトルとした。

各節の記事内容をCAS-UBの編集画面にコピー&ペーストした。ブログの記事の中で使ったのは3割以下であろう。ブログは「です・ます」文体であったので、「である」文体に変更した。

そして、2012年の1月に最初のバージョンを公開した。当時はPDFの自動組版によるレイアウトが十分成熟しておらず、最初はEPUB版のみであった。PDF版を公開したのは、1年後の2013年2月である。2015年12月まで、随時、完成途中のPDFとEPUB版を無償でダウンロード提供した。無償版は2015年12月が最終版である[2]

  • 2005年10月~2008年7月まで「PDF千夜一夜」ブログ
  • 2011年末~2012年1月 アウトラインを決めて記事を整理
  • 2012年1月EPUB版を初公開ダウンロード配布
  • 2013年2月からEPUB版、PDF版を同時配布
  • 2015年12月の0.55版まで随時更新(無償ダウンロードは2016年1月15日に終了しました)

CAS-UBで記事を追加

2013年から2015年までの間に、不足している部分をオリジナルで書き足したり、社内・社外の協力者に書いてもらった。

内容の見直し・推敲

ブログを書き始めたのが2005年であり、本にする作業は実質的に2012年~2015年である。PDFの技術的な基本は次のようなことである。

① フォント技術
② オブジェクト表現のシンタックス
③ PDF文書構造とファイル構造

これらは1990年代には完成しており、この10年間で本質的な変化は少ない。しかし、仕様はISO 32000-8となり、また、OS、ブラウザ、ワープロアプリが標準でサポートするようになるなど、利用環境はかなり変化している。

こうしたことで情報が古くなってしまったところが多い。古くなった内容は、記録上の意味をもつ部分はそのままとしたが、そうでない内容はできるだけ最新情報に更新した。

CAS-UBの構成編集機能で、章の順序を、なんども入れ替えしたり、章を予定していたところを削除したり追加した。CAS-UBでは章・節番号、図番号などを、PDFやEPUBを作るときに自動的につける。記事順序の入れ替えや挿入・削除をしても文中の番号を付け変える必要がないので便利である。

内容の仕上げ

2015年11月から12月末までにかけて推敲・校閲して仕上げた。Redmineというプロジェクト管理システムに、書記方法や用語統一のための項目・用語一覧表を作った。最後に、まとめてCAS-UBの検索・置換機能で作業した。検索・置換は誤って不要な箇所まで置換してしまう危険がある。そこで、作業後の推敲を行った。

  • 漢数字とアラビア数字の使い分け見直し
  • 原語で末尾がer、or、arで終わる単語は長音符号(ー)で終わるように
  • 「・」の使用。2語は原則として中黒無し
  • 箇条書きの末尾には読点を付けない
  • カタカナ語と和文語を統一
  • 全角・半角(括弧、数字、ラテンアルファベット)
  • 英単語間の空きは半角スペースにする
  • 送り仮名の付け方統一

文章の推敲は、説明の重複部分を削除し、また説明文が分散しているとき、できるだけ一箇所にまとめた

索引

書籍の性格上索引が重要なので、索引の作成は索引を専門としている外部の方に協力いただいた。索引語は最終的に約600語、750箇所と充実した。CAS-UBでは、通常の索引の他、親子索引、兄弟索引のマークアップができる。索引の頁はプログラムで自動生成するので、索引語として拾う語を増やしたり減らしたりするのは自由自在である。

(続く)

[1]アメリカで電子書籍の売上が大失速!やっぱり本は紙で読む?
[2]改訂版の公開経過
[3] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる?
[4] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (2)紙の本と電子の本をワンソースで作りたい
[5] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (3) 電子テキストは印刷ではなく、音声の暗喩と見る方が良い
[6] 『本をコンピュータで作る』のは、いま、どこまでできる? (5) 『PDFインフラストラクチャ解説』のプリントオンデマンド制作と販売

『PDFインフラストラクチャ解説』公開履歴(ブログ)

『PDFインフラストラクチャ解説』のfacebookグループ:
PDFinterest:「PDF」に関する本について議論するために開設しました。
どなたでもお気軽にご参加ください。

【制作途中の日記】(ブログ)
2012年1月3日 「PDFインフラストラクチャー解説」EPUB本の0.1版を公開
2012年1月10日 「PDFインフラストラクチャー解説」EPUB本の0.12版を公開
2012年1月16日 「PDFインフラストラクチャ解説」EPUB/0.14版(1/16)を公開しました
2012年1月23日「PDFインフラストラクチャ解説」EPUB・0.15版を公開しました。
2013年2月11日 『PDFインフラストラクチャ解説』1年振りに改訂しました。PDF版も配布開始です。(0.23版)
2013年2月27日 『PDFインフラストラクチャ解説』をプリントオンデマンドで本にしてみました
2013年3月18日 『PDFインフラストラクチャ解説』更新、0.28版にしました。
2013年5月19日 『PDFインフラストラクチャ解説』を0.30版に改訂。「PDF長期署名(PAdES)」の節を追加しました。
2013年5月27日 『PDFインフラストラクチャ解説』を0.31版に改訂。「PDFの真性性・証拠性の確保」の章を記述しました。
2013年6月2日 『PDFインフラストラクチャ解説』を0.32版に改訂。PDF/Aの解説を改訂し、PDF/Aの作り方の節を追加しました。
2013年7月2日 『PDFインフラストラクチャ解説』第2回目の試作BODできました。電子出版EXPOにてご覧いただくことができます。
2013年7月23日 『PDFインフラストラクチャ解説』0.34版としました。PDFの注釈についての説明を書き直し。
2013年8月6日 『PDFインフラストラクチャ解説』の0.35版を公開しています。PDFにおけるJavaScriptの節が追加になっています。
2014年1月7日 『PDFインフラストラクチャ解説』0.37版をリリースしました。Flashの概要を追加しています。
2014年3月24日『PDFインフラストラクチャ解説』のPDFの構造機能、タグ付きPDFの説明を強化。タグ付きPDFは固定レイアウトEPUBにも通じる。
2014年7月3日『PDFインフラストラクチャ解説』第3回目POD本の組版レイアウトを評価していただける方を募集しています。
2015年11月27日 『PDFインフラストラクチャ解説』 0.55版を公開。無料配布の最終版となります。
2016年1月6日 近日発売!『PDFインフラストラクチャ解説』出版記念 特別講演会のお知らせ
2016年1月21日『PDFインフラストラクチャ解説』POD版とKDP版が揃い踏みとなりました

『PDFインフラストラクチャ解説』POD版とKDP版が揃い踏みとなりました

『PDFインフラストラクチャ解説』ですが、1月21日にPOD版が発売となり、紙(POD)版+電子(KDP)版が揃いました。

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アマゾン 
POD版の紹介ページ
KDP版の紹介ページ

POD版は1月6日にストアに納品されていますので、発売まで2週間かかっています。どうやら新年営業開始直後で本が溜まっていたために遅れたようです。

KDP版は1月14日に登録したところ、15日に「お客様が提出されたKDPコンテンツを調査させていただいたところ、ウェブ上で無料公開されているコンテンツが含まれていることが判明しました。(略)」の連絡が来ました。どうやら、無料配布版(未完成版)が引っかかったようです。そこで、無料配布版を削除して、再登録し1月16日発売となりました。

このあたりのスピード感は、自動化度の度合ではないかと想像します。本をPODで作るのは完全な自動になっていない(できない)?

■PDF関連情報
流通によるプリントオンデマンドでの出版が現実のものとなった今、その活用の課題を考える。(2017年1月時点)

近日発売!『PDFインフラストラクチャ解説』出版記念 特別講演会のお知らせ

アンテナハウス株式会社(本社:東京都中央区、資本金:4,000万円、社長:小林 徳滋)は、2016年2月16日16時から、東京市ヶ谷にて『PDFインフラストラクチャ解説』出版を記念した記念講演会を開催いたします。

『PDFインフラストラクチャ解説』は紙に代わって情報化社会を支えるインフラとなったPDFについて、システム開発者などの理解を促進することを目的としています。アンテナハウスのブログで2005年10月から2008年7月にかけて1000日間にわたって連載された「PDF 千夜一夜」の記事に、オリジナルの内容を加えてPDFや関連領域を網羅的にカバーしています。10年以上の歳月にわたって制作され、2016年1月に出版の予定です。

記念講演会では、本書編著者の小林 徳滋より書籍Web制作サービスCAS-UBを使ってPDFを制作し、ブックオンデマンドで本を作り、またAmazonのKindleストアなどで販売するに至った過程と、新しい出版の方法を分かりやすく解説します。

さらに、メインゲストとして、PDFの国際規格ISO32000やPDF/Xなどの派生規格の作成に参加されている画像電子学会フェローの松木眞氏をお招きして、PDFのこれからについてご講演いただきます。

講演会の後、懇親会の開催も予定しています。(詳細は、別途ご案内します)

本講演会は無事終了しました(2016・3・18追記)。
講演会の内容スライド&ビデオ:『PDFインフラストラクチャ解説』 出版記念特別講演会の資料公開 (2016年2月16日 in 市ヶ谷健保会館)

セミナーの概要・タイムテーブル

16:00~16:10 主催者挨拶
16:10~17:00 だれでも本を出版できるPOD出版時代を迎えて
『PDFインフラストラクチャ解説』の制作過程
アンテナハウス代表取締役社長/小林 徳滋
17:00~18:00 ISO32000: PDFの国際規格の現状とこれから(仮題)
画像電子学会フェロー/松木 眞 氏
18:00~18:10 参加者質疑応答
休憩
18:30~20:30 記念懇親会

開催概要・お申し込み

開催日時 2016年2月16日(水)16時00分~18時10分
開催場所 市ヶ谷健保会館 E会議室
住所・アクセス 東京都新宿区市谷仲之町4-39
都営新宿線曙橋駅下車徒歩8分
都営大江戸線牛込柳町駅下車徒歩8分
参加費 講演会のみ:1,000円(税込)
懇親会は講演会にお申込みいただいた方に、別途ご案内致します。
定員 30名(事前予約制)
お申し込み 次のページからお申し込みをお願いします:
http://peatix.com/event/138690

■PDF参考情報
流通によるプリントオンデマンドでの出版が現実のものとなった今、その活用の課題を考える。(2017年1月時点)

『リーディング・プレゼンテーションの技法』(加藤 哲義著、CAS電子出版)が発売されました。

アマゾンより、『リーディング・プレゼンテーションの技法』がプリントオンデマンドで発売となりました。

アマゾンサイト:ビジネスを強化する リーディング・プレゼンテーションの技法 オンデマンド (ペーパーバック) – 2015/12/2 加藤哲義 (著)

四六判 56ページ(表紙を除く)で消費税込み734円です。

早速、昨夜1冊注文しましたところ、さきほど事務所に到着しました。20151208

アマゾンのPOD版を自分で発行して買うのは初めてです。本のでき具合は、と言いますと表紙が少々硬い印象がありますが、本文はまずまず読み易いと思います。

肝心の内容ですが、本書は以前に『魔性のプレゼンテーション~その美学と作法~』として電子書籍(EPUB、mobi、XMDF)で販売していたものです。内容はとても良いと思いましたが、残念ながら期待したほど売れませんでした。いろいろ考えてみますに、タイトルがデフォルメし過ぎていて伝わらなかったのではないかという結論となりました。そこで、今回、タイトルを変更して再チャレンジするものです。現在はプリントオンデマンド版で紙からのスタートとなりますが、電子版もおいおい出す予定です。

本書の内容は、スーパー営業マン加藤哲義氏の20年以上に渡るビジネスの経験から生まれた異色のプレゼン論&プレゼン手法です。書かれている内容には共感するところが大きいので、なんとかしてこのプレゼン技法を普及させたいと考えております。