『書籍編集制作』

『書籍編集制作』(中島 正純著、あっぷる出版社、2014年3月発行)
A5判、総頁232頁、定価2000円+税、横組

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57年間一貫して編集制作に携わってきた中島さん(著者)による実務的なマニュアルである。

総論と各論に分かれており、総論は全体的な流れ、各論ではデスクワークの作業を網羅している。各論の内容は次の構成になっている。

A. 企画から原稿入手まで
B. 制作計画
C. 用紙
D. 印刷文字
E. 組版
F. 製版と刷版
G. 製本
H. 原稿整理から校正まで
I. 印刷・製本管理から納本指定まで
J. 出版原簿から広報宣伝まで

各論の内容は、各項目とも具体的で懇切である。著者の独自のやり方ではないかと思われるものも多い。

例えば、「B. 制作計画」に本の内容を順番に整理したものとして次の表が出てくる。

・順付け一覧表(pp.46-48)
・原稿数量一覧表(pp.48-49)
・順付け進行表(pp.48-49)

順付け表が印刷所との連絡面で重要な役割を果たしているようだが、順付け表という言葉は一般的なのだろうか?

「E.組版」の項はもっとも多い頁数が割かれている。版面の寸法を紙面に対する割合から計算で割り出す(pp.75-81)方法は独特ではないだろうか? 著者もいうとおり電卓を手元に置いて計算する必要がある。本文中の引用文の組み方、見出しの組み方・見出しの行取り、箇条書きの組み方、注、圏点とルビ、表の体裁も類書と比べて格段に詳しい。

用紙サイズの説明、折り方、製本なども図を多用して説明しているので、判りやすい。随所に手書きの図がでており、まさに「古い編集者の手作りの味」(「はじめに」より)がする。

『たのしい編集』

『たのしい編集』(和田文夫・大西美穂著、ガイア・オペレーションズ発行、2014年)
横127mm×高さ174mm(四六判の変形(?))、総頁数286、定価本体2,200円+税

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35年に渡って本を編集してきたという和田さんが本づくりについてのアイデアやメモをまとめたものである。簡単なノウハウも含まれているので、同業者へのノウハウの開示にあたるが、むしろ後に続く若手に伝えておきたいメッセージをまとめたと解釈したい。

第一章 編集、第二章 DTP、第三章 校正、第四章 装丁、第五章 未来という構成になっており、幅広いテーマを扱っている。各章は2から6頁の短文をあつめており、短文ひとつひとつのテーマはエッセンスになっている。ブログ記事をあつめて本を作るのに近いかもしれない。全体として制作現場で本を形に作り上げるところに力点があるようだ。

各章の終わりにインタビューや参考図書の紹介があるなど、開始から終了まで一直線ではなく、回り道のある作り、雑誌的な作りになっている。全体をまっすぐ読むだけではなく拾い読みもできるし、肩がこらない。読んでいてたのしい本である。

また、和田さんは本づくりのたのしさということを繰り返し強調している。ご本人はもともと本を読むのが楽しく、その経験から出版の世界に入ったということなので、本そのものが好きで、また、ものを作ることも好きなのだろう。この本も自分の好きなように作ったようだ。なにしろ、たのしさのあふれた本である。

20世紀の終わり頃から、編集者がDTPを手にして自由な版面を作れるようになった、昔の活版や写植でレイアウトしようとすると、おそらく非常に手間がかかったであろうレイアウトをDTPを使えばいとも手軽にできる。「もうひとつの編集作業」(pp.98-102)では編集者がDTPをおこなう最大のメリットとして、「編集作業と密接に結びついた本づくりが可能になること」とあるが、本書の判型・版面・レイアウトから記事の構成まで、DTPによる手軽な版面作りの実践例でもある。

今後は、本のコンテンツはWebと競合する部分が増える。本という形態が存続するには、Webとの差別化が重大な課題になるだろう。そのためには、本書のように体裁にこだわって自分好みの本を作るというのはひとつの方策である。こういう方策は、自分で書いて、自分自身が発行元になっているからこそできることである。(読み返したらKindle Digital Publishing=電子本こそそうじゃないかと思いました! むむ。)

著者も電子書籍について、随所で言及しているが、「紙か、電子か」(pp.254-257)がそのまとめのようだ。この節の最後に「本とはパッケージにほかならない。」と断言した直後に「電子本の登場で、本という存在形式そのものへの再考が必要とされているのかもしれない。」という疑問を提示しているところに、著者の未来への迷いを感じる。

『専門家のための「本を書こう!」入門』

『専門家のための「本を書こう!」入門』(山内俊介著、遠見書房、2013年12月20日発行、四六判、145頁、1200円+税)[1]

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心と社会の学術書・専門書出版社の編集者による専門家向けの本の書き方に関するハウツー本である。この本の執筆の動機は「自分の会社に企画の持ち込みが増えないかなあ」ということのようなので、本書が想定する読者は潜在的な執筆者である。

つまり本書の想定する対象者は、専門家である著者(執筆者)。翻訳本を出したい訳者。共同執筆で本を作りたい人向け。プロのライターや作家ではなく、アマチュアの作家でもない。

2009年6月に発行のPDF版を紙版にしたものとのことである。同社のちらしを見るとPDF版は電子書籍のみ96頁1,000円となっている。PDF版をかなり加筆しているようだ。デジタルファーストの実践である。

本というのはひとつのパッケージであり、作るには結構時間とスキルを要する。専門職のライターでないが、その道の専門家といえる人たちが、そのパッケージをいかにしてつくりだすか? ということがこの本の主題である。

原稿の揃え方の観点で章立てをしている。

第1章、第2章 書き溜めた論文をまとめて本にする方法を説明
第3章 レジュメや講演・授業などのテープ音源があるとこ
第5章 教科書を作りたい
第6章 何人かで書きたい編集もの

のように分類して、かなり実務的な章を並べているのが、この本の特徴だ。全体的に本にするための原稿をどうやって用意するか、という点に力点がある。
特に、専門家対象なので過去に書き溜めた学術論文を整理して本にする方法を説明しているところが特徴である。

本書で強調されているのは、本を書くのは孤独でつらく、結構しんどい作業だということである。プロのライターや作家とは違って、自由になる時間が少ない専門家にとって、それなりのボリュームで内容をまとめる作業は大変なのだ。つまり本の価値はそんな風に思想や知識を絞り出し凝縮するところにあるといえるだろう。

「ですます」調で書かれており、ところどころ、ふまじめとも言えそうなかなり砕けたフレーズが出てくるところに身近さを感じる。

全体として本の頁数を原稿用紙の枚数を基準に計算しているところは、70年代から遅くても80年代の発想のように感じる。たぶん、90年代になったら原稿用紙に向かって原稿を書く人はいなくなっているのではないだろうか? 原稿を書くためのツールが進歩したのに、原稿のボリュームを測る尺度が旧来のままになっているアンバランスが面白い。

[1] 紙版にはノンブルがない。アマゾンの紹介文を見ると単行本(ソフトカバー): 145ページとなっている。

『マニュアルEPUB化ハンドブック2015年版』紙版もアマゾンで販売開始。制作期間等を整理しました。

『マニュアルEPUB化ハンドブック2015年版(EPUBマニュアル研究会報告書)』のアマゾン販売準備がすべて整いました。販売リンクは次の通りです。

1.Kindle版
2. 紙(POD)版

以下に、これまでの経過を整理します。ブログで、先日、『マニュアルEPUB化ハンドブック2015(EPUBマニュアル研究会報告書)』をアマゾンのKDPで販売開始をご紹介しました[1]

その後になりますが紙本(プリントオンデマンド版)が納品となりました。
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紙の本はBPIAの総会にて編著者の木村氏より紹介していただき、総会参加の皆様に即売しましたところ、販売予定部数を超えて売れました。お蔭さまで初のPOD増刷決定です。紙の本は現物を手に取ってご覧いただける点が良いですね。それに著者の方々にも喜んでいただけます。

少し遅れましたが、アマゾンのe宅に登録し、紙の本もアマゾンで販売開始です。
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アマゾンのWebでは、現在、在庫なしになっていますが、昨日アマゾンの倉庫に1冊送付しましたので、近々在庫1になる見込みです。e宅販売の場合1冊売れる毎に、弊社の倉庫からアマゾンに送付して在庫とします。

この間の所要日数を整理しますと次の通りです。

1.11月3日(休日) 編著者(木村氏)より最終原稿を受け取り
2.11月4日(火)~11月11日(火) アンテナハウスにてCAS-UBを使い、編集作業。PDFを対象とする図形の大きさ指定。表紙制作、用語の統一(ラテン文字の大文字・小文字記法統一など)、句読点の統一、索引作成など[3]
3.11月12日(水)POD本の制作を外注(~11月19日POD本出来上がり予定)
4.11月12日(水)~13日(木) CAS-UBでKDP用のEPUBを作成。(表紙の調整、Kindleのリーダーで内容を確認など)[4]
5.11月14日(金)KDPに登録
6.11月17日(月)よりKDPにて発売
7.11月19日(水)POD本25冊納品
8.11月20日(木)BPIA総会にて報告・販売
9.11月27日(木)e宅に登録

原稿入手からすべての作業を一通り完了するまで大体3週間程度となります。但し、日程は原稿のボリューム、完成度によります。また、編集作業としては原稿の文章の修正は原則として行っておりません。文章の確認を行うとしますと、著者とのやりとりが必要になりますし、そのための期間が必要になります。

研究会の報告書をPODで制作、KDPで販売するのは、研究会成果を公共的に共有する上で大きな意味があると思います。ちなみに、国会図書館にも2冊の納本を予定しております。

アンテナハウスではCAS-UBによる報告書の制作を受け賜りますので、詳しくはお問い合わせください。予算がない場合はプロフィットシェア・モデルも可能ですので、ぜひご相談ください。

[1] 『マニュアルEPUB化ハンドブック2015年版(EPUBマニュアル研究会報告書)』発刊しました
[2] 『マニュアルEPUB化ハンドブック2015年版  EPUBマニュアル研究会報告書』
[3] 『マニュアルEPUB化ハンドブック2015年版』近日発売(POD版)の索引作りに励みました。CAS記法(簡易マークアップ)でこんな索引を簡単に作れます。索引をうまく作るには内容の理解が欠かせません。索引に完成版はないような気がします。
[4] Kindleの図形の大きさはCSS標準なのでPDFの指定はそのままでOKですが、もしiBooksにするならば図形のサイズ指定の変更が必要になります。電子書籍(EPUB)で画像の大きさを指定したいとき:CAS記法とCSSの書き方まとめ

『マニュアルEPUB化ハンドブック2015年版(EPUBマニュアル研究会報告書)』発刊しました

アンテナハウスのCAS電子出版は、『マニュアルEPUB化ハンドブック2015年版(EPUBマニュアル研究会報告書)』のアマゾンKindle版を発売開始しました。

本書はビジネスプラットフォーム革新協議会(BPIA)に設置されたEPUBマニュアル研究会の2014年度の研究成果の集大成です。EPUBマニュアル研究会は、木村修三座長(片貝システム研究所)のもとに、主に業務マニュアルにEPUB採用を検討する企業・団体の有志、マニュアル専門家、およびベンダー(アンテナハウス。ソフトウェアパートナー)などの代表で構成された研究会です。

2014年度は研究会の第2年度にあたり、今年は各社で作成している、あるいは、新たにEPUB化を検討している業務マニュアルを持ち寄ってEPUB化してみる、ということを中心に実践的な研究を行いました。

業務マニュアルは、現在、Microsoft Wordを使って執筆されていることが多いことから、Wordを使って作成した業務マニュアルを、CAS-UBでEPUBにする方法を実際に試してみていろいろな問題を抽出して検討するということが中心になりました。

具体的な内容は、ぜひ、本報告書をお読みいただければと思います。

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Amazon Kindle 版のリンクはこちらです:http://www.amazon.co.jp/dp/B00PM0963K/

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図1 第1章の先頭(Android版Kindleアプリの画面)

テクニカルライティングの専門家である高橋慈子氏による業務マニュアルの企画から執筆の方法についてのレクチャーも有意義でした。本書第2章にはレクチャーの内容を整理した形で文章としても記載されています。この章もお勧めです。

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図2 第2章の先頭(同上)

本書の詳しいご案内はこちらにもございます。

『マニュアルEPUB化ハンドブック2015年版  EPUBマニュアル研究会報告書』

Noto Sans CJK, Source Han SansフォントとAH FormatterによるPDF生成

10/25のCAS-UB:多言語機能に魂を入れるため、ドキュメントの多言語化と、EPUBの多言語化を考えるの続きです。

GoogleのNoto Sans CJKフォントとアドビのSource Han Sansは9月にそれぞれV1.001になりました。7月の初版(V1.000)からの変更点についてはアドビの資料「Source Han Sans V1.001」([1])の最後に詳しく出ています。これによりますと、各言語でかなり細かいチューニングが行われています。

最初に目につく変更点はV1.001からNoto Sans CJKとSource Han Sansのパッケージ方式が共通になり、次の表のようにそれぞれ4種類になったことです。

表1.フォントの構成

名称 説明 ファイル名
CJK OTF fonts with different default language 4言語のグリフを各ウェイトごとに1ファイルにまとめたもの。各ファイルはデフォルトで一言語のグリフをサポートし、GSUB’locl’を使えば他の言語をサポートできる。28ファイルある。 NotoSansCJKSC-hinted.zip, NotoSansCJKSC-hinted.zip, NotoSansCJKJP-hinted.zip, NotoSansCJKKR-hinted.zip
All-in-one CJK super OTC font 4言語×7ウェイトを全部ひとつにまとめたもの(Windowsは未サポート) NotoSansCJK.ttc
CJK OTC fonts 各ウェイトごとに4言語を1ファイルにまとめたもので7ファイルある。デフォルト言語の指定を行う。さらに、GSUB’locl’をサポートすればデフォルト以外の言語の指定ができる。(Windowsは未サポート) NotoSansCJK-[Weight].ttc
Region specific OTF subsets 4言語(地域別)のサブセット。グリフは各言語用のみである。4言語×7ウェイトの 28ファイルある。 NotoSansSC-[Weight].otf, NotoSansTC-[Weight].otf, NotoSansJP-[Weight].otf, NotoSansKR-[Weight].otf

使う側からしますと、どのフォントをインストールするべきかが気になります。

最初にCAS-UBでPDFを作成するという観点で調べてみました。上述のアドビの資料に選択のためのチャートが出ていますが、CAS-UBでPDF出力を行うのはAH Formatterです。

AH Formatterは、現在のところ、OTC形式のフォントを全くサポートしていません(Windowsも同じですが)。このため、CJK OTF fonts with different default languageか、Region specific OTF subsetsが選択肢となります。[2]

CJK OTF fonts with different default languageは、例えば日本語を基本言語とするシステムではNotoSansCJKJPをインストールし、日本語以外の言語のグリフはGSUB’locl’を使って選択します。このフォントではAH Formatterは、次のような動作になります。

1.日本語のグリフは通常に処理します。組版対象の文字列に日本語以外のスクリプトが指定されていると、その部分はPDFにフォント(グリフ)を埋め込みます[3]

2.言語指定があると、次のようにスクリプトを類推します。
xml:lang=”ja” –> script=”Jpan”
xml:lang=”ko” –> script=”Hang”
xml:lang=”zh-CH” –> script=”Hans”
xml:lang=”zh-TW” –> script=”Hant”

ということで、PDF生成では、CJK OTF fonts with different default language、Region specific OTF subsetsのどちらのパッケージもとりあえず使えるようです(ただし、[2] の事情でMR5をお待ちいただく必要があります)。

問題はEPUBの方ですが、これは次回に調査結果を報告したいと思います。
『多言語EPUBの作成において考慮すべき技術要件』に続く。

[1] Source Han Sans V1.001
[2] AH FormatterはV6.2MR3からNoto Sans CJK V1.000(当時は Region specific OTF subsetsのみ提供されていました)をサポートしています。しかし、今回、CAS-UBの試験用システムで使ってみましたところ、Noto Sans CJK V1.001でフォント側が変更になってしまったため、V1.001では正しくPDFにフォント埋め込みができません。次の、AH Formatter MR5でNoto Sans CJK V1.001対応の改訂版を提供する予定です。また、もし、AH FormatterのユーザーでOTC形式のサポートが必要という方は、AH Formatterのサポートまでご相談ください。
[3] スクリプト名については、ISO 15924: Codes for the representation of names of scriptsを参照。

9月17日ライトニング・トーク「AH Formatter V6.2の特徴とFO、CSS」のご紹介

9月17日EDUPUB Tokyo 2014にてライトニング・トークをさせていただきました。そのスライドとナレーション(日本語の原文)です。実は英文は日本語から翻訳してもらったものなのでした。

スライド1
Antenna House(AH)Formatter V6.2はXMLを組版してPDFなどを出力するツールです。

スライド2
2000年11月に最初のバージョンを発売し、その後14年に渡り機能強化を続けています。次にいくつか機能を紹介します。

スライド3
特徴1は多言語サポートです。縦書き文字、アラビア文字、ヘブライ文字のような右から左へ書く文字、チベット文字を除く主なインドの文字、主要な東南アジアの文字を組版できます。

スライド4
特徴2は拡張したフロート機能です。オブジェクト配置を最適化できます。JIS X4051の仕様に従って、図版の位置を自動調整できます。

スライド5
フロート拡張の多くは、IRS(米国財務省の内国歳入庁)の要求で追加されました。
※この写真は納税ガイドとは関係ありません。

スライド6
特徴3はMathML V3.0のサポートです。MathMLV3.0では新しい機能として初等数学(算数)表現が追加されました。

スライド7
レイアウトの指定はXSL-FOまたはCSSのどちらかの方式を用います。どちらを使ったら良いでしょうか?
FOのプロパティはCSS2から引用したものが多いです。また、AH FormatterはFOとCSSを並行して独自に拡張しています。従って、大よそどちらでも同じレイアウトを指定できます。
FOとCSSの主な相違点はスタイルを適用する仕組みです。

スライド8
FOは印刷のための技術であり、サーバー上のバッチ処理を前提とします。印刷対象XMLをXSLTなどでFOに変換します。レイアウト・プロパティを変換後のFOに対して適用します。
XSLTではXPathで要素や属性を指定します。プロパティは属性セットとして用意します。そしてプロパティを適用する条件を厳密にきめ細かく指定できます。XSLTではFOを作るための複雑な処理を記述できます。

スライド9
CSSはWebの技術であり、簡単な指定で、高速な処理、ダイナミック・レイアウトが求められています。
現在のCSSはページ媒体に対するレイアウト指定機能は弱く、W3C CSSの作業グループで、現在、ページ媒体に対するレイアウト指定の方法が議論されています。現時点でAH Formatterのページ媒体出力はAHの独自拡張です。
CSSではレイアウトを適用するXHTMLの要素や属性をselectorで選択します。また、カスケーディング規則とやや複雑な優先順位の規則があります。
この仕組みはレイアウトの適用条件が簡単な場合に向いています。しかし、レイアウト適用条件が複雑になると記述が難しくなります。

スライド10
以上により、Antenna Houseは、高度で複雑なレイアウトの頁を作るにはFO、シンプルなレイアウトの頁を作るにはCSSを用いることを推奨します。

※レイアウトが複雑かどうかということよりも、XMLから組版オブジェクトを作り出すロジックが簡単かどうかということです。CSSのセレクタとカスケードの仕組みでは複雑なロジックを記述するのは不可能でしょう。Javascriptを書いたらどうかという説もありますが、CSSのロジックの弱点をJavascriptで補うのならば、XSLTを学ぶ方が生産的ではないかと思います。

組版の価値。組版と画面表示(レンダリング)の相違を考える。

先日、思いつきをTweetしましたが[1]、以下、その続きを少し考えてみました。

組版という言葉は、Wikipediaでは次のように定義されている。

「印刷の一工程で、文字や図版などの要素を配置し、紙面を構成すること。組み付けとも言う。」

印刷においては「版」を複製のために用いる。複製した結果は冊子や書籍の形式に製本される。こうして、「版」のレイアウトは永続的な物体化される。「版」が生み出すものが永続的であるが故に、きれいなレイアウトの「版」を創るのにコストを懸ける意味があり、また、複製する数量が多いときは、頁の数を減らすための努力がコスト削減という価値を生み出す。つまり「版」は印刷に利用されて大きな価値を生む。

組版はDTPの専門家の仕事であるが、このようにDTPは印刷と切り離しにくい。

自動組版で作る版面は、DTP専門家によるそれと比べると複雑さは劣るが、それでも細かい調整がだいぶできるようになってきた。次のような項目である。

・改行位置の調整
・長体による枠内へのテキストの押し込み
・改頁位置の制御(見出しと本文の泣き別れ防止)
・頁内での図の位置のフロートによる調整
・テキストと図の位置関係の入れ替えで頁の空きをなくす
・段組のときの左右の行の位置揃え

これらは、ほとんど組版エンジンの中のプログラムで自動処理できる。さらには、先日の「AH Formatter事例紹介セミナー」でTony Graham氏が紹介したように、組版エンジンの外側にワークフローを組んで図版の最適配置の決定もできる[2]。こうした処理の自動化は組版オペレータの判断をプログラム処理に置き換えるもの、自動組版のインテリジェント化である。現在は、コンピューターの処理能力が高まったので、インテリジェントな自動組版の高速処理ができる。

自動組版のインテリジェント化のコストは、それが永続的な複製物を作る「版」への投資であることによって正当化される。

EPUBリーダーでは頁表示が標準的に採用されているが、電子端末での画面は、読者が読む瞬間だけ頁表示するものであり、永続的な複製物を作るものではない。

こう考えると、組版と電子端末上での画面表示のための可視化(レンダリング)の戦略の間には、かなり根本的な相違がありそうだ。

印刷を想定しないPDF作成においてテキストや図などを頁上に配置する戦略は、その中間になるのだろうか。

[1] 組版は紙という静的な媒体上に、コンテンツを最適配置する概念で、最適配置のために何回も試行してもかまわない。一方、CSSは電子媒体上に瞬時にコンテンツを表示することを狙っており、最適配置よりも、一応見えれば良いということが優先される。
[2] JATS組版:3つ数えるくらい簡単

国立情報学研究所 電子図書館サービスを終了へ。電子版ジャーナル提供方法の再検討が必要に。

国立情報学研究所は、学術情報誌を電子化する電子図書館事業の終了を決定しました。

電子図書館(NII-ELS)の事業終了について

NII-ELSでは、学会・協会の論文誌(本文)を電子化しデータベースに蓄積するとともに、そのほかの論文の書誌などとともにデータベース化してCiNiiから公開するという事業を行なっています。現在までに428の学会の1400種類の雑誌の電子化を行い、CiNiiから提供しています。この事業が終了となります。

・電子化は、平成27(2015)年度末を目処に終了
・CiNiiから提供する場合、収入の一部が還元されているが、収入の還元制度は平成28(2016)年度末を目処に終了

NII-ELSが終了するに伴い、これまで同事業に参加して会誌の電子化と電子版の提供を行なってきた学会等は、今後の方針の再検討が必要です。

次のような選択肢があります。
・他のジャーナル・公開サイトへの移行
・自身のホームページでの提供
・機関レポジジトリーでの提供

今後1年半程度の期間での対応が必要です。

現在、日本における学術情報データベースは、国立情報学研究所のCiNiiと、科学技術振興機構(JST)のJ-STAGEの二つが並び立っています。しかし、国の支援は、今後J-STAGEに一本化されるため今回の決定に至ったとのことです。今回CiNiiは終了とされていませんが、いづれCiNiiの方も縮小に向かうのは避けられないでしょう。

アンテナハウスは、現在、学術情報をスマホ・タブレット向けにプッシュ方式により配信する学術情報配信システムを開発しております。情報の配信形式はPDFに加え、スマホやタブレットでの閲覧に向いたEPUB3形式にも対応しています。

また別途、PDFからEPUB3、Web(HTML)への変換なども簡単に行なえる仕組みを開発中です。NII-ELSの事業終了を受け、これらのサービスの提供開始時期を早めたいと考えております。

詳細は cas-info@antenna.co.jp までご連絡ください。

Page2014 終了しました。電子書籍のブームは去り、組版ソフトに注目があつまりました。

本日(2月7日)でPage 2014が終了しました。昨年はスケジュールの都合で、Pageに参加できなかったのですが、今年は3日間ほぼフルでブースにつめました。初日と2日目は、午前中は人出もまばらで、午後が人出が増えるというパターンでしたが、最終日の3日目は朝から人出が多くブースもにぎわいました。

Pageはもともと電子書籍の話は比較的少なく、組版ソフトAH Formatterに関心をもたれるお客さんが多いようです。今年は、特にEPUB制作に関して関心を持たれる方が減りました。電子書籍ブームは去ったということなのでしょうか。実際は、出版界におけるEPUB電子書籍の制作はかなり進んでいます。CAS-UBでEPUBコンテンツを量産しているユーザーもありますし、XMDFtoEPUB変換[1]も少しずつ売れています。ブームは仮需要の一種なので、つまり、電子書籍EPUBは仮需要から実需要に移ったといって良いでしょう[2]

弊社ブース来場の方の間では、Formatterへの関心が主体になりました。Formatterに関しての具体的なテーマの宿題もいただくことができました。やはり、知恵を絞って考える宿題をいただけると楽しいですね。

3日目の夕方は、《XML・HTML5を利用した新しい制作フローを考える》というタイトルに引かれて、page2014オープンイベントの「XMLパブリッシング交流会」(JAGAT XMLパブリッシング準研究会による発表)に参加しました。

研究会では、JepaXの形式で作成したXMLコンテンツをEPUB2とPDFに変換するオープンソース・ソフトウェア『FANTaStIKK』を開発・配布しています[3]

2013年は、現在、O’Reillyが開発したHTMLBook形式で作成したXMLコンテンツの組版PDF化、EPUB3を出力に対応するための開発を行なっています。3月にJagatで研究発表を行なう予定だそうです。

そういえば、Page2012のまとめブログを見直しましたら、デジタルファーストのスタートラインは、「XHTML+CSS」と書いてありました[4]

[1] XMDF to EPUB3 変換ツール
[2] 実需要は、供給側が販売した物やサービスから需要側が便益を得て対価を払い、供給側はそこから得た収益を生産に回すという、再生産のサイクルが回るので市場が急にしぼむことはない。仮需要は再生産サイクルが回らないので、あるとき急激にしぼんでしまうものと考えています。
[3]Jepasspo/FANTaStIKKホームページ
[4]Page2012終了。いま、電子書籍制作のワークフロー論議をまとめると…補足ですが、個人的には、現在のHTML+CSSによる本つくり(HTMLBook)への関心は仮需要と考えています。仮需要の時期にはセミナーが儲かるかも・・・